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2016-11-21 12:13:59

The final destination (最後に行き着いた場所)

Technology Laboratory 2016 Round7 SUZUKA

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賽の目は「振り出しに戻る」

 改めて振り返るまでもなく、今シーズンのスーパーフォーミュラは、その速さの勢力図がまさしく「猫の目(の虹彩)」のようにクルクルと変化した。前戦スポーツランドSUGOでは、最近のスーパーフォーミュラではなかなか見られないほどの差、レースラップで毎周1秒を上回る速さを体現してみせた関口雄飛とチームインパルといえども、5週間後の鈴鹿ではいつもの「横一線」の中に飲み込まれている。最終戦、そこでの流れはどこに向かうのか。見守る者にそんな思いを抱かせながら、今年最後の競争は動き出していった。

 今シーズンを通して金曜日午後に設けられた1時間のSF専有走行は、昼過ぎから落ち始めた雨が次第に量を増し、細かい水粒がしぶきのように舞う中で始まった。もちろん路面はフルウェット。ここで、ツインリンクもてぎ戦でドライ路面用ソフトコンパウンドが試用された時から各チームに渡されているソフトコンパウンド(もちろんドライ用とは異なる成分)のウェットタイヤを装着してその感触を確かめたチームが多かったようだが、しかし翌日からの週末2日間は雨が来ないことが確実なだけに、マシン・セットアップに関しては得るものがほとんどないセッションとなった。マシン・ウォッチャーとしては、雨滴が小さめだったことで、タイヤからマシン周辺、さらに後方へと巻き上がるウォータースプレーが明確に見え、それによって「可視化」されるコンテンポラリー・フォーミュラカーのリアルなエアロダイナミックスを観察できた、という収穫を得た1時間ではあったのだけれども。

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頭脳と身体感覚がシンクロしたのは誰?

 一夜明けて…。土曜日朝のフリー走行は路面にウェットパッチが残る状態で始まった。とはいえすぐに何台かは1分39秒台、ほぼドライ路面でないと出ないラップタイムをマークする。もちろんこの状況で履いているのは前戦で使ったユーズドタイヤ、いわゆる「持ち越しタイヤ」だ。1時間のセッションも残り10分となったところでほとんどのマシンがいったんピットに収まる。そして残り7分から予選アタックの“シミュレーション”。これが全てのチームのルーティンになっている。今回ここでサッとタイムを出してきたのがチームインパルの2台、とくに関口は1分38秒309でタイミングモニターの最上列に飛び出し、セッションを終わったところでも4番手にランクされるのだが、予選ではQ1、Q2ともにこのタイムを上回ることができず、レース1、レース2とも13番手からのスタートになった。ポイントリーダーとして臨んだ決着の場、彼といえどもシリーズチャンピオンに手を掛けた状況で、「意識しない」と口にしてもどこかに生ずる心理的圧力が身体感覚を鈍らせたのだろうか。

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 一方、1年前にもっと有利な状況で、淡々と臨みつつも周囲からは「プレッシャー」という言葉が飛び交う、という状況を乗り切った経験者、石浦宏明は2戦2勝が必須という条件の下、順調な仕上がりを見せていた。本人も言うように「スーパーフォーミュラに戻って以来、体験したことがないほどの不調」に陥った前戦SUGOから一転、鈴鹿では走り始めからトップタイムを刻んでいた。予選でもQ1、Q3でトップタイムを記録し、翌日のレース1、レース2両方ともにポールポジションを獲得した。Q2のベストタイムはチームメイトの国本雄資が記録している。

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 さらにQ3に残ったのは、彼らセルモ・インギングと、ダンデライアン、トムス、そしてナカジマレーシングの4チームが2台ずつ。レース1はセルモ・インギングが最前列を独占、レース2は彼らとダンデライアンが2列目までを交互に埋め、その背後にトムス、ナカジマレーシングがそれぞれ並ぶ、というチーム毎の好調さを示す配列となった。石浦自身、ここまでの流れを振り返って「昨日の雨の中から"乗れてる"感じあった。Q3はチームにも『一か八かで行ってきます』と言って出た」と語っている。

 一方、シリーズチャンピオンの可能性を残す他の5人のスターティングポジションに着目すると、国本がレース1・2番手/レース2・3番手、A.ロッテラーが4番手/5番手、中嶋一貴が両レースとも6番手、S.バンドーンが7番手/2番手(Q1の7番手からQ2、Q3とタイムを上げてきた)、そして関口が前述のように両レース13番手と、この段階でまず明暗が分かれたのだった。

「決着」の日曜日

 さらにもう一夜が明けると、今シーズン最後の一日。

 1日2レース制が選択されたことで、ここではいつもの午前中フリー走行がない。スターティンググリッドに向かう「8分間」の走行だけでセットアップの適否を読み取れるかどうか。もちろん午後のレース2も走るスケジュールは同様だが、レース1でドライバーが持ち帰ったクルマの感触とロギングデータに残った現象から、マシンセッティングや装着するタイヤの冷間時内圧設定などを微調整することは可能だ。

 何よりレース1は19周・110kmというスプリントであって、スタートが鍵を握ることは誰もが分かっていた。5個並んだレッドライトが消えたその一瞬、ポールシッター石浦の蹴り出しがほんのわずかに弱かった。逆に、右に並んだ国本はこれ以上はないというクラッチミートを決める。1コーナーはインからスピードを伸ばした国本が先頭、石浦はアウトからインに切り返してその直後に付け、ターンインするが、2列目インサイドからこれもジャストミートのダッシュを決めたロッテラーが半車身前アウト側から出た野尻智紀の前を横切ってアウトへ。1コーナーで石浦に並び掛けて前に出た。野尻の背後には一貴。これで国本-ロッテラー-石浦-野尻-一貴という隊列となってレース1の流れが形作られていった。1-2-3番手はお互いにペースを維持しつつ、じわじわと差が広がってゆく。その後ろを走る野尻と一貴は接近。7周目に入るメインストレートでは一貴がオーバーテイクシステム作動のLEDを閃かせつつ並び掛けようとするが、野尻も譲らない。

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 もう一人、チャンピオンの可能性を残すバンドーンは、7番手グリッドからスタート直後はそのポジションをキープしたものの、2周目に入るメインストレートで小暮卓史にアウトから並ばれ、そのまま1コーナーで前を取られる。その背後では同じような形で関口がチームメイトのJ-P.オリベイラの前に出てバンドーン追走に入った。ここからはバンドーンvs関口の接近戦がレース1の焦点となる。シケイン、バックストレートエンドと、関口は何度もテール・ツー・ノーズからバンドーン車の脇に自らの鼻先を覗かせるが、そこはバンドーンも巧みにブロックラインを走って関口の行き先を塞ぐ。

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 13周目のシケインでは関口がブレーキング終わりでフロントをふらつかせながらもイン側から飛び込もうと試みるが、ここではバンドーンも防戦。その至近距離のまま1周を走ってきた両者は14周目の130R立ち上がりでさらに接近、今度はシケイン入口でインを押さえたバンドーンに対して関口はアウトから切り込むラインを取って立ち上がりを狙うが、その切り返しでアウト側から回り込むバンドーンのリア左サイドに関口のノーズが追突、たまらずバンドーンはスピンしてしまった。残り5周を切ったタイミングでのアクシデントであり、この追突に対して関口にはレース後に30秒のタイム・ペナルティが課せられる。

 彼らの前方では、スタート直後の順位が崩れないまま、国本がレース1を制し、ロッテラー、石浦、野尻、一貴、B.バゲット、小暮と続く順位でフィニッシュしている。

「203km」という距離に潜む罠

 レース1を終えた段階で、国本はフルディスタンス・レースの1/2の5点と、この最終戦2レースの勝者にのみ与えられるエキストラポイント3点、合わせて8点を獲得し、チャンピオンシップポイントの合計は31.5点となる。2位フィニッシュのロッテラーは合計26点、3位の石浦が24点となり、無得点に終わった関口は28点と変わらず。レース2に向けてシリーズチャンピオンへの可能性を残すのはこの4人に絞られたのだった。この中でロッテラーも石浦もレース2の優勝が必須条件であり、ロッテラーは国本が5位以下、石浦に至っては国本が無得点かつ関口が3位以下という条件が付く。関口はレース2も13番手からのスタートで、そこから国本との間にある3.5点の差を引っくり返すポジションに上がることができるかどうか。国本が圧倒的に有利な状況になっていた。

 レース1を終えて車両がピットボックスに戻り、レース2のスタート進行が始まるまでおよそ3時間。観客にとっては昼休みのピットウォークの時間帯も、車両底面のスキッドブロック交換、サスペンションの再セットアップから簡易定盤でのコーナーウェイトとジオメトリーの計測といったルーティンワークはもちろん、マシンを分割してトラスミッションのギヤ交換や歯面チェックなど、この時間でできるレース前の車両整備が刻々と続いていた。

 そして14時を過ぎ、8分間のウォームアップからレース2が動き出した。この短い確認走行で記録された速いラップタイムは1分42秒台。レース1のそれと比べると1.6秒ほど遅い。レース距離が長くなる分、スタートに向けたこの段階での燃料搭載量が30kgほど重い。その「フューエル・エフェクト」と読むべきだろうか。

 35周・203kmのレース2はぎりぎり満タン95Lの燃料で走りきれるかどうか。レース距離を通してフルアタックの走りをするとおそらく途中で燃料補給が必要、という見解を、この週末各所で聞いた。タイヤ交換は義務付け。その作業を、許されたピット要員4人全員で行えば、静止時間が約8秒。同時に燃料補給を行うとタイヤ交換要員は3人となり、4輪交換には13秒ほどはかかる。エンジン・マネージメントをフルパワーモードにしてできるかぎり速いラップを重ね、そのタイム差を稼げればいいわけだし、もともと無給油では燃料が足りなくなる不安が残るとすれば選択肢は限られる。

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 もう1点、義務付けられているタイヤ4輪交換をどのタイミングで行うか。冷えたタイヤを装着してピットアウトした後、タイヤのトレッド・コンパウンドはもちろんケース(骨格)も作動温度領域に暖まるのには1周程度は走る必要がある。スタート直後は皆同じく冷えた状態なので、暖まりきる前に、つまり1周目にピットに飛び込んでタイヤを替えれば、十分に暖まるまでのペースダウンが多少なりとも切り詰められる。問題は、履き替えたタイヤで200km近くを走った時のデグラデーションはどう現れるか。この週末、それを確かめる走行時間はなかったので、これまでの実績から推測するしかない。しかもそこで燃料を満タンにしたとしても、レース中にペースをコントロールして燃料消費を抑える必要もありそうだ。セーフティカーが出れば、余裕も生まれるだろうが。また、同じタイミングで多くのマシンが一斉にピットインしてくると、コースに戻っても混雑が続き、自分のペースで走ることができない。やはり「空間」ができたところにマシンを送り出したいところだ。

 様々な条件が絡み合う。スターティンググリッドにマシンを付けたところで、各チームのレースプランや如何に…。

そして、最終章へ

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 柔らかな秋の陽差しの中、レース2のグリッドに19台のマシンが整列、今シーズン最後のスタート。5連レッドライトが消えた瞬間の反応は最前列の石浦、バンドーンともにジャスト。しかし2〜3速とシフトアップしてゆく中でバンドーン車の伸びが優る。石浦がポールポジションのアウト側からラインをインに寄せて牽制し、両者並走状態のまま1コーナーにアプローチするが、一瞬、外に振った石浦に対してインを押さえたバンドーンがきれいにターンイン、先頭に立った。その直後では今回も抜群の蹴り出しを見せたロッテラーが3列目アウト側から3番手に。逆にその前に位置していた国本は最初の動き出しが鈍く、一貴、野尻と3ワイドの最外側で1コーナーにアプローチすることになり、6番手に後退。バンドーン、石浦、ロッテラー、一貴、野尻、国本、バゲット、塚越という隊列でS字を駆け上ってゆく。関口のポジションは12番手あたり。

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 この1周目を終わるところで、一貴がピットレーンに飛び込む。続いて山本尚貴、小暮、中嶋大祐、中山雄一、伊沢拓也も1周目タイヤ交換作戦を敢行。確認できたところでは、一貴がここでまず4人でタイヤ交換、その作業終了の瞬間、待機していたメカニックが燃料補給リグを差し込み3秒間ほど給油、という手順を遂行した。その手もあったか。これで静止時間は約12秒。同時にピットインした他の5台の前でコースに戻った。

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 続いて2周目には関口、小林可夢偉、W.ブラーがピットへ。ピット作業で小林が関口をぎりぎり逆転してコースに復帰してゆく。そして3周目にはオリベイラがピットストップ。コース上でのポジションを優先し、タイヤ交換だけ、静止時間8.5秒ほどで発進して一貴の前でコースに戻る。一貴は2秒ほどあったギャップをみるみる縮めるが、オリベイラも譲らず、この時点でタイヤ交換義務を消化した車両群では先頭の位置を守り切った。

 レース結果を知っている今、この早期ピットストップ作戦を顧みると、オリベイラの4位が最高位。最初から集団の中、あるいは後方に沈んだドライバー/エンジニアが、その状況を打開すべく、早いピットストップを選んだという解釈になる。オリベイラは燃料補給をせず、しかもタイヤ交換後に速いペースを続けるという賭けに出たが、後半でセーフティカーが2回出動、7周を先導したことで燃費はずいぶん楽になり、その賭けが当たった結果となっている。

 先頭集団で速いペースを維持するマシン/ドライバーたちも、セーフティカーや赤旗中断の可能性を考えると(実際、前戦SUGOはそれで関口がレースを失うか…という状況が生まれた)、既にピットストップを消化した車両群に対して十分なマージンを築いたところでピットストップを済ませるのが定石。12周を終えるところでまずロッテラーがピットロードに滑り込んだ。彼も4人タイヤ交換の後にごく短時間給油の作業パターン。コースに戻ったところであっという間にオリベイラが背後に迫り、S字ではテール・ツー・ノーズ。しかしさすがにロッテラー、そこを巧みに切り抜けて、ピットストップ消化組のトップを守りきった。これがレース終盤にチャンピオンシップの行方は…というドラマにつながる。

 このロッテラーのピットストップで3番手に上がっていた野尻は14周完了でピットへ。タイヤ交換義務を消化するが再スタートしてからペースが上がらない。結局、ピットにマシンを戻してリタイヤとなる。

 そして16周完了時にトップを行くバンドーン、続く石浦が同時にピットストップ。ともに3人タイヤ交換で、7〜8秒の燃料補給を行った。ということは両車ともスタート時には10kgほど「軽い」状態で出て、そこから前半を速いペースでリードしてゆく、という戦略を選んでいたものと推測される。このピット作業での順位変動はなくコースに戻ってゆくが、2番手の石浦の後方にロッテラーが迫る。ロッテラーはその周のスプーンカーブ〜バックストレートでオーバーテイクシステム作動、さらにその先のメインストレートでは二人ともLEDを点滅させるが、ロッテラーが並びかけるところまでには至らず。二人ともチャンピオンへの必要条件はこのレースに勝つことなのがわかっているだけに、譲らない攻防を展開して行く。

 少し後方では一貴のペースが上がらず10番手前後まで沈んでいた。そこからまず山本、続いて小林にかわされる。さらに18周目からは関口が隙あらば、という動きで攻めに入り、その周のシケインでは並走に持ち込むも、一貴もブロックして関口は車幅半分ほどグリーンにはみ出し、切り返しでオーバースピード気味になって後ろに着くしかなかった。そこから3周、一貴の背後に密着して走った後、ようやく21周目のシケイン入口で前に出ることに成功する。この“バトル”の間、二人のラップタイムは1分43秒以上まで低下、とくにシケインで並走した18周目は1分45秒台後半にまで落ちている。

最後の最後に、勝負を賭ける瞬間が

 203kmのレースも残り1/3まで進んだ23周目、国本はコース上では先頭を行くが、まだタイヤ交換義務を消化していない。チームは受け入れの準備を整え、今から…という瞬間にコース全域に「SCボード」提示。伊沢がスプーン立ち上がりでクラッシュしている。それとほぼ同時に国本がピットロードに滑り込んだ。その後方からはロシターも。このタイミングならばタイヤを履き替えて、交換義務を果たしたと認められる。危ういところだった。タイヤ交換と燃料補給に14秒を費やしてコースに戻った国本のポジションは7番手。SCボード提示で各車がペースを少し落とす状況にも助けられた。バンドーン、石浦、ロッテラーというこの段階の1-2-3番手がそのままフィニッシュすればロッテラーに3.5点差でシリーズチャンピオン、という計算になる位置関係だ。

 このセーフティカー・ランは26周目完了まで。バンドーンはシケイン手前でスローダウンし、後続が詰まったところで最終コーナーから一気に加速、差を広げる頭脳プレーを演じてリードを広げた。ところが2周しただけで、今度は山本が最終コーナー立ち上がりで姿勢を乱し、グランドスタンド前のクラッシュパッドに突っ込む、というアクシデント発生。再びセーフティカーが入ることになった。この時、セーフティカーの後方に付いた隊列は、バンドーン-石浦-ロッテラー-オリベイラ-塚越-バゲット-国本-ロシター-小林-一貴-関口…という順番。

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 鈴鹿のオフィシャルの事故処理はさすがに早く、このレース2度目のセーフティカー・ランも3周のみ。32周目に入るところから再び戦闘再開。そのシケイン立ち上がりから狙い済ましていたロッテラー、メインストレートで石浦にアウトから並びかけ、自身はコース中央、相手をインに追い込んだ位置関係のまま並走、1コーナーで前に出た。これで2番手。続いて2コーナーではオリベイラに塚越が並びかけるが、立ち上がりでアウト側に追いやられて一瞬ダートを走る。背後にいたバゲットは難なくかわすが、コースに戻ってきた塚越の背後には国本を抜いたロシターが迫り、失速した塚越にS字入口で追突。塚越はスピンし、ロシターもフロントウィングを壊してしまう(ということは、塚越のコースオフ〜ロシターとの接触がなければ、国本は9番手、ノーポイント圏に落ちていたことになる)。西コースへと向かう隊列は、バンドーン-ロッテラー-石浦-オリベイラ-バゲット-国本-小林-関口…。このままの順位で国本がフィニッシュすればシリーズ得点は6位の1.5点を加算して33点。これに対してロッテラーは2位では30点だが、バンドーンを抜くことができれば優勝の8点を加えて34点に達する。

 逆転チャンピオンの可能性が目の前に現れたことでロッテラーの「スイッチが入った」。それは走りのリズムに現れた。しばらくぶりに見る“肉食獣”が牙を剥いたかのようなオーラを発散する走り。ロッテラーならではの滑らかなドライビングにアグレッシブに攻める微細な動きが加わる、あの挙動だ。

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 しかし残すはわずかに3周あまり。ロッテラーにオーバーテイクシステムの「残弾」はなく、バンドーンは残り2発。もちろんSCで差が一度なくなったところからロッテラーが追ってくるのを知るバンドーンも逃げる。2人ともパーソナルベストタイムを記録するフルアタック状態。バンドーンは33周目のバックストレートでオーバーテイクシステムを作動。34周目完了、1周を残してロッテラーは0.9秒差に迫る。これに対してファイナルラップのバックストレートでバンドーンは最後のオーバーテイクシステムを発動し、シケインまでにロッテラーがアタック可能な距離に接近するのを拒む。

 かくして、来年は世界で最もプレステージが高い舞台へと旅立つバンドーンは、その餞(はなむけ)となる2勝目を手にした。一方、昨年はチームメイトが戴冠する戦いを最も近くで見た国本は、チャンピオンを「獲る」ことの厳しさに直面しつつも、自らの前に現れたチャンスを掴んだ。最後の最後まで「筋書きのないドラマ」を観る者に、そして演じる者にも提供して、スーパーフォーミュラの2016年シーズンは幕を降ろしたのだった。

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Q1-Q3セクタータイム推移
予選上位およびシリーズチャンピオンの可能性を持つドライバーたちの予選Q1・Q2・Q3全周回における、セクター1〜4それぞれの走行タイムをプロットしてみた。Q1の1回目走行(run1)でタイムが伸びていないドライバー/マシンは、午前中のフリー走行の最後に試みる予選シミュレーションで新品タイヤを投入、ここはその数周ユーズドを使った可能性が高い。土日2日間で使える新品タイヤは4セット、予選をQ3まで戦うつもりなら新品を各セッションに投入するので3セット要る。Q2以降、新品でコースインしたアウトラップ+1周をタイヤをウォームアップするのに使い、次の周回でアタックするのがこの日の基本パターン。さらに1周アタックを続けた場合、セクター2以降はタイムが落ちている。Q3・セクター4のタイムが全体に頭打ちになっているのは、シケインを中心にした低速セクションで路面に「ゴムが乗る」影響が少ないか、気温が下がってきたためか。石浦はQ1の2回目(レース1予選アタック)、Q3ともにセクター3がとくに速く、ここだけで0.15〜0.2秒ものアドバンテージを築いている。Q1ではセクター3も速い。バンドーン、野尻のダンデライアン勢ハセクター1&2が速い。Q3のセクター4ではバンドーン、ロッテラー、バゲットの外人勢が速さをみせている。

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決勝レース1 ラップチャート
レース1・19周の順位変動を見ると、こうしたスプリントレースではやはりスタートから1周目が大きな鍵を握っていることが明らか。しかし短いレースの間もあちこちで順位変動が起きている、すなわちそれぞれの順位争いはシビアに続き、追い越しのトライ、その成功などが各所で演じられていたこともわかる。横軸の最後に「F」という1項を追加したのは、関口がバンドーンへの追突でレース後にタイム・ペナルティを課せられたことを示すため。

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決勝レース2 ラップチャート
レース2・35周、フィニッシュライン通過の順位変動を追ったラップチャート。レース1以上にスタートから1周目での順位入れ替わりが多く、さらに1周終了でピットロードに向かった車両が6台、次の2周終了で3台あったので(鈴鹿サーキットのレイアウトでは、メインストレートを通過してゆく車両と、ピットロードを走り下りてきた車両が、ピットウォールの両側でフィニッシュラインをどのタイミングで横切ったか、で周回の順位が決まる)、序盤の順位ラインが上下に動き、錯綜して見える。野尻はピットに戻り、伊沢と山本はクラッシュしてレースを終えたところで線が途切れている。セーフティカー・ピリオドが明けた周回でそれぞれ大きな順位変動が起こっている。

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決勝レース ラップタイム推移(上位8台+2台)
レース2の上位8車と、上位を走りながらアクシデントに遭遇した2車のラップタイム、35周の推移を追ったグラフ。SC(セーフティカー)が先導に入り、隊列を整えた後の周回でラップタイムが極端に遅くなり、先導を外れた次の周回からレースペースに戻ることに留意されたい。ポールポジションからスタートした石浦は、一発のタイムは出る(とくにピットストップ/タイヤ交換後)が、スタートでバンドーンに、2度目のSCラン終了直後にロッテラーにかわされた。ピットストップ直後のオリベイラが、燃料補給はしなかったもののまだ重い状態で速いペースで走ったこと、塚越、バゲットもタイヤ交換後に前が空いていたこともあって速かったことなども現れている。ロッテラーはバンドーン、石浦には届かないペースだったが、SC介入をうまく利用し、さらにチャンピオンの可能性が見えた最終盤に彼ならではの集中力を発揮してみせた。関口は集団に埋もれた周回はペースが上がっていないが、とくに前走車に仕掛けたところではラップタイムを落としてしまった。