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2016-11-28 10:14:41
来るシーズンに向けた「はじめの一歩」
TECHNOLOGY LABORATORY テスト編
まずはチーム=ドライバーの組み合わせに変化あり
今回の1DAYテスト、参加チーム/ドライバーはINIGINIG MOTORSPORT #1石浦宏明 #2国本雄資
KONDO RACING #3ニック・キャシディ(*)* #4山下健太(*)
TEAM LEMANS #7 大嶋和也
REAL RACING #10塚越広大
TEAM無限 #16山本尚貴
KCMG #18中山雄一/小林可夢偉(*)
TEAM IMPUL #19J.Pオリベイラ #20関口雄飛
TEAM TOM'S #36A.ロッテラー #37中嶋一貴
DANDELION RACING #40野尻智紀 #41伊沢拓也(*)
B-Max Racing #50佐々木大樹(*)/小暮卓史
NAKAJIMA RACING #64中嶋大祐 #65B.バゲット
ホンダテストカー #05牧野任佑(*)
(*)は当該車両、2016シーズン・ノンレギュラードライバー
前週にマカオGPが開催されており、欧州F3現役組など「活きの良い」ドライバーの参加も期待されるタイミングではあったが、今回の「マカオ組」はキャシディ、山下、佐々木、牧野の全日本F3現役3名と昨年の全日本チャンピオン1名にとどまった。しかし、シーズン中とは異なるチームの車両に乗り込むドライバーも数名いて、観る側としては来季に向けて各チームの新布陣に思いが巡るリストではあった。
前夜に降った雨
午前8時50分、走行開始。前夜の雨でコースの路面は全周にわたって水膜に覆われている(厚くはないが)。当然、各車ウェットタイヤ装着(路面温度が低いのでコンパウンドは作動温度領域が低い「ソフト」が定番)、ハイダウンフォース・セッティングで走り出したものと推測され、ストレート後半ではマシンの背後にかなり高いウォーター・スプレーが巻き上がってゆく。
各車、順次コースインするが、その中で#50はまず小暮がインスタレーションラップ。#05牧野も1周の確認走行の後、いったんピットに戻る。ともに20分ほどを費やしてから再びコースへ。30分を過ぎたところで#18が小林のドライビングでとりあえず状況態確認の1周。ロッテラーの#36だけがまだピットから姿を現していない。この時点(30分経過)で中嶋一貴、石浦が最速ラップタイム1分52秒7台、他のマシン群は1分52秒8台〜1分54秒台。まだまだ路面が滑っていることをうかがわせるタイムの出方だ。
気温、路面温度が低く、青空が覗き始めたが太陽はまだ雲に隠されているために路面の乾きは遅い。1時間経過時点でやっとマシン後方に上がるウォーター・スプレーが上がらなくなり、走行ライン上に少しずつ水が消えた個所が見えてきた。各車のラップタイムも1分50〜52秒に上がってくる。最初に1分50秒を切ったのは、#1石浦、そして#16山本、#20関口が続き、70分経過時点で#7大嶋が1分49秒117を刻んでタイミングモニターの最上列に表示される。#50小暮、#41伊沢、#18小林、#10塚越までを加えた8車が1分49秒台に入ってきた。午前10時を回って、ようやく柔らかな晩秋の陽差しがコースを照らすようになり、徐々にラップタイムも上がって1分47〜48秒台に入るマシン/ドライバーが増えてくる。
乾いた路面が広がってきた
午前10時30分、ほぼ全車がピットボックスに収まり、サーキットを一瞬の静寂が支配する。ピットロードを歩きつつ観察すると、各車、フルウェット路面対応からドライ路面対応へ、すなわちタイヤのグリップレベルが上がるのに対応したセッティング変更の作業中。たとえば前後ともにサスペンションのアッパーアーム車輪側ピボットに組み込むキャンバーシムを抜いてネガティブキャンバーを増やし(タイヤを内傾させてコーナリング中の遠心力が強くなる状況で対地キャンバーが“立つ”ように)、アンチロールバーを硬いものに組み替え(遠心力に対して車体が外に傾く動きを受け止めて押さえる。とくにフロントはモノコック前端に収納されたユニットを交換するのに時間がかかる)、車高=車体底面地上高を少し下げ、ウィングもHDF(ハイダウンフォース)仕様からいつもの鈴鹿用のMDF(ミドルダウンフォース)を基本にファインチューンした仕様へ…といった内容だ。コンディション好天。新スペックタイヤをいつ履くか?
午後1時、走行再開。青空が広がって気温も上がってきた。路面は完全ドライ。今回、各車に1セットのみ配られている新仕様のドライタイヤをいつ試すか、どのくらいのタイムが出るか、そしてどんな車両挙動を見せるかが注目される。というのも、来季に向けたタイヤ特性として、グリップを向上させるのはもちろん、リアタイヤは横すべり角がより大きな(つまり、車両がコーナーの中で横すべりする角度が深い)領域まで高いグリップを生み出すように、フロントタイヤは転舵した時の横力立ち上がりをより高めるように、という方向を狙ったタイヤ開発が進められているとのことだから。まずは#16山本、#37一貴、#10塚越、#7大嶋、#20関口といった面々からコースへ向かう。彼らが簡単に1分40秒あたりのラップタイムを出してくる中、#3キャシディ、#4山下、#36ロッテラーもコースイン。ここでまだ出て行かないドライバーたちは、水が消えたばかりの路面、舗装の奥に残っているはずの水分が消え、ところどころに薄く乗っているはずの泥が消えて路面が良化するのを少し待ってみよう、という狙いか。30分を経過してもまだピットに留まっているのは、#64中嶋(大)、#65バゲット、#50B-Max、#05牧野。他は1分38〜40秒での周回とピットストップを繰り返している。
午後1時52分、走行再開。5〜6台が順次コースインしてゆくが、先ほどマシンに乗り込む準備をしていた#50牧野はまだ動き出していない。午後2時を過ぎて、SFルーキーの#50佐々木もコースイン。まずは1分44秒台までのペースでトップフォーミュラの感触を確かめている様子が伝わってくる。#05牧野もコースに出て1分41〜42秒のペースで周回。
4週間前の最速タイムを更新。さらにレコードタイムも
皆が周回とピットインを繰り返しつつ次第にペースを上げて行く中、午後2時20分を過ぎて#40野尻が1分37秒256をマークして、この時点の最速タイム、しかも先日の最終戦鈴鹿の予選Q3で石浦が記録したポールタイム、1分37秒453を上回った。14時30分の段階で#40、#41伊沢、#36ロッテラー、#2国本までが1分37秒台に入っている。午後2時32分、このセッション2度目の赤旗。今回は#05牧野がダンロップコーナー先、東コースショートカット直前のグラベルベッドに止まってしまったため。車両がコーナー外側を向いてアウト側に飛び出し、グラベルベッドを横に跳ねるように滑った痕跡が残っているので、上り左旋回の中、リアが滑ってカウンターステアを当てたものの戻し遅れ、いわゆる「カウンターステアの“お釣り”」で逆方向の速いスピン挙動に陥ったものと推測される。
午後1時39分30秒、走行再開。
#40野尻は新スペックタイヤを装着して何度かピットとコースを往復する中で、1分36秒586までタイムを詰めてきた。2014年開幕戦、SF14初めての実戦でロッテラーが記録した1分36秒996を上回る、非公式コースレコードとなる領域だ。しかも当時は燃料リストリクターの最大流量が100kg/h。今回はテストで燃料リストリクターの流量は不問だが、最終戦と同じ95kg/h仕様を組み付けているはずだ。午後3時頃にはこの野尻、#41伊沢、#50佐々木などが新スペックタイヤを装着していたことを視認している。
午後3時19分、#36ロッテラーがヘアピンでスピン。ほぼ180度回って逆方向を向いたままコース上にストップしてしまったので赤旗提示。3度目の走行中断となる。エンジンを押し掛けしてもらって戻る。午後3時26分、走行再開。
この日の走行、残り30分というところでのタイミングモニターは、トップに#40野尻(1分36秒586)、#2国本(1分37秒069)、#41伊沢(1分37秒134)までが最終戦のポールタイムを上回っている。その下に#1石浦(1分37秒506)、#10塚越(1分37秒599)、#19オリベイラ(1分37秒660)と続き、11番手の#37中嶋(一)が1分38秒ちょうど。
やっぱりタイヤは難しく、そしておもしろい…
15時31分30秒に赤旗提示。コース上のデブリ(走行の障害となるようなゴミ類)を排除して走行再開…というアウトラップで#16山本、S字の切り返し左コーナー入口でスピン。縁石に車体底を乗り上げて「亀の子」状態に陥ってしまい、再度の赤旗。午後3時41分に走行再開。終了時刻を10分延長の午後4時10分とする、という告知が掲示された。新スペックタイヤの感触とパフォーマンスを見るためには、そろそろ履いてまず「一撃」のグリップレベルと、転舵応答や滑り量・滑り速さとグリップの関係などを確認し、さらにある程度周回を重ねた時のデグラデーションも確かめてゆきたいところだ。残り20分、全車がいったんピットに戻り、そこから順次コースへと向かう。このタイミングでは、#1石浦、#3キャシディ、#18小林、#36ロッテラー、#64中嶋(大)、#05牧野が新スペックタイヤを履いているのを確認。DANDELIONの2車は現行スペックの新品かそれに近いと思われるタイヤを装着してコースイン。すでに履いた新スペックタイヤとの比較を行おうとしているのでは? そして#1石浦が1分36秒474と、約4週間前に自身が記録したタイムを1秒切り詰めてきた。#36ロッテラーも1分36秒590、小林が1分36秒838。
最後の数分間、#19オリベイラ、#20関口なども新スペックタイヤを投入してきた。
そして残り1分、野尻が1分36秒456までタイムを伸ばす。この野尻の1日を通してのベストタイムは2016年レギュラースペックの、いわゆるミディアム・コンパウンド、ほぼ新品というタイヤで記録されたものであり、それ以降の各ドライバーのベストラップはほとんどが新スペックタイヤで走った周回のもの。最後の最後に「ラバーが乗って」タイムが出やすいコンディションになっていたとはいえ、これでかえって今回のテストの「読み解き」が難しくなった。そういえば、DANDELIONは今回のテストで、野尻には今シーズンずっとS.バンドーンを担当していた杉崎エンジニア、伊沢には以前コンビを組んだ経験のある吉田エンジニアと、担当車両をスワップしていたが、その中で野尻=杉崎コンビが「今日のスィートスポット」を掴んだ、のかもしれない。
現行スペックでも、昨年までのタイヤよりはリアタイヤの横すべり量、すなわち車体横すべり角を大きくしたところでマキシマム・グリップが持続する。新スペックはさらにそのアングルが大きくなっても、という懐の深さがあるとすれば、エンジニアとしてはそれに対応する車両特性を試み、リアの滑りを奥まで使い切るためにはこれまでの身体感覚を修正する必要があるにしても、ドライバーも全てのコーナーをきれいに「つないで」走り抜けた。そういう1周が、来年のコースレコード連発を期待させるラップタイムへと結びついたのではないだろうか。