SUPER FORMULA Logo

SUPER FORMULA Official Website

JapaneseEnglish

t_news

2017-06-22 18:45:27

SF流「Uno a Zero(1対0の勝負)」×2の濃密な2日間

TECHNOLOGY LABORATORY 2017 Round2 Okayama

TEXT: 両角岳彦

思いどおりのアタックはできたか?

photo

「トラフィック!」。この一言が飛び交った。岡山国際サーキットの土曜日、レース1の予選終了直後の話である。

 このコース1周の長さは3703m。ここに19台のスーパーフォーミュラが「全機出撃」すると1台あたりの「専有空間」は均等に割り振って195m、予選アタックの最速レベルである平均速度180km/hで走ると3.9秒で走りすぎてしまう。そういう状況の中で、それぞれにタイミングを図って「最速の1周」を試みる。

 とくにこの第2戦のレース1は20分間の中で全車が一斉に走行、その中のベストタイムが午後の決勝レース30周のスタートポジションを決める、というフォーマットだった。いつものノックアウト方式であれば、速いマシンを手にしたドライバーは「足切りライン」をクリアすればよし、という取り組みができる。しかしこの日はそうはいかない。

 20分の予選セッションが始まったところでまず、この週末では初めて履くニュータイヤで一発目のアタック。そこでいったんピットに戻って2セット目のニュータイヤを装着、「出撃」のタイミングを計る。とはいえ選択の幅はそんなに広くはない。タイヤを暖めるのに最低でもアウトラップを含めて3周、そこからアタックに入るとすれば、岡山のコースが短いとはいえ、5分は見ておく必要がある。そこで、残り時間が7分を切ったところから各車次々にピットを出てコースに向かう。ここで先陣を切ったのは関口雄飛、続いてA.ロッテラー、2秒ほど遅れて中嶋一貴…と出撃して行った。

photo

 この「19台一斉出撃」の状況を時間軸に沿って整理してみたのだが、結果的にベストラップを記録したのは集団の先頭を走り続けた関口であって、そのアタックラップのオンボード映像を確認しても、1周の間ずっと前を走るマシンが映っていない状況が続いている。2番手も出撃順どおりロッテラーで、関口と同様にタイヤを暖めるのに4周を使ってからアタックラップに入っているが、3周目に関口がいったんペースを落とした(前を空けるためか)のに詰まって、次の周回を前車(関口)との距離を空けるのに使ってからアタックを試みている。レース後に現地で口演するTECHNOLOGY LABORATORYトークショーにゲストとして登壇していただいた36号車担当・東條力エンジニアによれば、本来はもう1周早くアタックする予定であって、ロッテラーはそれに合わせて早めにタイヤに熱を入れつつあったはず。予選直後の記者会見では「タイヤのピークを引き出すタイミングが…」と語っている。

photo

 続く3番手に飛び込んできたN.キャシディは、他とはタイミングをずらしてこの予選を戦っていた。1回目のアタックランからコースインを開始5分まで遅らせ、アウトラップを含めて3周暖めたところで2周連続のクイックラップ・トライ。そして2回目の出撃は残り5分を切ってから。タイヤのウォームアップは2周だけで一気にアタックラップに突入しているのだ。このあたりのタイミングの選び方は、手練れのトラック・エンジニア、田中耕太郎氏とのコンビネーションによるものだろう。とはいえコースインがあと30秒早ければ、もう1周できたはず。こちらの流れを選択したのが、同じKONDO RACINGの山下健太、TEAM MUGENのP.ガスリーで、残り5分半と遅めのタイミングでコースインし、タイヤのウォームアップに3周を使ってからチェッカードフラッグが振られている最終周回にアタック敢行、というパターンで走った。

photo

 一方、20分間の中で最初に走った時のラップタイムを2度目のアタックで更新できなかったドライバーは7名。全体の3分の1に達する。このうちF.ローゼンクヴィストは最終周回直前のセクター3、ダブルヘアピン2つめ(ホッブス・コーナー)でスピン、直後を走っていた石浦宏明もこれを避けるためにペースダンしたために、それぞれ最後のアタック不発のまま予選を終えている。

 いずれにしても「一発の速さ」がそのまま順位に反映されたわけではない予選結果であって、決勝レースではラップタイム・ペースに差があるマシン+ドライバーが混在しつつ、追い抜きを試みることが難しい岡山のコースでの混戦・乱戦が予想される状況となった。その最初の局面として、スタートがきわめて重要な意味を持つことはいうまでもない。

「つながる感触」がないクラッチは、やっぱり難しい。

photo

 一発勝負だった予選の終了から4時間、決勝レースに向けたいわゆる「スタート進行」が動き出す。1日で予選から決勝までを戦うフォーマットは忙しい。さすがにドライバーのレベルが高いスーパーフォーミュラ、このタイトなスケジュール、エスケープゾーンの狭い岡山のコースという条件下で、大がかりな修復を必要とするようなクラッシュを犯す者はなく、でもどのチームのピットでもメカニックたちが、決勝に向けてのディテール・セットアップ、ホイール・アライメントやコーナーウェイトの確認と微調整といったルーティンワークを、昼食を食べる間も惜しんで進めていた。

 スタート進行の最初に、レース直前のコース状況とマシン・セットアップの最終状態を確認するための「8分間」ウォームアップ走行が組まれている。ここで小さな異変。石浦のマシンがスタンバイしていたピットロードからガレージ内に押し戻される。バッテリーを交換したようだったが、これで彼は直接スターティンググリッドに向かわざるをえなくなった。

photo

 そして、勝負を掛けたスタート。関口は蹴り出しが鈍い。その右斜め後ろからロッテラーがまさに「ジャストミート」で加速開始。スッと前に出てゆく。関口は、ステアリングホイール裏のパドルスイッチでクラッチを機能させるSF14のシートを得た昨年開幕から、どのレースでも、フリー走行からピットロード出口でスタート練習を何度も試みる。この日も8分間ウォームアップの最後にまた、クラッチ・パドルの指感触を確かめていたのだが…。

 ロッテラーも、SF14導入直後はけしてパドル経由のクラッチミートはうまくなかった。「今でも巧くはないですよ」と、レース後のTECHNOLOGY LABORATORYトークショーで東條エンジニアは笑っていたけれど、ロッテラー自身が感覚を磨くのはもちろん、チーム側もクラッチのミートポイントや空圧による作動機構の微調整、フォーメーションラップの発進からグリッドに着くまでのクラッチ摩擦材の温度の検証と、それをできるだけ一定にするためにドライバーがやるべきルーティンの策定など、細かな要素を積み重ねてきたことは、東條エンジニアが以前に証言してくれている。

 このスタートでは、やはり巧くスタートを決めて1コーナーへのアプローチまでに関口のイン側に並びかけた石浦が、「ドアを閉められる」形となって早めに減速開始せざるをえず、一気に7-8番手争いにまで順位を落としてしまう。その他にもいくつか小競り合いが演じられつつも、ロッテラー、関口、キャシディ、そして小林可夢偉が等間隔でセクター2へと向かって行った。バックストレートでは何車かがロールバーのオーバーテイクシステム作動表示LEDを光らせながらも決定的な順位変動はなく、その先のヘアピンで石浦が山下健太のインを狙って一瞬並びかけるものの前に出ることはできず、5番手以降は山本尚貴、J.マーテンボロー、山下、石浦の並びとなって、30周レースの流れはここで固まったのだった。

「1000分の1秒」って、ドライビングのどんな差なんだろうか?

 一夜明けて…。

photo

 日曜日のレース2、その予選は2ステージ・ノックアウト方式。つまりまずはQ1が20分間。ここで19台中9台が脱落する。そしてQ2・10分間で上位10台のポジションを決める。

 昨日「トラフィック」を各々が様々に体験したことを受けてか、この予選の動き出しは早かった。開始8分前、という段階でまずN.カーティケヤンが、さらに野尻智紀、伊沢拓也、塚越広大…と次々にピットを後にする。彼らを先頭にピットロード出口の赤信号を待つ行列がみるみる伸びていった。そこでアイドリング(といってもロードカーのそれよりエンジン回転速度はかなり高い)のまま待つ。もちろんマシンの左サイドポンツーンの中に斜めに収められたラジエーターに導風ファンなどはない。その冷却能力がピークパワー発生時の大きな発熱量に合わせて設定されているとはいえ、外気温がまだ高くはないとはいえ、最新のレーシングエンジンはこういう状況での許容度が大きい、ということを実感させる状況だった。

 ピットロード出口のシグナルが緑に変わって、続々とコースインしていったマシンの群れは、最初のアタックを5周前後で終えて開始7~8分後にはいったんピットに戻る。そして今回は、2度目のアタックを試みるべく「出撃」してゆくタイミングも昨日より1分ほど早め、残り8分から。そしてチェッカードフラッグに向けて最後の周回へ…というところでキャシディが2コーナーでスピン。出口アウト側のバリアにクラッシュしてしまう。残り時間1分6秒での赤旗、走行中断。この時点で小林が1分14秒392のトップタイムをマークしている。

photo

 スーパーフォーミュラの予選では、こうしたアクシデントによる赤旗が最終盤に発生した場合、コース長・周回タイムに応じて「時計を巻き戻す」ことになっている。ここ岡山国際サーキットでは「残り時間2分30秒」。つまりピットアウトして1周回、そこから計時ラップに入って1周回だけできる、という設定である。

 この時もキャシディを除く18人が1周だけに懸けたアタックを敢行する。もはや「トラフィック」云々をエクスキューズできる状況ではない。ピットロード出口にまずクルマを並べ、先頭でコースインしていったロッテラーが、まずこのセッションでの自己ベストタイムを刻むが、小林のタイムを上回ることはできず。と見る間に石浦がトップタイムを記録…と目まぐるしく各車のタイムが動いてゆく。最終的にこの3人が1分14秒台前半を記録し、4番手の中嶋(一)から10番手の関口までのタイム差は0.233秒、その関口とQ1でノックアウトされる11番手の野尻の差はわずかに0.002秒。しかも後方からアタックをかけていた山本尚貴がマイクナイト・コーナーから最終コーナーへアプローチするところでリアが流れてスピン。イン側に巻き込みつつ放物線状の軌跡を描いてメインストレートにそのまま飛び出したことでクラッシュは回避できた…と、息を詰めて見守るしかない数分間だった。

 続くQ2は、台数が減ったことからいつものように最初は誰もピットから出てこない。3分が過ぎてやっと石浦、関口、P.ガスリー、小林の順でコースインしてゆく。ロッテラー、中嶋(一)のトムス勢他5台か少し遅れて出撃してゆくが、その中嶋(一)に先にペースを上げつつあった石浦と関口が追いついてしまう。台数が半分ほどになっているのに、やはりここではトラフィックを避けるペースを組み立てるのが難しい。

photo

 このQ2アタックでは、Q1で消えたチームメイトに代わるかのように山下がまず4周回でトップタイムを記録、残り2台までタイミングモニターの最上列をキープする。最後の最後にこれを上回ったのがこのコースを得意とする石浦。前日のフラストレーションを解消する1周だった。1分14秒を切ったのはこの石浦だけであり、続く山下と3番手・関口の差は0.030秒、6-7-8番手の小林-伊沢-大嶋和也の間にあるタイム差はそれぞれ1000分の1秒という、「僅差」と表現するにはあまりにも少ないギャップであって、いつも以上にスーパーフォーミュラの競争がいかにシビアで凝縮されたレベルにあるか、見る側としても唖然とするしかない、2日間の予選ではあった。

前戦に続いて、競技規則から戦略を思い描く。

 レース2は51周・188.853km、そして「タイヤ交換義務あり」。この条件をどう読み解くか。

 ここでレース前に私がまとめ、一部の知人に観戦情報として渡した事前予測ペーパー(このウェブサイトに掲載される「レースフォーマット」の詳細版といえる内容)から、その「読み解き」の部分を(一部補足しつつ)紹介してみよう。 『まず燃料必要量はレース距離を走りきるのに約82L(約61kg)+低速周回3周分(ピット→グリッド/フォーメーションラップ/ゴール→車両保管)+オーバーテイクシステム作動による消費量増加分・1回あたり約75.5cc。
 燃料補給の義務はないので、ピットストップでタイヤ交換のみ実施、という選択肢がある。この場合、ピットレーン作業エリアに出ることが認められるチームクルー6名のうち1名は車両誘導に専念、残る5名でジャッキアップ(前後どちらかを上げた者が近くの1輪に移動)~タイヤ交換(先に終わった1名が空いているジャッキに移動)~ジャッキダウンを実施すると、8~9秒で作業完了するものと思われる。

photo

 タイヤ交換と同時に燃料補給を行う場合、ピット作業が認められるチームクルーのうち1名は消火器担当、燃料補給リグを1名が保持・挿入するので、タイヤ交換要員は3名になり、ジャッキアップ~移動~タイヤ交換~移動~ジャッキダウンに要する時間は14秒ほど。この間、燃料補給を行うとリグの差し込み・引き抜きに要する時間を差し引いて、補給時間は約12秒。タンクに送り込まれる量はおよそ33L(20.3kg)。この分だけスタート時の燃料搭載量を減らすならば、スタート時の燃料搭載量は約53L(約39kg)となる。

 この、タイヤ交換と併せて燃料補給を行う戦術を選んだ場合、今戦2レースを通して、レース・セッティングは燃料搭載量40kg以下の軽量状態に合わせれば良い。(しかしそのメリットがどのくらいあるか?)

 タイヤが暖まるまでのロスタイムをできるだけ削り、レース途中でのタイヤ交換によって生じるハンドリング・バランスの変化を抑えることを考えると、1周目ピットイン→タイヤ交換義務消化が有効だが、レースをリードしている場合はリスクが高く、後続車との差を作った状況からピットストップすることをめざし、速さを維持できているならぎりぎりまで“引っ張る”パターンを選ぶのではないかと思われる。

 レース中ピットレーン走行によるロスタイムは約25秒(近年実績から概算した目安程度の値)コース長が短めなのでピットレーン走行ロスタイムだけで1周のラップタイムの30%ほどになる。ピットストップによって"消費"される時間はこれに作業の静止時間が加わり、タイヤ交換を行った場合はコースインしてから作動温度域に達するまでのロスタイムが加算される。』

見えない相手との競争

 現実のレース2は、この事前「読み解き」がほぼそのまま当てはまる形で進行した。

 スタートで石浦は若干ホイールスピンが多かったように見えたもののトップを堅持。ロッテラーが4番手グリッドから蹴り出し良く1コーナーへのアプローチではインから山下に並びかけるものの前には出られず。その外側では5番手から一気にダッシュしたガスリーがアウト側いっぱいから関口と並走状態に持ち込むもののタイヤ同士が軽くタッチして関口が4番手をキープ、野尻をはさんでガスリーが6番手、という隊列が形作られた。

 そこから1周を完了したところで、関口、ガスリー、国本雄資、大嶋、塚越、中嶋大祐、小暮卓史、アトウッド・コーナーでコースオフしていた中嶋(一)と、8台がピットに飛び込んできてタイヤ交換敢行。いずれも燃料補給なしの8秒作業パターン。その作業時間も含めてピットアウトしたところでタイヤ交換義務消化組の順位は関口、ガスリー、国本、大嶋、小暮、塚越、中嶋(大)、中嶋(一)となった。そして2周目にピットストップした伊沢がガスリーの前に、続いて3周目にピットストップした野尻が国本と大嶋の間に戻ってくる。

 この日のレース後、TECHNOLOGY LABORATORYトークショーにゲスト出演してくれた関口担当の柏木良仁エンジニアが語ってくれたところでは、「(いくつかの選択肢を想定していた中で)スタートで順位が上がらなければ、すなわち前を塞がれて走る状況になったら、1周目にピットインすると、レース前にドライバーと決めていた」とのこと。

photo

 ここからは、コース上で先行するグループのドライバーとエンジニアは、後方との差を追って「戻る場所」を確認しながら、ピットストップのタイミングを図ることになった。その中でロッテラー/東條コンビは6周完了でピットインすることを選択。直前を走る山下のペースが上がらず、頭を押さえられた状況だったため、関口に前に出られるのはやむをえないとして、その後方の“空間”に戻って自分のラップタイム・ペースを刻もう、という判断である。前日のレース1でもそうだったように、今回の岡山ではまず関口、そしてロッテラーのレースペースが他より一段速い。このレース2では石浦も彼ら2人と同等のラップタイムを刻み続けているが、タイヤ交換直後に関口が、前が空いているところでコンディションの良いタイヤを使って一気にペースを上げた4周回ほどで、ずいぶんマージンを削られてしまった。さらに関口はレースも半ばを過ぎた27周目からもペースを上げて、石浦のリードを毎周0.3~0.5秒ずつ削ぎ取ってゆく。

競争相手が眼前に現れ、直接の戦いへ

 石浦の関口に対するマージンは30秒を切った。しかしロッテラーに対してはまだ36秒。ピットロード走行のロスタイム25秒にタイヤ交換作業8秒を加えて、この両者の間には戻れる…という34周完了でのピットストップ。コースに戻るが履き替えたばかりのタイヤがまだ冷えた状態の石浦にロッテラーが急接近する。そのバックストレートで石浦はオーバーテイクシステムを使い、何とかロッテラーの追撃をしのいだ。そしてタイヤが暖まってきたところで関口を上回る自己ベストのペースを続け、前を追うのだが…。

 この時、コース上のリーダーはF.ローゼンクヴィスト。じつは先行するマシン/ドライバーがピットストップして前が空いてゆく中で、彼は関口と同等のラップタイムを続けていた。これが功を奏する。

 彼が38周目を走っている時、40秒ほど後方で同じ周回に入った伊沢が2コーナーでアウト側に飛び出してクラッシュ、これでセーフティカー導入が提示される。そのタイミングをとらえてローゼンクヴィストはピットイン、タイヤ交換を済ませてコースに戻ったところはロッテラーの背後。ロッテラーはこのストレートでオーバーテイクシステムを作動させて速度を伸ばし、ピット出口側の第2セーフティカーラインを、ローゼンクヴィストよりも前で何とか通過した。これで3番手を確保、ローゼンクヴィストは4番手となる。それ以前のタイム差を見ると5番手に上がってきた小林との間は40秒ほどあり、もう少し早くピットストップしても伊沢と小林が競り合っていた、その前には戻れたはずだが、もちろんセーフティカーが入るとなれば、この周回を逃せば後方との間隔が一気に詰まり、最後尾まで落ちることになるところだった。逆にこのピットアウトのわずかなタイミング、そしてセーフティカーランが外れた後にロッテラー攻略に成功すれば(ロッテラー相手には非常にタフな「タラレバ」ではあるけれども)、3位の可能性もあったわけだが。

photo

 このセーフティカー先導走行終了が告げられた42周目のダブルヘアピンから、関口はうまくペースを抑えた状態から最終コーナーに向けて一気に加速、後続を引き離すのに成功した。しかしそこからタイヤのコンディションが良い石浦が追いついてくる。残り5周を切った47周目のバックストレートで石浦がオーバーテイクシステムを作動させて一気に差を詰めた。さらに関口はその先のダブルヘアピンでちょっとドライビングミス。この時点で二人のオーバーテイクシステム「残弾」はそれぞれ「1」。残り2周、そしてファイナルラップと、先頭を行く関口vs石浦、そのすぐ後ろではロッテラーvsローゼンクヴィストと、2組の接近戦が繰り広げられた。最後のバックストレートでトップ攻防の2台はともに残り「1」のオーバーテイクシステム作動。何とかしのぎきった関口が昨年9月のスポーツランドSUGO戦以来の勝利を手にした。2位・石浦との差はわずかに0.408秒。続く攻防もロッテラーが0.666秒の差で逃げきって3位、ローゼンクヴィストが4位。  タイヤ交換をはさんで「見えない敵」との競争、そして眼前に見える競争相手との戦い、その両方が息詰まるようなドラマとして展開していった51周だった。

photo
*画像クリックでPDFが開きます。
SF rd2岡山 race1 QF - 2nd run
土曜日午前、レース1予選の後半、すなわち各車2度目のアタックを時間経過に沿って整理してみた。ドライバーの並び順はこのアタックランにおけるタイムの順番にしてあり、各周回をセクター(岡山国際サーキットは3分割)毎に分けて示した。最速タイムをマークした関口が最初にコースインし、それに続いたロッテラーが2番手タイムを記録したことが「トラフィック」の現れ方を象徴している。ロッテラーも関口の3周目のペースダウン(前を空ける狙い)に突き合わされ、自身が予定していた4周目のアタックを諦めて関口との差をセクター3で確保、ともに5周目(セッション終了の周回)でクイックラップを敢行している。逆にキャシディはコースインを遅らせ、一気にタイヤに熱を入れつつ、2周目のセクター3ではかなりペースを落として前方(おそらく中嶋一貴)との間を空けてからアタックに入っている。こうやって各人・各車の位置関係とペースを確認することで「トラフィック」の実態が浮かび上がってくる。

photo
*画像クリックでPDFが開きます。
SF rd2岡山 race1 ラップタイム推移
土曜日・レース1決勝における上位10車+ちょっと気になる2人(ローゼンクヴィストとガスリー)の30周を走ったラップタイムの推移。スタートをちょっと失敗してロッテラーに先行された関口だが、レースペースとしては最も速い。しかしロッテラーは要所要所で速い周回を作り、関口との差を確実なものに保ち続けた。東條エンジニアによれば「無線などでとくに指示はしていません。後ろとの差は刻々伝えているので、ドライバーがそれに応じて自分でペースを組み立ててくれます」とのこと。キャシディは予選はうまくタイムを出したが、チームメイトの山下とともにレースペースはいまひとつ。前方を塞がれてしまうと速く走るポテンシャルはあっても、皆、なかなかペースが上がらない。その中で、ローゼンクヴィスト、1周目にノーズを壊してピットインを強いられたガスリーが、空間があればこの日の最速に肩を並べる速さを見せている。

photo
*画像クリックでPDFが開きます。
SF rd2岡山 race2 タイム差+ラップチャート
これもちょっと新しいラップタイム・データ整理。優勝した関口を基準に、他のドライバー/車両が毎周回、どのくらいのタイム差にいたかを折れ線グラフにしてみた。周回毎の位置関係(計測ラインを通過したタイミング)がわかる、ということはラップを重ねる中での順位変動、つまり実際のタイム差を持って表されるラップチャートとしてのグラフとなっている。ピットストップでタイヤ交換のみを行う場合、ピットロード走行ロスタイム25秒+作業時間8秒+タイヤが暖まる時間、33~34秒のマージンが必要。レース序盤にピットストップしていったん「見た目の順位」が下がった競争相手(群)に対して、前を行く車両/ドライバーがどのくらいの時間差を持って走っていたか、そこでピットストップするとどのポジションに戻れたか、などが各車の折れ線の位置関係から読み取ることができる。石浦がかなり頑張って走っているが、関口に対するマージンがじわじわと削られていったこと、ピットストップを遅らせた中で山下、山本、カーティケヤン、キャシディのペースが上がらず、ピットストップで後方に下がる流れであること、それに対してローゼンクヴィストが小林、山下に追いついては、彼らがピットインしたところからペースを上げて「目に見えないライバル」に対するポジションを上げて行き、SC導入のタイミングを活かしてロッテラーとの3位争いに持ち込んだこと、などがわかる。

photo
*画像クリックでPDFが開きます。
SF rd2岡山 race2 ラップタイム推移(トップ8)
こちらはレース2の上位8車について、いつもの毎周回のラップタイムを追った折れ線グラフ。レースペースとしては関口、石浦が互角。石浦はレース序盤5~6周と、中盤20周あたりからピットストップまでのペースが毎周0.3~0.5秒上がっていれば、関口の前に戻れた可能性大。あるいはローゼンクヴィストと同じように、セーフティカーが入るかもしれないのをもう少し待っていれば…。しかし27周目から関口のペースが一段と上がってマージンがさらに削られ、ロッテラーも石浦を上回るラップタイムを出してきているので、2位を確保しつつレース終盤で関口に追いつけるぎりぎりのタイミング、という判断はやむをえないところ。ローゼンクヴィストはそのリスクを冒して得るものがあるポジションにいたし、山下がピットインして前が空いた32周目からは最速の関口と変わらないラップタイムで走り続けている。スターティンググリッドがもっと前だったら、というところではある。