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2017-08-07 14:35:21

「速さ」を織りなす「謎」と「?」

TECHNOLOGY LABORATORY 2017 Round3 Fuji

TEXT: 両角岳彦

ゴム造りが違うと相性が良くない(ことも…)。

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 やっぱり、タイヤと路面の「摩擦」は難しい。前戦・岡山の、とりわけ予選アタックでの状況については、「エンジニアたちの作戦計画」の第3戦編・ヨコハマタイヤのお二人の回答に詳しいが、今回の富士スピードウェイでもまた「変数」となる要素が加わっていた。それは「異なるタイヤメーカーの“ゴム”」。

 この週末、フェラーリ・チャレンジ・トロフェオ=ピレリ・アジアパシフィック2017が併催され、金曜日から20台以上のフェラーリ488 Challengeが富士のコースを走り出していた。彼らが装着しているタイヤはシリーズ名にも記されているようにピレリのレーシング・スリック。そのトレッド・コンパウンドに使われているゴムは、横浜ゴムだけではなく日本のタイヤメーカーが使っている各種のコンパウンドともかなり異なるもののようだった。6月末に、同じピレリのタイヤを使うブランパンGTシリーズ・アジアが鈴鹿で開催され、同時に全日本F3の第10・11戦、そしてN-ONEオーナーズカップも行われた。この時に走ったF3とN-ONEのドライバーから「グリップしない」「路面がヌルヌルしている感じ」などのコメントが異口同音に聞かれた。路面とタイヤの摩擦がいつもと違い、しかもグリップがかなり落ちていることが、走行タイムにも現れていた。

 それに加えていわゆる「ピックアップ」、つまり接地面が滑りつつ転動する中でちぎれてコース上に散らばったゴム片(タイヤかす)を踏むと、トレッド表面にそれがベッタリと付着してしまう現象が顕著であって、この状態になると、トレッド・コンパウンドが溶けて路面に粘着するレーシングタイヤ本来の摩擦がうまく機能しなくなってしまう。粘着する中から路面の細かな凹凸の中に残っているコンパウンドは、同種のものであればタイヤ表面のコンパウンドとの間で粘着力を増す効果があるのだが、異質の相手だとむしろグリップを妨げる塵芥になってしまい、路面から剥がれてトレッド表面に付着するピックアップに加わる…という状況になっているのではないか。これが、タイヤを観察し、横浜ゴムのエンジニア諸氏にもいろいろ説明をいただいた上の結論だった。

 同じ現象が、2週間後の富士スピードウェイでも起こっていた。とくにフェラーリ・チャレンジが走った後にコースに出るスケジュールになっていたF3は、走る場所によっては多量のピックアップが付着する状況だった。だから多くのドライバーが走るラインを外すのは避けたい。でもそのライン上はグリップが安定せず、タイヤ1~2本分外れたところはゴムの付着が少ないのでかえってグリップしたり、しかしマシン=タイヤが走るにつれてそのコンディションが変わってゆく…という状況だった。

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 スーパーフォーミュラの走行時間帯は、金曜日午後と土曜日午前のフリー走行、土曜日午後の予選ともに、フェラーリ・チャレンジの走行時間帯とは隔たっていたので、ピックアップなど明らかな影響は見られない様子ではあったが、各セクターのタイムの出方とそのばらつきなどを追っていると、グリップが安定しない傾向、とくにタイヤが通過するラインが少し違うだけでグリップする/しないの差が現れていたりしているのではないか、と見受けられた。

 結局、今回の予選でのベストタイムはQ3で国本雄資がマークした1分23秒044。コースレコードの1分22秒572、SF14+NREにマシンが変わった初年度、燃料リストリクターの流量上限100kg/h(今回は95kg/h)でA.ロッテラーが記録したタイムに0.62秒ほど及ばなかった。3月末の公式テストではトムスの車両にスポットで乗ったJ-P.オリベイラと富士初見参のP.ガスリーがコースレコードを上回るタイム、ほかに6人が1分22秒台を、それも走り出しの最初のセッションで刻んでいたのだが。この時に比べて気温、路温が30℃ほども高く、タイヤのグリップもエンジン出力もその影響を受けるとはいえ、タイムが、とくにコーナリングが続くセクターで伸びなかったことは、やはり路面コンディションの影響が大きいのでは? と推測される。

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この写真は、今戦・富士で併催されたF3のタイヤの状況。ピレリタイヤからのものと思われるタイヤかすを拾い、本来のトレッド面が見えなくなるほどの「ピックアップ」がくっついた状態で戻ってきたタイヤ(右)。土曜日の第12戦・決勝レースのスターティング・グリッドにて。ポールシッターの坪井翔の車両は、グリッドに向かう周回でタイヤに熱を入れようと皆が走るラインからはみ出して走ったのか、大量のピックアップが付着。急遽、グリッド上でそれを削り落とす作業を行った(左)。スーパーフォーミュラでは、ここまでの問題は出ていなかったようだが。


「低中速コーナーvs.長い直線」の妥協点探しは続く。

 以前から指摘していることだが、富士スピードウェイは日本のサーキットの中で「ハイスピード・コース」とはいえない。主なコースの周回平均速度を昨年今年のスーパーフォーミュラ予選最速ラップで比較すると、鈴鹿が217.97km/h(2017年第1戦・中嶋一貴)、スポーツランド菅生が203.910km/h(2016年第6戦・関口雄飛)。富士スピードウェイはそれに次ぐ198.808km/h(今戦・国本雄資)なのである。ちなみに、オートポリス194.595km/h(2014年・山本尚貴)、ツインリンクもてぎ185.220km/h(2014年・J-P.オリベイラ)、岡山国際サーキット181.651km/h(2017年第2戦レース1・関口雄飛)と続く。

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 もちろん、富士スピードウェイの平均速度を下げているのは登り勾配の中にタイトなコーナーが連続するセクター3であり、ここがラップタイムのほぼ半分を占める。一方で1.5kmにおよぶ長いストレートがあるのがこのコースの特徴であり、そこを走る時間がラップタイムに占める割合は20%を下回る。しかしレースを「戦う」ことを考えると、このストレートは最大の追い抜きポイントであって、最高速に達するまでの加速でライバルに負けないことが戦略上重要になってくる。つまりドラッグ(空気抵抗)を減らす、すなわちダウンフォースをどこまで削れるか。その一方で、100R~ヘアピンの高速コーナーがつながるセクター2では、空力的ダウンフォースがコーナリングスピードに、すなわちセクタータイムに直接影響する。この3パートをどうバランスさせるかが、マシン・セットアップの「悩みどころ」。それが富士スピードウェイなのだ。

 そこで今回は、各ドライバー+エンジニアのアプローチを“読み解く”一策として、富士のストレートエンドのスピードトラップで計測された、この地点での到達速度(スーパーフォーミュラのブレーキング開始点よりは少し手前なので「最高速」とは限らない)を検討してみる。

 まず、予選アタック。ここで重要になるのは「周回のタイム」であり、他車との競り合いを想定する必要はない(はず)。しかも予選ではオーバーテイク・システムが使えないだけに、最高速データはそのまま各車の空力セッティングを示していると見なせる。

 別表をご覧いただくとわかるように、予選の各セッションで最速タイムを記録した周回の直線到達速度を比べてみると、19台の間には10km/hを超える速度差があり、しかしその速さの順番とラップタイムの順位の間には相関がない。全車が走ったQ1のラップタイム上位6車の中で速度ランクで一桁グループ(速い半数)に入っていたのは中嶋(一)のみ。予選3セッション全てでトップタイムを記録した国本車の速度ランクは、Q1:19台中13番手、Q2:14台中9番手、Q3:8台中4番手だった。ここで興味深いのは国本と石浦宏明のセルモINIGING・2車は、セッションが進む中で、とくにQ3で直線到達速度が一段と上がっている。「路面ができあがってゆく」のを予測して、それに合わせてダウンフォースを少し削る、というエンジニアの技が施されたのであろうことが、この数字から読み取れる。別のパターンとしてはガスリーが、Q1では速度ランク2番手からQ2では5km/h低下、Q3ではそこから3km/h増している。ということは、セッション毎に細かく空力セッティングを変更していたはずである。

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 これが決勝レースになるとどうか。スタート直後とピットストップした周回などの特異値を除いた平均値が各車の空力セッティングを表していると見なして(オーバーテイク・システムを使った周回も含まれるが、各車同じ回数を使ったとすれば平均値の傾向は外れない)整理してみると、まず全体に到達速度が上がっていることがわかる。やはりレースを戦う中では直線の速度の伸びが欲しい、と各エンジニア&ドライバーが判断しているわけだ。上位を争うポジションからスタートしたマシンの多くは307~310km/hと、かなり狭い範囲に速度の値が集まっている。空力セッティングが同じゾーンに収斂していた、ということになる。外観を目視したところでは、前フラップと後ろウィングの角度、各翼後縁のガーニーフラップの高さ・有無には細かな差異はあったのだが、じつは空力セッティングには車体全体・底面の後ろ上がり姿勢(レーキ)も大きく関わってくるので、翼の仕様だけでは判断できない。

 さらに細かく見てゆくと、レース中の到達速度が速かった2~3車は、グリッド中団~後方からのスタートで、直線加速の伸びを利して少しでも前に出ようと意図したものと受け取れる。予選~決勝レースを通して最高速が伸びる=ダウンフォース少なめのセッティングで走っていたと見られるのは野尻智紀だった。

 ここで各車・全周回(前述のように特異値を除く)のスピードトラップでの速度をまとめてグラフ化してみると、それぞれの空気抵抗仕様の違いがより明確に浮かび上がってくる。速度がとくに伸びている周は、まず前車のスリップストリームに入っていた可能性が高い。ここでオーバーテイク・システムを作動させるとさらにスピードが乗る。各車、突出した速度を記録しているのは、このスリップストリーム+オーバーテイク・システムの周回と見ていい。320km/hを超えたクルマも何台か、何周回かある。そしてオーバーテイク・システムによる直線到達速度の増加幅は7~8km/h、条件が整えば10km/hかそれ以上になることも浮かび上がってきた。

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Straight end speed comparison
富士スピードウェイのメインストレート終端近くのスピードトラップで記録された各車の到達速度を整理してみた。まず、予選Q1・Q2・Q3のそれぞれで各ドライバーが最速ラップタイムをマークした周回での速度。ただ本人の他の周回より突出して速い数値については、スリップストリームに入って速度が伸びたのではないかと思われるので、最速タイムに近い周回の数値を採用して比較している。Q1、Q2とも最速は野尻だがQ3進出を逃す。ロッテラー、中嶋(一)のトムス勢も到達速度は高い=ダウンフォース少なめと思われるが、予選順位としてはやや苦戦。国本、石浦のセルモINGING勢はダウンフォース設定としては中ぐらいだと思われるが、Q3では速度が伸びており、空力セッティングを変更したことがうかがえる。ガスリーは3セッションそれぞれで空力セッティング変更を試みたかも。 決勝レースについては、1周目とピットストップした周回を除いた全周回を単純に平均してみた値。オーバーテイク・システムを作動させれば到達速度は伸びるが、皆が5回使ったとすれば平均値の傾向に偏りは出にくい。スリップストリームによる速度増加についても同様に、単純平均でレース全体としての傾向を見ることはできると考えた。予選よりも各車の速度が上がっていて、やはり追い抜きの競り合いなどを考えて、レースでは「どこまでダウンフォースを削れるか」というアプローチをしていることが浮かび上がってきた。ひとつのチームの中でも国本と石浦では微妙に空力仕様が違うようだ。野尻と伊沢の差はさらに大きい。いずれにしても、予選ラップタイムやレースペース&最終結果と、直線到達速度の間に相関はない、というのがここから言えることである。


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決勝レース 直線到達速度 分布比較
各車(1周でリタイヤしたキャシディを除く)の周回毎の到達速度がどう分布しているかを整理してみた。レース展開の中でどこを走っていたかや、走り方のリズムなどが、速度の散らばり方に現れていると思われる。他より5km/hほど遅いローゼンクヴィストが最終的には2位まで上がった。各人の分布パターンから大きく上に飛び出している点(1周)は、スリップストリーム、さらにオーバーテイク・システム作動で速度が上がったものと見ていい。ということはオーバーテイク・システム作動で、富士スピードウェイのメインストレート到達速度は5km/h以上上がり、そこにスリップストリームが加わると(後に付いた車両がOTS作動で追ってゆく状況)10km/h以上のゲインがある、と読み取ることができる。


給油は必須。タイヤ交換はどうする?

 いつでも変わらないことだが、レースの流れを左右するのは、それぞれのマシン+ドライバーが連続周回を続ける中でのラップタイム・ペース。誰が、どのポジションで、どんな速さで走れているか。今回、そこに加わった「鍵」は、ピットストップのタイミングと、そこでの作業選択だった。

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 もちろん、今戦の競技規則の上ではピットストップの義務はない。しかし250kmのレース距離を走りきるのに、SF14の燃料タンクいっぱい、90+Lのガソリンでは足りない。その不足分はおよそ18L。重力落下を利用した燃料補給装置のノズルをマシンの燃料補給口に差し込み、8秒ほど待つ必要がある量だ。

 ピットロード上で作業に加われるメカニックは最大6名。そのうち1名は車両の誘導(いわゆる「ロリポップ」マン)、燃料補給を行う時には給油装置(ノズル)保持に1名、そして1名が消火器を持つことが決められている。残り3名でタイヤ交換を行うとなると、8秒以内で済ませるのであれば、ジャッキに1名、残る2名を1輪ずつに配して、1輪または前後どちらかの2輪、という選択肢がある。逆に3名の要員でタイヤを4輪全て交換、となると、前後ジャッキを上げた2人が移動、3人がローテーションしつつ4輪を入れ替えて、再び前後ジャッキに戻って落とし、再スタート…という流れ。これに14秒ほどはかかる。その間、燃料補給を続ければ、スタート時の搭載燃料量を10~11L削ることはできる。

 さて、これらの選択肢の中からどれを選ぶか。金曜日午後の占有走行が終わった後、日暮れまで何パターンかのピット作業を試み、練習し、そのタイムを計ることを繰り返すチームも複数あった。 「エンジニアたちの作戦計画」の中でもトラック・エンジニアの何人かが指摘していたように、現用するヨコハマタイヤ、ミディアム・コンパウンド仕様は250kmのレース距離を走っても、ラップタイムの落ちが小さい。そこから考えてゆくと、ピットストップで失う時間を最小にする「給油のみ・タイヤ交換なし」作戦が、順位を上げる/落とさない可能性が最も高いはず、ということになる。さて実戦の中での選択は…。

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 スタートでまずリードしたのはポールポジションから出た国本。その左斜め後ろにいた石浦は、動き出し(クラッチミート)のタイミングは良かったものの、そこからの蹴り出しでスピードの乗りが悪く、右隣から加速した関口に割り込まれてしまう。さらに背後の4番手グリッドから出た中嶋(一)が1コーナーに向かってアウトに持ち出し、インいっぱいを回る石浦を大外からかわす。これで2こーなーを立ち上がった時の隊列は国本-関口-中嶋(一)-石浦、その後ろに山本、ガスリー、ロッテラーが続く、というフォーメーションになった。

 SF14の燃料タンクを口元までいっぱいにした状態から走り始めて、富士スピードウェイ4.563kmを何周できるか。レースをゴールした後にペースを落として1周してこなくてはいけないことを考えると、実質47周がぎりぎりとなる。つまりレース55周の序盤、8周を終えたところから「フューエル・ウインドウ」が開く。まさにそのタイミング、9周完了というところでロッテラーがピットロードに滑り込んできた。作業は燃料補給8秒のみ。止まってから出るまでの静止時間では約9秒。これでロッテラーは隊列から外れ、しばらくは「前が空いた」場所を走れるようになった。とはいえほんの4周ほどだったのだが。

 というのも13周を終えて僚友の中嶋(一)が、次の14周完了で関口が、それぞれピットストップを敢行。コース上のポジションを守るためには給油だけの選択肢しかなく、ロッテラーの前に戻る。前戦・岡山では頭ひとつ抜け出す速さを見せた関口だったが、この日は上位を走りながらもペースが上がらない。ここまでの序盤でもトップを行く国本に毎周0.5~1秒ほど遅れ、ピットストップを終えてコースに戻った後も後ろに続く中嶋(一)、ロッテラー、さらに4周ほど後でピットストップ、燃料補給に加えてタイヤ4輪交換を実施し、磨耗の少ないタイヤに履き替えて戻ってきたガスリーまでを押さえ込むことになってしまう。

勝負の綾。そして運。

 一方で、レース1/4を終えた段階で関口と中嶋(一)がピットに向かったことで漁夫の利を得る形になったのが石浦だった。レースがフィニッシュした後、オフィシャル・ステージの最後の演目である「TECHNOLOGY LABORATORY トークショー」は、優勝車両担当エンジニアをゲストにお迎えするのが恒例になったが、今回そこに足を運んでくれた石浦車担当の村田卓児さん、この「前が開いた」瞬間に何を思ったか、という問いに対して「え、いいの」(笑)。

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 トップに立ったチームメイトの国本は快調に“逃げて”ゆく。その後ろでペースがもうひとつ上がらない関口と、その後に続く中嶋(一)に前をふさがれる形になっていた石浦と村田エンジニアにとっては、労せずして自分のペースで走れる状況が生まれたのである。ラップタイムの推移を見ても、15周目から石浦のペースが一気に上がり、ややペースを抑えつつトップを守る国本をも上回って、全体最速のラップタイムを毎周キープする攻めの走りを展開する。

 国本-石浦のチームメイトによる1-2フォーメーションは、後続よりも速いペースで周回を重ねる。そのまま十分に差を広げたところでピットにマシンを向ければいい。問題は何かのアクシデントでセーフティカー(SC)が入る、という事態。SCがコースインする、その周回にピットに飛び込まないと、後続との間に築いたマージンが消えてしまい、その後にピットインしたのでは隊列の後方に戻るしかなくなる。しかもチームメイト同士だということは、チームピットに1基設置した同じ給油リグを使わなければならず、2台同時ストップはできない。

 このジレンマを避けることも含めて、ピットストップを消化したグループの先頭を走る関口、中嶋(一)、ロッテラーに対して1分もの差を確保したところで国本が31周目にピットロードにマシンを滑り込ませる。時間は十二分にあるので、タイヤ4輪交換と燃料補給の両方を行う「フルサービス」を確実にこなし、静止時間15秒余りでピットアウトして行く。それでもピットストップを消化したグループの前に戻って、実質トップを問題なく手にした、と思われたのだが…。

 予選からここまで、最速であり続け、勝利に手が掛かろうとしたいた国本を不運が見舞う。アウトラップの32周目、突然のスロー走行からピットに戻らざるをえない状況に陥った。ピット前の作業レーンに止まったマシンの右前輪が外される。メカニックが手を入れているのは車輪を支持するアップライトの内側上部。アッパーアーム・ピボットと操舵の動きを伝えるナックルアームが一体になった部品と車輪保持ブロックの結合部だった。ここのネジ2本が緩むと、まずキャンバー角度を決めているシム(薄板)が脱落し、操舵方向に対する車輪の保持も含めて「ガタ」が出てしまう(図版参照)。もちろんその状態では走れない。ナットを締め直して送り出すが、次の周にもピットイン。最終的に36周を走ったところでピットに戻り、リタイヤをやむなくされる。

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 この波乱でトップに立った石浦は38周を消化してピットイン。フルサービスを静止時間14秒で完了してコースに戻る。その2周前にはF.ローゼンクヴィストがピットインして給油と後ろ2輪のタイヤ交換。ピットアウトした時には、まず中嶋(一)を、さらに関口と、マシンコントロールに苦しむようになった二人を次々に攻略したロッテラーの前、実質2番手を確実にしていた。ピットアウトしてから石浦に次ぐペースで周回を続けたローゼンクヴィストは、46周目にこのレースのファステストラップを記録している。

 給油のタイミングを最も遅らせて走り続けていた二人、小林可夢偉とN.カーティケヤンがともに42周を走ったところでピットインしたことで、石浦が見た目でも全てのマシンの先頭に戻った。残すところ10周あまり。この時、2番手のローゼンクヴィストに対するリードは8秒あまり、3番手のロッテラーはさらに10秒後方を走る。その状況で石浦は、41周目から10周にわたってピットに入る前よりも0.5秒以上速いペースで走り続け、SFフル・ディスタンス250kmの戦いとしては2015年第4戦ツインリンクもてぎ以来の勝利をさらに確実なものにしたのだった。

 レースの後のトークショーで石浦担当・村田エンジニアはこう語っていた。「(コンビを組む石浦が)優勝したのは、理屈抜きにうれしい。でも、チームとしては『1-2フィニッシュ』がそこに見えていただけに、残念です」。

 セルモINGINGチームを「勝てるチーム」へと改質してきたコアメンバーの一人である(それにまつわる話も、優勝車エンジニアとしてお招きしたこれまでのトークショーの中でも何度か語ってくれている)村田さんの口から出ただけに、実感を持って迫る言葉だった。今回果たせなかった彼らの「1-2フィニッシュ」を目撃する日を待ちたいと思う。

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SF14の前輪アップライト(車輪を回転させつつ、その位置を強固に保持する部品。上下のサスペンションアームと操舵のためのタイロッドが連結される)の構造を半分解状態で示した図。大きい方の図は右前輪を斜め内側・後上方から見ている。つまり右側からタイヤが付き、左側に上下アームが伸びて車体(モノコック)とつながる。(4)と図示されている鍵の手に曲がった構成部品がナックルアーム(操舵腕)兼・アッパーアーム・ピボット(最後方の空間の中。上下にボルトを通す孔が開いている)。これをアップライト本体ブロック(1)の上部から出たボルトに、ナット(23)で締め付けて固定・一体化する。ここで(4)と(1)の間にキャンバーシム(6)(7)(8)を挟む。板厚の異なるシムを選んで挟むことで、アッパーアーム・ピボットとアップライト本体の距離が変化し、ロワーアーム外端ピボット(アップライト下端)を支点にアップライト本体=車輪の角度、すなわちキャンバー角を変えることができる。ただしこのアップライト本体とナックルアームを固定する上部のネジは、旋回外側輪となった時に強烈な引張力を受ける。すると鋼鉄とはいえボルトはバネとして伸び縮みするので、ナットが緩む可能性が常にある。SF14導入以来、このネジ締結が緩み、キャンバーシムが脱落しそうになった/脱落した事例が複数回発生している。

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レース ラップタイム推移(上位7+1)
決勝レース55周を、優勝した石浦を筆頭に上位7人、そしてポールポジションから前半をリードした国本が、どんなラップタイムで走ったかを整理したグラフ。最初の10周、まず国本が速いペースでリードし、スタートで出遅れた石浦は前に立ちはだかっていた中嶋(一)、そして関口がピットインして前が開けた15周目からこの日の最速ペースで走り続けている。国本の10~30周目にかけてのペースとラップタイムのばらつきは、トップをキープするペース・コントロールだけではなく、右前輪のトラブルで振動などの不具合が徐々に現れていった可能性もある。ローゼンクヴィストは中盤から着実にペースを上げ、ピットストップで後2輪を交換したところからさらに速く走ってファステストラップを記録した。彼本来の速さを垣間見せたラップタイム推移といえる。ロッテラーはピットストップ後の数周、そして前をふさいでいた関口を抜いた後のペースを見ると、そしてそれがスタートからずっと履いているタイヤによるものであることを考えると、スタート・ポジションが良ければ優勝争いに絡むところまで行ったのでは…と思わせる。ガスリーも、ピットストップで4輪を交換、前が空いていた数周のタイムが突出しているところに、そのポテンシャルをうかがわせる。

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周回毎のタイム差・ラップチャート
優勝した石浦の基準に、毎周回、各車との間のどれだけの差があったかを計算・プロットしたグラフ。それぞれが周回毎にどれだけの差を持って走っていたか、と同時に順位変動も現れている。すなわちタイム差を含めたラップチャートとなっている。それぞれのドライバーの線が一気に落ち込んでいるところがピットストップした周回。お互いのラインが接近しているところは、コース上で接近戦が繰り広げられていたことを示している。前半は国本がトップをキープしていたので、石浦に対してラインが上にある。序盤の関口、中嶋(一)も同様。36周でピットストップしたローゼンクヴィストは10秒ほどのマージンを持ってロッテラーの前に戻っている。逆にロッテラーは前を走る関口のペースに付き合わされたことで2位のチャンスが消えた。最も遅いピットストップ・タイミングで勝負に出た小林は、燃料補給だけで順当にコースに戻ればロスタイム40秒弱。直前の周回でロッテラーとの差は38秒、関口に対しては44秒だったので、その間に戻れた可能性があった。