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2017-09-06 13:01:06

未知の「変数」と、突然の「乱数」

TECHNOLOGY LABORATORY 2017 Round4 Motegi

TEXT: 両角岳彦

空の悪戯

 雨が落ちてきた。

 ツインリンクもてぎの上空に黒い雲が垂れ込めてきたのは、ほんの10分ぐらい前。予選Q1の始まりを待つべく何台かのマシンがピットレーン出口に向かいはじめたのは、いつもよりも少し遅い定刻3分前当たりからだったのだが、その隊列が響かせるエンジンサウンドが雲中の水滴を震わせたのをきっかけにしたかのような降り始めだった。レーシングマシンのエンジン音が高まると雨が落ちてくる現象を体験したことは、決して今回だけではないのだけれども。

 みるみる雨粒が大きくなり雨量も増えてゆく。ピットレーン出口信号が青に変わり、石浦宏明を先頭に各車がコースインしてゆく時には、ロードコース全体の路面に水膜が広がってしまった。タイヤからはウォーター・スプラッシュが上がるようになってしまった。

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 ほとんどのマシンは、今戦から投入されたソフトタイヤを履いている。トレッド・コンパウンド(合成ゴム)が軟化して表面が溶けて粘り貼り付くようになる、いわゆる作動温度領域が低いのが今日の「ソフト」だとはいえ、路面の水に冷やされる状況ではグリップが高まるところまで温度が上がるのは難しい。それでもとにかくぎりぎりまで攻めるしかない。しかし、雨はさらに強まり、雷鳴も轟く。排水溝が切られていないスリックタイヤで走るのはもう無理、という状況になってきた。2周を走って計時周回1周、そこで全てのドライバーがピットに戻ることを選ばざるをえなくなった。ウェットタイヤに履き替えて再びコースに向かうが、雨量、路表の水量は増える一方。コース全域で、走るマシンのタイヤからはウォーター・スプラッシュが上がる。雨が落ちはじめてから5分と経ってはいないのだが。各車それぞれに周回を重ねるもラップタイムは伸びない。むしろ20分のQ1セッションの半分が過ぎる頃からは1分45秒台から1分47~48秒、さらに1分50秒前後へと、じわじわとタイムが落ちて行く。もうタイム更新は望めない。

 結局、満足にタイムを出せなかった大嶋和也を除く18名全てが、出走から2周目にこのセッションのベストタイムを記録している。つまり、コースインした次の周、暖まっていないスリックタイヤが滑る、しかもほとんどのドライバーが初めて履いたソフト・コンパウンドの感触を確かめる余裕もない、そういう状況でどこまで攻められたか。それでQ1の順位が決まった。路面が乾いていて、路温が高い状態ではじっくり熱を入れていったほうがよさそう…。粗い操作をするとコンパウンドがむしり取られるような磨耗が出るかもしれない…。そうした事前情報を頭に入れて、濡れ始めていた1周目のペースを押さえて入ったドライバーは、逆にほんの2~3分しかなかったアタック・チャンスを逃した。そういう事態が起こっていた可能性もある。

「ソフトタイヤ」という「変数」が見えない…

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 強まる雨、日が暮れたかと思わせるほど暗さを増す空。結局、この日の走行はここまで。しばらくの時間を置いて発表された「タイムスケジュールの変更」では、翌日・日曜日朝に予定されていたフリー走行を30分から10分に短縮、そのあと10分のインターバルをおいて7分間ずつのQ2、Q3を行う、ということになった。天候(と路面)は好転する予測はあったが、これでソフトタイヤである程度の周回を連続して走り、磨耗とグリップの変化(低下)を確かめたいというプランは実行できなくなり、2種別のタイヤの一方については不見転のまま、 途中で履き替えて走る決勝レースに臨むしかなくなったのだった。同時に、メインストレート上で試みるスタート練習の機会もなくなった。

 そして翌朝、わずかに7周、途中で一度ピットに戻ると5周が精一杯という短いフリー走行セッションの後、予選の“続き”が行われた。まずはQ2。路面は乾いた。といっても昨日の雨で表面に付着していたラバーは浮いて流れてしまっているはずで、どんな摩擦条件にあるかはわからない。そこを、初めてタイムアタックを試みるソフトタイヤで走る。14人全員にとって未知の状況。しかも皆が7分間のセッションの最後にタイミングを合わせてクィックラップを試みようとしていた。

 ここでセッション開始に合わせてコースイン、少し早めに出て3周ウォームアップしたのが小暮卓史。中嶋大祐とN.カーティケヤンも同じタイミングでコースインしていったが、3周目にクィックラップをトライ、さらにもう1周連続アタックというパターン。ともに3周目が自己ベストタイムとなった。他のドライバーたちは2分を経過したところから次々に“出撃”。ほとんどは2周のウォームアップの後にアタックラップに入ったが、A.ロッテラーとF.ローゼンクヴィストは1周暖めただけでアタック敢行。ロッテラーは1コーナーのブレーキングでタイヤをロックアップさせ、コースオフしたとのことでセクター1で1.5秒ほどのタイムを失い、14車中最下位に沈んだ。ローゼンクヴィストは2周目のタイムで何とか7番手に滑り込んだが、もう1周連続アタック。0.5秒ほどタイムを落としている。

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 どうやらこのあたりが、この日のツインリンクもてぎ・ロードコースと(Q2開始時の路面温度32℃)、新しいソフト・コンパウンドの相性かな、と推測された。そこで残り8車でのアタックとなるQ3では、皆の行動パターンが収斂してくる。7分のセッションが1分を過ぎたところでまず野尻智紀、そして中嶋(大)が続き、ペースを抑えて走る野尻をヘアピンで抜いて8車の先頭でアタックに向かう。その後方は山下健太、小林可夢偉、P.ガスリー、伊沢拓也、少し間を置いてN.キャシディ、F.ローゼンクヴィストとコースに入っていった。今回は8人全員が2周ウォームアップの後にアタック敢行。前方を走った中嶋(大)と野尻はチェッカードフラッグ提示直前に計時ラインを通過してさらに1周のクィックラップを走り、3周目の最終セクターで1秒以上をロスしていた中嶋(大)はこの周回で自己ベストを記録、野尻は3周目がベストで連続アタックの周回では0.57秒タイムが低下している。

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 最終的に、ソフトタイヤのグリップ・パフォーマンスをセクター2、セクター3で無駄なく引き出した山下のタイムが最速、自身初のポールポジションを獲得した。とはいえ2番手の小林とのタイム差はわずかに0.075秒、小林と3番手の野尻との差はさらに少なく0.007秒、続く4番手のガスリーまでが0.099秒の中に入るという、スーパーフォーミュラならではのタイトなアタック合戦だった。

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 逆に、これまでのシーズン前半戦で速さと強さを見せていたチームの中で、セルモインギングは2人ともQ1で早めにコースインしたものの雨の強まりとソフトタイヤのウォームアップのタイミングが合わずにQ2進出を逸し、トムス、インパルのそれぞれ二人もソフトタイヤでのアタックをミスしてQ3進出ならず、と、雨とソフトタイヤの二つの“変数”がいつもとはまた違う状況を生み出した2日間にわたる予選となったのではあった。

「ソフト」の特性が見えないまま臨んだレースは…

 Q3を終えてスターティング・グリッドが決まり、そこから4時間のインターバルをはさんで、この日はもう決勝レースのスタート進行が動き出す。まずは8分間のウォームアップ。今回はこの時しか、ソフトタイヤの周回パフォーマンスを、そして燃料を多めに積んだ時の車両運動とラップタイムへの重量影響を確かめる機会はない。それぞれにわずか4~5周の中でチェックを進めた。

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 そこからスターティング・グリッドへ。ここでの問題は、どちらのタイヤを履いてレースを始めるか。ほとんどのマシンの傍らには、ピットを離れた時に装着したのとは異なるスペックのタイヤを用意したチームクルーが、スタート3分前、全ての作業が禁止されるタイミングまで履き替えが可能な態勢で待っていた。

 結局、最前列の二人、山下と小林、さらにグリッド前方にポジションを確保したメンバーの中では野尻、キャシディがソフトタイヤを選択、4番グリッドのガスリー、その背後の偶数グリッド6番手のローゼンクヴィストはミディアムを履いてスタートの瞬間を待つことになった。

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 そしてスタート。山下は5連レッドシグナルが全点灯からブラックアウトした瞬間の反応は良かったが動き出してからホイールスピンした様子で蹴り出し加速が鈍り、その、横から小林が前に出る。ガスリーは1コーナーに向けてインいっぱいにマシンを寄せて3番手をうかがうが、野尻が外から山下とガスリーを押さえ込んで前に出る。皆、1~2コーナーではオーバーテイク・システムの作動を示すロールフープのLEDをフラッシュさせながら回り込んで加速に移り、ここで小林-野尻-山下-ガスリー-ローゼンクヴィスト-伊沢-キャシディと並ぶ隊列が形成された。そこから小林が良いペースを刻んで後続を引き離しにかかる。ソフトタイヤの作動立ち上がりの速さ、グリップ・レベルを活かした走りのリズムをいち早く作り上げた形である。

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 これら上位グループの後方では、一人他とは異質のハイペースで走り続けるドライバーがいた。塚越広大だ。スタートでエンジン・ストール、オフィシャルに押されてエンジンを再始動したところから、一気に小林をも上回る全体最速のペースで走り始め、前を行くマシン&ドライバーを次々と、しかもいとも簡単に追い抜いてみせるパッシング・ショーを演じた。9周目には1周の中で関口、ロッテラーをそれこそゴボウ抜きしてさらに山本尚貴に接近、これほどの速さの違いを生み出した“秘密”は、彼が18周完了でピットに滑り込んできた時に明らかになった。用意されていたタイヤのサイドウォールには赤い帯が。ソフトタイヤからソフトタイヤへの履き替え、ということは「2種別のタイヤを使う」今回の特別規則に対してはさらにもう1回ピットストップしてミディアムタイヤに履き替えることになる。すなわち「2ストップ作戦」。これによってスタートとピットアウト時の燃料搭載量は40L、30kg弱ですむ。つまりレース序盤、フルタンク,約70kgを積んで走っているライバルたちに対して圧倒的に軽い状態のマシンでペースを上げ、とくにブレーキングでその軽さを活かして追い抜きを仕掛けることを可能にしたわけだ。次のストップは34周完了時。結果的にこの作戦で9番手を手にしたわけだが、スタートでストールしたことで15秒かそれ以上の時間を失っているので、「タラレバ」計算を試みるとあと3つは順位を上げられた可能性がある。いずれにしても塚越と田坂エンジニアのコンビが、今回最も「攻めた」作戦を敢行し、レースをおもしろくしてくれたことは間違いない。

ソフト→ミディアム vs.ミディアム→ソフト

 レースは中盤に入って、小林が着々とリードを築いて行く流れに落ち着きつつあった。早めのピットストップ、タイヤ交換を選んだのは上位ではまず山下が9周完了で入ってミディアムタイヤに履き替え。10周で伊沢が、これもソフトからミディアムへ。さらに山本、国本(タイヤ交換作業でタイムロス)、小暮、中嶋(大)、J.マーテンボローといった面々がレース前半1/3でのタイヤ交換と給油、そこからのロングスティントを選択した。

 この時点で小林を追う上位陣は、野尻(ソフト)、ガスリー(ミディアム)、ローゼンクヴィスト(ミディアム)、キャシディ(ソフト)という順番になっていた。この中から野尻がまず19周完了でピットに向かい、ミディアムタイヤに交換して同じようにソフト→ミディアムの交換を終えていた山下の後方に戻る。そしてレース距離のほぼ半分、25周を終えてローゼンクヴィストがピットイン、ソフトに履き替える。コースに戻ったところでまだ冷えているフロントタイヤを5コーナー入り口のブレーキングでロックさせ、縁石を踏み越えたが大事なく、ここからソフトタイヤのグリップを活かして前を行く野尻、さらに山下をとらえて前に出ることに成功する。

 キャシディはローゼンクヴィストの1周後にピットストップするが、戻った場所はローゼンクヴィストの後ろ。ミディアムタイヤといえども走り始めの「一撃」のグリップは引き出せるのだが、ソフトタイヤのローゼンクヴィストに勝負を仕掛けるまでには至らない。しかし34周目にかけて、山下攻略にかかるローゼンクヴィストに追従して三つ巴の争いを展開、ミディアムタイヤでバランスに苦しむチームメイトを抜いてこの時点で6番手に上がった。

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 そしてガスリーは28周完了でピットストップ。ソフトタイヤに換装してコースに戻ると、1分35秒台の速いラップタイムを続けてみせた。ちょうどこのガスリーがピットストップする直前あたりで、ソフトを履く小林のラップタイムが1分37秒前後、ミディアムタイヤ装着の速いドライバーと同じレベルまで落ちてきていた。さらに29周目以降、ラップタイムの落ちが明確に現れて、ここがこの日のソフトタイヤの限界であることがタイミングモニター上でも見て取れた。ここから5周、新品のソフトを履いて出たガスリーに対してラップタイムはほぼ2秒遅くなり、ピットロード走行と作業時間を差し引いても15秒ほどあったリードがみるみる減り始めた。

 レース後のTECHNOLOGY LABORATORYトークショーに恒例のゲストとしてお招きした優勝車両担当エンジニア、星学文さんもステージ上で振り返ったように、このタイミングで小林がピットストップすると残り20周弱、ソフトとミディアムのラップタイム差が平均して1秒弱あるとすれば、ちょうどレース終了直前にガスリーが追いつき、コース上でのバトルが展開されて、車両+タイヤではソフトを履くガスリーが有利か…という状況が生まれるはずだった。

可夢偉を襲う不運

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 34周完了、小林がピットロードにマシンを向けた。前の周回でガスリーに対するリードは42秒まで減っている。燃料補給とメカニック3名で4輪のタイヤをソフトからミディアムに交換するのに要する時間は約13秒、ピットロード走行・停止・発進によるロスタイムは約20秒だからコースに戻った時のリードは約10秒…というところでメカニックがローテーションして最後に取りかかった右リアタイヤのホイールナットがインパクトレンチから脱落、担当メカニックは交換するタイヤをはめ込んだところでスペアのナットを取りに走る。しかしその一瞬にリアジャッキを下ろしてしまったので、ホイールナットを締めるのに再度のジャッキアップが必要となって、結局、静止時間30秒を費やしてしまう。

 ようやく本来の速さと勝負展開能力を見せつつある小林にとって連戦の不運。前戦・富士スピードウェイでのピットストップでもエンジンが止まってしまい、再始動にも手間取るという事態が生じたのは記憶に新しい。今回、そのトラブル要因として推定されている技術的内容が確認できたので、ここで紹介しておこう。

 今日のフォーミュラカーの燃料タンクはモノコック後端部、コックピット背後の空間の中にある。ここに特殊ゴム製の防爆タンクが収められているのだ。そして燃料(ガソリン)はタンク内の電動ポンプで吸い上げられて、エンジン側に送られる。モノコック背面に締結されているエンジン、スーパーフォーミュラではNRE(ニッポン・レーシング・エンジン)の直列4気筒ユニットは、そのガソリンをカム駆動軸に直結して回す高圧ポンプで200気圧まで加圧して各シリンダーに送る。ここで余った分は再び燃料タンクに戻されるが、そのガソリンはエンジンの熱を受けている。モノコック背面にエンジンや冷熱系の熱が伝わってくるのも合わせて、燃料タンクの中は走るにつれて温度が上がり、燃料が揮発することで圧力も上がってくる。この状況から燃料タンク肩部から伸びた補給口に、燃料を注入するノズルをつなぐ。一発でノズルが挿入され、温度の低いガソリンが一気に流れ込んでくればタンク内の温度も下がるのだが、富士戦の小林のピットストップではノズルがうまく入らずに差し直している。このノズルで給油口を押してバルブは開いたけれども挿入できない、という瞬間にタンク内のガソリン蒸気が抜け、圧力が急に下がる。この減圧で、ガソリンが沸騰しやすい状態になって、燃料を吸い上げるタンク内ポンプが気泡を噛み、エンジンに向けて燃料が送り出せなくなってしまった…のではないか、と考えられているのだ。

「ヴェイパーロック」と言った場合、ふつうはエンジンの燃料供給系統の中に気泡(ヴェイパー)が生じて燃焼のための燃料が送られなくなる症状を指す。そうではなく、燃料タンクからエンジンにガソリンを送るところでガソリンの急激な気化が起こった。液体は圧力が低いと沸点が下がり、圧力を上げると沸点も上がる。だからNRE本体の、200気圧にまで加圧された燃料供給系統の中ではガソリンの沸騰はまず起こらない。前戦でも小林はピットストップのタイミングをレース後半にまで“引っ張った”が、そのために燃料残量が少なくなって、ガソリンの温度が上がりやすく、そしてタンク内空間も増えて圧力変化が大きくなっていたことも、この燃料送出側ヴェイパーロックを起こしやすくしたかもしれない。

おもしろかった!

 話をツインリンクもてぎのピットに戻そう。4輪のタイヤ交換を完了した小林がピットロードを走り出した時、追走するガスリーは最終コーナーからメインストレートに姿を現し、小林がピットロードの速度制限から解放される前に易々とその前に出ていた。小林もミディアムタイヤで可能なかぎりのペースで周回を重ねるが、彼我の差を詰めることはできない。

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 このレース終盤のハイライトは、19車の中で最後までピットストップを遅らせた石浦の走りだった。コース上の先頭を走るところまで行ってしら残り12周でピットイン、ミディアムからソフトにタイヤを交換した石浦は、一気にペースを上げる。ソフトタイヤの「一撃」グリップ、軽くなった燃料、十分に「ラバーが乗った」路面を活かして、このレースのファステストラップをまずは記録する。そこから10周にわたって誰よりも速く走り続け、野尻、山下、キャシディを次々に抜き去って、ローゼンクヴィストの背後を脅かすところまでポジションを上げたのだった。

 ガスリー、ローゼンクヴィスト、石浦、そしてペナルティによるピットロード・ドライブスルーがありながらも後半速いラップタイムを連発したロッテラーと、結果的にはミディアム→ソフトのタイヤ戦略を選んだドライバーたちが「良いところ」を見せたレースとなった。しかしスターティング・グリッドの前方に位置したドライバーにとっては、まずはソフトタイヤの暖まりとグリップを活かして先行するのがセオリーだったことも間違いない。2種別のタイヤ のキャラクターの差が明確に現れたことで、戦略の妙と、そして多くの接近戦、追い抜きが演じられた。シンプルにレースを「観て、楽しむ」ことでも、さらにその内容を読み解くことでも、見終わって「おもしろかった!」と大きく息を吐いて充足感に浸ることができるレースだった。少なくとも筆者はそう思う。皆さんはいかがでしたか?

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決勝レース ラップタイム推移 top9
決勝レースの上位に入った6名が52周回を走ったラップタイムをまとめて可視化してみると…。スタート直後の小林可夢偉と塚越広大(他よりも燃料がかなり軽かった)、ピットイン後のP.ガスリー、石浦宏明、そしてキャシディと、うまくセットアップができたマシンがソフトタイヤを履いて、暖まった直後の1~2周のタイム(「一撃」)の速さが明らか。とくに終盤、路面に十分にラバーが乗り、燃料も軽い状態になっていた石浦は6周にわたってその速いペースを連続している。一方、スタートからの小林のラップタイム推移を追うと、ソフトタイヤは徐々にグリップ・パフォーマンスが低下してゆくが、今回のもてぎの路面・路温(夏としては低い)では、予想以上にその低下が少なく、安定したグリップを維持するミディアムタイヤに対して20周あたりで同じラップタイムとなり、とくに30周を越えたところで明確なデグラデーションを見せていることがわかる。走り始めから10~15周はソフトタイヤはミディアムタイヤに対してもてぎのコース1周95秒強の中でで約1~1.5秒のアドバンテージを示している。


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周回毎のタイム差・ラップチャート
優勝したP.ガスリーを基準に、他の18車が毎周どのくらいのタイム差を持っていたかを整理したグラフ。各周・各車の間隔を表すと同時に、各周回の順位とその変動を示すラップチャートとなっている。27-28周でガスリーがピットストップしたため、ここで各車とのタイム差が大きく変化している。それ以外の周回で他車のグラフが大きく折れて下がっているのも、それぞれのピットストップを示す。前半は小林可夢偉が着実にリードを築いていたが、30周目からそのリードが減っているのはソフトタイヤのデグラデーションが現れたため。ここで6秒あまりを失わないためにはもう数周早くピットストップする選択もあり得たが、そこでミディアムタイヤを履いてソフトとのラップタイム差で徐々に詰められるのと、どちらを採るかは難しいところ。いずれにしてもホイールナットの問題で失った15~16秒がなかったとすれば、残り5周ほどでガスリーが追いついた可能性が高いことが、このグラフにも現れている(最終盤、ガスリーは少しペースを抑えていた)。塚越はスタート時のエンジン・ストール、A.ロッテラーはドライブスルー・ペナルティがなければ、さらに上位のドライバーたちとタイム差がクロスして、おもしろい戦いをみせてくれた可能性がある。