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2シーズン目を迎える新型シャシーと新エンジン
さらなる進歩で、より高度なバトルを繰り広げるか!?

開幕戦鈴鹿サーキット・プレビュー:マシン編

昨年から新型シャシーSF14と新エンジンNREとなり、
全日本選手権スーパーフォーミュラは、速さでもバトルの激しさでも大きな飛躍をとげた。
そしてこのシャシーとエンジンでの2シーズンを迎える。
2014年から2015年にかけてさらなる進歩も加わったスーパーフォーミュラ。
鈴鹿2&4でその開幕戦を迎える。

SF14は1シーズンで大きな進歩

 SF14はクイック・アンド・ライト(軽量で俊敏)と、車体後方に発生する乱気流を抑えることで接近戦と追い抜きをしやすくするというコンセプトのもと、日本とイタリアの経験とノウハウをもとに製作された。それが功を奏して、昨年の鈴鹿では逆バンク、ダンロップ、デグナーの2つ目、ヘアピン出口、スプーンの2つ目、シケインでF1を超えるコーナリングスピードを出した。それは低速、中速、高速どのコーナーでもSF14は速いということを示していた。決勝では、開幕戦の7番手スタートから優勝したデュバルのように、随所で白熱のバトルと追い抜きが繰り広げられた。
 SF14は昨年の開幕から最終戦までに大きな進歩を遂げた。基本的な車体そのものは開幕からずっと同じだった。一方、チーム側の運用と改良によって、SF14の性能はより高まったのだった。チームは、ガーニーフラップなどを組み合わせて空力性能をさらに詳細なレベルで向上させた。排熱口を巧みに造りこむことで、エンジン性能に重要な冷却と空力性能を高次元で両立させていた。また、サスペンションのセッティングと作業の仕方も、改善が加えられ、より素早く、より効果的なセッティングを施すようになってきた。
 今年のSF14も基本は昨年と同じである。ただ、チームは昨年の経験とデータをもとに、より詳細なセッティングをしてくるだろう。これによって、昨年よりも車体側の性能は向上することが見込まれる。

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より高効率でよりドライビングしやすいNREへ

 トヨタとホンダが供給するガソリン直噴式4気筒ターボエンジンは、NRE(ニッポン・レース・エンジン)とされ、より少ない燃料でより多くのパワーを得ることを目指した、近未来のダウンサイジングターボエンジンの技術向上を目指したもの。その効率の良さは、昨年の段階で市販車のハイブリッド車をはるかに上回っていた。
 しかも、スーパーフォーミュラでは4レースでエンジンが交換できる規定なので、シーズン途中で大きな設計変更が可能となり、改良と性能の向上ができた。おかげで、開幕戦でトヨタに大差で敗れたホンダがシーズン後半にはポールポジションと優勝も獲得できるようになった。
 今年はトヨタ、ホンダともに、より高次元のパワーと効率の良さの両立を求めたのと同時に、よりドライバビリティの良さを実現しているという。「ドライバビリティ」とは、ドライバーが望んだとおりにパワーが出るということで、右足のスロットルペダルの操作に応じてエンジンのパワーが出るということ。ところが、ターボエンジンでは、このドライバビリティの良さを出すのはそう簡単ではない。とくに大パワーを重視すると、いきなりパワーが出てしまうクセが出やすいとされる。そんななかで、よりドライバーが思った通りにパワー出るようにするために、鈴鹿、岡山でのテストではトヨタもホンダもかなりの力を割いていた。結果、トヨタもホンダもより操縦しやすい「ドライバビリティが良い」エンジンに仕上がった。しかも、ラップタイムからみると、両メーカーの性能はほぼ互角に近いレベルに仕上がっているようだ。
 トヨタもホンダも、3月の岡山でのテスト結果を踏まえ最新のエンジンを開幕戦で全車に投入する。今季前半の行方を占う上で、開幕戦の予選と決勝必見だ。
 なお、今年は燃料流量制限を、1時間あたり95㎏としている。昨年は1時間あたり100㎏だったことを考えると、エンジンへの燃料供給量が減ることでパワーダウンするように思われる。だが、先述のように、昨年の開幕戦と比べると、昨年の後半戦ではエンジンが改良されて性能が上がっていた。今年は、さらなるエンジ性能の向上が見込まれた。その上、SF14の車体側での性能向上も見込まれたので、パワーを若干落とすために燃料流量を1時間あたり5㎏減らした95㎏とした。
 この流量を絞ることで、より少ない燃料でより効率よくパワーを出す高効率化が求められるだけでなく、さらにパワーとドライビリティの両立が求められ、ダウンサイジングターボエンジンのさらなる技術向上が期待できる。
 エンジンのドライバビリティの向上は、ドライバーにとってよりスムーズなコーンリングと立ち上がり加速ができることにつながり、これもSF14が得意とするコーナリング性能にさらなる性能向上へ貢献してくれることになるだろう。

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より効果的なオーバーテイク

 スーパーフォーミュラでは、決勝中にエンジンのパワー増すオーバテイクシステムが組み込まれている。これは、オーバーテイクボタンを押すと、20秒間だけエンジンへ向かう燃料が増えて、パワーが増すというもの。昨年は、これで5㎏燃料が増量されたが、今年は10㎏の増量とされる。これでもっとはっきりとしたパワー増加となり、より追い抜きのために並びかけることがしやすくなるはずだ。
 ただ、このオーバーテイクはあくまでも追い抜きのために並びかけるまでのもの。そこから先、実際に追い抜きを成功させるかどうかは、ドライバーの技にかかっているというのは昨年と同じ。
 このオーバーテイクの作動は、昨年同様、1回20秒間で、1レースで使えるのは5回までとされている。オーバーテイク作動開始から5秒後にドライバーの頭の後ろのロールフープについたランプが点滅するので、その使用がわかる。追い抜きをしかけられた相手も、追い抜き阻止のためにオーバーテイクを使用できるのも昨年同様。これで、前を行く車両が一方的に追い抜かれることはない。
 パワー増強のオーバテイクシステムで、接近戦から並びかけ、コーナーに向けて熾烈な先陣争い、追い抜きというチャンスが増えることが期待できるだろう。

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より高度な戦略が求められるタイヤ

 今年のタイヤは、ブリヂストン製で昨年と同じスペックとなっている。ただし、ルール上重大な変更が加えられている。
 昨年は1イベント(フリー走行、予選、決勝)で使えるドライタイヤは1台あたり5セットまでだったが、今年は1台あたり6セットまでとされた。一見これは1セット増えて、タイヤのマネージメント(管理)が楽になったように見える。ところが、現実はその逆なのである。
 昨年は5セットのドライタイヤのうち、4セットが新品で、1セットを以前からの持越しとされていた。
 だが、今年は5セットのドライタイヤのうち、3セットが新品で、3セットが以前からの持越しとなっている。つまり、新品タイヤが1セット減らされているのである。今回の開幕戦での持越しタイヤは、3月の鈴鹿と岡山のテストでのタイヤからチームが選ぶ。
 すると、予選の3回のセッション、決勝でどのように新品タイヤを投入していくのか?チームにとってより難しい課題を突き付けられたことになる。
 ただ、スーパーフォーミュラは決勝でのタイヤ交換は義務でなく、4本1セットでの交換も義務ではないため、決勝ではタイヤ無交換、1本だけ交換、片側2本交換、4本交換という多彩な選択肢のなかから選ぶことになる。そして、スタート時の燃料搭載量、ピットストップでの燃料補給量と時間が戦略上のさらなる選択肢となる。結果、今年のスーパーフォーミュラは、開幕戦から昨年にも増して高度な戦略にもとづいた戦いが見られるだろう。
 この戦略やセッティングについては「エンジニアたちの作戦計画」に各エンジニアたちの考えが記されているので、予選、決勝の戦いを占ううえでご参考にされると良いだろう。
 なお、ウェットタイヤは、昨年と同様に1台あたり4セットまでとされている。

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世界の三大フォーミュラへ向けて

 ヨーロッパをベースに世界に展開するF1、アメリカ大陸を中心に展開するインディカーとともに、スーパーフォーミュラはアジア太平洋圏で展開するトップフォーミュラとして、世界の三大フォーミュラの一角を形成しつつある。すでに、マシンの性能、チームの高度な戦略と技術、ドライバーの技量ではそれをほぼ満たしてきている。とくにコーナリング性能では、オーバルを除いた通常のサーキットでは世界最速のレベルに達している。
 スーパーフォーミュラは、JAF(日本自動車連盟)によるレギュレーションに則って行われているが、今年からそのレギュレーションの書式もF1などFIAの世界選手権ものと同じ書式された。これによってルールも国際標準となった。
 また審判団にあたる競技会審査委員会は従来通り3名で構成されるが、ここに審査委員会アドバイザーとして和田孝夫氏が加わる。元ドライバーの和田氏の視点からの助言がなされることで、より公正で厳正な審査が行われる。同時にドライバーのペナルティに関する規定もより厳格化され、レースのレベルをさらに高めようとしている。
 レギュレーションについては、JAFのホームページにPDFファイルがあるので、ぜひ読んでみていただきたい。
 このほか車検装置が独自の新型になって車検の精度と時間が大幅に向上したほか、レスキュー訓練用モノコックもFIAモータースポーツデベロップメントファンドによるF1と同等の新型に変更されている。これらは、ピットウォークの際に車検場付近でご覧いただけるだろう。

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より高度な戦いの始まり

 開幕戦では、まず昨年やりのこした仕事へ再挑戦から始まる。それは、予選での1分35秒台へのチャンレンジだ。
 昨年の開幕戦では、事前テストが不充分な状況でもアンドレ・ロッテラーが1分36秒486でスーパーフォーミュラのコースレコードを更新していた。昨シーズンのSF14とNREの進化から、昨年の最終戦では1分35秒台に行けると想定されていた。だが、路面状態が変化してしまい、レコード更新はならなかった。
 先述の通り、今年は燃料の流量制限がより絞られたことでエンジンの最大出力への制約が増える。このなかで、昨年の最終戦でできなかった1分35秒に行けるかどうか?かなり困難な課題に対して、ドライバーと技術者たちがどう攻めてくるのか、まずはそこが大きな見どころとなる。そして、もしも1分35秒台に達したとしたら、それは昨年のF1日本GPの予選でのQ2勢と同等となる。
 決勝では、タイヤに関する運用規定が変わったことで、よりタイヤマネージメントと戦略が重要となる。とくに戦略はもとから多数のパターンを用意したなかから、状況に応じてさらに繊細な選択肢を選ぶという、まるで将棋かチェスのような緻密な知的ゲームとなる。この高度な知的戦いのなかで、ドライバーはテクニックと体力の最善を尽くして走る。しかも、SF14とNREの優れた特性を活かして、鈴鹿サーキットの全域でバトルと追い抜きあいを繰り広げる。言いかえれば、いつでも、どこでも抜かれるリスクがある、気の抜けるところは一つもない戦いとなる。
 開幕前のテスト結果からみると、トヨタとホンダのエンジン性能がほぼ互角となり、マシンの性能差はほとんどなくなった。開幕戦の鈴鹿では、予選でも、決勝でも、スーパーフォーミュラならではの、昨年以上に激しい戦いの連続となるだろう。

スーパーフォーミュラ統一規則書(PDF)
JAF競技車両規則(スーパーフォーミュラ部分抜粋:PDF)
エンジニアたちの作戦計画 第1戦 鈴鹿サーキット