本田技術研究所
2年ぶりのオートポリスでの実戦でしたが、2017年後半戦仕様エンジンを持ち込んで走らせてみて、現用エンジン+SF14とサーキットの相性、ターボチャージャー(圧縮機)+吸気取入口の変更と実際のオートポリスでの使い方、事前のシミュレーションや準備していった仕様に対する実走での状況…など、全体としての印象はいかがでしたか?
7月にメーカーテストを行っているので、適合は走り始めからまったく問題ありませんでした。吸気取入口の変更もあって、OTS(オーバーテイク・システム)も他のサーキット同様の効果を発揮していました。
*適合:エンジンの燃料噴射量、点火時期、ターボチャージャーからの過給圧、スロットルバルブ開度、その他を、エンジンがどんな状態の時にはどう制御するか、という基本設定はあらかじめ「マップ」として設定してあるが、そこからさらに調整可能な範囲の中で、サーキットの現場に入ってから、コンディションやドライビングに合わせた最適化を行うこと。
*OTS(オーバーテイク・システム)も他のサーキット同様の効果を発揮:オーバーテイク・システムは燃料流量(=エンジンのシリンダー内にある時間の中で噴射するガソリンの量)を増やす(今回でいえば11%)わけだが、NREの中でこの燃料を最適な状態で燃やし、出力の増加に結びつけるためには、燃料が多くなった分だけ吸い込む空気も増やして、高回転域でパワー最適の空燃比にする必要がある。とくに標高が高く、空気密度が低めになるオートポリスでは、より多くの空気を吸い込んで圧縮し、密度を上げた空気を送り込む必要がある。今年、SF14右サイドポッドのチムニー前面に開いたエンジン吸気(ターボチージャーへの)取入口の面積を拡大したことで、この状況でも十分な空気量が流れるようになった。
予選に向けての適合内容、予選でのパフォーマンスについて振り返ってください。
いつもどおり、大きな変更なし。タイヤのコンパウンド違いに対しても(エンジン制御)データの変更はありません。昨年レースがなかったことと、ソフトタイヤの効果が大きかったと思いますが、うまくタイヤを使えた車両はコースレコードを更新しているので、エンジンとしては十分にパフォーマンスを発揮したと思います。
決勝レースでの細部適合内容、54周を走らせた中での総合的・相対的なパフォーマンスについて振り返ってください。その中で燃費に関して、#7ローゼンクヴィストにはいささか驚かされましたが、どのように見ていますか?
適合部分で変更するところはなく、ステアリング・スイッチに割り当てた(制御)マップ類をドライバーが選択して使い分けています。パフォーマンスに関しては、タイヤ戦略や搭載燃料の影響が大きく、判断できません。
#7の戦略(4周目ピットイン・燃料補給)では、燃料が足りず最終ラップまで走り切れないと、事前に推定していましたが、終わってみるとホンダ勢の中にも、タイヤがタレるのに合わせてALS(アンチラグ・システム)の効かせ方を少なくして走行した車両は、#7と同じ戦略でも十分走り切れる状況でした。
*アンチラグ・システム:ターボチャージャー装着エンジンでは、アクセルを一度閉じた状態から踏み込んだ時に燃焼ガスが増えて排気タービンの回転が上がってからでないと有効な過給圧が得られず、エンジンのトルク上昇に遅れ(ラグ)が生じやすい。これを抑えるために、アクセルオフ状態でもエンジンに燃料を少し送り込み、高温になっている排気管内で着火させてタービン回転を保つ手法のこと。タイヤのグリップが落ちてくると、アクセルの開け始めでエンジントルクが柔らかく立ち上げるほうがいいので、ALSの効きを弱める方向になる。
オートポリスに続いてSUGOも、山地斜面の上に作られたコースで上り・下りの勾配がきつい中にコーナーが配されたレイアウトですが、エンジンの使われ方、求められる特性から見て、この二つのコースの共通点・違い、日本のサーキットの中での位置づけは、どんなところでしょうか?
SUGOはオートポリスと同じくらいの中高速サーキットになります。(一番の高速コースは鈴鹿)ヘアピンもあり、長い登り区間あり、走行中に使う回転域の全域で出力がしっかり出ることを要求されるサーキットです。
2017年モデル、とくに後半仕様のエンジンは、SUGOのどのあたり、どんな特性について、昨年仕様よりもパフォーマンスアップしているとお考えですか? ラップタイムの向上予測などはいかがでしょうか?
後半仕様は中低速トルクアップやターボラグ改善を狙っているので、短い区間加速が繰り返される前半セクションで、改良の効果が出ると考えています。予選タイムは、1分04秒台のコースレコードが出ると期待しています。
そのSUGOに向けて、もてぎ、オートポリスでの2017年後半仕様エンジンの彼我のパフォーマンス分析、ドライバー&チームからのフィードバックなどからどんな要件が浮かび上がっていて、それらに対してどんな“仕込み”を加えて持ち込む予定でしょうか?
予選はいつもどおり。決勝に向けては、戦略上重要になる燃費とドライバビリティの妥協点を見つけたいと思います。
*ドライバビリティ:ドライバー(人間)の操作に応じて、その時に意図した(イメージした)特性、エンジンの場合は力の増減とそのタイミングがうまく現れるか。日本語では「運転(自在)性」となる。ターボ過給エンジンであるNREでは、アンチラグ・システムを使ったほうが瞬時のトルク増加は作りやすいが、シリンダーの中で燃料を燃やさずに排気管内で着火させるので、燃料消費は増える。このトレードオフをどこに合わせるか、ということ。
SUGOは勾配の中に特質の異なるコーナーが続き、車両が加減速する動きやエンジン・サウンドの音質や音量をコース間近で体験できるコースになっています。どのあたりで、どんなところに着目すると、エンジンの“仕事ぶり”が実感を持って観察できるでしょうか?
SPコーナーはコーナリングスピードが速く、そこから立ち上がりで更に加速していく姿はSF14+NREの醍醐味だと思います。個人的には、(パドックからは)ちょっと遠いけど、最終コーナーを見てみたいです。