シーズンの開幕前には、必ずテスト走行が実施される。2011年3月11日(金)〜12日(土)に三重県・鈴鹿サーキットで行われた(12日は震災の影響で中止)。このテストにはこんな意味があったのか? そしてこのテストを通して、開幕戦、シーズン前半での注目選手を見いだしてみた。
No.1 ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ
例年、この開幕の前に行なわれている公式合同テスト。このテストは本番を迎える大切な準備として、各チームが捉えている貴重な走行時間だ。
現在、Formula NIPPONで使われているシャシー、FN09は今年導入から3年目。各チームのFN09とエンジンに対してのノウハウは、高いレベルで互角になってきた。しかし、ライバルの上を行くためには、その同じマシンをより速く走らせなければならない。そのために、各チームのエンジニア、また自動車メーカーのエンジン技術者などは、日々頭を捻り、新たなマシンのセットアップを考えたり、エンジンの全体的な性能向上などを目指している。こうした作業は、今やパソコンなどを使用し計算で得ることもできる。しかし、実際にマシンを走らせた時には、計算通りにいかないことも珍しくない。あるいは、その逆に、思っていたような成果を確認できることもある。いずれにしても、実際に走らせることで、見えてくることが多いのだ。
ところがこのような作業は、レースウィークに入ってしまうとなかなかできない。色々なことを試す時間的な余裕がないからだ。その意味で、メーカーにとっても、チームにとっても、テストでの走行は、必要不可欠なものなのだ。
またドライバーたちにとっても、実際の走行は重要。最終戦、あるいは年内最後のテストから、ほとんどのドライバーはFormula NIPPONのマシンほど速いレーシングカーのステアリングを握るチャンスがない。確かに、他カテゴリーのテストなどはあるが、フォーミュラのクイックな動きは、そこでは体験できないものなのだ。なかなか本音を口にしないドライバーも多いが、実はその年最初のFormula NIPPONテストで「最初の何周かは目がついていかなかった」ということも起こっている。
つまり、ドライバーたちが、自分の感覚を取り戻し、センサーを研ぎ澄ますためにも、テスト走行はとても大切な役割を担っているのである。ルーキードライバーともなれば、尚更。テストの回数や時間が限られている中で、マシンの特性を掴んだり、ニュータイヤでのタイムアタックの感覚を掴んだりというのは、より良いレースをするためにも絶対に必要だ。
そんな貴重なテストが、今季はすでに鈴鹿で1日だけ行なわれている。そこで他を寄せ付けない1分38秒668という圧倒的なレコードタイムを刻んだのは、小暮卓史(No.32 NAKAJIMA RACING)。
小暮は、「去年の最終戦で見つけたいい感触のセットアップをさらに煮詰めてもらった結果、タイムが出ました。タイヤのスペックが変わり、グリップが少なくなる方向だと思っていましたが、グリップは十分ありましたし、イージーにタイムが出たという感じです」と、コメントしている。この日、小暮は今季に向けたセットアップの確認をし、さらにエンジニアが用意した新たなサスペンションセットアップのメニューに取りかかろうかという段階だったという。4時間のセッションのうち、2時間ほどは雨がパラつき、赤旗も複数回。実質的に走行できた時間がわずかだった中で、このタイムはまさにライバルたちにとっては驚異的だったと言っていい。
しかも、まだまだマシンを進化させるために、様々なアイテムを用意しているということで、今季のチャンピオン争いの中心になってくるのが小暮だということは間違いない。参戦9年目、毎年のようにタイトル争いに絡んできた小暮が、いよいよ念願のタイトルを獲得するのか。それは、今季のFormula NIPPONを見る上で、最も注目されるポイントと言える。
だが、その小暮にも、強力なライバルはいる。その筆頭が、昨年タイトルを獲得しているジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ(No.1 TEAM IMPUL)。前回のテストではアタック中にプッシュし過ぎてスピンするハプニングもあったが、それでも最後はそこそこのタイムをマーク。好調を維持しているだけでなく、本番でのハートの強さは折り紙つきだ。
さらに、小暮と同じく9年目のシーズンを迎えるアンドレ・ロッテラー(No.36 PETRONAS TEAM TOM'S)も、“今季こそ”の思いを強く持っているひとり。特に、来日後、深い親交を持ってきた外国人ドライバーたちが次々にタイトルを獲得していることもあり、ロッテラーはフォーミュラのタイトルが是が非でも欲しい。テストでは、やはりアタック中にスピンする場面もあったが、実際のシーズンが始まれば、今まで蓄積してきた経験をいかんなく発揮するはずだ。
No.40 伊沢拓也
彼ら、シリーズの顔ともなっているドライバーに対して、今年は食らい付いてきそうな若手やルーキーが多数いる。
まず若手の中では、いずれもDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの伊沢拓也(No.40)と塚越広大(No.41)が、昨年末のテストから好タイムを連発。昨年はチャンピオン経験者のロイック・デュバルを迎え入れ、最後の最後までタイトルを争ったが、その時の経験とデータが、チームには財産として残されている。それだけのチーム体制を得て、それぞれ3年目、4年目の塚越と伊沢が大ブレークする可能性は否定できない。
また、ルーキーの中では、何と言っても注目されるのが、中嶋一貴(No.37 PETRONAS TEAM TOM'S)だ。一貴はすでにF1まで経験しているので、“ルーキー”と呼ぶのもおこがましいが、昨年からテストで積極的に走行。様々なセットアップを試して、Formula NIPPONのマシンの特性を学び、タイヤの特性も掴んできている。非常にクレバーに準備を進めているといっていいだろう。
しかも、鈴鹿テストでは、予選に向けてのタイムアタックのシミュレーションでも、5番手となるタイムをマーク。それでも、まだまとめ切れていないということで、伸び代はある。“Formula NIPPONでは経験が重要”と本人は謙遜するが、実は開幕から上位争いに加わってきそうだ。
その他にも、活きのいいドライバーが、トップを目指して、全力を尽くして走るFormula NIPPONは、まさにリアルスポーツ。その緊張感を生むためには、事前のテストが鍵を握っている。震災によって仕切り直しになった開幕戦は5月14、15日、鈴鹿サーキット。このテストの真価が、そこで問われる。
Reported by Yumiko Kaijima