今シーズンの7レースで5勝を挙げ、見事にドライバーズ・チャンピオンを射止めたアンドレ・ロッテラー(No.36 PETRONAS TEAM TOM'S)。新王者となった彼に、初参戦からこれまでの道のり、そして最終戦の心境や状況、気になる来シーズンのことを語ってもらった。
トップチームに追い付くのに時間が必要だった
— 改めてドライバーズ・チャンピオン獲得おめでとうございます。参戦9年目にしてのタイトル獲得ですが、ここまで長かったですか?
アンドレ・ロッテラー(以下、ロッテラー) 参戦開始から2年目にあたる2004年に1ポイント差でチャンピオンを逃してから、ここまで結構時間が掛かってしまったけど、その間にはいろいろあったからね。すごく不運が続いてしまったシーズンもあったし。
PETRONAS TEAM TOM'Sに加入してからは、みんなでゼロからチームを作り上げなくちゃいけなかった。このチームは、F3やSUPER GTでずっとトップチームとして戦ってきているけど、フォーミュラ・ニッポンに関しては06年が初めてだったからね。そこからトップチームのTEAM IMPULやNAKAJIMA RACINGに追いつくには、どうしてもある程度の時間が必要だったんだ。
参戦している間に、シャシーが変わったり、エンジンが変わったりということもあったし、日本には強力なドライバーが大勢いるから、やっぱりそれだけ時間はかかるよ。
完璧にまとまったコミュニケーション
— 今季は、オートポリス戦を欠場していますが、それがディスアドバンテージ(不利な要素)になるとは思いませんでしたか?
ロッテラー 舘さん(舘信秀監督)からは、「1戦休んでもウチのチームは大丈夫。それでもちゃんとやれるから」っていう風に受け入れてもらって、すごくありがたかったよね。代わりに、「絶対チャンピオンを獲れよ」とは言われたけど(笑)。
ただ、フル参戦した場合でも、1年のどこかでリタイヤしたり、ポイントを落としたりっていうレースは1戦ぐらいあるものだから。トランプで言うとジョーカーみたいなものかな。僕は、それをあそこで使ったって思うようにしたんだ。それにしても、あのレースでJ.P.(No.1 ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)や小暮さん(No.32 小暮卓史)みたいな強力なライバルが好成績を上げられなかったのは助かったよ(笑)。
もちろん一貴(No.37 中嶋一貴)に勝たれたのは痛かったけど。彼は安定していて、ミスが少ないドライバーだからね。
— 欠場した後も、常にトップ争いをして、ほとんどのレースで優勝しましたが、これまでのシーズンと何が違っていましたか?
ロッテラー PETRONAS TEAM TOM'Sに入ってからも、初年度と2年目、あるいはその後にも、エンジニアが変わっているんだけど、東條(力)エンジニアが僕の担当になってくれてから、ようやくチームが完成形に向かって行ったと思う。彼とはSUPER GTでも一緒に仕事をしていて、コミュニケーションはいいし、フォーミュラでも毎年少しずつクルマが良くなっていった。
そして、今季はそれが完璧にまとまったと思うんだ。ほんの少しセットアップをアジャストしただけでも、それがいいのかどうか、感じ取れることができたからね。
それに、チーム全体にミスがなかった。作戦にしてもピット作業にしても。それはずっと同じメンバーが、現場を担当してくれているからだと思うよ。
心配だった最終戦の第1レース直前
— 2レース制の最終戦では、両レースのポールポジションを獲得し、連勝を果たしましたが、レース前に緊張はしましたか?
ロッテラー ポールを獲ったことで、プレッシャーは少なくなっていた。クルマがいいって確認できたし、Wポールで2点加算されたから、ポイント上も有利になったし。でも、第1レースの前はグリッドで少し心配したよ。コンディションが微妙だったからね。レインタイヤでのスタートになるか、スリックになるか…。僕としては、あれだけ水が少ない状況で、レインを履きたくなかったんだ。
結局はスリックのコンディションになってくれて、助かったよ。
— そこで優勝し、第2レースを待たずにチャンピオンを決めましたが、どういう気持ちでしたか?
ロッテラー スタートが上手く決まって、トップに立ってからは、すべてをコントロールできた。一貴が後ろからプッシュしてきたけど、こっちが少しプッシュし返したら、ギャップを築くこともできたし、彼もその状況が分っていたと思うよ。でも、スタート前からポイントの計算をしていたわけじゃないし、優勝したらチャンピオンだって分かっていたわけじゃなかった。ただ、いつもと同じように、ベストを尽くしてレースしようと思っていただけなんだ。
そして、チェッカーを受けた後、チームから無線で“決まったよ”って言われたんだ。本当に嬉しかったよ。チームのことを思ってハッピーだった。これまでみんなでチームを作り上げてきて、ようやくタイトルが獲れたんだからね。
FNは乗っていると楽しくてたまらないんだ
— 今、いろいろと考えている最中だと思いますが、来年はどうするつもりですか?
ロッテラー まだ何も決めていないよ。もちろん、今年ル・マン24時間レースで優勝したし、来年からは世界耐久選手権が始まるから、アウディとはそのことに関して、これから話をしなければいけない。もちろんトヨタとも話さなければいけない。でも、来年以降のことを急いで決めるつもりはないんだ。ある程度、時間を掛けなくちゃいけないって思っている。
ただ、フォーミュラカーのドライビングから離れたくはないんだよね。だって、今のフォーミュラ・ニッポンは本当に速いクルマだし、すごくダウンフォースがあって、乗っていると楽しくてたまらないんだ。この楽しみを簡単に諦められるほど、僕はまだ歳を取っていない。だから、悩ましいよね(笑)。
できれば、自分が出たいと思っているレースに、全部出られればいいんだけどな…。
Reported by Yumiko Kaijima