今季6大会・7レース中、6勝という圧倒的な強さを見せて、チームとドライバーズの2冠を達成したPETRONAS TEAM TOM'S。フォーミュラ・ニッポン参戦開始から6年目の快挙について、同チームを率いる舘信秀監督に話を聞いた。
勝因はピットワークでしょうけど、ホントは…
— おめでとうございます。参戦6年目で念願のタイトル獲得ですね。
舘信秀監督(以下、舘) 僕は、今年が5年目だと思っていたんだけどな〜。そうか…。5年目ぐらいでチャンピオンを捕りたいって最初に言った覚えがあるんですけど、1年余分に掛かったんですね(苦笑)。
— TEAM TOM'Sと言えば、SUPER GTでも全日本F3選手権でも何度もタイトルを獲っています。そのTEAM TOM'Sが、フォーミュラ・ニッポンでは6年掛かりました。ご苦労された点は?
舘 まぁ、クルマがローラ(FN06)からスウィフト(FN09)に変わるまでは、データがなかったっていうことが一番ですね。クルマが変わってからは、みんなイコールになったわけですから。
そういう意味では、クルマが変わってから3年でのタイトル獲得なので、順当なところなんじゃないかと思います。それぞれエンジニアもメカニックもF3などでの経験はありますけど、やっぱりフォーミュラ・ニッポンとなると、データが大事。工場を出して、サーキットに持ってきた段階で(基本になる)データがないのは、やっぱり辛いですよね。データがあれば、セッティングに関しても、次にやることのスピードが違います。
— TEAM TOM'Sの参戦開始当時は、SUPER GTでも戦っている星野一義監督(TEAM IMPUL)や中嶋悟監督(NAKAJIMA RACING)のチームが、常にタイトル争いをしていました。データ以外の部分で、“こういう部分で追いつかなければ”と思われたところはありますか?
舘 今までは、とにかく誰か1人がブッちぎりで速いとか、そういうケースが多くなかったですか? とにかくNAKAJIMA RACINGが速かったと思ったら、その翌年にはいきなりTEAM IMPULが速かったり。だから、今年TEAM TOM'Sが強かったっていっても、(自分でも)『本当言って何?』っていう感じでした。
細かいことを言えば、ピットワークでしょうかね。ウチは本当に今年ミスがありませんでしたし。アンドレ(No.36 ロッテラー)は、いつもスタートがいいから、予選で4〜5番手にいても1〜2台は抜いてくるだろうっていう感じがありました。
でも、中嶋一貴(No.37)だけに関して言えば、前半は予選で後方に埋もれていたのが、ルールが変わったことによって、早目のピットイン作戦だとか無給油だとか、これしかないだろうっていうような作戦が、功を奏したんだと思います。後半になってからは、中嶋もQ3に進んだり、段々速さも身に着けてきましたけどね。
だけど、アンドレの“あの強さは何で?”って聞かれてもね…。「東条、何やったの?」ってエンジニアに聞いても、「何もやっていないんですけど」っていう答えが返ってくるぐらい。ホントによく分からないんですよね〜(笑)。
今のアンドレは熟成しきってピークにある
— 今季途中から楽勝モードだったかも分かりませんが、チャンピオンを獲得された今のお気持ちは?
舘 何かまだ実感が湧かないんですけど。どちらかというと喜びよりも、今度は追われる立場でいたいなというのが強いですね。割りと僕は、終わったことはすぐ忘れるタイプなんです。これでチャンピオンチームとして、来年も再来年もチャンピオンを獲り続けていきたいっていう気持ちですね。じゃあ、どうすればいいんだろうっていうのはあるんですけど…。
— 今年、これがキーポイントだったなというレースはありますか?
舘 やっぱりアンドレが1回休んで、帰ってきてまた勝った富士のレースじゃないかと思います。何故かは分からないですけど、今年の契約をした時から、「アンドレは1回休んでもチャンピオンを獲れる」っていう、変な自信がありました。そこには、ちょっとロイック(デュバル。2009年王者)がいないとか、ブノワ(トレルイエ。:2006年王者)がいないとかいうのもありましたよね。こんなことを言ったら怒られてしまうかも知れませんが、やはりあの2人は強力なコンペティターだったので。もちろんJ.P(No.1 デ・オリベイラ・TEAM IMPUL。2010年王者)は一発もありますし、手ごわい相手ではありました。
でも、何だかんだ言って、アンドレは断トツでミスがないですし、信頼できるドライバー。そういう風に信じていたので、僕にも「1回ぐらい抜けても」っていう自信があったんでしょうね。それに今のアンドレのドライビングは、熟成しきってピークにあると思います。だから、ル・マンでも勝ちました(2011年総合優勝)し、フォーミュラ・ニッポンでも結果を残した。やっぱりアンドレの力は大きいんじゃないですかね。
中嶋にはそこまでの結果を全く求めていなかった
— 今年加入した中嶋一貴選手は、ランキング2位を獲得しました。全日本F3の時もTEAM TOM'Sで走っていましたが、海外経験を経て帰ってきた中嶋選手は、どういう部分が成長していましたか?
舘 すべてが成長しましたよね。驚きました。特に、精神面ですごく強くなったんじゃないかと思います。元々あまり多くを語るタイプではないので、なかなか彼の考え方なんかについては、我々も理解しづらい部分はあるんですけど、すべてはレースの結果によく出ていますよね。J.Pなんかも中嶋が前にいると抜けない、上手だなっていう言い方をしていますし、全戦表彰台っていうのは、やっぱり凄いですよ。
僕は、今年はそこまでの結果を全く求めていなかったんですけど。今年に関しては、当然ルーキーとは思えないでしょうけど、親になったつもりで「成績はどうでもいい。もう1回、日本のレースに慣れて、来年からやろうぜ」ぐらいのスタンスでいたんです。ところがとんでもない。ああやって、アンドレとJ.Pの中に入って、唯一アイツだけ、がんばっていたっていう感じじゃないですか。そこに関しては、ものすごく嬉しいですよね。
来年もチャンピオンらしく戦いたい
— そういう強いドライバーを2人揃えて戦ってきた今シーズンですが、監督さんとしてチーム運営する中で重視してきた部分というのはありますか?
舘 ドライバーに関しては、安心していました。アンドレに関しては安心していましたし、中嶋(一貴)に対しては最初はそんなに高い期待をしていませんでしたからね。
一方、チームとしては、やはりピットワーク。そこをいかにミスなくやるかっていう部分は最初から見ていましたが、ほぼ完璧だったんじゃないかと思います。他と同じタイムっていうこともあったんですけど、それでは僕は満足していなくて、他よりも1秒でも早く作業しなくちゃいけない。
それをどうするかっていうのは、来年に向けての課題だと思います。みんなウチのピット作業に関しては結構研究しているらしくて、段々早くなってきているので、我々はさらに一捻りして、ドライバーを早く送り出さなくちゃいけないと思いますね。
— 先ほど来年も再来年もチャンピオンタイトルを保持し続けたいというお話がありましたが、来年に関して、何か展望として決まっていることはありますか?
舘 残念ながら、ちょっとドライバーに関してはまだ発表できる段階じゃないんです。でも、何とか今年の強さを残して、来年もチャンピオンらしく戦いたいと思っています。
Reported by Yumiko Kaijima