最新マッピングで性能を引き出します
トヨタ自動車 SUPER FORMULA プロジェクトリーダー
“もはや真夏”という高温下での競争になりましたが、その戦いをエンジン開発・供給者の側からはどうご覧になりましたか?
もともとトヨタエンジンは夏には自信があるのと、相性の良い富士という事で、チーム側も満足できる性能を出せたと思います。
エンジン開発・供給者の側から、富士スピードウェイというコース、気象などへの対応を含め、うまくいったこと、逆にもう少しだったな、と思う要素は、それぞれどんなところですか?
予選はとても良かったです。レースは色々とありましたが、お客様は面白かったと思いますので、私としては腹八分で満足です。
ツインリンクもてぎは「ストップ&ゴー」タイプのサーキットだと言われていますが、エンジン開発者の視点からはどんな性格のコースだと捉えていますか?
全開加速が多いのでエンジンの信頼性にとって厳しいコースです。さらに加速が多いわりに平均車速が低いので水とオイルが冷えにくく、エンジンにとっては二重に厳しいコースです。そのうえ猛暑だとなお厳しい。夏には自信のあるトヨタエンジンでも、夏のもてぎは気を抜けません。
そのレイアウトを速く走るために、また勝つために、エンジンの出力特性、燃料消費などに求められるポイントはどんなところでしょう? ストップ&ゴー的な部分とダウンヒル・ストレートの両方への対応はいかがでしょうか?
車両はブレーキとトラクションが“きも”と思いますので、車両側のトラクションとエンジン側のドライバビリティのコラボが大事と思います。
加速が多い分燃費には厳しいコースなので、マップスイッチの出番もあると思います。
ダウンヒル・ストレートの最高速とコーナーを考えたギア比はチームが考えるでしょうが、どんなギヤ比でも対応出来るように準備しています。
*トラクション : 旋回の中からエンジン・トルクを増した時、リアタイヤがその駆動力を受け止めて「蹴る」力を効率良く生み出せるかどうか。シャシー側としてはタイヤを柔らかく接地させて粘りのあるグリップを引き出すこと、中高速域ではダウンフォースでタイヤを押し付けつつ、その荷重を安定させることなどが重要。
*ドライバビリティ : 日本語に直すと「運転制御性」か。ドライバーのアクセル操作に対して、どんな状況からでも、いかに滑らかに、応答遅れなくエンジンの力(トルク)の変化が現れるか、という特性のこと。
*マップスイッチ : 戦いの状況に応じて「出力ベスト」か、「出力を少し抑えても燃料消費を少なくする」か、燃料噴射量(と点火時期の組み合わせ)を何段階かに切り換えられるスイッチがコックピットに設けられている。
*ギア比 : フォーミュラマシンなどの純競技車両の場合、トランスミッション(変速機)の各段ごとに噛み合う歯車の歯数を変えて、変速比(ギアレシオ)を選ぶことができる。それぞれのコーナーの旋回〜脱出速度に対してエンジンが最も力強いトルクを発生する回転域を使うことと、最高出力点で最高速に達することなどを考えて、各変速段の変速比を設定する。
第4戦では、これまで使用してきたエンジンの換装(新機の投入)が可能になりますが、そこはどう対応されますか?
ハードは大きく変えずに、最新マッピングで性能を引き出します。
*マッピング : エンジンの燃焼(=出力)は吸入空気量に対して混合する燃料の量(噴射量)、点火時期によって変化する。それを回転数や負荷に対してどう設定するかは3次元(以上)のグラフの形で表現できる。これが「制御マップ」。この制御マップを描いてエンジンの特性を決める作業が「マッピング」。
前項の新エンジン投入、そこに加えるアップデートも含めて、エンジンに関してはどんな方向・内容を"仕込んで"いらっしゃいますか?
もっと過給圧を上げれる様に・・・これは新エンジンの方ですね。新エンジンのテストと現行エンジンでのレースが連続してあるので、頭が混乱しました。現行エンジンの方は、上記の様に最新マッピングで挑みます。
*新エンジン : 2014年から導入されるNRE(Nippon Racing Engine)。ご存じのように新シャシーSF14に搭載してのテストが7月はじめから始まっていて、ツインリンクもてぎでもレースウィークの水・木曜日にテストを実施している。
真夏のツインリンクもてぎでレースを戦うエンジン(と搭載シャシー)において「暑さ対策」はどんなところになるのでしょうか?
エンジンも心配ですが、それ以上に人間(チーム関係者、お客様)の暑さ対策も大事だと思います。エンジンサポートも暑さで集中力を切らさない様に、新たなクーリング・パッケージを投入予定です。
*新たなクーリング・パッケージ : トヨタのエンジンサポートに関わるメンバーの作業エリアに対する「クーリング(冷房・通風)」のこと、ですよね?
ツインリンクもてぎにおける空力や車体のセッティングを見る上で、あるいはコースサイドで観戦する中で、「こんなところに着目すると面白いかも」という点がありましたら、教えてください。
データで見ていてもラップタイムへの感度が大きいのがS字カーブなので、車の仕上がりを見るならここが一番差が分かりやすいと思います。
*ラップタイムへの感度 : コースの中のそれぞれのセクションにおいて走り方とセッティングがうまく決まったかどうか、それによる区間タイムの変化が、1周のラップタイムの変化に現れる、その度合いのこと。