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オートポリスでさらなる未知の領域に挑む!
後半戦仕様エンジンのさらなる勝負

今季のスーパーフォーミュラは、マシンはSF14と、
エンジンはホンダとトヨタの直列4気筒ガソリン直噴式ターボエンジン「NRE」へと大きく進化した。
そして、毎戦この新型マシンにとって初めての未知の世界での戦いとなり、あらたな発見と成果を得てきた。
トヨタとホンダのNRE(ニッポン・レース・エンジン)は、
前回の第4戦ツインリンクもてぎから、後半戦仕様が投入された。
今回の第5戦はこの後半戦仕様エンジンのさらなる勝負でもある。
しかも、そこには今季これまで経験していなかった、
大きな課題がチーム、ドライバー、エンジンメーカーに突きつけられているのだ。

コース形状ゆえの燃料無補給戦へ

 オートポリスのコースは、ピットがコースの外側にあるユニークな形状である。通常のサーキットでは右回りでピットがコースの内側にあるため、車体の右側をピットガレージ側に向けて停まる。ところが、オートポリスでは車体の左側をピットガレージ側に向けて停まるようになる。
 今年のSF14の燃料タンクは、レース中のピットストップに使うクイック式の燃料キャップは車体の右側だけになっている。そのため、車体の左側をピットガレージ側に向けて停車するオートポリスでは、ガレージ側に置かれる燃料補給装置との位置関係でピットストップ中の燃料補給が困難となる。これで今回の第5戦はレース中の燃料補給のないレースとなった。
 だが、この燃料無補給のレースがチーム、ドライバー、エンジンメーカーにとってこれまで経験していないあらたな課題を投げかけることになり、レース展開にもあらたな興味をもたらすことになる。

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燃費とスピードの両立、知恵と技の戦い

 第5戦の決勝は、通常の250kmレースよりもやや短い、220kmレースとなる。これを燃料補給なしのフルタンク約90リットルで走ることになった。これを補うように、燃料流量制限は、エンジンの回転数が毎分8,000回転以上のとき、通常では毎時100㎏だったのを、第4戦と同様に毎時90㎏としている。こうすることで、エンジンへ送られる燃料の量を減らして、基本的な燃費を向上させている。
 レース距離と燃料タンク、燃費については、Race Format に詳しく書かれているので、そちらもご参照いただこう。
 しかし、レースは誰よりも速く走ってゴールするものであり、そのためには、たんに燃費の良さを求めてスローペースばかりではダメなのである。いいかえれば、燃費の良さは求められるものの、決してスロー走行ではなく、速さと燃費の両立した走りが求められるのだ。これが、あらたなチャレンジなのである。
 これまでのレースではピットストップで燃料補給ができたので、ドライバーは常にパワー重視でエンジンを使い続けることができた。

 一方、今回はなんとかフルタンク・燃料無補給で走り切れる計算であるが、ハイスピードでライバルに勝りながら完走するために、エンジニア、ドライバー、エンジンメーカーには綿密な作業が求められることになる。
 エンジニアはこの週末のオートポリスでの正確な燃費を計測しなければならない。ターボエンジンは、吸入する空気の過給のしかた、燃料の噴射のしかた、気温などで、燃費は異なってくる。そのため、レース週末の現地での実際の走行による燃費データが重要なのだ。しかも、今回は金曜日のテスト走行がない。そのため、SF14とNREでオートポリスを初めて走る土曜日のフリー走行と、レース日の天候。気温、空気密度をふまえた日曜日のフリー走行と8分間ウォームアップ走行でのデータは極めて重要になる。
 エンジニアはこれらのデータをもとに緻密な決勝の戦略を立案する。そこでは、レース展開に応じて、パワー重視、燃費重視の走り方をすることになるだろう。
 ドライバーはレース中エンジンの燃焼をコントロールするマッピングを切りかえてこれに対応する。さらにドライバーは、いつにも増してよりムダのない、より繊細なドライビングをするようになるはずだ。
 エンジンメーカーも、燃費とパワーの両立のなかで、今回に合わせたマッピングをもちこんでくるだろう。NREは、ただでさえ少ないガソリンからより多くのパワーを取り出すエンジンなのだが、燃費重視のマッピングでは、より少ない燃料からパワーをやりくりする技術をみせてくるかもしれない。

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 ライバルがいないならスローペースを中心で楽に燃費走行でいける。だが、SF14になったスーパーフォーミュラは常に接戦の連続で、しかも追い抜きもしやすくなったので、スローペースは許されないだろう。すると、マッピング変更とドライビングを変えることでどこでパワー重視にして逃げるのか?どこでそれを追うのか?あるいはどこで燃費をより重視しながらも最適なスピードを維持した走りを入れるのか?といった判断がとても重要になる。まさに「めりはりのきいた」走りとレース展開となるはず。刻々と状況が変化していくなかでこれを最高の次元で達成するために、エンジニアたちはレース中常に計算を繰り返し、最適なマッピングとラップタイムなど指示することになり、ドライバーはそれを受けて最高のドライビングテクニックでそれに応える。もちろんコース上ではライバルとのバトルもしながら。
 最速でチェッカーを受けて表彰台に立ったチームとドライバーは、知恵の限り、テクニックの限りを尽くしたものになる。これは燃費とスピードをさらに追及した新次元のヒーローたちの誕生となる。

トルクとピークパワーも必要なオートポリス

 オートポリスのコースは、高速から低速までバラエティに富んだコーナーを持つうえ、最大で52メートルという高低差もある。
 最終コーナーからメインストレート、1コーナーの先、二つのヘアピンの間の区間という高速区間では、ピークパワーが欲しい。
 一方、二つのヘアピンを筆頭に、小さなコーナーからの立ち上がりでは、鋭い加速できるトルクが欲しい。
 また、コーナーが連続する区間も多く、ここではドライバーのスロットル操作どおりにパワーが出てくるようにするドライバビリティの良さが求められる。とくに、コース後半の登り区間は、コーナーが連続するうえにそれぞれに異なる傾斜がついているため、自然吸気エンジンだった昨年でもドライバビリティの良さが求められた。ターボエンジンとなった今年のNREにとって、この区間はドライバビリティの良さがどれだけ向上したかが問われる区間になるだろう。
 レース中のオーバーテイクは20秒間が5回で、毎時5㎏燃料が増量される。これも、メインストレートや、二つのヘアピンの前後などで追い抜き利用されるだろう。また、ラップタイムを一時的に向上して戦略上有利にする方法にも使われるかもしれない。ただ、燃料の総量に限りがあるので、その使い方にもまたより知恵が求められるはず。
 このようにオートポリスは、パワー、トルク、ドライバビリティのすべてがハイレベルで求められる。その上に、今回はフルタンクで走りきるための燃費の良さも必須となる。今年新登場のNREにとって、もっとも難しい技術課題へのチャンレンジとなる。

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トヨタ対ホンダ

 後半戦仕様エンジンが投入された前回の第4戦ツインリンクもてぎでは、ホンダエンジン勢がトヨタエンジン勢に対してほぼ互角になるほど迫ることができた。これはツインリンクもてぎの低速中心のコース特性がホンダエンジンに向いていたからなのか?それとも後半戦仕様でトヨタとホンダの性能差が本当に縮まったからなのか?その明確な答えは出なかった。
 だが、今回の第5戦のオートポリスでは、902メートルのメインストレートに、250Rから30Rまでの高速、中速、低速のコーナーがあり、そのうえ最大52メートルの高低差もある。山地にあるゆえの標高の高さによる空気の密度の影響については、ターボエンジンは自然吸気エンジンのような影響を受けない。が、ここにあげたコース特性は、前述のようにパワー、トルク、ドライバビリティといったエンジンの総合性能が求められる。とくに、燃費の影響がない予選の走りは、後半戦仕様エンジンの本来の実力を見ることができるはずだ。ここでホンダがさらに追いつき、追い越すのか?それとも、トヨタがふたたびホンダを引き離すのか?予選の走りとタイムは両エンジンの実力を占ううえで注目だ。
 そして決勝では、いかに高効率なエンジンなのか、つまりいかに無駄なく燃料を燃やしてパワーを取り出しているのか?という点での技術勝負もより際立つことだろう。

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 パワー、トルク、ドライバビリティに燃費。すべてに際立った性能が求められる第5戦オートポリス。後半戦仕様エンジンにとって投入からわずか2戦目で、トヨタとホンダのエンジニアたちはライバルとの戦いをしながら、より高度な技術にも挑むことになる。

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