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Honda HR-414E - ENGINE SUPPLIER

佐伯 昌浩

本田技術研究所 SUPER FORMULA プロジェクトリーダー

1.最終戦・鈴鹿を振り返って
Q

今期最終戦・鈴鹿を前にエンジン側の対応などについてお聞きしていますが、実際に投入された仕様の狙い、具体的な内容、実戦での作動状況などについて要約していただければと思います。

A

シーズン後半仕様のエンジンで燃料流量100kg/hのレースは初めてになるので、3戦分の制御データの変更点に併せて、マップ類のチューニングを行ってきました。結果的には、予選でもう少し頑張れたのかな…と反省する部分も残りました。

Q

今戦は燃料リストリクターの最大流量が100kg/hでしたが、シーズン後半4戦に投入したユニットとしてはこの流量は初めてでした。直近3戦の開発・実戦成果を反映するなどして、緒戦・鈴鹿との仕様、セッティングの違いはどのようなものだったのでしょうか?

A

開幕鈴鹿に比べると出力・ドライバビリティともに向上していたが、最終戦予選での出力は少し負けていたと感じている。

Q

今戦のエンジン・パフォーマンスを自己採点すると100点満点で何点ぐらいでしょうか? その採点理由(良かった点、反省が残る点など)も合わせてお答えいただければと思います。

A

30点
予選のパフォーマンス不足。

Q

予選ではもう少しタイムが伸びると予想(期待)されていたわけですが、緒戦よりもタイムが伸びない結果となりました。これについてはどう見られていますか? エンジン側から見ると、あるいは事後解析によると、タイムが伸びない要素は何かあったのでしょうか?

A

車両・エンジンとも開発が進み、気象条件でも好タイムが出る状況でしたが、それが伸びなかった理由としては、路面状況の影響が大きかったと思います。

2.2014年シーズンを振り返って
Q

NRE実戦投入に至るまでの設計、開発フェーズを振り返って、今だから書ける「こんなコンセプトを組み立てました」「こんな技術にこだわりました」「こんなに大変だったと記憶に残っていること」などを教えてください。

A

シーズン前に発生したトラブルが起因して前半戦で大きく遅れを取ったので、これを取り戻すため後半は、もてぎ、オートポリス、菅生の燃料流量90kg/hで走るレースを3つとも獲ることを狙って、当初計画とは違ったスペックに計画変更したり、大変な一年でした。

Q

NREにとって初めてのシーズン7戦を通して、どんな部分・要素においてどんな開発を進めてきたのか、書ける範囲で教えてください。

A

チームにとっても初めての車体・エンジンなので、セットアップに悪影響しないエンジン特性を目指し、開発を進めました。

Q

エンジンの性能面(出力、過渡特性、燃費など)については、シーズン当初から7戦を戦う中で、どう変化(向上)してきたのでしょうか、これも書ける範囲で教えてください。

A

出力は、まったく新しいエンジン規定がスタートしたばかりなので、従来のNAエンジンの""正常進化""とは比べられないほど(シーズンの中で)上がっています。
ドライバビリティも前半はドライバーによって問題になっていましたが、逆にデータ数が増えることにより改善が進み、後半は扱いやすい特性になりました。

*NAエンジン: NAはNatural(Nomaly) Aspiratedの略。すなわち「自然吸気」であって、大気をそのままエンジンに吸い込んで燃焼を作るエンジンのこと。これに対して今季から導入されたNRE(Nippon Racing Engine)は排気タービン駆動過給機(ターボチャージャー)で空気を加圧(圧縮)してからエンジンに送り込む。

Q

実戦を進める中で発生したトラブルの内容とその対応について、これも書ける範囲で教えてください。

A

今年に限ったわけではないがベンチにて耐久性能を確認していたものが、レース用エンジンにおいて部品の品質問題が発生。とくに前半はターボチャージャーに不具合が発生する事例が多かった。

*ベンチ: エンジン(など)の台上試験を行う設備のこと。基本は負荷と回転速度を一定に保って性能を計測し、その条件を変えて何点も測定する。しかし現在の競技用エンジン開発においては、連続的に負荷と回転速度を変化させて実走状態を再現できるベンチもあり、これらを使って連続走行における耐久性能の確認も行う。

Q

2014年シーズンの7戦を、エンジン・サプライヤーとしてどう戦ったのか、その流れを振り返って、とくに「良かった」「うれしかった」と記憶に残るレースや状況、「あれは残念だった」「悔しかった」と記憶に残るレースや状況、それぞれについて書いていただければと思います。

A

もてぎ、オートポリス、菅生は、予選までは想定どおり良い流れを作れたが、もてぎとオートポリスの決勝で失速したことが残念でした。
あと、何故か小暮選手にトラブルが集中し、その原因が分からない部分もあり、小暮選手・中嶋企画に多大な迷惑をおかけてしまい、申し訳ない気持ちです。

Q

まったく新しいコンセプト、技術内容のエンジンNREを実戦に投入し、結果的には大きな混乱を生ずることなくシーズンを進められた裏側では、開発・改良、製造・整備などあらゆる面で多くの努力を払われたことと思います。その中で「こんなこともあった」「こんな苦労もした」「これが大変だった」など、今だから語れることがあれば教えてください。

A

無給油でのレースになったオートポリスで、レース距離を走り切れるか検討した結果、足りない可能性を残したままサーキット入りし、土曜フリー走行が終わるまでドキドキでした。

Q

NREとともに2014年の"主役"となったSF14について、昨年からの実車テスト、シーズン準備、そして7戦の実戦を通して、その資質をどう分析されているか、あるいはシンプルに感じていることなど、今思うことをお聞きしたいと思います。

A

SF14はコンセプトどおりのクルマで、とくに強い癖もなく、ドライバーの腕が発揮できる車両です。予選・レースともに燃費運転や極端にタイヤを温存する必要もなく戦えます。そういうカテゴリーが少なくなってきているので、スーパーフォーミュラとSF14は本当に速いドライバーを決めることができるカテゴリーであり、車両だと思います。

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