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後半戦用新型エンジン投入! その効果は!?
暑さとの戦いにも注目。真夏の第4戦もてぎ

第4戦ツインリンクもてぎ・プレビュー:マシン編

後半戦のスタートとなる第4戦ツインリンクもてぎ。
ここから新型エンジンが投入される。
そして、マシンとドライバーは夏の暑さとの戦いに挑む。

後半戦用新エンジン投入

 今回から、エンジンが最終戦までの新型となる。昨年は、この新型エンジン投入から、前半戦で苦戦を強いられていたホンダ勢が巻き返し、シーズンの勢力図が大きく変わった。
 今年はトヨタ、ホンダのエンジン性能差はほぼ均衡していた。たた、ピークパワー(最大出力)によるスピードでトヨタ、ドライバビリティ(操縦性能)の良さによるコーナリング性能でホンダという傾向はあった。
 だが、果たして、後半戦用の新型エンジンはどうなるのだろうか?
 後半戦仕様のエンジンは、今季の開幕前にはすでに開発が行われていた。3月の岡山テストの段階で、トヨタもホンダも仕様をほぼ固めていた。そこからさらなる詳細な開発を経て、ホンダとトヨタの新型エンジンが勇躍実戦へと望む。
 第4戦ツインリンクもてぎは、後半戦の展開を見通すためのきわめて重要な週末となる。
 そして、私たちは新型エンジンのパフォーマンスを直に目撃することになる。
 なお、この第4戦の燃料リストリクターによる燃料流量制限は、第2戦岡山と同じ1時間あたり換算で90kg(122.3リットル)の流量とされている。第1戦鈴鹿、第3戦富士の95㎏よりもガソリンの流量がやや減るため、若干のパワーダウンとなる。が、優れたドライバビリティが発揮できれば、フォーミュラカーならでは俊敏で鋭い走りが期待できる。

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暑さと冷却の要求

 第4戦は8月の終わりの開催とはいえ、内陸の北関東のツインリンクもてぎは晴れると気温が高くなる。これはエンジンやブレーキの冷却にとって楽ではない条件となる。そのうえ、ツインリンクもてぎのコースは、短いストレートを30Rや50Rのような半径の小さなタイトなコーナーで結んだようなところが多く、常に強いブレーキングと加速が繰り返される。短いストレートではエンジン冷却のラジエーター、過給されて熱をもった吸気を冷やすインタークーラー、ブレーキのディスクとパッドとキャリパーに冷やすための風が当たる時間が短く、すぐにまたブレーキングになってしまう。そのため、このツインリンクもてぎはシーズンで最も冷却に厳しいコースとなっている。
 ブレーキについては、昨年からツインリンクもてぎ戦用に、冷却性能を向上させたブレーキディスクと、大型のブレーキ冷却用ダクト(空気取り入れ口)が用意されている。ブレーキディスクは、中に冷却用の空気が通る穴が開いているが、この穴の数を多くしたものがある。この大型ブレーキ冷却用ダクトは、開口部の面積が大きく、より多くの空気を取り込めるようになっている。だが、車体の空力性能に対しては悪影響もあるので、気温とブレーキの状態をみながら大型か通常型かを最終決定をすることになる。
 通常、エンジンのラジエーターとインタークーラーの冷却は、左右のサイドポンツーンの後端とサイドポンツーン上に立つチムニー(排熱用の煙突)で行っている。だが、暑い時には、とくに右側のサイドポンツーンの排熱口をどう開けてくるか?がポイントとなる。右側のサイドポンツーンには、高温の排気ガスの熱で赤くなりながらエンジンの吸気を加圧するターボチャージャーと、その加圧された吸気の熱をとるインタークーラーがあり、これを冷やすことがエンジン性能にとって重要となる。右側のサイドポンツーンには、上面に熱気を排出する大きな開口部が設けられている。しかし、サイドポンツーン上面の気流に悪影響を出さないように、通常はこの開口部は閉じられているか、後部をほんの少し開ける程度。また、側面にも熱気を排出するルーバー(サメのエラのような形の空気排出口)を開けているところが多い。  車体の空力性能を考えれば、なるべく冷却のためのダクトや開口部を大きく開けずに、気流を乱さないようにしたい。反面、エンジン性能と信頼性を考えれば、冷却をしっかりとさせたい。この相反する要求にエンジニアはどう対処してくるのか? 予選では短時間の走行なので空力優先、決勝では冷却優先とするのか? 予選と決勝でセッティングを自由に変更できるスーパーフォーミュラならではの面白さがここにも活かされてくる。

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ダウンフォースとトラクション

 ツインリンクもてぎのコースは、先述のように速度が低めのタイトなコーナーが多い。ここをいかにうまく抜けて、フル加速に移れるか、そして、次のコーナーへより短い距離と時間でブレーキングを完了できるかが速く走るために重要となる。
 これを実現するためには、ダウンフォースをしっかりつけておきたい。これで車体とタイヤをしっかり路面に貼りつかせ、ブレーキング、コーナリング、加速をより安定した状態で行えるようにしたい。しかし、冷却性能を優先すると車体周りの気流への影響から、ダウンフォースが減ったり、空気抵抗が増えたりする可能性もある。
 コーナーを抜けたあとも、鋭い加速が重要となる。この加速時に路面をとらえて進むことをトラクションといい、このトラクションのかかりの良さが鋭い加速ができるかどうかを左右する。トラクションのかかりを良くするには、空力によるダウンフォースでタイヤを路面に貼りつかさせることも大事だが、タイヤがきちんと路面をとらえるようにさせることもより大切となる。そのためにはサスペンションのセッティングもきわめて重要となる。サスペンションに加えて、前後の重量配分などクルマとしてのシャシーの基本機能も問われる。  ツインリンクもてぎは、走れば走るほど走行ラインのバリエーションが見つかる奥の深いコースと言われる。そして同時に、マシンのセットアップについても、フォーミュラカーならではの空力性能と、クルマ本来のシャシー性能の両方で高度なバランスが求められる奥が深いコースである。

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ストレートのスピードと戦略

 ダウンフォースが欲しい。これはツインリンクもてぎのコースを走るのに共通した要求だ。しかし、ダウンフォースをつけると安定性は増して、コーナリングやブレーキングやトラクションは良くなるが、空気抵抗が増えがちで、ストレートスピードは落ちてしまう。
 接近戦と追い抜きが得意なSF14が昨年から投入されたことで、ツインリンクもてぎはバトルポイントが多いエキサイティングなコースになった。とくに、ヘアピンコーナーから90度コーナーへの762メートルのダウンヒルストレートは、SF14のオーバーテイクシステムとあいまって決勝でオーバーテイク(追い抜き)ポイントとなる。
 このとき、ダウンヒルストレートでのスピードが重要となる。ダウンフォースを重視して空気抵抗が増えてしまうと、たとえオーバーテイクシステムを利用してもオーバーテイクを達成できるスピードにならなくなってしまう。逆に、ダウンヒルストレートでのスピードを重視しすぎてしまうと、ダウンフォース不足で30Rのヘアピンの立ち上がりのトラクションが悪くなってしまって最高速に達するのが遅くなってしまう上、90度コーナーでのブレーキングでもマシンが不安定になるのを抑えるため、早めにブレーキングを開始する必要が出るかもしれない。こうなるとダウンヒルストレートでライバルにつけいる隙を与えてしまうことにもなりかねない。また、ストレートスピードを重視しすぎると、決勝ではタイヤの性能の低下が早まってしまう恐れもある。
 ダウンフォース、トップスピード、タイヤの性能変化、ピットストップでのタイヤ交換本数と燃料補給量など、きわめて複雑に絡みあう要素のなかから、ドライバーとエンジニアは最適なところを見つけ出さなければならない。だが、それを見つけるのに使えるのは土曜と日曜のフリー走行とスタート前の8分の走行のみ。限られた走行時間で、どう対処してくるのだろうか? 第4戦は戦略的にもとても興味深いレースだ。

雨への対応

 さらに夏のツインリンクもてぎは北関東特有の午後から夕方のスコールも多く、予選のQ3や決勝終盤はこの影響を受ける可能性がある。この雨が思わぬ展開をもたらす可能性もある。
 突然の雨に対して、タイヤ交換や空力セッティングの変更など、チームがどのように対処できるのか? ここは、臨機応変な対応ができるかどうか、チームの技量が問われる。

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ツインリンクもてぎ・ロードコース コース図(PDF)
エンジニアたちの作戦計画04・第4戦ツインリンクもてぎ
第4戦ツインリンクもてぎ レースフォーマット
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