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FN09・テクノ・ロジカル

第3回:FN09に向かい合った者たち

国内専用マシンとして誕生した“FN09”。それゆえ実際に使うエンジニアやドライバーにとっては、まさに未知の領域だった。彼らは、ニューマシン“FN09”に何を感じ取り、どう対応してきたのか? 彼らの証言を基に、初のフォーミュラ・ニッポン専用マシンの真実を見いだしてみたい。

決意と不安
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2008年8月 先行開発車両
 2007年8月26日に株式会社日本レースプロモーション(JRP)は「2009〜2011 JRP 中期計画報告会」を開催し、2009年シーズンから導入予定の次期シャシーについてコンピュータ・グラフィックス(CG)による初期デザインを発表した。そのアメリカ製シャシーは斬新なフォルムではあったが、ヨーロッパ製シャシーを見慣れていた日本のフォーミュラ・ニッポン関係者の目には特異なフォルムと映った。

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先行開発車両
「それまで僕はヨーロッパのF3やGP2をイタリア製シャシーで戦っていましたし、2008年にフォーミュラ・ニッポンを戦ったときもイギリス製シャシーで戦いました。だから最初に次期シャシーのCGを見たときは、近未来的と感じる一方で玩具みたいとも思いました」とドライバーの平手晃平(TEAM IMPUL)は第一印象を述べている。

 次期シャシーのフォルムに違和感を覚えた関係者は少なくなかったが、そもそもJRPは当初から「これまで見たことのないようなデザイン」という注文をつけ、シャシー・コンストラクターのスウィフト・エンジニアリングはそれに応えたデザインを行ったからだ。
 JRPの狙うイメージには沿ったものではあっても、だが実際にレースを戦う関係者の意向を無視するわけにもいかない。様々な評価を受けてJRPは改めて協議を重ねたが、「独自のフォーミュラカーを作りたい」という意志には変わりがなく、妥協は最小限に留め初志貫徹する決意は揺るがなかった。そして2008年3月3日、JRPはほぼ最終形となる次期シャシーのCGを発表した。細部には手が加えられていたものの、全体的なフォルムは初期デザインを踏襲していた。

 実際に設計図が上がってくると細部の仕様の変更や修正に時間を取られ、同年8月18〜19日に富士スピードウェイで実施された先行開発車両2台のシェイクダウンは、日程的にはギリギリで間に合った状況だった。先行開発車両による走行テストは、公平性を保つ観点から各チームが順番に担当して続けられた。そして2008年12月第1便、09年1月に第2便として、次期シャシー(FN09)が木箱で日本へ運ばれて各チームへ届けられた。

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新シャシーとの戦い
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村田卓児(TEAM IMPUL)
 しかし、いざ箱を開けて組み立てが始まると、まもなくチームからは不満の声が漏れてきた。
「それまで馴れていたイギリス製シャシーに比べると、アメリカ製シャシーは、正直に言えば精度の面でバラツキが大きかったんです」とエンジニアの村田卓児(TEAM IMPUL)は言う。

 この点が組み立てにとりかかったばかりの各チームから聞こえてきた結果、初期の違和感とないまぜになって、FN09に対しては走り出す前から期待感よりも不安感がついて回ったことは否定できない。だが、基本コンセプトを守った中嶋悟JRP会長は言う。
「最初の組み立てが難しかったのは当然なんですよ。だってそれまで使ってきたローラのシャシー(FN06)は、元々は2002年にローラが国際F3000のために開発した車体(B2/50)で、それから少しずつ改良を受けながら7年間も使われてきたもの。この間に問題は出尽くして、完成度は上がります。でもこちらは1年目。レーシングカーは市販乗用車ではないのだから、最初のモデルの組み立てが大変なのはヨーロッパもアメリカも変わりません。要するに、モノがすべて新しくなった、ということです」

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田坂泰啓(NAKAJIMA RACING)
 エンジニアの田坂泰啓(NAKAJIMA RACING)も、組み立てについては村田と同じ印象を述べているが、「それを頭に入れて組み立てたら、きちんとコーナーウェイトが揃っていて驚いた。イギリス製シャシーは、精度は高いのに組み立てたら……ということもあったから。つまりあの程度の精度でも十分と感じた」と付け加えた。さらに田坂はもうひとつ驚いたことがあったという。
「シャシーが届いて間もない2月半ばに富士スピードウェイで公式合同テストがあり、ほとんど時間がないのに組み上げてきちんと走らせたでしょう? 日本のチームの技術力は捨てたものじゃないと感心しました」
 これは非常に興味深いエピソードと言えるだろう。レーシングカーは量産市販車とは似て異なる製品である。デリバリーされた段階では未完成であり、それをレーシングカーとして完成させ、性能をいかに引き出すかはそれを受け取ったレーシングチームの力量次第なのだ。

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FN09の特徴であるフロントウイングのパーツ構成

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小暮卓史(NAKAJIMA RACING)
 さて、ドライバーに初搭乗の印象を尋ねてみよう。
「とにかく大きいと思いました。車幅は2メートルでしょう? 運転席からの見切りが悪いので、テストでは片方のミラーを外して車幅感覚をつかんだこともありました」とドライバーの小暮卓史(NAKAJIMA RACING)。また、前出の平手は、「それまで乗っていたフォーミュラカーに比べると、大きいし重い。だからその分、確かに機敏な動きは少し苦手で、競り合うのが難しいクルマだと思った」と述べていた。
 03年にデビューしたB351、06年にデビューしたFN06を経験し、その後F1にまで進出してFN09に乗った井出有治は、FN09に初めて乗ったときの感触を「新しいエンジンのパワーはびっくりするくらいある。ちょっとやばい、と思ったくらいだった」と表現する。

 従来のフォーミュラカーとの違いに戸惑ったのはエンジニアも同じだった。新しいFN09は、これまでとは全く異なる空力特性を示すベンチュリーカーなのだ。
「寸法や重量が大きくなったこともあって、(FN06に比べ)挙動の面で一般的なフォーミュラカーとは違うものになったというのは事実です。だから、ドライバーとコミュニケーションを取りながらセットアップを進めるうえでも、それまでとは少し勝手が違って困惑した憶えがあります」と村田。
 田坂もセッティングには悩まされたという。
「中高速コーナーでは強力なダウンフォースが得られる半面、低速コーナーではリアエンドの挙動がナーバスになってしまう。そのあたりのバランスを取るセットアップを見つける難しさがあった」

 初年度は、セットアップを容易にするため、ダンパー/スプリング・ユニットにサードエレメントを装着して解決を図ろうとするチームも現れた。ワンメイク規定の中で、当初ダンパーについては規制が存在しなかったことを受けての工夫であった。だが、開発競争はコスト高騰を招くとして、車両規則に左右ダンパーを連携させる機構を禁止する条項が追加され、最終的にサードダンパーは禁止され現在に至っている。

FN06 (2006年〜2008年)
FN09 (2009年〜)
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まだ伸びしろがある未完のマシン
 このようにコスト抑制と性能の均衡化を達成するために、『ワンメイク』という制限を設けたため、自由な技術開発はいきおい制限される。それでも、規則の範囲内でチームは車両規則で許された領域について技術開発を進めている。とりわけ第三者からもはっきりと目にできるものとして、エアロパーツの存在が挙げられる。高さ15mmに制限されているものの、フロントウイングやリアウイングに装着されるガーニーフラップはその典型で、各チーム、各マシンともに形状や寸法や装着位置は千差万別だ。

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左写真:フロントウイングの白い部分に立つ銀と黒のついたて状のパーツがガーニーフラップ。
右写真:リアウイングでは"POTENZA"の文字上あたりに立っている。

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平手晃平(TEAM IMPUL)
 3シーズンにわたり付き合ってきたFN09について、ドライバーふたりに総括してもらった。
「正直に言って、動きが(自分が知っている)フォーミュラカーとは少し違うので戸惑いはあります。でも、条件は全員が同じ。その中で自分が速さを見せなければならないレースであることは分かっています」と平手。
「僕は運転が難しければ難しいクルマほど、やる気を感じる。だから、いまのクルマに不満はないし、新しくなったら新しくなったでチャレンジングと感じるでしょう。正直、クルマはなんでも構わないんです」と小暮。

 エンジニアの総括も紹介しておこう。
「サードエレメントが禁止されたあとなど、何に手をつけたらいいのか分からなくなったこともありました」
 現在の状態へ熟成するまでエンジニアは、従来のマシン以上にあの手この手を繰り出し苦心しなければならなかったのは事実だろう。だがFN09はそれに応えて進化を続けてきた。苦労をかけられたからこそ、最近は可愛くてしようがない、と田坂は言う。
「いまは、どうやって"より良い子"にしてやろうかと考えていると楽しい。それに昨季はシーズン途中でパワーステアリングが導入され、今季はタイヤの仕様が大きく変わった。だから作業メニューは溜まる一方で、(より良くするための仕事を)こなしきれていないのが実情です」

 その点は村田も同じように感じている。
「そもそも、現在のフォーミュラ・ニッポンは走行時間もテスト機会も、以前よりは大幅に減っている。同時に、昔の予選方式のように時間をかけてクルマのセットアップを徐々に進めていき、最後の5分で究極の速さを発揮することを追い求めるということはできない。ある程度のところで見切って、ドライバーをコースへ送り出す必要がある。その意味で言えば、いまのシャシーと3シーズンにわたって付き合ってきましたが、エンジニアリングの面では“やり尽くした”といった感はまったくありませんね。まだまだやりたいことが山積みです」

 言い換えれば、FN09シャシーは3シーズンにわたって戦ってきたが、工夫の余地、開発の余地はまだ各所に残されており、進化を続けているということになる。FN09は、エンジニアにとってもドライバーにとっても「未完」なのである。また、レースを見守るファンに対しても、FN09はすべてを見せきっておらず、まだまだ新しい面を見せてくれる可能性を持つマシンなのである。
 システムEなど新しい機構の開発が進められているが、今後さらにエンジニアとドライバーの共同作業による開発が進めば、フォーミュラ・ニッポン自体も“これまでとは違うフォーミュラカー・レース”へと進化していくことが可能になる。

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(ライティング 大串信)

〜「FN09・テクノ・ロジカル」 第4回に続く〜

短期集中連載「FN09・テクノ・ロジカル」
第1回:FN09に秘められたフォーミュラ・ニッポンの真意
第2回:FN09の実力と誕生した背景
第3回:FN09に向かい合った者たち


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