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フォーミュラの魂 2011 “第4戦 ツインリンクもてぎ”

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笑顔なき勝利/“常勝”を目指すTEAM IMPULの修羅場/メカニックたちも追い求めるコンマ1秒の戦い

今季第4戦。ここまで絶好調のPETRONAS TEAM TOM'Sを止めたのは、やはり“常勝”軍団のTEAM IMPULであった。しかし、ウィニングランを迎えたIMPULのメカニックたちの顔には、歓喜がなかった。嬉しいはずの今季初勝利。その裏側には何があったのだろうか?

常勝TEAM IMPULのアキレス腱
ph  コクピットから汗だくで下りてきたドライバーたちが、その場にへたり込みそうになる。それほど過酷な暑さのもとで行なわれたフォーミュラ・ニッポン第4戦もてぎ。52周のレースに義務付けられた2回のタイヤ交換と同時に、いずれのタイミングでも給油。燃料タンクを軽い状態にして、終始全開モードで駆け抜け、今季ようやく初優勝を果たしたのは、ディフェンディング・チャンピオンのNo.1 ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ(TEAM IMPUL)だった。
 自らと全く同じ作戦を取ったNo.36 アンドレ・ロッテラー(PETRONAS TEAM TOM'S)との息詰まる攻防を制し、ガッツポーズを見せながら、チェッカーフラッグを受けるデ・オリベイラ。だが、それを迎えるチームに派手な喜びのアクションはない。“レースには勝ったが、内容的にはまだ負けている”。スタッフの心を占めていたのは、優勝の安堵感よりも、現状を何とか打破しなければという焦燥感だった。
 今季、TEAM IMPULは、オリベイラと平手晃平の2人をドライバーとして起用。このラインナップは、去年と変わっていない。だが、現場のスタッフはこのところ毎年のように入れ替わっている。今年のシーズンを迎えるにあたっても、何人かのスタッフが離脱。“最強軍団”と言われ続けてきたチームだが、その内情は少しずつ変化してきた。それに伴い、ピット作業のメンバーも入れ替わる。そこがTEAM IMPULにとって、アキレス腱となった。
ph  開幕戦は、スタート直後に予選4番手だったオリベイラが他車と接触して、大きく後退。早めのピットインを余儀なくされたものの、何とか6位までリカバリーしてレースを終える。しかし、第2戦・オートポリスでは、他陣営のほとんどが無給油作戦を選択する中、TEAM IMPULは給油する作戦を選択。他チームがレインタイヤからスリックタイヤに交換するためだけのビットインを行なったのに対して、デ・オリベイラは給油のために1回多くピットに入らなければならなかった。その結果、PETRONAS TEAM TOM'Sに開幕2連勝を許すことに。まさに惨敗、あるいは自滅といっていい結果だった。 「作戦的にウチのチームには問題があった。他のチームが無給油で走り切れるのに、ウチのチームは、計算してもどうしても無給油では走れないという。だから、あれしか選択肢がなかったんだ」。ドライバーのデ・オリベイラも、憤懣やるかたないという調子でレースを振り返った。

チーム力の差を見せつけられた第3戦
ph  そこでTEAM IMPULが勝負を賭けたのは、第3戦富士。もう負けるわけにはいかない。予選では、その期待通り、デ・オリベイラがポールポジションを獲得。だが、ライバルも力は互角。1000分の1秒までオリベイラと全く同タイムながら、タイミングの差だけで2番手となったのはロッテラー。3番手には中嶋一貴(No.37 PETRONAS TEAM TOM'S)、4番手に平手と並び、決勝もTEAM IMPULとPETRONAS TEAM TOM'Sによるガチンコ勝負が予想された。
 その勝負を分ける大きなファクターのひとつとなったのが、ピットワーク。今年序盤のタイムを検証してみると、TEAM IMPULは、PETRONAS TEAM TOM'Sと比べて、タイヤ交換がわずかに遅い。そのことを、チームは分かっていた。だからこそ、オートポリスでも富士でも、日曜日の朝、TEAM IMPULはどのチームよりも早くサーキット入りし、タイヤ交換の練習を繰り返した。特に、第3戦富士からは、2回のタイヤ交換が義務付けとなった。コース上での速さだけでなく、タイヤ交換が今まで以上に重要だと言うことは明らかだった。
ph  ところが、富士の決勝、TEAM IMPULはクルマの速さだけでなく、ピットワークで明らかに負けていた。デ・オリベイラが最初のピットインの際、勘違いからクラッチミートしてしまい、タイムロスしたことを除いても、平均するとPETRONAS TEAM TOM'Sより1秒ほどタイヤ交換が遅い。ほぼ同じ作戦を取りながら、結果は3位と4位。まさに目に見える形で、力の差を見せつけられた瞬間だった。2006年、TEAM TOM'Sがフォーミュラ・ニッポンに参戦を開始した頃は、全く負ける気がしなかったピットワーク。それが、いつの間にか逆転され、大きく差を付けられていた…。これでは、いくらドライバーががんばっても、チャンピオンを獲れるはずがない。

練習で足りなくなった窒素ボンベ
ph  そこで、富士のレースの後、星野一義監督を中心に、チームのガレージではミーティングが開かれる。とにかくチームの力を上げなければならない。ピットワークを早くしなければならない。それから、もてぎのレースまで、チームのガレージでは、毎朝30〜40分のタイヤ交換練習が行われてきた。メンバーやポジションを入れ替えたり、他チームのやり方を研究して、今までとは違う方法を試したり。どうすればコンマ1秒でもコンマ2秒でも、タイムを削れるのか。個人個人も練習や研究を積み重ねてきた。
 その練習は、第4戦もてぎの現場に入ってからも続けられる。このレースに向けて、TEAM IMPULが用意していた窒素ボンベは16本。だが、それでは足りなくなり、他の多くのチームから融通してもらう。決勝日のフリー走行後に、タイヤ交換担当のメカニックが1人、体調を崩して、本番は控えのメンバーで対応しなければならなかったこともその理由だが、結局他から調達してきたのは7本もの窒素。本番用の4本は新品で残しておき、その他の19本は、すべて練習に使った。窒素ボンベは、圧が高いうちしかピットワークに使えない。それでも新品なら練習を4〜5回はできる。19本という本数を考えれば、個人練習も含めて、どれだけTEAM IMPULがインパクトレンチを回したかが容易に想像できる。それだけ、TEAM IMPULは、もてぎでのピットワークを重視していたのだ。

今季初勝利でも消えない緊張感
ph  その成果が出たのか、デ・オリベイラの1回目のピットストップは、ロッテラーと全く同タイムの14秒5。ところが、2回目のピットインでは、左フロントタイヤのナットが緩まない。スタート前の8分間のウォームアップでの練習なのか、1回目のピットインなのか、あるいはこの2回目のピットインの時なのかは分からないが、インパクトのソケットの入りが浅く、ナットを舐めていた。そうなると、ソケットを回して位置を変え、ナットの違う穴にソケットをはめ込まなければならない。その作業に2秒半ほどの時間がかかった。
 デ・オリベイラがピットイン前、ロッテラーに対して5秒以上ものマージンを稼いでいたため、コースに戻った時にはトップをキープするが、ミスはミス。高橋紳一郎工場長も、現場を叱責した。PETRONAS TEAM TOM'Sは、いずれのピットワークでも、全くミスを犯していないのだ。なのに…。平手のピット作業に関しても、同じ。ピットインさせるタイミングに迷った。平手の停止位置が少しズレたとは言うものの、やはり作業の早さで勝ることができず、中嶋一貴を逆転することができなかった。
ph  残る3戦、このままでは勝てない…。これまで、ほぼ毎年のように守り続けてきたドライバーズタイトルもチームタイトルも、その手から滑り落ちてしまう。
 ようやく今季初優勝を果たしたTEAM IMPUL陣営には、今もピリピリとした空気が漂っている。これから次の鈴鹿に向けて、もっと細かい部分まで煮詰めなければ…。勝者であり続けるとは、それだけ厳しいことなのだ。“勝って当然”という理念を持つチームが背負うプレッシャーは、尋常ではない。今も、TEAM IMPULのガレージからは毎朝、インパクトレンチの音が響いているはずだ。

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Reported by Yumiko Kaijima


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