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FN09・テクノ・ロジカル

第2回:FN09の実力と誕生した背景

長く続く日本のトップフォーミュラでは、多くの素晴らしいフォーミュラカーが使用されてきた。この血統を受け継ぐフォーミュラ・ニッポンでも、初期は複数のシャシーが使用され、そして2009年からは現行のFN09に収斂(しゅうれん)された。ここにどんな意味があるのだろうか?

新型シャシーに求められたもの
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中嶋悟 JRP会長
 日本独自のフォーミュラカーレースを目指して2009年に新型車両を導入する際、株式会社日本レースプロモーション(JRP)の中嶋悟会長は、元レーシングドライバーの立場からいくつかリクエストを出した。

1) 今までの車両よりも速いクルマ。
2) 前車の風の影響を受けにくいクルマ。
3) 一般的なフォーミュラカーと違った日本独自のスタイルをしたクルマ。

 09年、フォーミュラ・ニッポンを運営するJRPは、「F1をはじめとするヨーロッパとの関係をもう一度考え直し、F1への踏み台としての立場を脱却して、日本独自のトップカテゴリーとして地位を確立したうえでアジア、パシフィック地域を代表するレースを構築する」と新方針を固め、新型車両導入を決めた。中嶋会長が出したリクエストは、この方針に沿ったレースを行うために必要な要件であった。

それはアジア圏の最速であること
image  1)の「今までの車両よりも速いクルマ」は、アジア、パシフィック地域を代表する独自のカテゴリーとして求められた要件である。08年までのフォーミュラ・ニッポンでは、FIAが定めた旧F3000規定をベースに開発されたシャシー/エンジンが用いられてきた。F3000とは、F1直下に位置し、F1へ進出する選手を最終的に養成、選抜するためのカテゴリーであった。
 しかしFIAは旧F3000を95年いっぱいで中止し、ワンメイクによる新F3000への移行を決めた。フォーミュラ・ニッポンは、敢えて96年以降も旧F3000規定にこだわり、レースを続けた。しかしFIAは2005年、F3000そのものを廃止し、排気量4,000ccエンジンを用いて走行性能をF1に近づけたGP2をF1への登竜門として始めることになった。
 こうした時代の変化に伴い、フォーミュラ・ニッポンも時代に即して走行性能を高め「より速いマシン」とする必要があった。そこで、トヨタとホンダがIRL/インディカーシリーズで用いていた自然吸気V型8気筒レーシングエンジンをベースに、排気量を3,500ccから3,400ccとした新エンジン(インディ用エンジンはガソリンではなくメタノール90%、エタノール10%の混合燃料を用いる)の供給を受け、それに応じた一回り大きなシャシーを準備して新型車両を開発することを決めたのである。
 GP2で用いられる排気量4,000ccV型8気筒エンジンは、出力約600PS、重量150kg。これに対しフォーミュラ・ニッポン用排気量3,400ccV型8気筒エンジンは、出力600PS以上、重量120kg。どちらも最高回転数はリミッターにより10,300rpmに制限されているものの、GP2用エンジンは元々耐久レース用のエンジンで大きく重いが、フォーミュラ・ニッポン用エンジンはフォーミュラカー用に開発された軽量コンパクトなエンジンをベースとしており、その性能はGP2用エンジンを上回る。

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オーバーテイクが出来るクルマ
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 新型車両に求められた2)の「前車の風の影響を受けにくいクルマ」というリクエストは、レースを観戦するファンを考慮したものだ。近年、空力性能を追求したフォーミュラカーは、スリップストリームが効きにくいうえ、前車に接近すると背後の車両のダウンフォースが抜けてしまい、それ以上接近できなくなって結果的にオーバーテイクの機会が少なくなる傾向がある。JRPが、新型車両をFIAがF1などでは禁じているウイングカー、正確にはベンチュリーカーにしたのは、ダウンフォースを確保しながらオーバーテイクができる空力特性を求めたからだ。ちなみにウイングカーとは車体側面にあるサイドポッド下面を後方へ向かって跳ね上げ、路面との間に空気を通してダウンフォースを生み出す構造を持ったマシンのことを言う。F1では、あまりにも大きなダウンフォースが生じるので禁止になった経緯がある。
image  中嶋会長は言う。「コースにもよるけれども(最近の)フォーミュラカーレースではオーバーテイクがあまり見られずおもしろくないと言われていました。その問題を解決するにはウイングカーかな、と発想し、高速時にはグラウンドエフェクトを効かせ、低速時にはメカニカルグリップで走るクルマにしようと考えました」
 この時点で、新型車両はFIAの構築したフォーミュラカーのヒエラルキーから外れた規格になることが決まった。F3000規格(2006年から2008年まではJAF-F3000規格)は、名実ともにフォーミュラ・ニッポン規格となったのである。
「ヨーロッパとの関係が切れることは心配しませんでした。80年代、90年代とは違って、すでにそれほど綿密な関係があったわけではありませんから。ヨーロッパでは、F1に行くためにはGP2でという図式になっていたし、それに追従することはないでしょう。もちろんドライバーの交流はあってもいいんです。でも技術的なつながりには意味はなかったと思います」

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どことも違うスタイルを持ったクルマ
 1)、2)の要件に加え3)の「一般的なフォーミュラカーと違った日本独自のスタイルをしたクルマ」というリクエストは、まさにFIAのヒエラルキーから離れて、独自路線を進むカテゴリーであることを内外関係者及びファンに対する決意の表明でもあった。シャシーについては海外コンストラクター数社に国内コンストラクターを加えて行われたコンペで決まった。スウィフトに決まったのはその中で最も個性的なデザインだったからだ。コンペに参加してきた他コンストラクターが提案してきたのは、ヨーロッパスタイルの常識的なデザインだった。だが、スウィフトのデザインは今までにないサイズであり、特徴的なフロントウイングを持ち、エンジンカウルが低く、最も違って見えた。
 完成した新型車両、FN09を眺めた中嶋会長の最初の印象は、「でかいな」というものだった。「20cmほど広いだけなのに、幅広くて大きくて、アメリカンな感じがして迫力があるなと思いました。デザインは好き嫌いがあるけれど、個性があってわたしは良いと思いましたよ」。

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 スウィフトは1997年から2000年までCART/チャンプカーシリーズにシャシーを供給しており、FN09の基本設計はCART/チャンプカーシリーズ用シャシー(ウイングカーであった)に遡るものではあるが、外観は大きく変更されている。ウイングカーはF1では依然として禁止されたままだが、スウィフトは最新の空力解析により危険性を最小限に抑制してデザインを行った。特徴あるフロントウイングの造形は、最新の空力デザインの流れから見ると、絶対性能では最善とは言い難いが、他に類を見ない形状で個性を十分に発揮している。
 レースを演出する点では利点もある。というのも、ウイングノーズとスポーツカーノーズを組み合わせたデザインだと言え、ワンメイク規定で基本形状は変更できないという制限の中、規定の範囲内で各種のガーニーフラップを追加するなどの工夫が見られるからだ。近年はアッパーウイング上面に、かつてスポーツカーノーズのチューニングに用いられたような進行方向に伸びるエアダム式のガーニーフラップも現れ、マニア心をくすぐるバリエーションとなっている。また、不意の追突時、前車に後車が乗り上げて起きる深刻な事故を防ぐために役立っているという指摘もある。
image  もうひとつのデザイン上の特徴はリアエンジン上の造形にある。F1などで見慣れた自然吸気エンジン用エアボックスとそれを覆うリアカウルの盛り上がりが存在せず、エンジン上部が低くデザインされているのだ。エンジン吸気はカウル上面に切られたルーバーを通して行われるため、これもまた自然吸気エンジンの絶対性能を追求するうえでは不利な造形だが、シンプルに絞り込まれた車体後方のデザインはスマートにまとまった。

オーバーテイクシステムというアイディア
 ウイングカー構造とともに、オーバーテイク支援を目的に導入された仕組みがオーバーテイクシステムである。他カテゴリーでも同様のシステムは各種用いられてきたが、国内トップフォーミュラが採用したのは初めてのことだ。フォーミュラ・ニッポンで採用したのは、通常リミッターで10,300rpmに制限されるエンジンの許容回転数を一時的に10,700rpmまで上げるというもの。ステアリング上のボタンを押すことで、決勝レース中5回まで、1回につき20秒間に渡って発動する。
image  ただし、最高回転域はすでにエンジンの出力が伸びない領域であり、400rpmを増やしても決定的なオーバーテイクツールとしては非力であった。だが、必ずしも大きな問題ではないと中嶋会長は考える。
「フォーミュラカーレースは、ドライバーが争うレースなのだということを考えると、F1のDRSのように無条件に速くなってしまうのもどうかなとは思うんです。これを使えば絶対追い抜きができる、というツールがフォーミュラカーレースにふさわしいかどうか。今、フォーミュラ・ニッポンで採用しているオーバーテイクシステムは、相手のミスがあれば、これを使って追い抜きができるかも、という領域のツールです。ただ、もう少し効果がある形にすれば、お客さまには喜んでいただけるかもしれない。それは今後の課題ですね」

image  現在のFN09が、どのカテゴリーより速くどのカテゴリーより遅いのか、という比較は意味がないと中嶋会長は言い切る。
「先日、同じツインリンクもてぎを走ったインディカーはFN09より3秒ほど遅かったようですね。鈴鹿でも、コースの場所によって、FN09はF1とそれほど変わらないスピードで走ります。でもそういう比較には意味がないんですよ。お互いに違うレースをやっているんですから、どちらが速いかと言っても何にもならない」
その通りだった。フォーミュラ・ニッポンは、独自のカテゴリーとして我が道を進んでいるのだった。

(ライティング 大串信)

〜「FN09・テクノ・ロジカル」 第3回に続く〜

短期集中連載「FN09・テクノ・ロジカル」
第1回:FN09に秘められたフォーミュラ・ニッポンの真意
第2回:FN09の実力と誕生した背景
第3回:FN09に向かい合った者たち


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