SUPER FORMULA Logo

SUPER FORMULA Official Website

JapaneseEnglish

Special Issue

SUPER FORMULA PADDOCK REPORT “V8エンジンのラストイヤーを狙う”
トヨタとホンダ、そのプライドが交錯する2013年……

SUPER FORMULA パドックレポート第2回
Yumiko Kaijima

次戦富士の直前には2014年からの新型車“SF14”のテスト走行が行われる。とても楽しみなことではあるが、今はまだ2013年のシーズン真っ盛り。特に現行のV8エンジンにとっては、歴史に残るラストイヤー。もはや“完成形”というほど技術が煮詰まり、集大成というべき両社のエンジンが雌雄を決する時である。ここまで2戦を終わって1勝1敗の五分。第3戦に向け、気合いも高まるトヨタとホンダ両メーカーの開発リーダーを直撃した。

V8最終年にこだわるエンジニアたち

 すでに発表されているように、全日本選手権スーパーフォーミュラは、来季からニューシャシー&ニューエンジンにスイッチされる。つまり、今年はスウィフト製のシャシーと、3.4リッターV8エンジンにとって最終年。トヨタ、ホンダ両陣営にとっても、新規格の2リッター直列4気筒ターボ“NRE(NIPPON RACE ENGINE)”に移行する前に、絶対に勝って終わりたいという気持ちは強い。
 ホンダの坂井典次プロジェクトリーダーが「これまで悔しい思いをしていた分、チャンピオンエンジンになって終わりたい」と言えば、トヨタの永井洋次主査も「有終の美を飾らせてもらいますよ」と、ホンダのチャレンジを阻止する構えだ。

photo

3.4リッター初年度はホンダが先行

 そんな今季の戦いの行方を見る前に、ここでは3.4リッターエンジンになった2009年からの両者のストーリーを少し振り返ってみたい。エンジンの開発は一歩一歩、何年にもわたって続けられてきたものだからだ。現在の3.4リッターエンジンになる以前、2006年からフォーミュラ・ニッポン(当時)には、トヨタとホンダが参入。2008年までは3.0リッターエンジンで戦い、トヨタ陣営が3連覇を果たしてきた。しかし、3.4リッター初年度となった2009年には、ホンダが遂にタイトルを獲得している。その年の開発について、坂井プロジェクトリーダーは振り返る。

「3.0リッター時代から、ギヤをシフトアップしていくと、3速から4速に上げた時に、トルクカーブにへこみがあったんですね。それを僕たちは“猿の腰かけ”と呼んでいたんですが、2009年に向けては、そこを何とか埋めるということが開発のポイントでした。
 埋めるためにやったのは、吸気系。排気系は長さや太さのサイズがレギュレーションで決められているので、大きな差を出すことができないんです。あの年は、バルブの開閉のタイミングやインジェクターの位置、燃料の吹き方など、何百種類もある組み合わせの中から選んでシミュレーションし、そこから3種類ぐらいに絞り込んで、ベンチでテストしました。最近のベンチは、実走の状態でテストすることができるんです。その開発の方向が当たっていたので、チャンピオンを獲れたんじゃないかと思います」

photophoto

トヨタは複合的なアプローチで攻める

 一方、トヨタも、そのトルクカーブのへこみに関しては、ホンダと同様気づいており、埋める作業は行っていたと永井主査。それでも2009年、ホンダ勢にタイトルを奪われた。そこからトヨタが着目したのは、クルマのセットアップだったという。

photo

「昔は、エンジンはエンジン単体のことだけ考えて開発していたんですけど、ちょうど2〜3年前から、エンジンのドライバビリティーがクルマのセットアップに関係してくるということに気付いたんですね。例えば、エンジンのレスポンスが変わると、車体のスプリングレートが変わったり、ドライバーの運転の仕方が変わったりする。
 そこに気付いてから、エンジンエンジニアが車体のセットアップを勉強し始めました。まずは社内で車両を分かっている人から勉強してアウトラインを理解して、その上で各チームのトラックエンジニアに色々教えてもらった。2010年頃からは、それをフィードバックして、エンジン開発に役立てています」

 ただエンジンのパワーを出すだけでなく、ピックアップ、レスポンスなどをシミュレーションで最適化。車体のセットアップとの相乗効果でタイトルを奪還したのが、2010年。そこから3年間、トヨタはタイトルを守っている。

photophoto

ここ数年、ちょっとした差が勝負を分けていた

photo

 現在、これと同じことを感じているのが、ホンダ陣営。坂井プロジェクトリーダーの言葉にも、エンジンのみならず“車両のセットアップ”という言葉が端々に出てくる。

「オートポリスの上り区間など、小さなコーナーが続いている部分での加速力では、ウチが勝っている部分もあったと思いますが、確かに、トヨタさんに対して、エンジンで負けている部分というのも、過去にはあったと思います。それが一番顕著に出ていたのが富士ともてぎで、いつもトップスピードで若干負けていた。でも、そこで段々分かってきたのは、我々がギヤレシオも含めた全体のセットアップに頓着していなかったということ。これまで、チームに対してああしてくれ、こうしてくれということは言いませんでした。でも、総合的なエンジンの使い方というか、チームへの提案も含めて、エンジンのどこを伸ばすか、その辺は足りていなかったんじゃないかと思います。
 特に、2012年からタイヤが変わったんですが、その特性を掴み切れていなかったというのはありますね。その点、トヨタ陣営には、2011年に中嶋一貴選手が戻ってきて、その年の暮れにメーカーテストと称してタイヤもテストしていた。我々はそこに着目していなかったんです。一昨年から全体的な馬力を上げて行くことを目標にし、それに関してはある程度できていたと思いますし、昨年はいい所に来ていた。でも、ちょっとしたことで負けが込んできたというか、アレ? ということが起きてきたんです」

 そのため、現在では車体のセットアップにも着目。チームと協力し、様々なアイデアを出し合いながら、エンジンの開発も進めているという。

2013年、始まった究極のV8エンジン対決!!

 そうやって両者が歩み、迎えたV8最終年度。すでにシリーズは2戦を終えているが、開幕戦の鈴鹿ではホンダエンジンを搭載するDOCOMO TEAM DANDELION RACINGのNo.40 伊沢拓也が優勝。第2戦オートポリスでは、トヨタエンジンを搭載するPETRONAS TEAM TOM'SのNo.2 アンドレ・ロッテラーが優勝を果たしている。オートポリスに関しては、天候に翻弄された部分もあるため、決してエンジンの優劣だけで結果が決まったわけではないというのが、両陣営の分析だが、とにかくここまでは1勝1敗のイーブン。

photo

 そうなると、来週の第3戦富士以降、戦いは激しさを増すということになる。ちなみに、ホンダの坂井プロジェクトリーダーの言葉にもあったように、過去の戦績で言えば、富士ともてぎは、トヨタ優位のサーキット。今年のホンダはそこでどう戦うつもりなのか?

「今年の目標は、トップパワーを上げることなんです。そのために、燃焼室の形状を変えたり、圧縮比やバルブ開閉のタイミングの最適化を図るなど、いろいろな開発を続けてきています。また、フリクションロスを無くすというのも、重要なポイント。摩擦係数が少ないオイルを試したり、往復運動系のパーツの表面処理を試したりもしてきています。その結果、今度の富士以降に積み替えるエンジンではトップパワーが数馬力〜10馬力は上がっているはず。やれることは重箱の隅を突きまくってやってきています」

photo

 これを迎え撃つ形になるトヨタの永井主査も、もちろん準備は万端。性能とドライバビリティー、さらに燃費と、すべての要素を念頭に置き、3.4リッターエンジンの集大成を目指しているという。

「性能を出しても、信頼性が落ちないよう、今年はレシプロ系を良くしています。また性能を使い切るためのパーツとして、例えばピストンを変更したりもしています。1つのピストンを作るためには、10種類ぐらいの物をシミュレーションするんですが、そこから選んだものをベンチで耐久試験しました。その他、企業秘密の部分もありますが、マッピング含め、いろいろやっていますよ。今持っている最高のもの(技術)を入れています。  目指しているのはズバリ、サーキットで速いエンジン。シミュレーションベンチと実際のサーキットでの気候条件を刷り合わせて、性能を使い切るため、穴が開きそうなほど重箱の隅は突いています。最終決戦の鈴鹿では、さらにギリギリまで、“使い切る”ことをやる展開になるでしょうね」

 そんな熱い戦いの片鱗が見られるのは、まず次戦の富士。富士では例年、トヨタ陣営、ホンダ陣営でギヤの使い方、ギヤ比なども違っていたが、今年はどうなるのか。100Rに入る手前、またダンロップからネッツコーナーにかけての走りをチェックしてみると、その違いが楽しめるかもしれない。

photo
永井洋治 トヨタ自動車・モータースポーツ部主査 (左)
坂井典次 本田技術研究所・SUPER FORMULAプロジェクトリーダー