SuperFormula

INFORMATION

コラム【武士が斬る!】vol.18 渾身の7,000文字!ありがとう2024年!

2024.12.30

皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。

 

 2024年もたくさんのドラマがあったシーズンだったと思います。最終ラウンドも素晴らしいレースが繰り広げられましたよね。そして新しいチャンピオンが生まれ、二人のチャンピオンがこのステージから降りることを決断しました。悲喜こもごも、SUPER FORMULAの舞台にはたくさんの感情が溢れています。私も何度も心が打たれるシーンに遭遇させてもらいました。これぞレース、これぞトップフォーミュラという魅力が溢れたシーズンだったと思います。そんなSUPER FORMULAの最終ラウンド鈴鹿を振り返ってみたいと思います。

 

 

 2連戦となった鈴鹿ラウンドは、チャンピオンが決まる緊張感が溢れるレースウィークです。金曜日にはチャンピオンの権利がある坪井翔選手、牧野任佑選手、野尻智紀選手の記者会見がありました。それぞれのこの週末にかける想いが伝わってきましたが、想いの強さではもしかしたらこの人が一番だったかもしれません。金曜日の走り出しであるフリープラクティスではこの週末でSUPER FORMULAから引退を発表した山本尚貴選手が最後のアタックシミュレーションでトップタイムを叩き出しました!人の想いの強さからくるエネルギーは計り知れません。山本選手は最終第9戦のQ1でもトップタイムを記録しました。最後のトップフォーミュラでの全開アタックをひたすら集中して、その刺激を、その風景を脳裏に焼きつけながらドライブを楽しんでいたことでしょう。。。おっと、このまま山本選手の話を続けるととんでもなく長文になってしまうので、山本選手の話は後ほどにしましょう。

 

 土曜日の第8戦の予選では、大きな波乱から始まりました。野尻選手が2021年Rd.5菅生戦でQ1落ちをして以来、29戦ぶりにQ1敗退となったのです。予選14位となった決勝では鬼神のごとき追い上げで5位に入賞するも、ここでチャンピオンの権利を失うことになってしまいました。勝者以外はすべて脇役になってしまうこの厳しいプロの世界、今年も野尻選手は昨年に引き続き引き立て役となってしまいましたが、SUPER FORMULAに欠かせない選手の一人に間違いありません。最終第9戦の予選では、前日のうっ憤を晴らすかのようにポールポジションを獲得。「俺を忘れるな!」そんな声が聞こえてくるような、野尻選手らしいアタックでした。ファンの皆さんはここ数年の野尻選手の活躍を忘れるわけはありませんよね。来シーズンも同じくチーム無限で走ることが決まっています。この2年の苦い経験から、このシリーズを引っ張っていくような強い野尻選手が戻ってくることでしょう。ベテランの域に達している野尻選手が、我々にどんな成長を見せてくれるのか、楽しみにしたいと思います。

 

 

 チャンピオンが決まるこの週末の中では、脇役なのに主役級のインパクトを残したこの選手を取り上げない訳にはいきませんよね。週末を完全に制し2連勝した太田格之進選手。まさに“飛ぶような“速さでした!昨年も最終戦を優勝で締めくくりましたが、この週末は誰も手が付けられないような速さで、今シーズン、勝てるポテンシャルがありながら歯車がかみ合わずに何度も勝てていなかったどころか、表彰台にも乗れていなかったことが信じられないくらいに、そのスピードは強烈にみんなの印象に残ったことでしょう。ゲスト解説に入っていた中嶋一貴TGR-E副会長も「早く海外に行ってくれって、他のチームは思っているでしょうね」と話すほど、格之進選手のスピードは各陣営にとって脅威に映るほどの2連勝でした。コースサイドで見ていると、格之進選手の高速コーナーの飛び込んでくる勢いを目の当たりにすることができます。今シーズン、数少ないですが予選をコースサイドで観る機会がありました。その一つ、菅生のSPコーナーでの格之進選手の走りは迫力があり、マシンの限界で駆け抜けていることが見て取れました。フリープラクティスでトラブルからのクラッシュがあり、そのあとの走り出しがQ1のアタックだったのですが、いきなり限界で攻め込むその感性は、間違いなくこのトップフォーミュラのステージの中でも秀逸と言って過言ではありません。近い将来、必ずチャンピオンになる選手だと思います。来年、海外への挑戦も発表がありましたが、SUPER FORMULAにおいてもチャンピオン争いの中心になってくるでしょう。

 

 

 そしてチャンピオンは獲れなかったものの、ファンの心に印象づける走りをしてくれた牧野選手は、この週末もっとも悔しい思いをした選手の一人でしょう。最終ラウンドは今シーズンを象徴したレースになったように思います。第8戦のQ1ではトップタイムを叩き出し順調に見えたものの、Q2では4位に終わりレースでも坪井選手の一つ後ろの3位になりチャンピオン争いでは苦しい状況となってしまいました。この“Q2”で本来のスピードが発揮できていれば——、そんな場面が今シーズン数回あったように思います。決勝のペースは間違いなく常にトップレベルにある5号車は、Q2での課題さえクリアできていれば、今年の坪井選手のチャンピオンは簡単ではなかったように思います。ただ、牧野選手もレースの神様に愛されている一人だと思うのです。体調不良があったり、本人にとっては望まない色んな苦難がこれまでもありました。でもそれを乗り越えてきたからこそ、第2戦オートポリスでの感動的な初優勝があり、日本のレース史に語り継がれるような第5戦茂木でのチームメイトバトルの末の2勝目があったり。たくさんのファンの心を鷲掴みにする走りをしてくれるのが牧野選手のレーススタイルだと、そう思うのです。レースの神様はかなり意地悪なことを用意しています。でもそれをクリアした先にはその分大きなご褒美が待っている。そんな神様に愛されたドライバーとして、ファンに感動を与えるドライバーの一人として、このレースでこの舞台を降りた先輩の魂を引き継ぐドライバーとして、来シーズンもこのSUPER FORMULAのステージで気持ちのこもった走りをみんなに見せてほしいと思います。

 

 

 そして、この役者ぞろいのステージで2024年の主役になった新チャンピオン、坪井翔選手。今シーズン本当に強い走りを見せてくれました。今年が初めてのチャンピオン争いの権利を得て最終ラウンドを迎えたとは信じられないくらい、この週末もしっかりと自分の仕事をやり切り、チャンピオン争いのプレッシャーに打ち勝ちました。インタビューでこそ、いつも落ち着いた表情を見せる坪井選手ですが、走っている最中は熱い思いが溢れるタイプです。私のスーパーGTのチームでも走ってくれていたので、坪井選手の闘争心溢れるファイターな部分はよく知っていますが、その反面、乗る前は不安から、自信なさげな表情を度々見せることもありました。しかし、今年は必ずタイトルを獲るという強い気持ちが上回っていたと思います。いつも常に“今やるべきことをやる”ことに集中できているように見受けられました。

 

 

 セルモインギングから2019年にSUPER FORMULAにデビューして、翌年には2勝を挙げ、順調にトップドライバーへの道を歩んだかに見えました。しかしその優勝以降、速さはあるものの勝つことから離れてしまいます。その間、焦りからか幾つかのミスも見受けられました。アグレッシブさが坪井選手の魅力ですが、オーバープッシュになりがちで、大事なところでミスをしたりと、攻める部分と守る部分のバランスを取ることに悩んでいた時期があり、自信を失いかけていたようにも思います。そんな危うさも感じさせていた時期、2022年のシーズンオフに斎藤愛未さんとの結婚を発表しました。翌年の2023年はシーズン始めから表彰台に登り、運に恵まれなかったものの優勝まであと少しというようなレースが数度ありました。スーパーGTでもGT500の2回目のチャンピオンを獲得し、完全復調と言っていいシーズンだったと思います。家族をもったという責任、そして愛未さんの献身的なサポートのおかげもあって、人として、プロスポーツ選手として大きく成長し、新たなステージに上がる準備が整ったのでしょう。TGR陣営も宮田莉朋選手が抜けたそのエースのシートに座るのは坪井選手しかいないと、自然な流れで決まったように感じます。顔つきも精悍になり、これまで同様に一つ一つ積み上げていくスタンスは変わらず、レースに集中して挑む環境が整ったように外からは見えました。

 

 

 そして、その結果は皆さんご存じの通りです。強い坪井翔というイメージが強い2024年シーズンのSUPER FORMULAだと思いますが、少し話下手な、普通の青年がひたむきに努力した結果で日本一という栄冠を手に入れました。昨年チャンピオンを獲得した宮田選手の後釜として移籍し、連覇が至上命令だった中、大きなプレッシャーを跳ねのけて獲得したチャンピオンの重みは、坪井選手にとってかけがえのない財産になることと思いますし、今後も心のバランスさえ崩さなければ、他陣営にとって非常に手強いチャンピオンとなるでしょう。来シーズン以降はチャンピオンとして、たくさんの重責も坪井選手には背負ってもらって、これからのSUPER FORMULAを引っ張っていく存在になって欲しいと思います。

 

 

 私、個人的にも坪井が日本一になってくれたことは本当に嬉しかったです(^^) 本当におめでとう!この年末年始は愛未ちゃんと一緒にゆっくり疲れを癒してくださいね。

 

 そしてこのレースで、山本尚貴選手と国本雄資選手の二人のチャンピオン経験者が引退することになりました。山本選手が15年間、国本選手は14年間、日本のトップフォーミュラで走り続けてきました。二人とも体格に恵まれている方ではないので、このトップフォーミュラで走り続ける為にトレーニングはかなりハードに取り組んできたことと想像します。国本選手は最終戦後の発表だったので、山本選手のようなセレモニーはなかったのですが、12月に入って行われたSUPER FORMULAルーキーテストの中で記者会見が行われ、その最後に全ドライバーがサプライズで集まり、発起人でありスーパーGTではチームメイトの坂口晴南選手が花束を渡す場面がありました。このような温かさもお互いをリスペクトしながら真剣勝負をしてきたからこそだと思います。国本選手は“スポーツマン”という表現がぴったりな選手だったと思います。ひたむきにレースに真っ直ぐ取り組む姿は、四輪にデビューした当初からこのSUPER FORMULA最後のレースまで全く変わりませんでした。2016年のチャンピオンは、そんな姿勢があったからこそ獲得したものだと、そう思っています。

 

 

 デビューが20歳と早かったのでまだ34歳です。スーパーGTではまだまだ活躍できると思うのでドライバーを引退するわけではないのですが、ドライバーにとってフォーミュラを降りるという決断は、一つの区切りをつけることになります。このレースの為に自分自身に課してきた苦しいトレーニングは、もう同じ負荷まで追い込むことはできなくなるでしょう。目標があったからこそ頑張れる。自分の限界を超えるようなトレーニングをクリアしなければレースを全力で最後まで走り切れない、それだけトップフォーミュラを戦うことは本当に厳しくハードなのです。来年以降SUPER FORMULAのレースで走る姿を見ることはできなくなりますが、これまで張り詰めてきたものを少し緩めて、リラックスしながら大好きなレーシングカーでのドライビングを楽しんでほしいと思います。きっと、また違う景色が見れると思うし、苦しかったレースが、またレースを始めた頃のように楽しくなると思うので。最後のレースもチェッカーまで全力で走った雄資の姿は本当に格好良かったよ!ひとまずお疲れ様だけど、まだまだ頑張ってね!!

 

 

 そしてレース前に引退を発表した山本選手。ファンは、その最後の走る姿を目に焼きつけていましたね。数人のファンは涙でボヤけてしまったと思いますけど(笑)、本当に最後の最後まで山本尚貴は山本尚貴でした。今年いっぱいで降りることは昨年の大きな怪我の影響がなかったとは言えないですが、この最後のSUPER FORMULAのレースを中嶋悟さんのチームで終えれたことは、運命づけられているように感じます。それだけでなくSUPER FORMULAのデビューもナカジマレーシングで、その時のチーフメカニックと最後のレースも山田メカがチーフメカニック。本当にご縁を感じますね。引退の記者会見では、中嶋さんに「退路の決断をすることに背中を押してもらった」と話してましたが、この話を聞いたとき、私自身も中嶋さんのところで山本選手は幸せだなと、そう思いました。長年レースを見続けている中嶋さんだからこそ言えたことだと思うし、中嶋さんの言葉だからこそ、山本選手もクリアに受け止められたのだと思います。もちろんまだまだ速さは衰えていないことは周知の事実。でもタイミングってあるんですよね。山本選手は自分自身を追い込み、常に全力で最後まで諦めずに走るその姿は、ファンの心を惹きつけました。時に危うさも感じさせるその表情は、アイルトン・セナに似ているように個人的に感じていました。3回のチャンピオンという部分はもちろん素晴らしいのですが、何より取り組む姿勢がファンの心に響き、魅了してきたことが山本選手の一番の功績だと、そう思うのです。

 

 

 そんな山本選手の走りをもうSUPER FORMULAのレースでは見ることはできません。でもFRDA(フォーミュラ・レーシング・ドライバー・アソシエーション)の会長は引き続き務める予定ということですし、本人もこのSUPER FORMULAの為に何かしら役に立ちたいと話していますので、山本選手に会える機会は増えるかもしれませんね。もちろんスーパーGTでは引き続きホンダのエースとして走るので、走る姿はまだまだたくさん見ることができると思いますし、たくさんのドラマを我々ファンは見ることができるでしょう。でも、まずはここまで全力で突っ走ってきた身体と心を休ませてあげてほしいなと思います。人一倍責任感が強い山本選手なので、全然休まないような気もしますが…(^-^; 無事に最後まで走り切った、やり切った後なので、家族と一緒に癒してくださいね。自分自身を労うことも必要ですよ!たくさんの素晴らしいレースを本当にありがとうございました。とにかく無事でよかった(^^) お疲れさま!!

 

 

 まだまだ最終ラウンドに活躍した福住仁嶺選手や佐藤蓮選手、阪口晴南選手や岩佐歩夢選手など光った走りをした選手はまだまだたくさんいますし、ドライバーチャンピオンを獲得したVANTELIN TEAM TOM‘Sや、チームチャンピオンを獲得したDOCOMO TEAM DANDELIONのチームの皆さんの頑張りなどたくさん話したいことはあるのですが、このコラム過去最長の文字数になってしまったので、今回はこの辺で締めたいと思いますm(__)m

 

 あと数日で新しい年になりますが、皆さんはどんな年末を過ごしていましたか??普段はスーパーGTのチームオーナーや2つの会社の代表である私は、12月にスーパーGTの最終ラウンドが入ってしまったことにより、とんでもなくバタバタな日々を過ごしていて、このコラムも何とか年内に書き終えた感じです(>_<) ただ、この忙しなさもレースを続ける為と思えば何とかこなせるものです。でも50歳を過ぎて以前のように無理がきかなくなってきたので、そろそろペース配分を考えながらじゃないと身体を壊してしまうな~と思い始めるようになったのですが、そんなこと言ってられないのがプライベーター。レースをやれてる限り、やらせてもらっている限りは頑張っていきます!SUPER FORMULAのチームオーナーの皆さんも、同じように情熱をもって突き進んでいられることと思います。そんなオーナーの皆さんがいることで、我々ファンは素晴らしいレースを観ることができるんですよね!見えないところの戦いがあってこそ、華やかなステージが成り立つことも忘れてはならない、そんなことがふとよぎりましたので書かせてもらいました(^-^;

 

 プロモーターであるJRP、オーガナイザーであるサーキット、そしてオフィシャルの皆さん、チームの皆さん、そしてドライバーたちみんながこのカテゴリーを愛して、情熱をもって取り組んでいることが、毎戦の素晴らしいレースに繋がっていることは間違いないと思います。そしてファンの皆さんの熱意によって、SUPER FORMULAに関わる皆さんがより頑張ってくれる。ファンの皆さんがこのカテゴリーを育ててくれているのだなと、そう感じます。いつもサーキットやテレビでの温かいご声援、本当にありがとうございますm(__)m

 

 

 そんなファンの皆さんに朗報です!今年もSUPER FORMULAのアプリ、SFgo(エスエフゴー)が年末年始の期間(2024年12月30日~2025年1月5日)に無料で視聴できるキャンペーンが実施されるということなので、是非この機会にアプリを通してSUPER FORMULAの魅力を感じて頂きたいと思います!全レース実況解説付きの映像もご覧になれますし、無線や特集映像などもたくさんありますので、年末年始のゆるりとしたお茶の間で、刺激たっぷりのSUPER FORMULAをお楽しみ頂けたらと思います。

 

 年々、レースのクオリティが上がってきているSUPER FORMULA。それと比例してファンの皆さんも増えて下さっています。2025年もきっと素晴らしいシーズンになることは間違いありません!そんな2025年シーズンも皆さんと一緒にSUPER FORMULAを盛り上げ、そして見守っていきたいと思いますので、是非今後ともご声援のほど、よろしくお願いいたしますm(__)m
それでは、皆さんのご健勝とご多幸をお祈りいたします。良いお年をお迎えください!

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

 

pagetop