SuperFormula

INFORMATION

コラム【武士が斬る!】vol.21 年に一度の九州大会オートポリス!岩佐選手の初優勝?トヨタ勢の巻き返し? ルーキーたちの活躍? 見どころいっぱいの第5戦!

2025.05.16

皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。

いよいよ年に一度の九州大会、オートポリスのレースが開催されますね。アップダウンの多いレイアウトでありテクニカル、そして高地にある為に気圧が低くダウンフォースが少ないという特徴を持つサーキットです。また、タイヤにも厳しいとされている路面のサーフェイスでもあるので、オートポリスを攻略することはかなり難しいとされています。個人的には四輪デビューで優勝できたコースですし、何より食事がおいしいということで大好きな場所ですけどね(^^)

そんなオートポリス戦の前に茂木で行われた前ラウンドを振り返ってみたいと思います。

 

 

 

 

開幕ラウンド鈴鹿からサーキットの特性も大きく違うモビリティリゾートもてぎで開催された第3戦、第4戦。結果的には絶好調ドコモチームダンディライアンが両日ともに1-2フィニッシュ !そして開幕4連勝、昨年の最終戦から数えると6連勝という破竹の勢いを見せてくれています。コースレイアウトが変わっても、季節が変わっても、タイヤが変わってもその勢いは留まるところを見せないどころか、勢いは増しているように見えます。少し前のチーム無限の強さと速さよりも手が付けられない感があるように感じていますが、その要因はどこから来るのか——?? 少し紐解きたいと思います。

 

 

 

まずは大きな要因として挙げられるのはドライバーの2人です。このコンビは2023年からになりますが、純粋にレースに向き合っているところや取り組み方に共通点が多いように客観的に思います。そして何より速い。太田格之進選手がルーキーイヤーの最終戦で優勝を挙げましたが、それに対して牧野任祐選手も翌年のオートポリスでの初優勝を遂げ、長年の苦しい状況から解き放たれた瞬間からこのチームの快進撃が始まったように感じています。

チームメイトであっても相手を落としてでも自分が一番になろうというタイプのドライバーもいます。同じ車をドライブしている以上、チームメイトが一番のライバルというのは、F1に代表されるように、勝負の世界では必ずついて回るものです。しかしダンディライアンの2人はお互いをリスペクトしながら、お互いに切磋琢磨してレースに取り組んでいることでそれが双方の良い結果にも表れているのでしょう。

当然、チームの雰囲気も士気も上がっていくことで、トラブルやミスも減っていきます。「このドライバーならやってくれる」、メカニックにそう思わせることができたら、不思議とどんどんクルマは走ってくれるようになるものなのです。

 

ただ、もちろんそれだけではありません。2023年のシーズン中にあった富士スピードウェイでのテスト。ここでチームダンディライアンが技術的に“何か”を見つけたことが、ここまでの快進撃のきっかけになっていると私は思っています。このテスト後の最初のレースで牧野選手はポールポジションから決勝は2位。格之進選手も予選3番手を獲得するとその後のイベントではずっと上位で走るようになりました。

このテスト後からは環境の変化があったとしても大きく順位が落ち込むことがないように見受けられます。レーシングカーには“スィートスポット”が必ずあって、そこに入っているととてつもなく速く、そして乗りやすいものです。そこに入れるのにはドライバーとエンジニアの双方で密にコミュニケーションを取っていくことが必要になりますが、5号車陣営も6号車陣営も非常にバランスよく、うまく転がっているのでしょう。

 

村岡チーム代表も 「我々は小さいチームですから…」と常々仰っていますが、ここ数年の中でもチームクルーがほとんど変わっていませんし、大きな変革があってこの状況になったとは客観的には見受けられません。チームの一人一人がドライバーに引っ張られて、それぞれが力を出し切っていることでこの強さと速さが引き出されているように思えます。

少数精鋭だからこそのチームワーク、そしてチーム力。コツコツ積み上げてきたからこその強さと速さだと、そう思います。

 

 

 

ダンディライアンの牙城を崩すのはかなりハードなことだと感じていますが、今年になってその強さに拍車をかけたのが2025年仕様のタイヤだと思っています。逆を言えば他陣営がこの新仕様のタイヤに苦しんでいると言えるかもしれません。

情報として聞こえてくるタイヤに関する変更は、「構造は硬く、コンパウンドはソフトよりに」ということでした。開幕ラウンドの鈴鹿では、寒いコンディションと東コースの新舗装の影響によって、そのタイヤのキャラクターははっきりとは分からずじまいでしたが、この茂木ラウンドではしっかりとその性格が顔を出してきました。予選、決勝共に苦しんでいるドライバーは多く、開幕ラウンドの鈴鹿で得られていたフィーリングが、この茂木ではいい感触がなくなってしまったと悩んでいる声を多く聞きました。

 

近年のSUPER FORMULAではSF19からSF23にシャシーのエアロパッケージが変更になって少しキャラクターが変わりました。それと同時にヨコハマタイヤの再生可能原料を使用したタイヤにも変更されましたが、2025年スペックのタイヤはチームにとって悩みが大きくなる変更だったと言えるのではないかなと想像しています。これまで速く走れてきたセットアップだとグリップを得られない、デグラデーションが大きいなどといった悩みが多くの陣営から聞こえてきています。いったいこのタイヤはどんな性格をしているのか??

この問いを紐解くとき、たくさんの仮説を立ててその根拠が合っているのかをセットアップに施しながら解を見つけていくのですが、すでにシーズンは4戦を消化してしまっています。スタートダッシュを決めたダンデライアンに対して、ライバル陣営は早くその解を見つけなければその勢いを止めることはできません。

 

 

こういった時、スーパーGTなどでタイヤ開発をした経験があるドライバーやエンジニアにはたくさんの知見があると言えるかもしれませんね。ヨコハマタイヤやダンロップタイヤを使用して参戦しているスーパーGTのチームは、レースやテストの度に新しい構造やコンパウンドのテストをしています。その際に、「このタイヤでレースをするにはどのようなセットアップが有効か」ということを毎回のように悩みながらセットアップを施しています。タイヤは正直で、タイムにもトレッドの表面にもその答えを刻みます。

路面に接地しているのはタイヤだけなので、そのタイヤの持つキャラクターを理解して走らせないとライバルに対して速く走れないということですが、茂木戦を経て、各チームのエンジニアたちがどのような解をもって臨んでくるかも非常に興味深いところです。

 

今回はタイヤに関して非常にマニアックな視点でお話しましたが、レース展開の中で気になったのが日曜日のスタート直後に入ったセーフティーカー(SC)の一件ですね。開幕ラウンドの鈴鹿でもピットウィンドウがオープンした10周終わりで、全車がピットに入ってタイヤ交換義務を消化するという状況になりました。チームはほとんどが2台体制なのでダブルピットになったのですが、後ろのポジションにいるドライバーはピットで“待つ”必要があったためにポジションを落としてしまいました。

その一人が牧野選手ですが、この茂木ラウンドの日曜日のレースでもSCが1周目に入ってしまい、2台体制のチームの後ろにいたほとんどのドライバーがステイアウトを選択しました。というよりも、選択せざるを得なかったと言った方が正確かもしれません。その際に牧野選手は無線でかなり苛立った様子でこのルールについて疑問を投げかけていましたが、ドライバーにとって“運不運”によるところで順位が確定しまうことが受け入れがたいという気持ちからだと想像します。

 

 

もちろんSCなどのタイミングはレースによくある要素の一つで、運によって順位が決まってしまうこともレースの中の一つの要素です。今回の場合、2レース制の日曜日の決勝においてはタイヤ交換義務のピットウィンドウがなく、レースの終了までならいつでも義務消火に数えられることから、レースにおけるSCリスクが一番高いとされるスタート直後のアクシデントがあった際に、そこでレースのほとんどの展開が決まってしまうという危惧がありました。実際にそのような展開となったことで、牧野選手は開幕ラウンドに続いてまたもや辛酸をなめたことで、その時の憤りが抑えきれなかったのでしょう。特に今年は昨年よりも更に自らを厳しい環境において、このシリーズにかける想いが強く、そして悔いのない準備をして挑んでいることを考えると、尚更受け入れ難いことは、私もドライバーとして理解できます。

 

 

終的にはステイアウトした牧野選手と岩佐歩夢選手が2位3位になったことで、レースとしての面白みは保たれたようにも見えますが、ドライバーたちは自分たちの実力を出し切って勝負をしたいと考えています。もちろん運営側もファンの皆さんもそう考えていると思いますので、こういった声はきっと議論のテーブルに乗ると思います。

あくまで個人的な意見ですが、1周目のアクシデントによるSCの場合はピットをクローズというようなルールがいいのかなと考えます。レース途中のSCのピットクローズは余計に混乱を招く恐れがあるので、1周目のSCの場合は、リスタートまでの間に限りピットクローズがいいのかなと。

そもそもSCが入ることは運の部分が大きく、ひとつの面白さという捉え方ももちろんあると思います。私の意見は、元ドライバーとしてその背景も気持ちも知っている身としての意見ですので、他の視点からは違った価値観もあることも理解しています。ですので、それぞれの立場に色んな価値観や視点がある中で、みんなでより良いSUPER FORMULAにするべく、議論が進んでいって欲しいなという思いでSCのルールについて触れさせていただきました。

 

 

 

今回はこれまでのコラムと少し違った角度で切り込んでみましたがいかがだったでしょうか?? SUPER FORMULAの難しさや面白さ、ドライバーやチームの苦労や頑張りが少しでもファンの皆さんにお伝えできていれば嬉しいです。

 

さて今週末のオートポリスはどのようなストーリーが待ち受けているのでしょう? ダンディライアンを止めるチームはあるのか?リズムに乗ってきた岩佐選手の初優勝はあるのか?トヨタ勢の巻き返しはあるのか? ルーキーたちの活躍は?? 見どころいっぱいの第5戦ですが、願わくば、ドライバーやチームスタッフ全員が力を出し切ったと思えるようなレース展開が観れたらいいなと思いますし、そんなレースを期待しています !

それではまた!!

 

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

 

土屋武士オフィシャルアドバイザー

pagetop