コラム【武士が斬る!】vol.22 真夏の激闘がはじまる!ウィークエンドは家族みんなで盛り上がろう!
2025.07.18
皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。
今週末は久しぶりのSUPER FORMULAですね !しかも、今年で3年連続となる「夏祭り」がテーマの、レースだけではない家族みんなで楽しめる企画が満載のウィークエンドとなっています。そして今回も日曜日のレース後、ホームストレートで開催される「AFTER RACE GRID PARTY」もありますし、レース後の興奮そのままに、ファンの皆さんとドライバーや関係者のみんなと盛り上がること間違いなし !!私たちも楽しみながら、そしてレースは真剣勝負をしっかりと堪能していきたいと思います。
さて、そんな真夏の激闘の前に、2カ月前にオートポリスで行われた第5戦を振り返ってみたいと思います。
このレースは悪天候のために土曜日のスケジュールはすべて中止となり、日曜日の朝にぶっつけ本番の40分計時予選が行われるという変則スケジュールとなりました。フリー走行がキャンセルになったことで、明暗が分かれることになりましたね。というのも、通常はフリー走行で確認をして修正やアジャストを加えて予選に挑むのですが、それがなかったことで“持込みセット”の良し悪しで順位が決まった部分が大きかったと思います。
その影響を受けたのがダンディライアンの2台です。今年、二人の予選の一番悪い順位が 5位」という状況の中、今回の予選は太田格之進選手8位、牧野任祐選手13位という順位はもはや事件と言っていいくらいでした。その順位からのスタートでも牧野選手は決勝で早めのタイヤ交換をした中での最上位である6位を獲得。今年のいい流れを“堅持”するべく苦しい中でも耐えた素晴らしいレースだったと思います。牧野選手の今年にかける想い、そしていい集中力を感じましたね。
逆にいい流れにのって予選上位にきたチーム、そしてドライバーもいます。KCMGの小林可夢偉選手と福住仁嶺選手がセカンドローの3位と4位を獲得。山下健太選手も前回茂木ポールポジションの好調をそのままに2位を獲得しました。ただKCMGの2台は決勝ではその速さが結果に結びつかなかったですが、今年はチーム初優勝が最低限のターゲットだと思うので、復調のきっかけがつかめたのではないかなと感じる日曜日だったと思います。
山下選手は茂木の悔しさを早くも払拭する表彰台を獲得し、チームにもいい雰囲気を運び込みました。この3位はセーフティーカー(SC)のタイミングにも恵まれたこともありますが、運不運は“いってこい”だと思います。辛い思いした分は喜びになって返ってくるようにできているのでしょう。KCMG同様、優勝が今後のターゲットになるのは間違いありません。2019年岡山以来のてっぺんのヤマケンを今年中に見れるといいですね !
そして私的に一番の衝撃は野尻智紀選手のブレイクスルーでした。なぜこのような表現をするかというと、昨年までの野尻選手と16号車陣営の“強さと脆さ”は、この近年安定しているなと見えていました。“脆さ”を持っていても安定的に速い、それが昨年までの印象です。それが2025年スペックの新しいヨコハマタイヤに変わった時、“脆さ”の部分が大きく野尻選手に圧し掛かっているなと感じて、今年は非常に苦戦するのではないかと思っていました。この“脆さ”とは決勝ペースの部分です。予選はいつでもどんな時でも速く上位にくる引きだしを持っている野尻選手ですが、決勝は予選の圧倒的な強さに比べて、どちらかと言えば弱さとして見えていました。その仮説はやはり当たっていたと感じたのが茂木大会でしたが、加えて昨年から数えると8戦連続で表彰台から遠ざかっていたことを考えると、このまま沈んで行ってしまうのではないかとすら思うほどでした。しかしこのオートポリスでこれまでの不調が嘘のような素晴らしいリカバリーを見せ、ポールポジションを獲得しレースでも勝てる可能性もあった展開での2位。久しぶりに野尻選手が表彰台に帰ってきてくれました !
理詰めでコツコツと積み上げる野尻選手のスタイルを考えると、この復調は本物と考えていいと思っています。その根拠になるのがこのインターバルで行われた富士スピードウェイでの公式テスト。ここでも上位のタイムを記録しながらしっかりと多くのメニューをこなしていたように見て取れました。これまで“脆さ”を攻略したことで更に新しい野尻スタイルを構築してくるかもしれません。ベテランの領域に入った野尻選手ですが、まだまだファンを楽しませてくれることと思います。
そしてこのレースを優勝したのがディフェンディングチャンピオンの坪井翔選手。この優勝はチャンピオンの凄さを見せつけたレースと言っていいと思います。なぜか——?、それはこのレースは他にも勝てるポテンシャルを持っていた選手が何人かいたと感じる中で、レース中、そして週末に訪れる何回かのターニングポイントでしっかりと自らの100%のパフォーマンスを引出し、チャンスを逃がさずに掴み取ったからです。このうち一つでも逃していたら優勝は他の選手のモノだったでしょう。それがこの優勝の“価値”だと、そう思います。
まず難しい予選で上位グリッドをキープしたことです。1セット目のアタックでは11番手のタイムでした。ここから2セット目のアタックでその時点の3番手のタイムを記録。最後のNEWタイヤのアタックはコースアウトの車両が出たためにすべての選手が最終アタックを出来ずに予選終了したため、最終的に5位のグリッドポジションを獲得しますが、イレギュラーなスケジュールになったこの予選で苦しいながらもしっかりと仕事をしたなという内容だったと思います。
そして次のポイントはスタート、そして岩佐歩夢選手との攻防です。5番手から一気に3位までポジションアップするスーパースタートでした。クラッチミートが完璧に決まり、本能的にオーバーテイクシステム (OTS)を作動させたのでしょう。1コーナーから第1ヘヤピンまでの間で競り勝ち2番手まで更にポジションをアップ。しかし今度は後ろの岩佐選手がOTSを作動させて、OTSを使えない坪井選手を狙ってきますが、隙を見せずに2位をキープできたことは大きかったと思います。
そしてもう一つのポイントはピット後のアウトラップです。トップ野尻選手と同時にピットアウトとなりアウトラップの勝負となりましたが、ここでも野尻選手の攻略に成功。レースにおける数々のポイントでしっかりとライバルに競り勝ったことで、最終的に最高のリザルトを手にしたと言えると思います。
どれもギリギリの攻防を競り勝つ、これがどれだけ難しくそして勇気のいることなのかはこのステージで走っているドライバーでないと本当のところは分からないと思います。このSUPER FORMULAで走ってる選手は誰もがトップドライバーです。その中で勝ち切ることができる坪井選手の強さ——、それが現チャンピオンたる所以なのでしょう。そして次のラウンドは坪井選手が昨年全勝した富士ラウンドです。シリーズ争いへの狼煙をあげた坪井選手にライバルたちは戦々恐々でしょう。特に今年のシリーズを獲ること考えている選手、そしてチームはこの富士ラウンドを今年の勝負どころと考えていると思います。坪井の2連覇、そしてチームトムスの3連覇を、指をくわえて見ている訳にはいかないと考えているでしょう。真夏の富士決戦も白熱するレースが観れることは間違いないと思います。
そしてこのレース、もしかしたら初優勝だったかもしれなかったのが岩佐選手です。展開的には“岩佐の日”でした。残念ながらトラブルで初優勝はお預けになってしまいましたが、いつでも勝てることは誰の目にも明らかです。何も起きない時には本当に何も起きないのに、勝てる時に限って何かが起こる——、これは私も現役時代に何度も、、、多分誰よりも多くそんな場面があった(自分調べ)と思いますが、でも勝てなかった分は他で返ってきました。レースの神様はちゃんと良いことも悪いことも等分になるようにしてくれます。岩佐選手の悔しい想いは、その悔しさが大きい分、大きな喜びになって返ってくることでしょう。それがいつなのか何なのかは分かりませんが、なるべく早くそんな時間が来るようにレースファンのみんなが願っていると思います。もちろん本人が一番にそう願っていると思いますが、やるべきことに集中しているだけでその瞬間はやってくるので、気楽にやって欲しいなと思います。
他の選手たちも何人もいいレースをしていました。10位までの入賞争いも最終ラップまで白熱していましたね !そして佐藤蓮選手は開幕以来久々に噛み合ったいいレースで4位でした。阪口晴南選手も予選が後方でしたがしっかり上位に食い込んできました。今回は5位まで上がり、今年5位2回、6位2回と非常にしぶとい走りを見せています。もし勝てるポテンシャルのある週末がこの2人に訪れたら、きっと面白いことが起こるような気がしますね。
そして先月行われた公式テストでは、各チームが色々なトライをしていました。この拮抗したSUPER FORMULAの激戦の中では何か一つの“きっかけ”で大きく飛躍することもあります。ただ、速いクルマ、強いクルマをすでに持っているチームは、そこから更に根拠を積み上げてくると思います。
富士テストの一つのセッション2時間30分をずっとGRスープラコーナーで観ていたのですが、坪井選手と野尻選手、牧野選手が虎視眈々という感じで、富士のレースでは強いだろうなと思いました。もちろん太田選手、岩佐選手も必ず優勝争いに絡んでくると思います。そして山下選手、KCMG、ナカジマレーシング、セルモも好調に見えましたので、この週末のレースも僅差の痺れる争いが見れることは間違いありません。やってる本人たちは非常に大変だと思いますが、我々ファンにとっては最高のレースが見れることと思います。またそんな素晴らしいレースを皆さんと一緒に見守っていければと思いますので、是非サーキットで、そして各放送やSFgoのアプリでご覧いただければと思います。
またその模様はコラムでも振り返っていきますので、そちらもお楽しみに !ではまた !!
written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。