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【武士が斬る!】vol.25 それぞれに特別な想いを胸に。最終ラウンド鈴鹿「瑶子女王杯」は誰の手に!?

2025.11.21

皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。

 

先週末はマカオGPがありましたね。まさにF1への登竜門と言えるレースがマカオです。過去ここで印象に残る速さを示したドライバーの多くはF1のトップにたくさんいます。アイルトン・セナやミハエル・シューマッハもこのマカオで優勝し、その後頭角を現しました。市街地サーキットのギヤサーキットは、テクニカルなうえバンピーで、ハイスピードセクションもあって、なによりバトルが激しく、戦い生き残らなければならない厳しい環境の中なので、ここで速いドライバーは“本物”ということが証明されます。

それ故、世界中のレース関係者が注目するのがマカオGPですが、今年も素晴らしいレースが繰り広げられました。私もJスポーツの放送で解説をしたのですが、世界を目指す若者たちから大いに刺激をもらいました。“本物”のレースというのは本当に興奮するものだなと、再認識しましたね。

 

そして日本にもマカオGPに負けずと劣らない“本物”のレースがこの週末、最終戦を迎えます。2025年SUPER FORMULA最終ラウンド鈴鹿が金曜日からフリープラクティスが始まっていますが、泣いても笑っても、日曜日の午後のレースが終わると今シーズンのチャンピオンが決定します。今年は例年以上に誰がチャンピオンになってもおかしくない、言い換えれば、誰がチャンピオンになるのか想像することが難しい、先の読めない週末が待ち構えていると言えます。

その要因の一つとして、前戦富士スピードウェイで行われるはずだった第10戦の決勝のみが、この鈴鹿ラウンドのレースウィークに延期開催されることになったのが上げられますが、これによりこの週末は決勝が3レース行われることになります。

 

 

第10戦の富士の決勝は濃霧のために開催ができませんでした。午前中の予選は行なわれていた為、その予選グリッドを活かし、変則的ですが鈴鹿サーキットで決勝を延期開催することになったのです。長いトップフォーミュラの歴史の中でもこのような形は記憶にありません。もちろんこの延期レースが鈴鹿で開催されることが決定した影響は大いにあると思いますが、どんな状況であれ、今年の激しい戦いの中で勝ち獲る栄冠は、どのドライバーにも価値のあるものになると思います。

では今週末のチャンピオン争いに関して、少し整理をしておきましょう。この週末に獲得できる最大ポイント数は66ポイントですが、計算上ではランキング6位のサッシャ フェネストラズ選手までにチャンピオンの可能性は残されています。ですが、現実的には23.5ポイント差のランキング4位牧野任祐選手までに権利があると言っていいでしょう。しかもこの延期レースのポールポジションを獲得しているのが牧野選手で、一気にトップ坪井翔選手との差を縮めるチャンスをすでに得ています。

 

この延期レース、ランキング2位の岩佐歩夢選手は4位グリッド、ランキング3位の太田格之進選手も3位グリッドということで、共に坪井翔選手よりも上位グリッドを得ています。

坪井選手は延期レースのグリッドは7位。そしてこの決勝レースは普段よりも短い距離(約110km)でタイヤ交換義務なしのスプリントレースフォーマットになっていますので、順位の挽回も難しい状況になっています。仮にですが、今のままのグリッド順位でゴールした場合のポイントは、10.5ポイントの間にランキングのトップ4が入ることになります。もちろんオーバーテイクシステム (OTS)などのデバイスもあるので、そのままの順位で終わることはないと思いますが、寒い時期のホンダHRCエンジン、そしてダンディライアンとチーム無限は鈴鹿で非常に戦闘力があるので、現時点のトップにいる坪井選手にとっては、得意の富士ではなく鈴鹿で1レースが追加されたことは追い風でないことが容易に予想されます。

ただ坪井&トムス陣営は、この鈴鹿で勝たなければチャンピオンにはなれない、真のチャンピオンではないと捉えているかもしれません。昨年の坪井選手は、最終ラウンドの鈴鹿を2レース共に2位表彰台を獲得してチャンピオンになりましたが、この鈴鹿を攻略しない限り2年連続で“獲れる”とは考えていないのではないかなと、想像しています。

チャンピオンにはチャンピオンの戦い方があり、プライドがあると思います。特に第7戦富士では太田選手に勝たれているので、鈴鹿でめっぽう強い太田選手を倒してこそと、そのように考えているのではないでしょうか。勝たなければチャンピオンはない、と。

色々な状況を考えると、坪井&トムス陣営は数字上のマージンはほとんどないと考えて鈴鹿に挑んでくると思いますので、まずは土曜日に行われる第11戦の予選で上位につけることにフォーカスしていると想像します。

 

 

そしてランキング2位以下の岩佐・太田・牧野の3選手にとっては、現時点でトップとの差は14.5ポイント以上ですので、坪井選手同様、この週末で勝たなければチャンピオンはないと考えていると思います。ただ優勝1回では足りなく、それ以外のレースでもすべて3位以内を最低限のターゲットにしていることと予想します。

坪井選手の決勝の強さを考えると、表彰台がない3レースというのは想像できません。トラブルでリタイヤした第4戦茂木を除くと、すべてのレースで決勝は4位以上という成績を残しています。そして、ここまでの今年9レースでの平均獲得ポイントを計算すると(第9戦をフルポイントとして算出)坪井選手は12.4ポイントになります。単純計算で3レース37ポイントを加算すると合計は141ポイントを超えてくるので、チャンピオンを獲得するためのターゲットとしてはまずこの数字を超えることが必須となるでしょう。

ランキング2位の2人は現在90ポイントですので、51ポイント以上が必要になると考えると、3レースで予選決勝共に1回ずつ1位、2位、3位を獲得すると52ポイントになりますが、第10戦の予選は終了しているので、獲得できるのは49~51ポイントとなります。

数字上では非常に厳しいように思えますが、岩佐・太田・牧野の3選手は、それ以上のパフォーマンスを出してきたとしても驚かない選手たちですし、坪井選手もしかりです。

この4名が最後の力を振り絞って戦いを挑んてくると、いったいどんな週末になるのだろうか——、冒頭にも書きましたが、全く予想がつかない週末になることは間違いありません。

 

 

 

そして鈴鹿サーキットでの3レースという部分は、ドライバーのフィジカルにとって非常に厳しい状況になります。特に寒い時期の鈴鹿は、高速コーナーでかかるGが非常に強く、身体への負担が大きいサーキットです。私自身も、パワーステアリングがない時代でしたが、最終戦鈴鹿でレースを走り切った後に、あまりのステアリングの重さに腕が炎症を起こし怪我をしてしまったことがあります。首にも体幹にも負荷がかかり続けるサーキットですので、ドライバーたちはライバル以外にもこの過酷な状況とも戦っていかなくてはなりません。

開幕戦鈴鹿のレースは、東コースの路面改修があったことで、タイヤのデグラデーションが少なく、その部分も体力的に非常にきつかったという声がレース後に聞かれました。月日が経ったことで路面の変化もあると思うので、開幕戦時とは違う状況だとは思いますが、それでもドライバーにとって厳しい環境であることに変わりはないですよね。

前代未聞の鈴鹿3レース開催がどんなドラマを引き起こすのかという部分も、チャンピオン争いに影響を及ぼす要素だと思います。

 

 

 

この最終戦に特別な想いを抱いている選手はチャンピオン争いの4人だけではありません。2019年以降毎年優勝を遂げてきた野尻智紀選手も、未勝利のまま今シーズンを終わることだけは避けたいと思っていると思いますし、この鈴鹿は過去7回のポールポジションと5回の優勝を記録していて、非常に相性の良いサーキットです。チャンピオンの権利も残している状況ですし、土曜日の予選決勝でフルマークのポイントを獲得して日曜日まで権利を残したいと、そう考えていることでしょう。

イゴール・大村・フラガ選手も延期レースで2番グリッドからスタートするので、ルーキーイヤーでの初優勝を狙うのには絶好の位置です。まわりにチャンピオン争いの強者たちがひしめく中で勝てたとしたら、彼の実力は本物です。距離が短い分、そのチャンスは大いにあると思います。

そして2009年のデビューイヤーから、途中4年のブランクを除いて、今年は13年目のシーズンを走っていた大嶋和也選手がこの鈴鹿でトップフォーミュラから引退をします。

個人的に非常に近い選手でしたし、フォーミュラニッポン時代は和也選手が選手の時の監督もしましたので、和也選手がどれだけの情熱をレースに注いできてきたかはよく知っているつもりです。とにかくこの週末、レースを楽しんでもらいたいと思いますし、最後のSUPER FORMULAでの鈴鹿の走りを攻め切ってもらいたいと思います。ファンの皆さんにも大嶋和也のトップフォーミュラでの最後の走りを目に焼き付けてくださいね !

 

 

 

他にもここまでいい成績を残せていない選手たちにとって、最後にいい印象を残してシーズンオフを迎えたいと思っているので、この鈴鹿で全力を尽くした走りが、戦いが随所に見れることと思います。

ルーキーオブザイヤーもイゴール選手が大きなリードを持っていますが、小出峻選手の後半の成長ぶりにも目が離せない状況ですし、佐藤蓮選手や坂口晴南選手も初優勝まであと一歩というところにいます。

勝って締めくくりたいと、その実力を備えている優勝経験者も複数人いますし、選手層の厚さは本当にこのシリーズの魅力ですよね。

そしてチームチャンピオン争いも3つ巴の戦いになっていて、こちらもどこが栄冠を勝ち取るのかは最後のチェッカーを受けるまで分からないでしょう。本当に随所に見どころがあって、ずっと興奮が冷めやらぬ週末になりそうです…(^^;)

チャンピオン争いはもちろんですが、ドライバー全員、チームスタッフ全員がいいレースをしようと、最大限の集中力で挑んでくるのが最終戦です。しかも3レース開催ですので、不確定要素も絡んでくることも予想されます。局面局面において、たくさんのドラマがあると思いますし、まさにHUMAN MOTORSPORTSという場面を目の当たりにすることができると思うので、是非この週末、SUPER FORMULA最終ラウンド鈴鹿、2025年「瑶子女王杯」が誰の手に渡るのか——、ご注目頂ければと思います!

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

 

土屋武士オフィシャルアドバイザー

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