コラム【武士が斬る!】vol.32 今週末は富士大会!いよいよシリーズも大詰め!
2026.10.08
皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。
今週末は2ヶ月ぶりにSUPER FORMULAのレースですね !シリーズ終盤戦となってチャンピオン争いも佳境に入っていますが、その前に前戦スポーツランド菅生で行われた第8戦東北大会のことを振り返っていきたいと思います。


菅生と言えば“波乱”がつきものというイメージは、長らくレースを見てきているファンの皆さんにとっては、初めて聞く話ではないと思います。コースの特性なのか、この場所に何か魔物が潜んでいるのか?——、といった声も聞くほどに、これまで多くのハプニングが起きてきていることも事実ではあります。クラッシュも多く記憶にありますが、ピットロードが大渋滞になったり、3回の赤旗でレースがそこで取り止めになったりと、結構ビックリすることも過去にはありました。そして今回のレースも、少々モヤっとすることがありましたね。
その辺りのことは後でお話しするとして、今回のレース、個人的には野尻智紀選手に引き付けられました!

しばしばこのコラムで取り上げることが多い野尻選手ですが、近年のSUPER FORMULAを牽引してきた一人なのは間違いないですし、レースに取り組む姿勢やファンへの思い遣りなど、チャンピオンとしての自覚だと思いますが、結果だけでなく、その姿勢と成長が強く印象に残る選手なので、当然ながら登場回数も多くなります。
そして今年37歳の年で、アスリートとしては大ベテランの域に入り、若手の勢いとどう対峙するのかという興味もありました。特に今年前半は決勝で苦しい野尻選手を見ることが多く、このまま老いていくのか…、という印象すらあったのですが、菅生の前の富士のレースではしっかりと速さと強さを身に着けて、がっぷり四つで勝負する姿を見せてくれて、非常に感銘を受けたんです。
その流れのまま、菅生では走り出しから調子が良く、TV画面から見ても躍動感があり、イキイキと走っている16号車を見た時、今週は“来る”と確信していました。
そして今回はオートポリス戦に続き、予選がQ3まで行われる スーパーポール」での戦い。横浜タイヤプレゼンツの賞金100万円をゲットしたのは、太田格之進選手を僅差で下した野尻選手でした。通算25回目のポールポジションは最多記録更新になります。(1996年以降のトップフォーミュラ史において)
攻めたことでタイムを削れる菅生でのポールは非常に価値があると思います。もちろんここまで速いクルマを仕上げたそのセットアップ能力の高さは言うまでもありませんが、前半の苦しい状況からここまでよく戻ってきたな、と。
クルマを仕上げるのにはドライバー、エンジニア、メカニック、みんなが一つの方向に向かっていかなければ、トップにはたどり着けません。苦しい状況から戻ってきたことに大きな意味と意義があるんだと。そこには見えないところでの色んな努力があったんだろうな~と、勝手に想像して勝手に感動していた土屋でした。(取材していないので、全部個人のイメージです笑)

そして決勝。
序盤は “極上のトップ争い”を見せてくれましたね。スタートでトップを守った野尻選手に、執拗に仕掛ける格之進選手。そして3番手を走るイゴール大村フラガ選手は、刀を鞘に収めたまま、トップ2台が削り合うのを静かに待っているかのように、一定の距離から不気味に眺めているようにも見えます。
周回が進むにつれイゴール選手の存在が大きくなっていく——、そんな展開の中で格之進選手がまずタイヤ交換義務消化のためにピットイン。それにリアクションしたのが野尻選手。その翌周にピットに入り、アウトラップでの勝負 !両者オーバーテイクシステム (OTS)を使いながらの攻防でしたが、最終コーナーで近づきすぎた格之進選手がアウト側の汚れたラインで挙動を乱してしまい、ここでのバトルはいったん休憩に。
そして満を持してイゴール選手はここで自己ベストタイムを刻みながらペースアップをします。セオリーであれば確実に前で戻れるタイミングで先に入った2台に対し、リアクションする戦略もあったと思いますが、ナカジマレーシングは後半に勝負を持っていく思惑だったようです。
前の2台は牽制しあって序盤でOTSをかなり消耗していました。レース終盤でタイヤを交換する戦略であれば、状況的にはタイヤのマイレージのオフセットとOTSの残量の差で、かなり優位にレース展開を作れたことでしょう。そんな戦略だったように思います。
しかしここは菅生。高確率でレース中にセーフティカー(SC)が入ります。例にもれず、今回も27周目にコースアウト車両が2台出たためにその後SCが導入されました。そして、ここで冒頭に話した “モヤっとした” となる原因が起きました。

当然SCなので、タイヤ交換義務を果たしていないクルマたちは一斉にピットに入ってきます。すでにタイヤ交換を果たしているクルマたちは、安全に、でもできるだけ速く第2セーフティーカーライン (今回は3コーナー)まで急ぎます。急いだクルマたちが全車そのラインを超えた後、トップ2台はSC隊列の一番後方に並んでいました。その2台というのが福住仁嶺選手と岩佐歩夢選手でした。
なぜそのようなことが起きたかというと、2台がコース脇に止まり、誰もがSCが出るだろうと思った時、トップのイゴール選手はSCの宣言が下される前にピットに入ってきました。そしてその後方、序盤6位7位を走っていた仁嶺選手と岩佐選手はSC宣言前ということでステイアウトしました。
この判断はスタンダードであって、その時のルーキーレーシングの石浦監督は 仁嶺、SCが出たらピットだよ。まだ出てないからね」という無線を飛ばしていますが、非常に冷静な対応だったと思います。
ただ、誰もがSCが入ると思うようなシチュエーションだったことは明白でした。SCの役目は事故などの処理を安全に行うためにレースを非競技化すること。そして、その影響でレースの展開をなるべく壊さないこと。という二つの要素があると考えます。大きな事故の時には前者を最優先し、すぐさまSC宣言が下されることが多く、その場合、その後すぐに赤旗が出されるというシチュエーションも過去にあります。
今回のイレギュラーの一つは、SC宣言が少し遅かったことにあるのかなと考えます。これはSCが出るな」というタイミングで あれ、SCが出ないな」と。イゴール選手がピットに入ってくるタイミングでは、いつもであればSC宣言が下されているタイミングだったと思います。それくらいコース上はSC導入が予想されるシチュエーションだったということです。仮にこのタイミングでSC宣言が出ていれば、後ろを走っているクルマもピットに入ってくるので今回のようなことは起きません。

そしてイレギュラーの二つ目は、SCが実質のトップでないイゴール選手の前に入ってしまったことです。
それまでのレース展開を見ていればトップはイゴール選手でした。ただ、SC宣言が出なかったことでステイアウトしたクルマが2台。この時点ではこちらが実質的な先頭になります。
そしてイゴール選手がタイヤ交換をしている最中にSC宣言が下されました。その時のタイミングモニターでは、まだイゴール選手がトップの位置にいました。
通常、レースコントロールもトップを捕まえられるタイミングを見ながらSCをコースインさせます。しかし今回は宣言が遅れたことによって、状況が刻々と変化し、結果として実質トップではないイゴール選手の前にSCが入る形になりました。
なぜそうなったのか、レースコントロールの中で実際にどのような判断があったのかは私には分かりません。ただ、タイミングモニター上ではイゴール選手がトップだったことを考えると、実質的なトップを見失ってしまったのではないかなと、そう想像します。起こりうることですが、起こってはいけないと思われることが起きてしまった。そんな印象ですね。
SCは先述した通り、直ちにレースを非競技化する判断が必要な時のために、いつでも宣言することができ、どのタイミングでもコースインすることができます。ルール的には間違った運用ではありません。ただ今回の状況では、SCが担う二つの役割のうち、レース展開への影響を最小限にとどめるという点では、課題が残る結果になったと思います。
菅生のコースが他のサーキットよりも短く、1周が68秒ほどで周ってきてしまうことや、宣言の際にモニター上ではイゴール選手がトップだったことなど、非常に難しい状況だったことも理解できますし、誰もが素晴らしいレースをお見せしようと尽力されていることも知っています。

他のカテゴリーでもSCによって、思わぬ順位の変動が起きることがあるので、これもレースの内と言えばそうでしょう。先日のF1第14戦スペインGPでも、ノリス選手が勝てたと思われるレースをバーチャルセーフティカーの入るタイミングで落としてしまいました。
現在のSUPER FORMULAのルールや運用方法では起こりうるということを、レースファンの皆さんにも理解していただきたいなと思います。ただ、起きて欲しくない、起きてはならないタイミングで今回のことは起きたのだと。
優勝をした仁嶺選手もどう喜んでいいのか複雑な表情だったことでもうかがい知れます。トップ争いをしていた選手たちを気遣い、多くは語りませんでしたよね。
SFgoアプリの無線の声を聴いてもらうとよく分かると思いますが、今回のことを受け入れられないというコメントが多くあります。
一つのレースのためにどれだけの時間を、想いを、ここに捧げてきているか——、それはやったことのある人でないと知る由もないかと思いますが、トップフォーミュラの選手たちは人生をかけてこのステージにいます。それはファンの皆さんが一番よく分かっていることだと思います。それ故に、SUPER FORMULAのレースに魅了されるのですから。
他にもSC運用に関しては話す内容がまだあるのですが、ちょっと長くなったのでここまでとしますね。ファンの皆さんにとっても、どうしてこういう順位になったのかは知りたいはずだと思ったので、深堀りしてみました。
願わくば、野尻選手、格之進選手、イゴール選手の、“極上のトップ争い”が、後半そのままSCなくいっていたらどんな結末になっていたのか——、想像の中で楽しむことにしましょう !

さて、菅生のレースはSCの話がだいぶ長くなってしまいましたが、ここからは今週末の富士の話をしましょう !
いよいよシリーズも大詰め。残すは富士と鈴鹿の4レースとなり、チャンピオン争いもいよいよ決着の時が近づいてきました。
その中心にいるのはもちろん太田格之進選手です。今年の強さは近年のSUPER FORMULAでは際立ったものがあります。前回のコラムで格之進選手の強さについてかなり深堀りしたので、今回はもう多くを語る必要はないでしょう。
速さも強さも十分に証明しました。そして今、圧倒的なポイントリーダーとして富士を迎えます。もはや、チャンピオンになるための最後の仕上げです。
現在2位岩佐選手とのポイント差は45.5。最終ラウンドの2戦でポールポジションと優勝で獲得できる最大得点は23×2=46ポイントです。この富士2連戦で、2位以下の選手が誰も格之進選手よりもポイントを多く取れなかったとすれば、格之進選手のチャンピオンが決まる計算です。(ちなみに土曜日の第9戦で格之進選手がポール&優勝して、権利のある選手たちがノーポイントだとしても、残り3戦で最大に獲得できる得点は69なので、かろうじてチャンピオン決定とはなりません)
圧倒的有利なことは間違いない状況ですが、だからこそ格之進選手&6号車陣営にとっては難しい週末かもしれません。それが最後の仕事というものだと思うからです。
第6・7戦の富士ラウンドは、フリー走行から素晴らしい集中で2連勝を果たしました。いえ、今年集中を切らした場面を一度として見ていないので、ずっといい集中を継続している状況だからこそ、この週末を迎えられるのだと思います。
昨年の最終戦の鈴鹿から、太田格之進選手の時間は止まっていない。その先にある一つの大きな答えが、この週末に出るのか——。しっかりと見守っていきたいと思います。
とはいえ、格之進選手がチャンピオンになるところを、指をくわえて見ているわけにはいかない選手たちがいます。ランキング2位の岩佐選手を筆頭に、前戦悔しい思いをしたイゴール選手、そしてまだタイトルの可能性を残している選手たちにとっては、まずこの富士で格之進選手のチャンピオン決定を阻止したいところでしょう。
そしてタイトル争いとは別に、 一番速いのは自分だ !」と証明するために、全員が優勝を目指してここで走っています。格之進だけに主役を持っていかれてなるものかと、鼻息荒く意気込んでいる選手もいることでしょう。
それ故に、このSUPER FORMULAは激しく素晴らしいバトルが繰り広げられてきました。シリーズ終盤となる残り4レースもきっと目が離せない戦いになると思います。

そして最後に、皆さんにひとつお伝えしておきたいことがあります。
私は今シーズンの最終戦をもって、SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーとしての活動、そしてレース解説の仕事からも、いったん離れることにしました。
振り返ってみれば、レーシングドライバーになってから数十年間、ずっと全力疾走してきたように思います。走る立場から、チームを率いる立場、そしてレースを伝える立場へと役割は変わってきましたが、気づけばずっと何かを背負いながら走り続けてきました。
もちろんそれが嫌だったわけではありません。むしろ自分からそれを背負い、無我夢中で走り続けてきました。ただ気づいたら、このまま走り続けたら息絶え絶えになって動けなくなるな、と(^^;) なので、そうなる前にいったん休憩しようかなと、思った次第です。
レースから離れるわけではありません。私からレースを取ったら何も残らないので…。今まで背負ってきたものを一度降ろして、しばらくは皆さんと同じ、一人のレース好きという立場でレースを見ながら充電しようと思っています。
ずっと走り続けてきたので、立ち止まってみたらどんな状況になるのか想像もつきませんが、まずは止まってみて、どんな景色が見えるのかな、と。今はこれから起こる未来を楽しみにしています。ですので、自分的にはポジティブなお休みをいただく、という気持ちです。
残り2大会4レースですが、最後までいつも通り全力でSUPER FORMULAを皆さんへお伝えしていきます。
シーズンが終わった時にまた改めてお話しさせていただけたらと思いますm(__)m
というわけで、まずは今週末の富士!一人のレース好きとしても思いっきり楽しみたいと思います。
それでは富士で !!
written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。
