野尻智紀が気迫に満ちた走りでポール・トゥ・ウィン! 宮田莉朋は4位に入りランキングトップを堅守
2023.08.20
優勝した野尻智紀(TEAM MUGEN)
ウォームアップ走行はギラギラとした陽射しに照らされ、酷暑となった栃木県モビリティリゾートもてぎ。そこから急に雲が広がる中、全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦の決勝レースが行われた。このレースでは、スタート直後から多重クラッシュが発生して、赤旗中断。再開後も各所でハプニングが続発し、荒れ模様の展開となっている。その中で、終始安定した走りを見せて、PPから今季2勝目を挙げ、大量ポイントを獲得したのは、野尻智紀(TEAM MUGEN) 。序盤の混乱をすり抜けただけでなく、今回もタイヤ交換を遅らせる作戦で後半に入って見事な走りを展開して2位表彰台を獲得したのは、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)。逆に早目のタイヤ交換を選んで3位に入り、復帰戦で今季初の表彰台を獲得したのは、大湯都史樹(TGM Grand Prix)だった。タイトル争いを演じている宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)はスタートでアンチストールが入って大きく出遅れたものの、レースペースの良さとタイヤ交換を遅らせる作戦を成功させて4位入賞。スタート直後の多重クラッシュの原因を作る形となり、自身もマシンにダメージを負ったリアム・ローソン(TEAM MUGEN)は、13位でノーポイント。今回のレースの結果、タイトル争いは混沌としてきた。
湿度が高い上に、午後からは時折ギラギラと太陽が照りつけたモビリティリゾートもてぎ。同時開催のとなった全日本ロードレースの決勝で赤旗が提示された影響で、全日本スーパーフォーミュラ選手権のタイムスケジュールは15分遅れとなり、午後3時15分にフォーメーションラップがスタートした。各マシンがダミーグリッドに着いた時点では、まだ陽射しが照りつけていたが、フォーメーションスタートが近づくと、空は雲に覆われ、冷たさを含んだ風も吹き始める。そのため、8分間のウォームアップの時よりは少し涼しくなり、気温33℃、路面温度46℃というコンディションのもとで、各車は1周の隊列走行に入っていった。
そして、各車が正規のグリッドに着くと、後方でグリーンフラッグが振られ、シグナルオールレッドからブラックアウト。ここで、いい動き出しを見せて、トップを守ったのは野尻だった。予選2番手の太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)は全く発進できず、グリッド上に止まってしまう。その後方では宮田もアンチストールが作動して、大きくポジションを落とすことに。その混乱の中、ポジションを上げたのは、ローソン。ローソンは、1コーナーから2コーナー立ち上がりにかけて、野尻の真横に並びかける。しかし、野尻は一歩も引かず。コースのギリギリまで使って、ローソンのアタックを凌いだ。対するローソンも一歩も引かず、2コーナーでアウト側の縁石の外側にあるグリーンゾーンまで出る形に。そこからコースに戻ろうとしたが、縁石でマシンが跳ねてイン巻きするスピン状態に入り、コースを横断するような形に。それを避け切れず、関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)、松下信治(B-Max Racing Team)がクラッシュ。まず牧野が目の前で急減速した関口の左リヤに乗り上げてマシンが宙に浮き上がり、続いて関口もローソンに接触して宙を飛んだ。アクシデントを避けようとした松下もコースイン側のガードレールにクラッシュした後、地面に着地した牧野のマシンに接触。ローソンはマシンのリヤ部分に大きなダメージを負ったが、そのままコースに戻った。しかし、このアクシデントが発生するとレースは間もなく赤旗によって中断される。
メインストレートの赤旗ラインには、野尻を先頭に、大湯、平川、小林可夢偉(Kids com Team KCMG)、山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)、佐藤蓮(TCS NAKAJIMA RACING)、山下健太(KONDO らCインG)、阪口晴南(P.MU/CERUMO・INGING)、小高一斗(KONDO RACING)、坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)、福住仁嶺(ThreeBond Racing)、大嶋和也(docomo business ROOKIE)、国本雄資(Kids com Team KCMG)、笹原右京(VANTELIN TEAM TOM’S)、ジェム・ブリュックバシェ(TGM Grand Prix)、ラウル・ハイマン(B-Max Racing Team)、宮田、太田の順でグリッドに整列。マシンにダメージを負ったローソンはピットロードに滑り込み、ガレージへと向かう。その後、赤旗中の作業が解禁されると、メカニックたちがグリッドへと向かった。
そして、午後3時50分にセーフティーカースタートでレースは再開。3周終了時にセーフティーカーがピットに戻り、レースはリスタートする。この時、すでに最初のスタートから37分が経過。赤旗中断があった場合には、中断時間も含めて最大90分という規定があるため、最後はタイムレースになる可能性もあった。
さて、レースがリスタートすると、野尻はポジションをきっちり守り、大湯、平川がそれに続く。その少し後方では、阪口と小高、さらに坪井が加わってのバトルを演じられる。さらに、5周目には福住が小高とバトルを演じるなど、随所で激しい争いが見られた。一方、5周を終えたところで、ドライブスルーペナルティーを科されたのが、ローソン。ローソンは赤旗ラインに並ばず、そのままピットに入って作業をしたことで、このペナルティーを受けた。
トップ集団は、野尻がジリジリと大湯を引き離していく展開に。その大湯に平川がコンマ数秒差で迫っていく。さらに、可夢偉も平川以上のタイムをマークしながら、虎視眈々とトップ進出のチャンスを狙っていた。
そして、野尻が10周を終えて、タイヤ交換のウィンドウが開くと、まずピットロードに滑り込んだのは、大湯。佐藤、阪口、福住、ブリュックバシェ、太田もピットに入る。しかし、ここでもアクシデントが発生。ピット作業を終えてコースに戻ろうとマシンを発進させた佐藤が、ピットに入ってきた太田と接触してしまう。この翌周には、可夢偉、小高、大嶋、笹原がピットイン。ところが、可夢偉のクルーは右リヤタイヤの交換に手間取ってしまい、大きくタイムロス。可夢偉は大嶋の後ろでコースに戻ることとなってしまった。そこから可夢偉はファステストを出す走りで追い上げを図ったが、なかなか思うようにポジションを上げられなかった。
また、その翌周には、コース上でハプニングが発生。ピットロードで太田と接触した佐藤は、左リヤタイヤがパンクし、スローダウン。再びピットに入ることに。太田も接触の影響からかマシントラブルが発生してスローダウン。やはりピットに戻ってリタイヤしている。この頃、V字コーナーでは雨が観測され、ウェット宣言が出された。しかし、それ以上雨が強くなることはなく、路面が濡れてしまうという状況にはならなかった。
決勝3位 大湯都史樹(TGM Grand Prix)
さて、早目のタイヤ交換作戦を取ったドライバーたちがピットに入ると、見た目上のオーダーは、野尻、平川、山本、山下、後方から少しずつポジションを上げてきていた宮田、国本となる。これに続いていたのがすでにタイヤ交換を終えていた大湯。14周を終えたところで、野尻と大湯の差は29秒445。野尻としては、タイヤ交換までにもう少しマージンを稼ぎたいということで、プッシュを開始するが、野尻と大湯のペースはこの時点でほぼイーブンだったため、29秒台の差がしばらく続いた。そこからは野尻がジワジワと差を広げ、22周を終えたところでは31秒607となる。ところが、このあたりから野尻もペースが上がらなくなり始め、逆に差が少し縮まり始めた。そのため、野尻は25周を終えようかというところでピットイン。その前の周には、見た目上の3番手を走行していた山本もピットに入る。山本は大湯の後ろでコースに戻ったが、野尻のクルーは7秒2という素早い作業を見せ、大湯の前で野尻をコースに戻すことに成功した。この動きを見て、野尻の翌周には平川がピットイン。しかし、平川のクルーは右リヤのタイヤ交換に若干手間取り、作業時間は9秒4。平川は大湯の後ろ、山本の前でコースに戻る。山本は、その周1分34秒510とファステストラップをマークしており、何とか平川を捉えたいところ。アウトラップの平川の後ろにピタリとつけた。しかし、S字までにタイヤのグリップが出たという平川は、絶対に譲らない走り。ところが、その周の90度コーナー進入では、山本が後方から平川のインに飛び込む。しかし、山本は止まり切れず、左フロントが平川の右リヤに接触。平川はここでスピンを喫したものの、すぐに再スタートし、山本の後ろにつける。ところが、メインストレートでは、山本が突如スローダウン。接触の影響で、山本の左フロントサスペンションは折損しており、そのままマシンを止めてリタイヤすることとなった。一方の平川は、ここから鬼神の走り。自己ベストをマークして、前を行く大湯を追った。
そして、29周を終えようかというところで、いよいよ宮田がピットイン。宮田は、タイヤ交換後、大湯の後ろを走っていた阪口の前、4番手でコースに戻った。アウトラップの3コーナーでは、阪口が一旦宮田をオーバーテイク。しかし、タイヤが温まると、宮田は31周目の3コーナー入り口で阪口を再逆転、4番手に戻った。
決勝2位 平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)
この頃、2番手争いも白熱。序盤にタイヤ交換を行い、次第にペースが厳しくなっていた大湯に、平川が勢いよく迫って行く。そして、33周目のS時では、オーバーテイクシステムを使いながら一気に大湯の前に出ることに成功。2番手に浮上する。しかし、ここからトップの野尻を追い詰めるまでには至らなかった。その結果、野尻はほぼ独走体制で今季2勝目をマーク。今回23ポイントを獲得して、3連覇を実現できる位置に戻ってきた。平川は今季ここまで最上位の2位表彰台を獲得した。また、最終盤は3番手争いも白熱。残り5周で3番手の大湯と4番手の宮田には、11秒以上の差があったが、タイヤの状況がいい宮田は1周あたり2秒以上その差を詰めて行く。しかし、大湯も踏ん張りを見せて、ポジションを死守。大湯は怪我からの復帰戦で、今季初表彰台をものにした。宮田はスタートで出遅れたところから大きく挽回して4位。ランキングトップに返り咲いている。
今シーズンを締めくくる鈴鹿大会までは2ヶ月のインターバルがあるが、一体どんなドラマが待っているのか。今からその日が非常に待ち遠しい。
決勝4位 ランキングトップ 宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)