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コラム【武士が斬る!】vol.7 “苦悩”と”陽”が入り混じったもてぎ

2023.09.08

この写真は日射しが強すぎて日傘をさして解説中の画です(笑) 今年の夏は不快!暑いというよりも不快でしたね~。夏休みということで国内は各カテゴリ—のレースが目白押しに開催されてきましたが、さすがに今年の気候ではせっかくのいいレースも不快感が残ってしまう残念な状況でしたね。特に今回の茂木は、髙橋二朗さん曰く「中華鍋の底」形状の盆地なので、とにかく暑い!不快!!そんな中でチームの皆さんはしっかり働いていました。そしてドライバーのみんなもそれに応えようと頑張っていましたし、何よりも、その姿をファンの皆さんが炎天下の中をずっと最後まで見守ってくださっていました。モビリティリゾートもてぎでの過酷な環境でのレースは、そこにいるすべての皆さんの頑張りによって成立したと言っていいイベントだったと思います。特にオフィシャルさんたちは大変でしたよね。本当に皆さん、お疲れさまでした<m(__)m>そして毎度おなじみSUPER FORMULAアンバサダーの土屋武士です。夏休みと冒頭に書きましたが、夏休み興行的ハイシーズンのおかげでお休みは全くないです、はい。毎年この時期にはトヨタのレーシングスクールもあって、参加する受講生は14歳からの学生が多いので夏休みに行うんですが、2000年から講師として参加しているので今年で24年目!現在の主任講師が第一期生の片岡龍也選手なので、そりゃ歳も取ります(^^; 夏は嫌いじゃないんですが、今年みたいな気候が続くようだとこの時期にイベントが重なることを避けていかなければならないでしょうね。誰もがみんな感じていることだと思います。何事も健康があってこそですからね。すでにたくさんの人が動いていると聞いていますので、よりよく改革が進んでいくことと思います。期待しましょう!
今はF1イタリアGPを観ながらこのコラムを書いていますが、リアム・ローソン選手はF1にデビューしましたね!!まぁ、いくだろうとは思っていましたけど、こうやって一緒にSUPER FORMULAで走っていた仲間が走っているとホントに嬉しいですね!オランダGPでも難しいコンディションをしっかり完走。今回も入賞まであと少しの11位! しっかりと実力を示してこれたと思います。レギュラードライバ―のシートも現実味を帯びてきたと思うので、SUPER FORMULA卒業生として来年はF1に羽ばたいていってほしいと思います!

前回のRD7茂木戦、そのローソン選手には苦い思い出となったレースだったと思います。予選こそ2番手を獲得し、こちらも初走行のサーキットとなった茂木も、いとも簡単に攻略してきました。ハードブレーキングを必要とするこのサーキットは、1周をまとめることがなかなか難しいサーキットなので、タイヤの美味しいところを引き出すには1周しかチャンスがないので、かなり難関だったと思います。いき過ぎてもダメ、おさえ過ぎてもダメ、その中で素晴らしい集中力でした。ただ、決勝のスタート直後の1〜2コーナーでの野尻智紀選手との攻防で、アウト側縁石に車体のフロア部分を“底打ち”してしまい、アクセルを緩めずにいたことでコントロール不能になってスピンをしてしまいました。スタート直後であり、トップの1台がコース上に戻ってきたことで後続は大混乱。ローソン選手のマシンに2台が乗り上げて宙を舞うという衝撃的なクラッシュとなってしまいました。幸い、ドライバーの誰にも大きな怪我がなく、最悪の事故にはなりませんでしたが、改めてレースは危険だということを認識させられる事象でした。

ローソン選手は自走でピットに戻れ、チーム無限のメカニックたちの素晴らしい作業により、赤旗レース再開のコースインまでに修復を完了したのですが、赤旗提示時のピットインはNGだったので、そのペナルティによりドライブスルーがあったことと、ピットイン時にリヤウイングにゼッケンが貼っていなかったということで、それを貼るタイムロスがあって約23秒のピットストップを要したので、残念ながら入賞には届きませんでした。このピットロスがなければもしかしたら10位くらいになれたかも、合わせてドライブスルーがなければ計算上では5位になれるくらい(実際はオーバーテイクの必要があるので5位までいけたかは?) のペースを持っていたということで、重ね重ね残念だったと思いますが、これもレース。茂木の縁石のことはしっかりとインプットされたことでしょう。そして日本の暑さも。ローソン選手にとっては忘れたい日本の夏休みだったと思います。
このクラッシュでは関口雄飛選手が巻き込まれてしまいましたが、今季の関口選手の運の悪さというのは、、、本当に言葉が出ません。ここまでノーポイントということも信じられませんが、避けられないクラッシュというのも菅生に続き2度目。車両のトラブルも多発していて、ここまで負の連鎖があるものなのか——、というような状況に言葉がありません。予選もトヨタ勢トップの5番手で、昨年優勝したこの茂木で復活を遂げるはず、だったんですが。レースの神様は、時に残酷です。

しかし、この大混乱の中で3台のみで済んだことは、選手たちの素晴らしい判断と反射能力だったと思います。牧野任祐選手関口選手、そして松下信治選手にとっては、誰が乗っていても避けられないタイミングだったと思います。その3台以外は間一髪でしたが、回避出来ました。これもSUPER FORMULAのドライバーのレベルの高さを象徴していると言えます。そして最新マシンの安全性も。もっと悲惨な事故になっていた可能性の方が高かったと思いますが、本当に最小限でおさまって良かったと思います。
ここまで“苦悩”の話が続いてしまいました。どんどんテンションが下がっていくのでここらへんで断ち切りましょう。本当は小林可夢偉選手のことにも触れたいんですが、ここまでにしておきます。ただ、この日曜日に一番速かったと思われるのは可夢偉選手でした。またもや初優勝はならず。。。
おっと、また戻ってしまったので本当に話題を“陽”に変えていきます。3位に入った大湯都史樹選手、ようやく!っていう感じで“完走”しました。ホントにホントに、待ってましたよ。大湯選手の速さは誰もが知っているので、決勝のチェッカーを“普通”に受ければトップグループに入れることは誰も驚かない。ちょっとだけ、速く走りたいという“感情”の部分をコントロールできればこうなることはみんな分かっていたことです。速く走ることの方がよっぽど大変なのに、大湯選手にとっては自分の衝動を抑えることの方が難しかったんですよね。でも、それができるとどれだけの人たちが喜んでくれて、笑顔になってくれるかっていうことを知れたと思います。大湯選手本人も「よかった~~」ってホッとしてましたよね。SUPER FORMULAにとって、レースを面白くしてくれる役者なのは間違いないので、これからいい部分を引出し、弱い部分をマネージメントできればもっともっとみんなが喜んでくれる結果を持ち帰ることができると思うので、この先の大湯選手の活躍に期待したいと思います。
そしてそして、何といっても土壇場、勝負所でポールトゥウィンを成し遂げた野尻智紀選手!よくぞこの状況下で、フルマークのポイントを獲得してチャンピオン争いに踏みとどまりました!!本人談、「崖から半分落ちています(笑)」というところからトップの宮田莉朋選手から10ポイント差のランキング3位につけました。中嶋悟さんしか達成していない、日本トップフォーミュラ3連覇を充分に“狙える”位置で、最終戦鈴鹿ラウンドに向かうことになりました。

土曜日朝のフリー走行は何となく乗り難そうだなと、TV映像を通して思っていたのですが、それでも最後にはまとめてトップタイムで終え、そして予選ではコンマ2秒引き離してのポールポジション。獲った後の魂の叫びに、我々は震えました。どれだけ自分を追い込んできたのか。その1周だけではないはず。チームにもプレッシャーをかけ、自分自身にもプレシャーをかけ、そして“任務を遂行”して獲得したその姿には、チャンピオンの威厳すら感じました。果たして、翌日の決勝も完璧なまでに集中しきってトップチェッカー。「俺を忘れるな!」ここまでの2シーズン、このカテゴリーの中心として引っ張ってきた野尻智紀のプライドを見せつけられた週末だったと思います。こうでなきゃ、トップフォーミュラは面白くない。役者がそろってこそ、価値が上がるっていうもんです。最終決戦の鈴鹿が俄然楽しみになってきました!!
そしてその主役を奪ってシリーズのトップに君臨しているのが莉朋選手。これまでシルバーコレクターと揶揄されて、少し頼りなく見えていたその姿はもうどこにも見えません。鈴鹿RD3での見事な勝利の後、世界耐久選手権の現場で、自分が目指す場所を目の当たりにしてきて、そこにたどり着くための準備をはっきりと意識したことで、男として大きくなったように思います。男の顔つきになりました。そこからのレース展開は非常に落ち着き、そして戦っています。戦い抜いてリザルトを持って帰ってくるようになりました。今回の茂木はその最たるものです。オーバーテイクも鋭く、相手の一瞬の隙をついて順位を上げてきました。いま、一番乗れていることは間違いないと思います。すべてのバランスが取れている莉朋選手の一番の敵は、チャンピオンがかかる最終戦の“舞台”でしょうか。しかし、手強いライバルがいることは莉朋選手にとっては好材料と考えます。だって、速く走ること、勝つことに精一杯になれる環境があるから。プレッシャーもかかるだろうけど、そんなこと考える暇もないほどの厳しい環境だと思います。苦手としている茂木では4位というリザルトを得て、チャンピオンへの階段を確実に登りました。あとは最後の数段を駆け上がるだけです。新たなヒーローの誕生を願っているファンはたくさんいるはずです。その期待に応えられるかどうか——、しっかり見届けたいと思います。
まだまだこのレースで光ったドライバーはたくさんいるんですが、今回も長くなってしまったので、またの機会に話したいと思います。でもちょこっと。
太田格之進選手
の予選2位や小高一斗選手の7位入賞はかなり評価高いです! 
ローソン選手のせいで(笑)、ルーキーへのスポットが当たりにくくなっていますが、このSUPER FORMULAで彼らの活躍は素晴らしいものがあります。ホント、そんな簡単じゃないんですよ、ここは。そんな話もいつか書きたいと思います。
そして今週は世界耐久選手権・WECが富士スピードウェイで開催されます。私もJ SPORTSの解説で伺いますが、もちろんSUPER FORMULAの仲間の小林可夢偉選手平川亮選手も参戦します。今季のWECはハイパーカ―クラスに多数のワークスが参入してきて、ヤバいくらいの緊迫感になってきています。その中で王者として君臨しているのが、我らがTOYOTA GAZOO Racing。ルマン24時間こそ勝利を譲ってしまっていますが、現在もシリーズランキング1位をキープしての凱旋です。ご覧になったことがない方は是非観て頂きたい!SUPER FORMULAの仲間の活躍、日本勢の活躍、自動車メーカーの威信をかけ製作されたマシンたちのバチバチの争い。なかなか見られない戦いがあるのでレースファンなら観ておいて損はない!おすすめです(^^)
といわけで、レースって何が面白いかって、そこにいる全員が“優勝”を目指してもがきながら努力していく訳なんですけど、その本気度が半端ないからこそのドラマが起きるんです。それに我々ファンは魅了される。人の感情が爆発するその瞬間に立ち会えた時、レースの無限ループにはまって抜け出せなくなるんですよね。耐久レースはチーム戦だからたった1チームしかてっぺんに立てない。そしてスプリントレースはたったひとりです。優勝の栄冠に浸れるのはたったひとり。だからレースやっている人のシンプルな本音は、「2位はきらいじゃ」なわけです。っていう感じで、平川選手の名言をご紹介したところで今回のコラムはおしまいにしますね。ではまた!

 

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシイングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

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