コラム【武士が斬る!】vol.13 九州大会を振り返って.. 次戦SUGOは激戦必至!
2024.06.18
皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。
来週は第3戦スポーツランド菅生東北大会ですね!その前に前戦のオートポリス九州大会を振り返ってみたいと思います。
このレースは何といっても参戦6年目にして初優勝を遂げた牧野任祐選手、この人に泣かされた人はかなり多かったのではないでしょうか??何を隠そう放送席でもすすり泣く声が所々に聞こえてきてまして、かくいう私も泣かされました。。。ゴール後の「もう俺、絶対勝てないと思ってた…」という牧野選手の涙声の無線がウイニングランの間に聞こえてきました。ここまで勝てなかった彼の苦悩は、同じ状況になければ計り知ることはできないでしょう。2019年のSUPER FORMULAデビュー戦でポールポジションを獲得してポテンシャルは示したものの、一番欲しい表彰台の頂点はいつもチームメイトが先にたどり着く。そして昨年、自分がエースという環境の中で、ルーキーの太田格之進選手にも先を越され、ストレスとプレッシャーは最高潮になっていたと思います。自分の中で自分自身を信じられなくなることもあったと思います。「いや、まだやれる、俺は勝てるんだ」と自分を鼓舞しながらオフはトレーニングでも自分を追い込み、不安になる自分と戦っていたことでしょう。それでも不安はぬぐい切れない。走りで、結果でしかこの不安はぬぐい切れないものです。
そんなシーズンオフを過ごした牧野選手は、開幕前の唯一の公式テストで、4セッション中3セッションをトップタイムで終えました。「今年はやれる、必ず勝つんだ!」という気迫を、このテストの走りから牧野選手に感じることができました。開幕前のコラムで「牧野選手には勝つ準備ができている」という表現をしましたが、まさに昨年の最終戦からこのテストまでの期間に、どれだけの想いで準備をしてきたのかが分かる内容でしたので、間違いなく“牧野は来る”と、確信して書いたことを覚えています。
しかし、レースの神様は意地悪です。ここまで万全の準備をしてきた牧野選手にまたも壁を用意しました。開幕戦鈴鹿ではテスト時の好調が嘘のようにペースがなく、上位に入れませんでした。そしてその後、体調不良が牧野選手を襲います。SUPER FORMULA開幕戦後のスーパーGTの公式テスト2回を療養のために欠場するほどの体調不良でした。
以前にも体調不良でSUPER FORMULAのレースを欠場することもありましたが、ここまでしっかり準備してきた牧野選手にとって、せっかく取り除けそうだった不安がまた襲ってきたことでしょう。「なぜ、、、また俺は勝たせてもらえないのか…」。次から次へとやってくる障壁。でも牧野選手の周りには、「牧野が勝てない理由はない」と、牧野選手が優勝する日が来ることを信じていた仲間がいました。村岡チームオーナー、杉崎エンジニア、チームのみんなが牧野を勝たせようと、そんなみんなの想いに、そして牧野選手の頑張りに、レースの神様は根負けしたのでしょう。とうとうその日がやってきました。サーキットを、このレースを観ていたみんなを感動の渦に引きずり込む素晴らしい幕引きを用意して。
レースはときに素晴らしく、ときに残酷です。たくさんの苦しい思いをした分、多くの人に感動を与えた素晴らしい初勝利になりました!牧野選手、本当によくここまで頑張ったね。本当におめでとうございます!!
そして2位に入った岩佐歩夢選手のゴール後の悔しい表情もファンの皆さんの脳裏に焼き付いていることでしょう。牧野選手のインパクトのある初優勝の裏で、しっかり存在感を残す走りと表情は、これから大きな仕事をやってのける可能性を感じずにはいられません。
まず岩佐選手はSUPER FORMULAのルーキーというなかで、予選ではコンマ3秒もちぎるポールポジション。そして決勝でもスタートで3位に順位を下げたものの、レースペースでは全車の中でも一番といっていい速さを持っていました。もちろんドライバーとしてのスピードは疑いの余地はないとして、この百戦錬磨の強者の中でも、自分のやるべきことが何なのかをしっかりと理解して、そしてそれをチームと共に実行できること。そしてしっかりリザルトに反映できる能力こそが、岩佐選手の凄さなのかなと感じました。
昨年チーム無限に在籍したリアム・ローソン選手は、初参戦のSUPER FORMULAでも成績をしっかり残し、F1でもポイントを獲得済みで、そのポテンシャルを関係者は高く評価しています。その“物差し”がある中で、岩佐選手はこの第2戦で自身の可能性をしっかりと示したと思います。F1候補生は大きなプレッシャーの中で戦っているので、これくらいの走りをするのは当たり前かもしれませんが、レースはチームプレーでもあり、自分の速さだけではどうにもならない時もあります。そのことも理解したうえで、岩佐選手はF1への切符をたぐり寄せようと、とにかく必死に誰よりも速く走ろうとしているように見えます。だからこそ、ゴール後のあの表情だったのでしょう。
岩佐選手の抱えるプレッシャーは相当なものです。それでもそこから逃げずに戦う姿を我々は見ることができている。そしてその努力が報われる日も近いのではないかと、そう感じることができたオートポリスのレースでした。また、SUPER FORMULAに新たな役者が現れたなと、そう感じたレースでした。
そして3位表彰台を獲得した坪井翔選手。こちらも開幕戦では謎の失速だったと思いますが、しっかりとリカバーしてこの第2戦で復調してきたことはさすがチームトムス、さすが坪井選手だなと感じました。開幕前のコラムでは、今シーズンの中心選手を牧野・野尻・坪井の3選手を上げていましたが、トヨタ勢のエースとしての期待を背負う坪井選手にも、大きなプレッシャーがあったと思います。ここまでホンダ勢が上位に来るシーンが多い印象ですが、今回のレースは予選6位から落ち着いて追い上げて3位まで挽回したことで、今シーズンの“戦うリズム”が作れたのではないかと思います。この“リズム”を作るということが非常にスポーツにおいては大切で、それを崩すとどれだけ調子が良くても成績につながらないことが多くあります。坪井選手、そしてチームトムスはスーパーGTでチャンピオンを一緒に2回獲得している常勝集団です。勝つための、チャンピオンを獲るための方法をお互いによく知っている仲間なので、リズムができたことでやるべきことに集中できる状況になったことでしょう。そして次戦菅生は昨年宮田莉朋選手が優勝したサーキットです。特性的にもクロスレシオ(※ギヤレシオのことです)となるスポーツランド菅生は、エンジン特性による影響も出にくくなると予想できます。今シーズンまだ勝ち星がないトヨタ勢も巻き返しをここから図っていきたいところだと思いますので、流れに乗った坪井選手の走りに注目していきたいと思います。
そしてチャンピオンの獲り方を知っている選手として、山本尚貴選手のことも触れずにはいられません。SUPER FORMULAで3回、スーパーGTで2回のチャンピオンを獲得している山本選手は、昨年の大クラッシュから手術を経て、復帰初戦で3位表彰台という信じられないような復活を遂げましたが、このオートポリスでも予選3位、決勝4位という成績でこのレースでも競争力を示し、中嶋レーシングに移籍してから一番といっていい状態で今シーズンを戦っているように見受けられます。開幕戦で優勝した野尻選手が優勝インタビューで、「山本選手が完全復活の兆しが見えたので、今後のシリーズがかなり難しくなる雰囲気を感じています」と言っていたのを聞き逃しはしていません。山本選手は長い間ホンダのエースとして君臨している状況で、目標であり倒すべきライバルとして、野尻選手は山本選手を強く意識してきたと思います。その山本選手の強さ、凄さをよく知っている野尻選手だからこそ、山本選手が復調してきたらかなり手強い存在になると感じたコメントだったのだと思います。
その予想通り、山本選手はトップグループに帰ってきました。次戦菅生は2019年に優勝、そしてその時に記録したポールポジションのタイムは驚異的なコースレコードとしていまだに残っています。怪我をした首には一番きついコースが菅生かもしれませんが、多くの苦難を乗り越えて復活した山本選手には、ネガティブに感じる要素はとっとと消化しているかもしれませんね。山本選手の走りにも目が離せません。
こうやって取り上げていくとほとんどの選手にスポットライトを当てられるくらい、今年のSUPER FORMULAは役者がいる状況なので、面白いレースになっているんだと思います。
レース中に珍しくコースアウトをして順位を落としてしまった野尻選手は、開幕戦を優勝したにも関わらずこの第2戦の結果を重く受け止めていることでしょう。常勝でなければいけない野尻選手が抱えるプレッシャーも、彼にしか分からないものだと思います。でも昨年の“崖から半分落ちていた”状態からの第7戦茂木の完勝は、追い込まれてからの野尻選手の底力を見せつけてくれましたし、菅生でも巻き返しを図ってくるに違いありません。
主役に躍り出てきそうな選手はまだまだいます。太田選手はリザルトこそ今季はまだ表彰台に乗れていませんが、展開次第では勝てるポテンシャルがある状況で開幕2戦を戦っていました。山下健太選手、阪口晴南選手、福住仁嶺選手のトヨタ勢も開幕2戦で入賞を遂げて、あと少しかみ合えば優勝に届いてくるでしょう。他にも爆発力のある選手が控えていることを考えると、本当に菅生のレース順位はどうなることか——、予想は難しいですね(^-^;
次戦菅生はドライバーの頑張りがタイムゲインにつながるサーキットです。特にSPコーナーではどこまで攻められるかでタイムを削ってこれる高速コーナーです。それ故、ここでのクラッシュも過去の予選で何度も起こっています。ここまであまり良いリザルトがあげられていない選手も、ここでいい結果を持ち帰ろうと目論んでいることでしょう。
また新しいヒーローが現れるかもしれません。前半2戦で強い選手が、またここでもいい成績を残して選手権をリードしていくかもしれません。次戦菅生も激戦必至!見逃せない戦いになることは間違いないと思いますので、是非サーキットで、テレビでご覧ください!私はサーキットでしっかりみんなの走りを堪能したいと思います(^^♪
written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。