コラム【武士が斬る!】vol.20 春のもてぎ、ブレーキングとトラクションが重要。新しい物語が生まれることを期待!
2025.04.19
皆さんこんにちは!SUPER FORMULAオフィシャルアドバイザーの土屋武士です。
2025年も先週末に岡山でSUPER GTが開幕して、いよいよモータースポーツシーズンが始まりました!そんななか、SUPER FORMULAは早くも今週末には第3-4戦の茂木ラウンドが開催されます。
開幕ラウンドの鈴鹿とはコースの特性も違い、低速コーナーが多くてブレーキングとトラクションが重要となるレイアウトだけに、開幕戦とは違った勢力図になるかもしれませんね。例年と違って春の開催となる茂木も非常に楽しみです。
次戦の期待感も日に日に増してきていますが、まずは開幕ラウンド鈴鹿を振り返ってみましょう。
2025年のSUPER FORMULAの新たな変化として、横浜ゴムの新スペックタイヤが投入され、再生可能原料比率をこれまでの33%からDRY用&WET用の平均比率が46%にUPされました。キャラクターとしては2月に鈴鹿で行われたテストにおいては、Longラン性能が良さそうだという声がパドックでは聞けました。これまでのタイヤではアタックラップ後のラップタイムの落ち幅が大きかったものが、一度ピットに入った後のセカンドアウティングでもベストタイムからの差が少なく、デグラデーションは少ない予想をしているチームが多かったです。それに加え鈴鹿サーキットの東コースの路面改修もあってグリップ自体も上がりタイヤの持ちが良くなっているという見解もありました。
そしてもう一つの変化がレースフォーマットです。今シーズンの多くのラウンドで週末2レース制になりました。土曜日の決勝はこれまで同様、先頭車両が10周に到達した以降から最終周回に入る前にタイヤ交換義務を消化するルールですが、距離が160km前後に変わり少し短くなりました。そして日曜日のレースの距離は180kmで昨年同様ですが、10周という縛りはなく交換義務のみになります。このフォーマット変化とタイヤのデグラデーションがレース展開にどのような作用をするのかもこの週末の見どころの一つになっていましたね。
そして2レース共にそれぞれ面白みがある内容でした。土曜日の第1戦は太田格之進選手と岩佐歩夢選手の、最終ラップのオーバーテイクシステム(OTS)を駆使した頭脳戦のバトル! 最後は0.197秒という僅差で格之進選手が昨年の最終ラウンドから鈴鹿3連勝を飾り、まさにNEW鈴鹿マイスターと呼ぶに相応しい走りで優勝をかっさらっていきました。
そして日曜日の第2戦は1周目、2周目に多くのマシンがタイヤ交換義務を果たして、ピットに入っていない“表の1位”と義務消化済みの“裏の1位”との見えないタイムバトルがあり、表は牧野任祐選手、裏は格之進選手がレースを引っ張る形となっていましたが、岩佐選手をパスした際にタイムペナルティ5秒の裁定が下り、そして最終盤にセーフティーカー(SC)が入る展開によって格之進選手が上位から入賞圏外に転がり落ちる展開になりましたね。
最後はゴールに全車がなだれ込む形になって少々カオスな状況になりましたが、終わってみれば牧野選手の優勝、そしてチャンピオン坪井翔選手が2位、前戦2位の岩佐選手が連続表彰台となる3位と、実力者がしっかりと表彰台を獲得しました。
両レース共に見ごたえのあった展開でもありましたが、今年もしっかりと準備をしてきた選手とチームが上位に来たなという印象の開幕ラウンドだったと感じています。
それでは注目していた選手についてお話ししていきましょう。
まず私が注目していたのが新チャンピオンとなった坪井翔選手の戦いぶりです。金曜日の走り出し、今週は“大苦戦”するのではないかなと思うくらい、トップとの差があるように見えました。第1戦の予選が9位だったことでもそれを物語っています。ところがセッションが進むたびに劣勢だった状況を打破していきました。第1戦の決勝では4位、第2戦では予選4位から決勝2位と、SCなどの不確定要素はあったものの、走り終わりには2位という結果まで持ってきたことに今年の坪井選手が更に強くなったと、他陣営に思わせるに充分な戦いぶりだったと思います。
チャンピオンを獲ったことで更に成長して戻ってくる。これが坪井翔の強みであり、彼の流儀なのでしょう。トムスのエース、トヨタガズーレーシングのエースという自覚が芽生えて、真のエースとしての頼もしさも漂ってきているように思います。今年の坪井選手も間違いなくチャンピオン争いの中心になるなと思えた開幕ラウンドの戦いぶりでした。
そしてこの話題に触れない訳にはいきません。野尻智紀選手はこの開幕ラウンドの予選でダブルポールを獲得し、通算21回となって本山哲さんの1996年以降のトップフォーミュラ歴代最多のポールポジションの記録を更新しました!レーサーにとってポールポジションとは最速の証明です。1周にかける集中力とそこまで積み上げていく努力がなくしてこの記録は生まれません。野尻選手のスタイルは本当に細部まで細かく積み上げてマシンを速くし、それをしっかり理解したうえでドライビングをしていくように見て取れますが、ここまでの記録を築くには相当の時間と労力を使ったことでしょう。本山さんが努力をしていなかった訳ではないのですが、野尻選手のそれとは比べ物にはならないと想像します。
決勝では残念ながら7位と4位で表彰台には乗れませんでしたが、記録は破られるまでは永遠に残ります。次、レース後恒例のトップ3インタビューに来た時にその功績をファンの皆さんと一緒にたたえたいと思います!
開幕前のテストの様子で岩佐選手が今年のチャンピオン争いの中心になるのではないかと思っていましたが、やはり来ましたね!2戦を終わってランキング1位です。両レース共に予選は2位で上位をしっかりキープ。開幕戦ではペースはあったものの格之進選手との駆け引きにおいて、ほんの少しだけ前に行かれてしまい優勝を逃がした表情は本当に悔しそうでした。第2戦ではシンプルにペースがなく劣勢でしたが、それでも3位表彰台を獲得し、今年の岩佐&15号車陣営は安定して強そうだなと印象づける戦いぶりでしたね。
昨年は自らの持つポテンシャルを発揮できずにレースウィークが終わってしまっているようにも見受けられたこともありましたが、今年は本来の力を出せているように見えます。いよいよ初優勝も近いかなと思える2日間でしたし、シリーズ争いもリードする立場でスタートができたことで岩佐選手のいいところがたくさん見れそうな予感がしますね。
そういう意味では佐藤蓮選手もいいスタートを切りました!開幕戦で2022年以来の3位表彰台を獲得し、久しぶりにその速さが結果に結びつきました。昨年からナカジマレーシングの調子も上向きで、蓮選手の速さと相まって両レース共に予選6位と上位のグリッドを獲得。第2戦の決勝ではタイヤ交換の際にロスがあって6位でしたが、このロスがなければ連続の表彰台の可能性もあったと思います。
蓮選手は、時折想像を超えてくるような速さを見せることもあり、スピードセンスは秀逸ということを関係者は知っています。これまではオーバープッシュによってまとまらないこともありましたが、今シーズンはその速さがリザルトに繋がってきているので、蓮選手の初優勝がもしかしたら近いうちに見れるかもしれません。
ナカジマレーシングのもう1台、イゴール“大村”フラガ選手もルーキーながら早くも第2戦で5位入賞を遂げました。開幕戦では予選8位と健闘したものの、レコノサンスラップにおいてオーバースピードでコースアウトしてしまい、そのグリッドポジションを活かすことができませんでしたが、そこはルーキーらしさというところでしょうか。
しかしそれ以外の部分では非常に落ち着いているように見受けられ、第2戦の入賞に表れているようにその才能はこのトップフォーミュラのステージで充分に走れることを証明しました。シムの世界では頂点に立ちましたが、リアルの世界でも同じことを成し遂げられるのか。見守っていきたいと思います。
ルーキーの話題が出たのでルーキーの話をしましょう。小出峻選手も開幕戦で予選7位という素晴らしいデビューを飾りました。そして第2戦では8位に入賞し、この競争の激しいSUPER FORMULAの舞台でしっかりと走れることを証明しましたね。1台体制のB-Maxレーシングの中でルーキーという条件は決して簡単ではないはずなのに、初戦でこの結果を獲得する非凡さには俄然興味を抱きたくなります。SUPER GTの開幕戦での落ち着いたレース運びも興味深いものでしたし、今後どのようなキャラクターが見えてくるか楽しみに見ていきたいと思います。
そして同じく、ルーキーですが経験と実力は充分なザック・オサリバン選手も開幕戦で8位入賞を獲得しました。オサリバン選手はその順位以上に、予選と決勝でのスピン車両の回避の際のアクセルを緩めない豪快さ。一目で「並みのドライバーじゃないな」、と思いました。明確に状況を把握していなければあそこでアクセルを緩めずに踏んでいくことはできないと思います。そのスピード感覚と判断の思い切りの良さに爆発力を感じます。今後のほとんどのサーキットが初めて走ることになる今シーズンは苦戦すると思いますが、2巡目のサーキットに来た時に本来のスピードを見ることができるかもしれませんね。
この厳しいSUPER FORMULAの舞台で早くも入賞を果たしたルーキーが3人もいるこの中で、誰がルーキーオブザイヤーを獲得するのか、誰が初めに表彰台を獲得するのかも、興味深く見ていきたと思います。
そして締めはこの週末優勝を分け合ったダンデライアンの2人です。土曜日の格之進選手の優勝は、スピードとうまさが融合した素晴らしい勝利でした。SC明けの一瞬のスキを見逃さず一発で仕留めたオーバーテイク。その後の展開も、非常に頭と集中力を要する展開をしっかりとしのぎ切った格之進選手とチームはあっぱれという言葉が思い浮かびます。
しかし、第2戦では5秒のタイムペナルティを背負い、終盤のSCにより表彰台を逃がすことになりました。非常に悪い流れに感じますが、もしかしたらこのことが選手権争いにおいて、格之進選手にとってのターニングポイントになるかもしれないと、個人的には感じています。そのことについては今後触れる機会があればお話ししたいと思います。
この週末、もう一人の主役である牧野選手は、第1戦はSCによりダブルピットのあおりを受け、そしてエンジンがストップしてしまったことでほぼ最後尾に落ちてしまいました。その後は粘り強く追い上げて10位まで挽回。かろうじて1ポイントを獲得しましたが、明らかに理想のスタートではありませんでしたよね。昨年の最終ラウンド鈴鹿でも、チャンピオン争いをしていたのに勝負するところまで持っていけなかった歯がゆさが思い出されたに違いありません。
しかし、今年の牧野選手は強かった。オフシーズンに山本尚貴選手と同じトレーニングを志願し、自分の身体と心を追い込んで鍛え上げ、この開幕を迎えました。その成果はしっかりとこの週末に表れたと思います。第2戦ではしっかりと実力を発揮し、“不運”という外的要因もこの日の牧野選手に訪れなかったことで、“完勝”と呼ぶにふさわしい勝ち方で優勝を遂げました。
やはり準備は噓をつかないということを証明しましたし、何よりその“成功体験”を得た牧野選手は今後のシーズンを戦うにあたっての大きな自信を得たと思います。頑張った後にはご褒美があるってことを知った牧野選手は相当強くなると思うので、ノリにノッテいるダンデライアンのチームパッケージは格之進選手含め、今シーズンを引っ張っていく存在だと感じさせる開幕ラウンドだったと思います。
終わってみれば実力通り、準備してきたことがちゃんと表現できた内容だったのではないかなと思います。しかし走る条件は変わっていきます。サーキットだったり気候だったり天候だったり・・・、冒頭に書いた通り、次戦もてぎはサーキットの特性は全然違います。また、気温路温が上がってきた状況での新スペックタイヤがどんな性能なのか、キャラクターなのかも、走り出してみないとまだ分からないし、レースを走り切ってみないと本当のところは分かりません。
開幕戦で思った結果が得られずに悔しい思いをしたチームが挽回をして上位に来るのか?それとも実力のあるチームが上位を固めるのか??
春のもてぎでまた新しい物語が生まれることを期待したいと思います。
それでは茂木ラウンドも私は解説をさせて頂きますので、またそちらでお目にかかりましょう。それではまた!
written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。