SuperFormula

INFORMATION

コラム【武士が斬る!】vol.2 真のレーサーたちのドラマが多すぎる!

2023.04.19

こんなに書きたいことが溢れているっていうのは良いのか悪いのか・・・今回はSFgoとJ SPORTSの放送で解説もさせて頂きました土屋武士です。

もちろんファンの皆さんにとっては良いことですよ。でも書き手としてはどれを抽出したらいいものか、めちゃくちゃ悩ましいんです。それだけ掘り下げること満載の開幕2連戦でした。

まずは開幕戦ですよね。富士スピードウェイを初めて走るリアム・ローソン選手が衝撃のデビューウイン。他のルーキードライバーと比べると、どれだけすごいことをやってのけたのかが計り知れます。ただ、チャンピオン野尻智紀選手のローソン評からすると、それくらいの“器”というのは事前に分かっていたこととも言えます。レッドブルから送り込まれたF1候補生の中でも今、F1に一番近いところにいるのかもしれません。そして「初モノに強い」ことはFIA F2とDTMのデビューウィンが証明しています。ですから、野尻選手という完璧なチームメイト(ターゲット)がいることと、TEAM MUGENの成熟された素晴らしい体制の中では、これくらいのことをやるだろうな、というのが正直な感想です。

過去にも日本トップフォーミュラから巣立ち、F1で優勝経験のあるドライバーは数多くいます。ジョニー・ハーバード、ハインツ=ハラルド・フレンツエン、エディ・アーバイン、ラルフ・シューマッハ、ピエール・ガスリー、そして1戦だけですがミハエル・シューマッハと錚々たる顔ぶれですが、皆、日本に来て強烈なインパクトを残しています。逆にここSUPER FORMULAで平凡な成績のドライバーではF1では勝てないという指標になっていると言えるかもしれません。レッドブル陣営は、SUPER FORMURAをF1への最終試験の場と考えているのかもしれませんね。

悪天候のためにフリー走行がキャンセルされたことは、各チームに大きな不安を落とし込みました。その影響は、45分の計時予選と開幕戦に如実に表れてしまいましたね。19号車関口雄飛選手のエンジンに不具合が出たり、エンジンマップやクラッチの調整などにも影響があり、各チームバタバタしていたのが印象的です。決勝でもレースは接触、セーフティーカ―と、大いに荒れてしまいました。

そのような状況でも、、、いや、そんな状況だからこそ、表彰台は実力者が占めました。1位・現F1リザーブドライバ―(リアム・ローソン)、2位・2連覇中の現チャンピオン(野尻智紀)、3位・世界耐久選手権チャンピオン&ルマン24時間覇者(平川亮)という、世界基準のドライバーが名を連ねました。4位にもスリータイムズチャンピオンの山本尚貴選手が入り、この結果をみても実力あるものが上にくる、日本トップフォーミュラ50周年の開幕にふさわしい結果になったのだと、そう感じました。

そして翌日の第2戦は野尻選手が開幕戦の雪辱を晴らす素晴らしい走りで優勝しました。開幕前に唯一行われた鈴鹿サーキットでのテスト走行で、野尻選手陣営はお世辞にも“決まった”マシンではないように見受けられました。2連覇中のチャンピオンとして迎える新しい年に、もちろん開幕戦からそのスピードと強さを見せつけたいというのが理想でしょうが、そこまでこのSUPER FORMULAは甘くない。エンジニアとしては、マシンを仕上げる為に、あえて“ダメだし”をしてからでないと前に進めないと考えることがあります。これはあくまでも想像ですが、長いシーズンを考えたときに、野尻号の一瀬エンジニアは、無難な方向性よりもひと捻り入れ込んだセットアップで開幕戦を戦うのではないかなと、勝手に想像していました。それが外れたとしても「第2戦で合わせ込めばいいでしょ」と。それが長いシーズンを考えたときに、道に迷うことなく、更に大きなアドバンテージになり得るという根拠から、そういう戦略で来るのではないかなと想像していました。それが2連覇をしている陣営の強さであり余裕であるのかなと。まぁ、そんなこと以上に、ルーキーチームメイトの優勝に、スーパーチャンピオンのプライドに火がついたことの方が影響大きかったと思いますが。

果たして、第2戦は予選から決勝まで、チャンピオン野尻智紀劇場が完遂されました。他の選手を全て脇役にしての完勝です。これぞチャンピオン、これぞトップフォーミュラの戦いをみせてくれました。ローソン選手の出現は、野尻選手、そしてSUPER FORMULAのレベルを更に上げてくれるかもしれませんね。野尻選手にとっては、「また余計なプレッシャー、いらないんだけど・・・」という気持ちでしょうが、今のSUPER FORMULAの中心は間違いなく彼なので、その重責を楽しんでもらいたいと思います。そしてそのチャンピオンを打ち破ろうと他の選手、チームがしのぎを削って挑んでくることで、更にいいレースになっていくことは間違いありません。中嶋悟さんしか達成していない3連覇へのチャレンジは理想的なスタートを切ったと言えます。このストーリーはどんな結末が待っているのか——、しっかりと見守っていきたいと思います。

 

開幕戦では接触も多くありましたが、この第2戦には各選手がしっかりと修正して、各所で素晴らしいバトルが繰り広げられ、これぞトップフォーミュラという展開にレースファンは興奮しました。この適応力こそが最高峰のステージで戦う選手のテクニックですし、プライドだと思います。“想いの強さがドラマを作る” これこそが国内トップフォーミュラであるSUPER FORMULAの魅力だとではないでしょうか。第2戦は優勝した野尻選手だけでなく、たくさんの選手にもドラマがありました。

特に3位表彰台にのぼった山下健太選手は、オフシーズンのテストで大怪我をしてしまって、このレースが、DRYコンデションのレーシングカーに乗る最初の機会だったということもあり、フィジカル的には想像を絶する辛さがあったと思います。それでも歯を食いしばって、常人であれば全く走ることができない状況なのに、山下選手はこの過酷なSUPER FORMULAのステージで戦い切って表彰台を獲得するという、このことに感激しましたし、山下選手の並々ならぬ気迫と覚悟を感じましたこの数年、思うようにいかないシーズンを過ごしていた“やまけん”は「フォーミュラに向いていないんじゃないか」ってくらい思い詰めていました。周りは彼の実力を疑うことはなかったと思いますが、やまけんはビックリするほど純粋なので、結果が出ていないことにすごく追い詰められていたと思います。そこにクラッシュによる怪我で、1ヶ月は天井しか見ることのできない生活を強いられ、その後も激しい運動はNGの中、約3ヶ月の療養生活の空けにいきなりのSUPER FORMULAのレースなんて不安しかないですよね。それでも開幕戦に挑戦し、そして表彰台を勝ち獲ることを成し遂げたやまけんは、真のレーサーだということを証明したと思います。そして成績が出ていない選手にとっては、リザルト以外の治療薬はありません。結果が出なければ去るのみというプレッシャーにさらされ、自分を証明するために戦いに挑まなければなりません。そんな中、準備もろくにできないまま挑んでいかなければならなかった状況は、とてつもない不安だったことでしょう。そしてその戦いに勝ちました。レース後、「支えてくれた人たちに感謝したいです」と再三再四コメントしていたやまけんは、大きな壁を、人間的にも一回り大きくなって超えてきたと感じます。彼の今後のレースに大いに期待したいですね。

さてさて、他にも拾いたいドラマやエピソードがたくさんあるのですが、長くなってしまったので今回はこの辺にしておきます。せっかく“斬る”のがブログテーマなので、いい話ばかりでなく、改善点や、もっともっと良くできる部分などにも話題をふっていきたいなと、そう思っています。とにかくこの開幕2連戦は熱かった!これぞトップフォーミュラという魅力を存分に各選手にみせてもらいました。また次戦・鈴鹿ラウンドも大いにレースを堪能していきたいと思います。

では今週末、鈴鹿サーキットでの第3戦をお楽しみに!!

 

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシイングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

pagetop