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コラム【ミキティの”勇気は一瞬、後悔は一生”】vol.2 ドライバーにしかわからない感動

2023.04.19

色々な意味でインパクトのある開幕戦でしたね~…というわけで、こんにちは、SUPER FORMULAアンバサー小山美姫です。

今大会は富士での公式テストが無かったために、データがほぼ無いと言っても過言ではない状況でした。鈴鹿では合同テストがありましたが、ハイダウンフォースの鈴鹿とローダウンフォースの富士ではサーキット特性が違うので、鈴鹿で得られたデータを元に富士にはどのようなセットが合うのか、各チーム頭を悩ませながら推測で持ち込んできたと思います。特にエアロが変わった今年、ローダウンフォースでは走っていないので、どの程度のウイング角度でどの程度のダウンフォースが出るのか、またドラッグ(抵抗)があるのか、推測の域でしか分からない部分があったと思います。

今回のレースはチームによって様々なウイング角度、ガーニーフラップを使用しており、チームの狙いや特色が出て面白いなと感じました。また新しい再生可能原料を使用したタイヤも、テストの時とは季節も変わり、路気温の差もあったので、内圧調整も難しい状況であったと感じます。実際に予選では計測3周目にアタックするドライバー、計測4周目にアタックするドライバーで分かれましたね

少し細かくなりますが、セッティングが変わるとタイヤにかかる荷重量や、かかり方が変わってくるので、タイヤの発熱にも関わってきます。内圧も色々な要素が交わり変化していくので、同条件でのテストがない限り、合わせこむのが難しいです。

また、SUPER FORMULAはセット変更出来る範囲が広く、色々とやりようがありますが、同時に悩む範囲も広がります。特に今回は金曜日の練習走行が無くなってしまった為、開幕戦の予選がSF23初めての富士での走行になり、各チーム、ドライバー共に大変だったと思います。開幕戦にして相応しくない難しさですね。それは各チーム同じという事で、ある意味公平ですが(笑)。

しかし今回は2レース制という事で、土曜日の開幕戦のデータをもとに、日曜日の第2戦へ向けて、各チームのアジャスト能力も重要でした。ここで難しかったのは、土日のレースコンディションの違いです。土曜日は雨上がりの路面からスタートし、日曜は完全に晴れていました。路気温の違いもありましたね。ここでのフィードバックも難しいところがあると思います。実際に開幕戦と第2戦の予選ではポールタイムが約1秒違います。これは単純にセットアップやドライビングの進化だけではなく、コンディションの影響も大きいと感じました。

私が前回述べたように気温気候で全く異なる中、その時々に合わせたセットアップとドライビングの対応が必要になります。その点どんな状況でも合わせてタイムを出してくる、チーム無限と野尻選手の分析力は凄いなと感じました。

開幕戦のレースで注目したいのはこの選手たち。

まず開幕戦勝利したリアム選手。開幕戦の予選が初めての富士での走行にも関わらず3番手を獲得し、レースでは衝撃のデビューウィンを飾りました。さすがの適応力でしたね。リアム選手はどのカテゴリーに乗ってもすぐ結果を出すドライバー。今回も結果で証明されました。勝因となったピット作業も早かったけれど、それだけではない。タイヤが冷えた中でのアウトラップの速さで野尻選手をアンダーカット(先にピットに入りライバルを上回る事)を成功させました。ルーキーというよりも、熟練されたベテランドライバーの様でした(笑)

そして第2戦優勝の野尻選手。開幕戦はチームメイトのリアム選手に先行される形になり、どんな理由があったとしても悔しかったと思います。しかし第2戦、野尻選手の有言実行で、予選で爆発的なタイムを刻み、ポールポジションを獲得しそのまま優勝。さすが!2連覇中のチャンピオンの力を見ました。私は正直嬉しかったです!日本のドライバーたちのレベルは高いと感じているので、ここで負けちゃいけないと外からですが思っていました。それを的確なタイミングで証明できるのも野尻選手の実力です。特に、SUPER FORMULAは同じチーム内でもライバルですから、相手に勝つ事はマストの中でプレッシャーは高かったと思います。それでも今回の難しい状況の中で合わせこみ、巻き返す力は本当に素晴らしいなと感じました。

次は太田選手。怪我で鈴鹿のテストに参加できなかった太田選手。SFで初めての富士、初めての予選・決勝と「初めてずくし」で難しかったと思います。私もこんな状況でのレースは嫌だなと感じます(笑) 決勝ではスタートでストールしてしまいましたが、SFのクラッチ操作はハンドルの裏についているパドルで行うため、慣れと経験がある程度ないと難しいと聞きます。考えられる原因としては、クラッチをバイトさせ過ぎた結果、エンジンの回転数が落ちすぎストールしてしまったか、または何かしらのトラブルです。今回はエンジンストールしたドライバーが多かったので、何かしらトラブルがあったのかもしれませんね。昨年のルーキーテストではいきなりの速さを見せた太田選手、鈴鹿での巻き返しに期待です。

そして山下選手。山下選手も太田選手同様に怪我をしていてテストに参加できずにぶっつけのSF23となりました。第2戦では見事に表彰台にあがりました。本人曰く、富士ではSF23というよりも新しいタイヤに昨年までとの違いを感じており、特にSF23に関して違和感はなかったそうです。いつも飄々としている山下選手がレース後に涙を流した姿は誰しもがびっくりしていて、表彰式でうるっとして手を添えている姿に『鼻ほじってるの?』と言われていた程中々見慣れない姿を見せて頂き、『サイボーグから人間に変わった』とも言われていました(笑)見ているこちらも、ウルっとしました。3年ぶりの表彰台、気分は1位でしょう。きっと、優勝した時にはケロッとしていることだと思います。

人の立場はそのひとにしか分からない。ドライバーには、ドライバーにしか分からない辛さがある。けど、ドライバーにしか分からない感動もある。誰かの立場になることは出来ないので、これを伝えるのは無理かもしれない。けど人それぞれの感動があると思う。本人だけでなく応援している人がそれぞれの立場で感じる感動。モータースポーツは沢山の人が関わって成り立っているだけに、一人の結果が多くの人の成果になり、沢山の人の喜びに。見えているものだけが本当じゃない。見えない事こそ真実だと思う。人は見せたいものしか見せない。見せられるものしか見せない。ここまで来ているトップレーサーが、気持ち一つで大きく結果が変わったりしない。けど気持ち一つが小さな一つ、一歩になり、歯車が変わることはあると思う。自信とは、自分との約束を守った数だと思うが、モータースポーツにおいて、自信を持つには相当大変。何年かかって築きあげたものも一瞬で壊される程些細なことにしか過ぎない。私の中で最後に残るのは、意思と覚悟、信念。強い車、強いチーム、強い体があっても、強い心が無いと強くは戦えないと思う。心をケアし、育てていくことも大切ですね。ライバルと戦う以前に、自分との戦いがありますから!

勝負の世界なので、勝つものに注目がいき、努力していると思われがちですが、意外と一番頑張っているのは、結果が出ていないとき。悪いときこそ頑張るが、悪くなってから頑張っても手遅れ。良いときにどれだけ頑張れるかが重要だったりする。いつもどんな時も、出来ることに尽くしていく姿勢が大事なんじゃないかと思います。

 

第3戦鈴鹿は今週末にやってきます!ドライバー全員に注目して、ぜひ第3戦も楽しんでください。

 

 

written by 小山美姫
フォーミュラカーレースをメインに様々なカテゴリーで活躍する現役ドライバー。国内だけでなく、海外のカテゴリーにも参戦する国際派。22年はフォーミュラ・リージョナルジャパンでチャンピオンを獲得し、SUPER FORMULA参戦を目標に意欲的に活動中。

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