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コラム【武士が斬る!】vol.5 チャンピオン争いの”キーマン”は彼だ!

2023.07.14

SUPER FORMULAアンバサダーの土屋武士です。

先日は富士スピードウェイで公式テストが行われましたが、ファンの皆さんに対しての有料ラウンジを設ける試みがありました。私はそこのホスト役をしていましたが、決して安くない料金を支払って来て頂いていたので、とにかく楽しんで帰って頂こうと思ってオフレコトークをたくさんしました!

皆さんのSNSを拝見させて頂いたのですが、かなり好評だったのは正直意外でした。自分自身が大のレースファンと思っているので、皆さんと楽しいって思う感覚は近いのかなっていう確認にもなりましたし、もっともっとたくさんレースの情報をアウトプットしていこうとも思いました。なので、今回のコラムも張り切って書いていこうと思います!

さて、前戦菅生ラウンドについて振り返ってみましょう。まずはおかえりなさいの野尻智紀選手。まだ体調も完全ではない中、フィジカル的にかなりハードなスポーツランド菅生で2位表彰台での復帰は素晴らしいの一言です。特に大きなGがかかる最終コーナー、高速で神経を使うSPコーナー、そして前半のテクニカルなセクションとランオフエリアの少ないこのサーキットは、休む間が少なくて心肺機能に非常にタフな環境です。私もこのサーキットで走るレースは息苦しい経験を何度もしました。そんなハードな環境での復帰戦は、レース前もレース中も、チェッカーを受けられるかどうか自信を持てずにいたことと推測します。レース後のインタビューで「チャンピオンが恥ずかしい走りしちゃダメだよなって、思いながら頑張りました(笑)」ってコメントしてましたけど、まさに気力で受けることができたチェッカーだったと思います。こういう時ってファンの皆さんの声援が本当に背中を押してくれるんですよね。チャンピオン野尻選手は、ファンと一緒に走っているタイプの選手だとも思うので、皆さんの想いが届いて表彰台にたどり着いたんだと思います。本当にお疲れさまって声をかけてあげたいですよね!

そして今季2勝目をあげた宮田莉朋選手は、9回目の予選2位を獲得してヘルメットを取った顔つきを見た時に、明日の決勝は来るだろうなと予感させてくれました。これまでの予選2位の時は、ポールポジションを逃して少々自虐的なコメントをしていましたが、今回明らかに悔しさというか、満たされない表情というか、これまでの2位とは明らかに違う表情に見えました。優勝を経験し、先日ルマン24時間レースにTOYOTA GAZOO RacingのWECチームに帯同して、未来の自分が戦う“世界”のステージに大いに刺激を受けてきたのだと思います。「このままじゃすまないぞ。1位じゃなきゃ納得できない」というような気迫を感じました。

決勝では、ポールポジションの大湯都史樹選手を序盤に攻略し、近年のSUPER FORMULAではあまり見なくなった「ひとり旅」のレース展開。唯一危険だったのがピットイン後、アウトラップ時の野尻選手のアタックでしたが、野尻選手に「ブレーキングが本当に上手かった」と言わしめるくらい、1コーナーのライン取りとブレーキングが秀逸でした。その攻防に勝利した瞬間に莉朋選手の優勝が確定したように感じます。「一つの勝利」と「新しい景色」が一人のレーシングドライバーを大きく成長させたのでしょう。これからの飛躍が大いに楽しみになりました。

そして今回のレース、この選手に触れないわけにはいかないでしょう!大嶋和也選手が久々の上位に帰ってきました!1台体制のルーキーレーシングを立ち上げからずっと走らせてきて、昨年はポイント獲得ができない唯一の1台になってしまうくらい“ドン底”のシーズンを過ごした大嶋選手。年齢も今年36歳を迎えて、フォーミュラドライバーとしては高齢の部類。体力的にも辛くなってくる頃です。それでもルーキーレーシングの仲間たちは大嶋選手を信じ続けてきました。特にオーナーのモリゾウさんが大嶋選手の速さを疑わなかったと聞いています。そんな想いに応えたいと、大嶋選手は辛く苦しい状況の中でも歯を食いしばって頑張り続けてきました。そして今年、気心の知れた石浦監督が就任、そしてSF23という新しいパッケージになったことも追い風になり、シーズンオフのテストから好調で、セッショントップのタイムも記録するようになり復調の兆しが見えてきていました。石浦監督はカートから四輪レースに来た頃から大嶋選手の兄貴だったり友達だったり、同じアパートに住んで一緒にプロを目指してきた“戦友”でもある存在。一緒に組んだGT300クラスのチャンピオン獲得したこともあり、酸いも甘いも共に経験してきた仲です。今年、参戦することすら悩んでいただろう大嶋選手のモチベーションにもう一度スイッチを入れるには最適な人材だったことでしょう。精神的な支えを得て、そして持ち前の開発能力を活かした大嶋選手は伸び伸びと走ることができる環境とマシンを手にしました。そしてこの菅生では予選8位、決勝4位というリザルト。いつもクールな表情の大嶋選手の中身は、「走ることが大好きな熱きレース小僧」です。本当にレースが大好きで、仲間とレースを楽しむことが大好き。一緒にレースを戦ったことのある仲間はみんな和也のこの走りを喜んでいることでしょう。もちろん私もその一人です!

そして今シーズン安定して上位に顔を出してきている坪井翔選手のことを話したいと思います。坪井選手はこの菅生に不安をもってサーキット入りしていました。というよりもセルモインギング陣営と言った方が正確かもしれません。というのも、ここスポーツランド菅生の近年のレース、セルモインギングとしてDRYのレースで上位にくることがなかなかなく、まさに“鬼門”となっている状況でした。ここまで3連続表彰台を獲得している坪井選手も、菅生で上位に入れれば大きなステップアップになると感じていて、そうすれば自ずと“シリーズタイトル”を意識して戦えると目論んでいたことと推測します。そして今回の予選では4位を獲得しました。予選後ピットを訪ねてみると、チーム全体の雰囲気がすごく良かったですね。立川監督も「この菅生で4位はめちゃくちゃ嬉しい!」と喜んでいました。もちろん坪井選手も。これまで苦手としていた菅生での予選4位は、最小限のダメージコントロールができたと言っていいと思います。決勝ではレースペースが他車よりも劣っていたために7位となってしまいましたが、これはシーズン前半でも見受けられたこと。この辺りの原因が掴めたら、坪井&セルモインギングはシリーズタイトル争いに必ず名乗りを上げてくることと思います。

さて、坪井選手の好調ぶりに注目してみますね。坪井選手は私のチームでスーパーGT 300クラスで一緒に戦っていたので、彼の速さやパーソナリティーは知っているつもりです。とにかく“速さ”の部分では疑いのないものを持っています。そしてファイターでもある。レースに対してひたむきに取り組み、一つ一つ自分自身で納得しながら成長していくタイプだと思います。でも2021年シーズンはその速さが空回りし、ポイント獲得がたったの2回。昨シーズンは復調の兆しはあったものの、2回の優勝を経験している坪井選手にとっては全然満足いくものではなかったはずです。傍から見ていると、速く走りたい気持ちを抑えきれなくてオーバープッシュの状況になっているように見えていました。2021年菅生の雨の予選Q2で、ぶっちぎりのタイムを計測しておきながら、スピンをしてしまい赤旗原因の為にタイム抹消ということがありましたが、まさにこの予選がこの頃の坪井選手を象徴していました。落ち着いて走れば速いのに・・・周りも、本人もそう感じていたと思います。

私も勝手に心配していましたが、今シーズンはオフのテストから好調で、マシンの仕上がりはかなりいい状態でした。これは今年の坪井選手はくるなと。あとは落ち着いてさえ走れれば、、、なんて思っていたのですが、そんな心配を吹き飛ばしてくれるような素晴らしい走り、そしてレースマネージメントを披露しています。明らかに直近2年の坪井選手とは違ってひと皮剝けました。その要因として、結婚したことが大きなきっかけになったのではと、私には思えます。坪井選手はもともと責任感が強いタイプです。周りの応援に対して走りで応えようという想いが強く、それがオーバープッシュになることもありました。その坪井選手が人生の伴侶を得て、新たに家族を養っていくという責任を背負ったことで、自らのパフォーマンスをしっかりとリザルトに繋げられる落ち着きを取り戻したように感じます。これまでも2勝を挙げていることでも実力を疑う余地はありません。28歳というドライバーとして一番脂がのっている時期を迎えている坪井選手は、素晴らしいパートナーを得たことによって更に成長中で、本物のプロとしてこれから多くの栄冠を築いていくのだと感じさせます。SUPER FORMULA 2023年シーズンの選手権争いのカギを握っているのは坪井選手かもしれませんね。

さてさて、いつものように長くお話をしてしまいましたが、まだまだ触れたい選手はいるんです。今季初表彰台だった牧野任祐選手は自身5回目の3位だったり、あげようとしたら他にもたくさん!でも今回はこの辺にしておきますね。

今週末は富士スピードウェイで第6戦が行われます。このレースの間に、公式テストが富士スピードウェイで行われましたが、ここで各チームが “何を掴んだのか”、それ次第で後半戦上位に顔を出すメンバーが変わってくることも想像できますよね。そんな中で私が注目しているのはTCSナカジマレーシングの2人(山本選手・佐藤蓮選手)と小林可夢偉選手です。テストではかなりいい感触を得ているのではないかなと想像しています。ここまでいい結果が出ていないだけに、このテストをターニングポイントにして後半戦の台風の目になってくるのではないかと思っています。

それから坪井選手。今シーズンはセーフティーカーのタイミングで優勝を逃していて、あと少しの決勝ペースと“運”があればシリーズの主役にもなってくる可能性があると思っているので、今回の優勝候補に挙げておきたいと思います。昨年のこの富士ラウンドでも優勝を取り逃がしていますし、そろそろ坪井選手に“運”が回ってくる順番じゃないかなと思って、推しておきます。

さて、第6戦富士は「夏祭り」がテーマ!ご家族で遊びに来て楽しめるコンテンツがたくさん用意してあります。(イベントなどはここでチェック!)レース後にもドライバーみんながステージに来たり、とにかくサーキットに来てみんなで楽しもうっていう企画がたくさん!私も小学校の頃からサーキットに観に来ていますが、今回のようなお祭り雰囲気は初めてなので、レースファンとして大いに楽しもうと思っています。ですので是非皆さんも富士スピードウェイに来て頂いて、一緒にレースを楽しみましょう!!サーキットでお持ちしています(^^)

 

 

written by 土屋 武士
日本のトップカテゴリーで活躍したレーシイングドライバーとして活躍。プライベートチーム「つちやエンジニアリング」のチームオーナーでもある。現役を引退した現在は、ドライバー・エンジニア・メカニックの育成に務め、モータースポーツ界に大いに貢献し多方面で活躍している。

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