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「正攻法で、勝つ」 テクラボ流第3戦レビュー

2019年7月9日

両角岳彦

「いちばん速く走る」戦い方

「今の気持ちは?」と、SFオフィシャルステージMCの笠原美香さん。
「うれしいです!」。言下にそう返したのは#1山本尚貴を今年から担当する杉崎公俊エンジニア。
「フォーミュラの勝負らしく、いちばん速く走って勝つ。今日はそういうレースをしようと、ドライバーと決めました。もちろんSUGOではセーフティカーのリスクはあるけれど、それを考えて作戦を組んでもしようがない。とにかくいちばん速く走ろうと」。
「こういう勝ちかた、気持ちいいでしょう?」と、これは私。
「そうですね、気持ちいいです」。

山本尚貴/杉崎公俊エンジニア

このスポーツランドSUGOの戦い、山本+杉崎コンビがまさしく『速さ』で他を圧倒した形になった。予選はQ2でただ一人、1分03秒台に突入するコースレコード樹立。決勝レースはポールポジションからソフトタイヤを装着してスタート、トップを譲ることなく走り切った。まさに「速さ」で他を圧した勝ち方なのであって、ドライバーとマシンのパフォーマンス差が僅少な今のスーパーフォーミュラで、この勝ち方は難しい。難しいがゆえに、達成できたドライバーは、そしてそれを支えたエンジニアが、戦い終えて清々しい満足感を味わっていたことが、隣に立つ我々にも伝わってきたのだった。
その「いちばん速く走った」流れを、粗筋で振り返ってみよう。まず金曜日の専有走行1時間。山本はミディアムタイヤで16周、終盤にソフトタイヤに履き替えて4周、その3周目に1分04秒836を出してタイムシートの2番手ポジションを押さえた。
翌土曜日の朝、SUGOに入った我々が見たのは、前夜に降った雨が残した水がコース舗装を覆っている状態。しかし山肌の片斜面に造成されたこのコースは、雨が上がれば水はけは早い。この日最初の走行としてホンダN-ONEワンメイクレース(タイヤブランドは複数ある)のクルマたちが30分走る中でも、コースのいわゆるレーシングライン周辺の水はみるみる消えていった。午前9時にスーパーフォーミュラ・フリー走行を始めるにあたって「ウェット宣言」が提示されてはいたが、言うまでもなくこれは「ウェットタイヤの使用を認める」という意味。ドライタイヤでも走れそうな状況になりつつあった。ここで山本はまずウェットタイヤを装着してコースイン。しかしこれはレコネサンスラップ(偵察、つまりコース状況確認のための周回)1周だけでピットに戻る。そこからピットアウト~インを繰り返しながらゆっくりしたペースで3周ほどしていったんピットボックスの中へ。まだ水が残る部分もあるコース状況では、セッティングの確認にもならないし、コースアウトのリスクも考えた時、あえて周回を続ける意味はない、という判断だったと思われる。
そして残り42分というところで、この段階ではまだ前戦から“持ち越し”分のソフトタイヤを履いて本格的な走行開始。そこから4周目に1分05秒471を記録してタイミングモニターの最上列へ。これがこのセッションのパーソナルペスト、後半から最終盤にかけてタイムを切り詰めたドライバーが多い中でも全体でまた2番手のタイムとなる。その後もピットインしてセッティング修正など実施しつつソフトタイヤでさらに7周。そして残り13分でA.マルケロフが1コーナー外側のグラベルベッドにコースアウトしたことによる赤旗、走行中断の後はミディアムタイヤ(ほぼ新品状態のもの)に履き替えて、5周回めに1分05秒799、最終周回も1分06秒065で走っている。このタイムはソフトタイヤである程度の周回を重ねた時とほぼ同等であって、そのあたりまでのチェックをここまでに進めていたことがうかがえる。
とはいえ、金曜日は走り始めで路面はまだグリップが安定せず、そこで付着したコンパウンド・ラバーが浮いて流された状態から土曜日午前のフリー走行、という2セッションであって、まだそれぞれのタイヤがどう機能し、磨耗するか、それに応じたセットアップをまとめられたか、ということになると、山本+杉崎コンビならずとも、皆が確実なところはまだわからない、という状況だったはずだ。

SF19の強烈な旋回性能を使い切る

しかもこの後に行われたF3の予選は、途中から雨が降り出して30分のセッション終盤にはもうコース全体が完全ウェット路面と化した。しかしTCRとN-ONEが走り、12時を過ぎた頃にはその雨も上がり、路面はまたみるみる乾いてゆく。その中で13時20分から、今回はSUGOのコース長と周回時間が短いことを考えて2グループ方式が採用された予選Q1が始まった。その開始時には「ウェット宣言」も提示されたが路面はほとんど乾き、しかしまたグリップ・コンディションとしてはリセット、走ってみないとわからない…という状況で、ミディアムタイヤでのアタックとなる。事前の抽選で山本はB組。そしてここでも計測4周目にアタック敢行、全体ベストの1分05秒014。2番手に飛び込んできたL.アウアー以下に0.4秒以上の差を付けるタイムを記録した。
ちなみに先に走ったA組のベストタイムは平川亮の1分05秒680。全体に0.3~0.6秒ほどB組のほうが速くなっている。今のスーパーフォーミュラの実力均衡状態からすれば、これは路面状態の変化による違いと考えてよく、その中で「大差」と言ってもいい0.4秒以上の差を開いた山本の速さは、ミディアムタイヤのアタックですでに際立っていた。逆にA組でN.キャシディ、山下健太、B組では国本雄資、関口雄飛(他よりも早い計時3周目アタック)、中嶋一貴といった有力どころがQ2進出を逸している。

10分のインターバルを挟んで始まったQ2。いつもどおりソフトタイヤを装着、7分間のセッション冒頭から各車次々にコースインしてゆく。じつは今戦から走行開始前からピットロード出口で待機するのが禁止され、コースオープンになったところから出口に近いピットの車両からから順次ファストレーンへ、という手順になった。山本は4番目にコースインしてゆく。
そして計時3周目、つまりアウトラップから数えて3周回をタイヤのウォーアップに使ってからのアタック、1分03秒953と、ただ一人1分04秒を切り、従来のここSUGOのコースレコードを0.737秒も上回るタイムを叩き出した。このQ2でも2番手との差を0.355秒まで広げている。その一方で2番手の牧野任佑から9番手、Q3進出を逸した平川亮までのタイム差は0.292秒。このタイム差の中にひしめく8人もまたコースレコードを更新している。ダウンフォースを増し、フロントタイヤのキャパシティ(性能容量)が上がったSF19は、すり鉢状に回り込むSUGOの最終コーナーを、旋回姿勢が決まったところからアクセル全開で回ってこれるようになったと聞く。ドライバーの身体に加わる遠心力(加速度)はその間ずっと4G(重力加速度の4倍)に達している。スーパーフォーミュラが走るコースの中でも、遠心力最大、しかもその持続時間が最も長いコーナーのひとつである。
付け加えておくなら、コースレコードをマークした9車中、トップから4番手までを含む6車が計時3周目のアタック、4周目にアタックした中では野尻智紀の5番手が最上位、小林可夢偉が8番手、平川が9番手、10番手に沈んだ石浦宏明も4周目アタックを選択している。

路表面の「モイスチャー(湿気)」が生む陥穽

Q3のコースオープンは14時17分。そのほんの3分ほど前から急に雨が落ちてきた。ピットロード出口のシグナルが緑に変わって、野尻、山本、福住仁嶺、そしてナカジマの若手2人…とピットの並びに沿ってコースインしてゆく。路面は徐々に黒い艶を見せる部分が増えつつあり、日本的には俗に「ちょい濡れ」、英語では「ダンプ(damp)」と表現される状態に近づきそうな空模様。トレッド(接地)面が十分に発熱し、ベタッと粘着する状態になればスリック(溝なし)のドライタイヤでも走れるが、新品のソフトタイヤを装着してコースに出て、そこまで暖められるかどうか。とにかく雨足が強まる前にタイムを出さないと。
こうした条件の中で計時3周目に山本が1分04秒532でフィニッシュラインを通過。ほぼ並走状態になっていた野尻は1分10秒761で、これは次のラップにアタックする心づもり。しかし彼らが次の周回に入った9秒後にコース全体に赤旗が掲示された。ここでセッション中断。
山本に続いて3周目アタックに入っていったのかナカジマの二人。前を行くA.パロウがまずセクター1、セクター2と山本より速いタイムを刻んで、タイミングモニター上で赤字表示。それをすぐ後ろから牧野が上回り、赤字表示を書き換えて行った…のだが、まずパロウがSPコーナー2つ目、いわゆるSPアウトのコース外側のグリーンにまで飛び出してガードレール前面に並べられたクラッシュパッドにぶつかり、跳ね飛ばしつつ減速して止まる。そのすぐ後ろから牧野がまったく同じ場所へコースアウト。クラッシュパッドが飛んでしまっていた所にぶつかって止まった。
グラベルベッドに残るタイヤの痕跡などから推測すると、パロウはSPインからSPアウトへと運動エネルギーを保ちつつ向きを変えるところですでにオーバースピード、曲がり切れずにコースアウトして行ったパターンか。牧野の方は、SPアウトへの向き変えで若干巻き込み、修正舵のタイミングがずれて外側に振られ、ハードブレーキングでタイヤの摩擦痕を残しながら浅い放物線を描いてクラッシュに至る。皮肉にも、雨はほとんど上がりつつある中で、それぞれにタイヤ=路面の摩擦を刻々に感じ取りつつのコントロールに失敗した、ということになる。
この2車連続、同地点へのクラッシュでクラッシュパッドが散乱し、背後のガードレールも含めた損傷の確認と復旧にかなり時間がかかること、そして天候のさらなる変化も含めたこの日の競技運営全般の判断から、スーパーフォーミュラの予選Q3はこの赤旗をもって終了となった。近年のスーパーフォーミュラの競技運営の中では、予選中の単純なコースアウトなどによる赤旗・走行中断に関しては、アウトラップから1周アタック分の時間(SUGOの場合は2分間)を設定して再開、というケースが多かったのだが、今回は安全設備の復旧が最優先かつ時間がかかることが明らかな状況だったわけで、「いつものパターン」は適用できなかったのである。

TCS NAKAJIMA RACING(手前から:アレックス・パロウ 牧野任祐)

実戦に最も近い状況でのシミュレーション

このレポートのほうは、いつものパターンで「一夜明けて」、日曜日の朝に話を進めよう。
30分間のフリー走行、山本は最初からソフトタイヤを装着してコースに出て行った。おそらくは燃料搭載量はほぼ満タン、レース前半のシュミレーションという設定での走行。1分08秒フラット~前半の周回を4周続けたところでピットイン、4分ほどを杉崎エンジニアとのコミュニケーションとセッティング調整に費やして、再度コースへ。そこから12周、他のクルマとの相対ペースや位置関係などで1分10~11秒に落とした周回が3周あったものの、中間で1分08秒フラットを3周連続、終盤2周は1分08秒台半ばで周回してこのセッションをまとめた。
セッションの前半にソフトタイヤで速いラップを試みたドライバーたちがタイミングモニターの上位に並ぶ一方で、山本のベストタイム1分07秒955(5周目)は20人中19番手。しかしタイヤがフレッシュならばこのペースで15周かそれ以上走れること、その先でじわじわとグリップが落ちて行く感触などを、決勝レースに最も近い路面状況の中でしっかりと確認していたのである。
後で杉崎エンジニアも「今シーズン3戦目にして初めて、金曜日からの走行セッションをちゃんと走れて、ソフトとミディアムの振る舞いを確認した上でレースに臨むことができました」と振り返っている。たしかに開幕戦の鈴鹿では金曜日、土曜日のフリー走行でコースアウトによる赤旗中断が相次ぎ、前戦オートポリスでは土曜日が雨で走行中止と、車両セットアップとタイヤの特性変化の両方を確認する走り込みが進まない状況が続いていた。今回も路面が安定しなかったとはいえ、金曜日から日曜午前までのフリー走行2時間半の中でシステマチックに車両とタイヤの確認を進めることができた。タイムシートに残された計時記録を追ってみても、ドライバーとエンジニアが一体になって、その状況を今回最も有効に使ったのがチャンピオンナンバー1を付けたコンビだったということになる。
そこから4時間、決勝レース直前の8分間ウォームアップでの山本は、ここでも1周だけのタイムを示すタイミングモニターの上位には顔を出していないが、公式ライブタイミングの記録によれば、まずミディアムタイヤの確認を3周、そこでソフトに履き替えてさらに2周している。セクタータイムを見ると、この5周回の中で各セクターで一度は朝のフリー走行の時に近いレースペースで走って見ている。

スタートからゴールまで誰よりも速く走る

そして決勝レースのグリッド最前列右側に着いた山本のマシンはソフトタイヤを装着、静かにスタートを待っていた。この3日間で初めて陽の光も薄く差し込んできて、路面温度はスタート直前で33℃まで上がる。もう少し路面が熱くなってくるとソフトタイヤの消耗が早く進むと思われるが、このくらいならばここまでの走行で見てきたのと大きく変化はなさそうだ。
スタートはやはりソフトタイヤ装着の山本が蹴り出し良く1コーナーに先頭で進入、2番手を守ったミディアムタイヤ装着の野尻、ソフトタイヤで並びかけるアウアー、その後方で3ワイド状態になった小林(ミディアム)、塚越(ミディアム)、福住(ミディアム)…といった後続の位置取り争いに乗ずる形で、早くも差を広げてゆく。
ここから山本はまず1分09秒前後のペースで周回を重ねる。燃料が満タンに近く重い状態の中で、ソフトタイヤの消耗を抑えつつ、でもミディアムタイヤ勢よりは速いペースで、と探りながらトップをキープする。そして20周目からは朝のフリー走行で確認していた1分08秒台半ばにペースアップ。燃料搭載重量もスタートから20kgほど減ったところで、このペースにもっていった。そこからソフトタイヤの消耗が進行して行くにつれ、おそらくはリアからグリップ低下が現れたはずで、30~35周目にかけて少しタイムが落ち、ばらつく。同じようなパターンは前戦オートポリスでトップを独走した関口にも現れていた。しかしあの時の関口と同様に山本も37周目には1分08秒台中盤にラップタイムを戻し、そこから10周以上にわたって燃料搭載重量の減少に合わせるように全体最速レベルの周回を続けた。

そして51周完了でピットロードに滑り込む。もちろんミディアムタイヤへの換装を進めつつ、その作業終了ぎりぎりまで燃料補給リグをつないだままにした。手元計測で燃料補給ノズル接続時間10.5秒。スタート時にぎりぎりまで燃料を満たしていればここでの燃料補給は6秒程度で十分なはずで、そこから逆算するとスタートからは10kg弱軽い状態で走ってきたはずである。
このタイヤ交換義務消化から3周回でミディアムタイヤが十分に温まってきたようで、山本は54周目に1分08秒944、55周目には1分08秒797と、ミディアム走り始めの「一撃」グリップを引き出したラップタイムを記録している。これも土曜日のフリー走行などで確かめていた摩耗が進んだソフトと、新品のミディアムのパフォーマンスからすれば想定どおりというところだ。
そしてこの直後、56周目に入った1コーナーでアウアーのインに飛び込んでいった野尻がスピードを殺しきれずにスピン、そのままアウト側にグラベルベッドにスタックしてしまう。これでセーフティカー出動。山本としてはピットインの前、先頭を走り続ける中でセーフティカーが入るのが最も大きな「変数」だったわけで、チームもかなり早めからタイヤを用意するなど、セーフティカー導入となったらその周回にピットイン、という構えを見せていたのだが、それも不要に終わったこの段階でのアクシデント。ピットストップをぎりぎりまで延ばしていたパロウがここでピットに飛び込み、そこからの合流で5~6番手を行く福住と山下のわずかな空間に潜り込んだ。これで全車がピットストップを完了し、山本、周回遅れの大嶋、坪井、ティクトゥムを挟んでアウアー、そして1周目ピットストップ組の先頭に出ていた小林、キャシディと続く隊列となった。
60周目、セーフティカーのフラッシュライトが消える。リスタートに向けてSPコーナーから最終コーナーへと加速態勢に入る…というところで坪井がSPアウトでアクセルオンした直後、ターボ過給効果による急激な駆動力増加でリアタイヤが滑り、巻き込みスピン。イン側のグリーンに前半分が乗り上げた姿勢で、いわゆる「亀の子」状態になってしまった。これで再びセーフティカー出動。坪井車の排除にまた4周を費やして、65周目完了でやっと戦闘再開。
この時、トップを走る山本の後ろにはまだ大嶋、ティクトゥムの周回遅れ2車を挟んで2番手のアウアー、そして小林という隊列。杉崎エンジニアも「直後に周回遅れが入っていたので、SCラン~リスタートでもちょっと余裕がありました」と振り返る。リスタートでは小林がアウアーに接近、ヘアピンでインを押さえたことで逆に登り勾配で失速気味になったアウアーを外から抜き去って、2位を手中に収めた。その前方で後続との間隔を広げた山本は、残す3周を走り切って、最初にチェッカードフラッグを受けたのだった。

「250kmを最短時間で走る」――他の選択は?

ソフトタイヤでスタート、そのグリップを活かして最初のダッシュを決め、レースの半ば以降まで消耗を抑えながら周回を重ね、ミディアムタイヤの新品で出せるタイムと交差するところでピットストップ、残りの周回を燃料残量の減少とミディアムタイヤの初期グリップを活かして走り切る。これが山本・杉崎コンビが実践した、68周250kmを「いちばん速く走る」戦略だった。
これに対するカウンターパート(対抗策)としては、スタートはミディアムタイヤ装着、路面にコンパウンド・ラバーが乗るにつれてソフトタイヤの消耗が抑えられ、グリップの高さが維持できる距離が伸びるはずなので、早めのタイミングで、かつピットストップしてコースに戻ったところでペースの遅いクルマに前を塞がれない、いわゆる「空間がある所」に戻れる流れを見つけてピットストップする、という逆のパターンがあり得る。今回、速さを持つクルマでこの戦略を選んだのは平川だったが、10周を過ぎてからペースがずるずると下がって1分10秒台半ばにまで落ち込み、コンスタントなペースを長く維持できるというミディアムタイヤの利点を引き出せないまま、20周でピットストップ。その後も5周目ピットストップでソフトに履き替えたもののピット作業が遅れ、そこからもペースが上がらない塚越の背後に付けたことでペースが上がらなかった。
比較的前方のスターティンググリッドから、同じソフトタイヤでのスタートを選択したアウアー、牧野、パロウは、ソフトでのレースペースで山本に及ばず、さらに牧野は車両トラブルによると思われるピット出口の白線カット、パロウはSCピリオド明けのリスタート違反で、フィニッシュ後にペナルティを課されてさらに順位を落としてしまった。
そして今回も、ミディアムタイヤでスタートするがそれをすぐに「捨て」、レース距離のほとんどをソフトタイヤで走る、という戦略を採ったドライバー+エンジニアが10車に及んだ。とくに2番手グリッドから出た野尻、そして小林、福住、予選を失敗したキャシディ、坪井、山下は、1周目ピットストップを敢行。ここからの67周をソフトタイヤと満タンの燃料だけで走り切る戦略を選んだ。確かに前戦オートポリスでは、後方スタートを強いられた山本と大嶋がこの作戦で2、3位を獲得している。しかしそれは2周目にセーフティカー導入という「乱数」が入ったことが相当有利に働いた。
今回のSUGOも、セーフティカーが入る確率の高いコースではある。実際にセーフティカーなしでは終わらなかったが、その時にはレースの大勢は決していた。それ以前に、残り245km余を走るには燃料が足りなくなる可能性が高い。序盤で、長いセーフティカー・ランが入らないかぎり、NREのフルパワーを引き出して走り続けるわけにはいかないのである。前戦も今回も、燃料使用量に不安がなく「速く走る」ことに徹する車両/ドライバーに対して、2%ほどはラップタイムが落ちている。燃料の最大流量を規制することで、燃料が持つ熱エネルギーをどれだけエンジンの仕事量として引き出せるか、という「熱効率」の追及が最大命題となっているNRE(Nippon Racing Engine)では、この程度まで仕事量を絞れば5%も燃料消費量が減ることは実証された。でもドライビングとしては、コーナーに向けてアクセルを戻す通常のタイミングよりも一拍、二拍速く右足を戻し、手前から惰行する「リフト&コースト」(アクセルを戻し=リフト、惰行=コースト)を続けなければならない。
そうした「乱れ」を想定した戦略に、「いちばん速く走る」という正攻法で、山本が勝った。それが今回のレース。
SF19との対話も、ドライバー、エンジニアともにだいぶ進んできたように見受けられる。3戦目にして乱れの少ない走行データも収集できた。ここからは、「スタートから250km先のゴールまで、最も速く走り切る」ことに徹した戦略(もちろんひとつではなく複数の)と、それを可能にするセットアップ、そしてドライビングを一体にまとめ上げて競う「世界で最もシリアスな戦い」が演じられるのが見たい。そして、それを期待していいと思う。

優勝した山本以下、8位までに入ったドライバーと、作戦やレース展開の中で注目すべきドライバー3人を加えて、決勝レース68周の周回ペースを比較してみる。山本はスタートで先頭に立ち、後続が早めのピットストップなどで接近してこなかった序盤は無理にペースを上げずにソフトタイヤの消耗を抑え、燃料搭載重量がある程度減った20周目から事前に確認していた1分08秒台半ばにペースアップ。さらにソフトタイヤのグリップが落ちてきていたはずの40周目以降、燃料残量がほぼ空に近づいて行くのを利して1分08秒台前半にまでタイムを上げている。51周完了でミディアムタイヤに履き替えた直後もその初期グリップを引き出した速い周回を2周、そこでセーフティカーが入った。アウアーもソフトでスタートして走り続ける戦略を選んだが、初期グリップを使った4周目以降はソフトでのロングラン組よりもむしろ遅いペース。ピットストップ直前のペースアップも山本ほど明確でなく、最終盤は混戦の中でペースが落ちている。2位に入った小林、そして野尻、キャシディ、福住は1周目に、石浦は3周完了でソフトへの履き替えを敢行。ピットアウト直後はソフトの初期グリップを垣間見せたもののそれ以降はタイヤと燃料の両方を温存するために1分09秒前後のペース。その中では以前からSFでも燃料消費抑制が巧みな小林が他よりも少し速く、これが終盤の追い上げにつながってゆく。ミディアムタイヤでレース前半を走る作戦を選んだ平川だったが、10周目あたりからみるみるラップタイムが落ちてしまい、ソフトに履き替えた後は塚越に前を押さえられてラップタイム変動が大きい。パロウはスタートで順位を落としたことで平川の後ろになり、そのペースに付き合った20周でソフトでスタートした利点を活かせなかった。

優勝した山本の各周回コントロールライン通過時刻を基準に、全車の各周回タイム差をプロットしたグラフ。順位変動を示すラップチャートに時間差を加えたものになっている。上下の折れ線が重なり合うように接近しているところは、コース上でも接近戦が演じられている。それぞれの折れ線が大きく下がっている周回はピットストップ、逆に51~52周目で大きく上がっているのはここで山本がピットストップしたことを示す。1周目完了から6車がピットストップ、10周完了までにさらに6車がミディアム→ソフトの履き替えを行っている。ピットストップ時に燃料を満タンにして最後まで通常ペースで走れる「ピットウィンドウ」は6周目以降と思われ、それ以前にピットストップした9車はまず燃料消費を抑えつつ、確実な予測が組めないソフトタイヤの磨耗も抑えつつ走ることになった。この段階でコースに残って走り続けた8車は間隔がばらけ、それぞれのペースで周回を重ねる。山本にとっては接近してくる車両/ドライバーがいないので自身の設定ペースで走れる状況が続いた。逆に序盤ピットストップ組は間隔が詰まり、お互いの影響を受けつつペースが上がらない中、30周目以降、山本がペースを上げたことでトップとの差は開いてゆく。今回のSUGOは終盤になってセーフティカー導入。最後の4周、山本は順調に差を付けてゴールに向かうが、後方では順位変動が起こっている。パロウと牧野が最終周に大きく落ちているのは、それぞれフィニッシュ後に課せられたタイム・ペナルティをここに加算したため。

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