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2018年第3戦「テクラボ流」レースのシナリオ
2018年5月22日
2018年全日本スーパーフォーミュラ選手権 第3戦スポーツランドSUGO レースシナリオ
両角岳彦
■レース距離:251.88km
(スポーツランドSUGO インターナショナルレーシングコース 3.704km×68周)
■予選方式: ノックアウト予選方式 (Q1:20分間 19→14台 Q2:7分間 14→8 台 Q3:7分間)
■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク
ドライ2スペック(ミディアム,ソフト), ウェット1スペック
■タイヤ使用制限:ドライ(スリック) 競技会期間中を通して6セット
そのうち新品はミディアム2セット+ソフト2セット
前戦までのものからの”持ち越し”タイヤ2セット(ミディアム,ソフトは問わず。今年は新品のままの持ち越しも可。)
ウェット 競技会期間中を通して4セット
■予選における使用タイヤ:Q1 においてはミディアムタイヤを使用しなければならない。
■決勝中のタイヤ交換義務: あり
* 決勝レース中に2種別(ミディアムとソフト)のドライタイヤを使用しなければならない。
* スタート時に装着していた 1 セット(4本)から、異なる種別の1セットに交換することが義務付けられる。車両に同時に装着する4本は全て同一種別でなくてはならない。
* 決勝レース中にウェットタイヤを使用した場合は、タイヤ交換義務規定は適用されない。
* 先頭車両が1周目を終了した時点からレース終了までに実施すること。タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
* 先頭車両がフィニッシュ(68周完了)する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには結果に40秒加算。
* レースが赤旗で中断した中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは認められない。ただし、赤旗提示の時点でピットにてタイヤ交換作業を行っていた場合は、交換義務の対象として認められる。
◇考えられるタイヤの“使い方”~レース開催の週末を通してドライ路面だと仮定して…
スポーツランドSUGOのレースでタイヤ2種別装着義務が課せられるのは、今回が初めて。とくにソフトタイヤのレース使用時の特性、周回を重ねた時の変化、耐久能力などを確認し、ミディアムタイヤとの車両セッティングの妥協点などを探ることが欠かせない。ミディアムタイヤについては昨年と同仕様なので、昨年秋のこのコースでのデータが参考になる。
今年仕様のソフトタイヤは昨年仕様とはコンパウンドから異なり、発動(温度上昇→グリップ発生)が早くグリップも高い一方で、高分子結合が千切れて損耗(摩耗)する傾向も大きい。またそのトレッドゴム層その厚み(ゲージ)も減らしている。そこで走行を続けられるかの限界は、グリップが一気に低下する状況よりも、摩耗限界で決まる可能性が高い。
ここで各車がどんな状態のタイヤを“持ち越し”ているのか?
ミディアム、ソフト各1セットが定番と思われる。
前戦で決勝レースが中止となったことで、両方ともかなり程度の良い(マイレージ=走行距離の少ない)ものを保持しているはず。とくにソフトについてはQ1止まりだった車両(#2,#7,#8,#37,#64)は新品2セット、Q2止まりだった車両(#1,#4,#15,#17,#36,#50)は新品1セットを残したはずである。ミディアムもQ1で2ランのそれぞれで4~5周しただけのものをほぼ全車が残している。
したがって、金曜日の専有走行からレースを想定してタイヤを履き替えながらのテスト、土曜日のフリー走行の終盤にはそれぞれのドライバー/車両の立ち位置に応じて、ソフトかミディアムのどちらか、あるいは両方を履き替えての予選シミュレーションを行う、というアプローチが見られるはずである。
■燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(120.6L/h)
■オーバーテイク・システム:最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)。
20秒間作動×レースを通して5回まで。1回使用による燃料消費増加は55.6g(約74.5cc)
5回使用で277.8g(約372.4cc)増
SUGOは最終コーナー~メインストレートが急な上り勾配なので、やはりここで使うのが最も効果的だと考えられる。しかしコース前半のヘアピン~レインボーコーナーまでの上りコーナー区間で使うのも、タイム短縮効果が期待できる。
■決勝中の給油作業義務:なし
■燃料タンク容量:ぎりぎり満タンで95L(その全量を使い切るのは難しいが…)
上記満載時のガソリン重量 約70kg
燃料流量上限(リストリクター)90kg/hにおける燃費を、SUGOは燃費に厳しいコースではないことも勘案して「2.45km/L」(1.82km/kg)と仮定した場合、レース完走に必要な燃料総量は約102L。実戦ではこれに低速周回3周分(ピット→グリッド/フォーメーションラップ/ゴール→車両保管)+OTS作動による消費量増加分が加わる。つまりフルタンクでスタートし、ピットストップで燃料補給のみ行う場合、給油必要量のミニマムは10L程度。
ところが、昨年秋の当地のレースで、チームルマン#7(F.ローゼンクヴィスト)は無給油で250km(+低速周回3周)を走り切った。平均燃費は単純計算で2.7km/Lに達している。ただし同じ無給油作戦を選んだドライバーが3人いたが(大嶋和也,山本尚貴,小林可夢偉)、いずれも最終盤に燃料不足に陥った。彼らの場合の平均燃費は2.60km/L。今年開幕戦鈴鹿で関口雄飛が燃料消費節約作戦を採り、平均燃費2.49km/L(推定)で走り切っているが、これは燃料リストリクター流量95kg/hでの走りであり、今回は90kg/h。走行のほとんどでこの流量上限に達していると考えて単純計算すれば、2.62km/Lで走れる、ということになる。
■ピットレーン速度制限: 60km/h
■レース中ピットレーン走行+停止・発進によるロスタイム:24~25秒(近年の実績から概算した目安程度の値)。さらにアウトラップでタイヤが暖まり、レースペースに戻るまでのタイム増も加算して考えることが必要(ミディアムで1秒程度、ソフトはもっと少ない)。これにピット作業のための静止時間を加えたものが、ピットストップによる「ロスタイム」になる。
■ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで。ただし1名は「車両誘導要員」として、いわゆる“ロリポップ“を手にしての誘導に専念することが求められる。また給油に際しては給油装置のノズル保持者に加えて消火要員(消火器保持者)1名を置くことが規定されている。したがってタイヤ交換と給油を同時に実施する場合はタイヤ交換に関われるメカニックは3名となる。
燃料補給を行わずにタイヤ4本交換のみ行う場合は作業要員5名。前後ジャッキとタイヤ4本に対して個々に要員を配置するには1人足りない。
ここで、ピットストップ戦略を組み立てる基本的な要素について整理しておく
• タイヤ4輪交換を燃料補給と同時に実施するのに要する時間は14秒程度。
• タイヤ4輪交換だけならば静止時間6秒程度。
• 燃料補給装置のノズルを車両の燃料補給口に差し込み、引き抜くのに、それぞれ1秒弱は必要だと見積もっておいたほうが安全。ノズルを差し込んだ状態で重力落下を利用して燃料タンクにガソリンが流入するペースは、平均して毎秒2.3+L(重量にして1.73kg)程度と思われる。
• タイヤ交換のためのピットストップが義務付けられているので、そこで燃料も補給するのであれば、そして燃料消費を気にせずにタイヤのグリップをフルに使って速いペースで走ろうとするのであれば、平均燃費2.45km/L想定で、フルタンクでスタートした場合の不足量は約10L。これだけを補給するのであれば、燃料補給リグのノズルをつないでいる時間は4.5秒、抜き差しの時間を加えて5.5秒程度の作業時間になる。この場合のピット・ウィンドウは「7~61周完了までの間」という計算になる。
• 無給油作戦を選び、ピットストップではタイヤ交換のみとするのであれば、ピットストップのタイミング選択は、「1周完了」から「67周完了」までのどこでもありうる。
• ただしレース終盤における赤旗中断~中止、セーフティカー導入などの可能性を考えると、ピットストップ・タイヤ交換を最終盤まで“引っ張る”のはリスクが高い。
• いずれにしてもタイヤ交換とともに燃料補給を行うとすれば、作業者3名で4輪交換するのにかかる14秒の間、燃料補給ノズルを差し込んでガソリンを入れてもロスタイムは変わらない。この場合、燃料補給ノズル接続時間は12~12.5秒、27.6~28.75L(20.6~21.45kg)を補給できる。スタート時にその分だけ燃料搭載量を減らすと、満タンでスタートするのに比べて15~20L、11~15kg軽い状態にできる。この場合、ピット・ウィンドウが“閉じる” (燃料タンクが空になる)のは平均燃費2.45km/Lで32周完了あたり、となる。
さてそうなると、今回のレースがドライ路面で行われるとして、そのストラテジーの選択肢は…
A. 基本は「1ストップ」戦略
• 規定されているタイヤ4輪交換と燃料補給を同時に実施する。
• ソフトタイヤの特性が読み切れなければ、あるいはミディアムタイヤと燃料重量が重い状態での速さに自信があれば、ミディアム装着&フルタンクでスタート。
• スタートダッシュで前に出たい、順位を上げたい場合など、ソフト装着&ピットストップ補給分だけ燃料搭載量を減らしてスタート。
B. 「2ストップ」戦略がありうるとすれば・・・
• 「より速く走る」ことを狙う以上は、ソフトを2回、ミディアムを1回履くことになる。グリップの高さを活かしてまずスタートダッシュ、そこから速いペースを維持するべく、最初はソフト装着。そのグリップ低下=いわゆるデグラデーションの状況を見てタイヤ交換、再びソフトを履かせて送り出す。つまり、ソフト→ソフト→ミディアムが良さそうに思える。
• ソフトのグリップを活かすために、またタイヤの消耗を抑えるために、スタートから燃料搭載量を減らして車両重量が軽い状態で走らせ、燃費も気にせず、2回のピットイン毎に補給するとすれば、最初に49L(36.5kg)積んでおけばいい計算になる。この場合は1ストップ勢に対して、40秒程度をコース上で取り戻して同じペースということになる。
• 1ストップと同じ燃料搭載量でスタート、2回のピットストップのうち1回はフルサービスで14秒を費やし、もう1回はタイヤ交換だけにして6秒で送り出せば、後者のロスタイム30秒だけをコース上で取り戻せばよい。
C. 「無給油作戦」
• タイヤ交換が義務付けられている以上、最低でも1度はピットストップするわけで、そこでタイヤ交換だけで済ませれば、同時に燃料補給を行うのに比べて静止時間を8秒ほど切り詰めることができる。しかし燃費2.67km/Lで走る中で、燃費2.45~km/Lで走るのに対して毎周平均0.12秒遅いだけのペースを維持できないと、250kmを同じ時間で走り終わることができない。
• D. ウエットレース
• スタート時点で「ウェットレース」が宣言されれば、そこでタイヤ交換義務が無くなる。この場合はフルタンクでスタートするのが定石。ウェット路面では燃料消費も少なくなるため、ピット・ウィンドウは広がる。状況次第だが、無給油で走りきれる可能性も高い。
*上記想定についてはいずれも実戦観察からの概算予想であって、正確なものではありません。レース観戦の参考として、作戦計画にいろいろ思いを巡らせ、レース中の各車のペース配分や動きの意図を推測してみてください。