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雨と風の悪戯を乗り越えて テクラボ流第2戦レビュー

2019年6月17日

両角岳彦

ドライ路面でのデータ収集はこの時だけ

週末の天候予想は、雨の確率が高まっていた。 木曜日の夕方、熊本空港に向けて阿蘇山北麓を降下する機体の窓からはオートポリスの全景がきれいに見えていたのだが。
翌金曜日も青空の下、13時45分から予定どおりスーパーフォーミュラの占有走行が始まった。ただ風が強い。西からの風なので、オートポリスのコースレイアウトの中ではT(ターン)3のターンイン、T4-5、T8を立ち上がってT9へ、T11から12へのつなぎ旋回…という各所が背風になる。つまりその手前区間では効いていたダウンフォースがフッと抜けやすい。時速200km/hで走っているところに後ろからの風が10m/sec(時速に換算すると36km/h)で吹き込むと“対気速度”は55.6m/secから45.6m/secへ低下、空気流が生む力は速度の二乗に比例して変化するので、10m/secの背風を受けた時には33%もダウンフォースが減少する。ここでは仮に10m/secの風速で計算してみたけれど、この週末のオートポリスはずっとこの西風が4m/seckかそれ以上、その中で急に強い風が吹き込んでくる、いわゆる「ガスト」混じりの状況だった。テントを立てておくのが難しいぐらいの突風が波のようにやってくる。雨とともにこの風が、この後に起きる様々な擾乱の伏線になってゆく。
ドライ路面で走ることができた、この最初の走行時間帯、その1時間を通して“持ち越しタイヤ”の中からソフトを選んでずっと走り続けていたのが(私の観測では)、山下健太と平川亮の2車。30分ほどをミディアムで走り、そこからソフトに乗り替えたのが中嶋一貴、国本雄資、関口雄飛といった面々。鈴鹿での状況を見ても、今年のレース戦略は「ソフトをどれだけ使いこなせるか、何km(何周)走れるか」にかかってくる。しかし土曜日が雨になるのはほぼ確実。日曜朝のフリー走行30分も路面状況がドライに移行しない可能性が高いし、乾いたとしても雨で路面に付着したラバーが浮いて流れてしまうので、金曜日からのコンディション変化はずっとドライ路面だった時より少ない。だとすれば決勝レースに向けて、ドライ路面でソフトタイヤでできるだけロングランをして、その摩耗進行、特性の変化を確かめておけるのは、この時間帯だけ。そう考えて、SF実戦週末のルーティンとはひと味違うプログラムを準備したエンジニア+ドライバーのコンビがこれだけいたわけだ。とくにコンドーとインパルはそれぞれ2車のデータを共有することでさらに決勝レースに向けて“予測”精度を高められる。ここから既に知恵比べは始まっていたのだ。
ちなみにこの1時間の最速1周のラップタイムで見れば、山下が18番手、平川が15番手。ともにセッション中盤で出したタイムだ。これに対して上位10番手あたりまでは、終盤、ソフトに履き替えてクイックランをトライした“一発”のタイムが並ぶ。逆にN.キャシディ、石浦宏明、H.ニューウェイといった面々はずっとミディアムだけを使って走った。トムスは2車それぞれでミディアムを軸にロングランの状況を見ていたことになる。いずれにしても、ドライバー+エンジニアが1時間を使って消化したプログラムが明らかに異なるこうした状況下では、最速1周のタイムだけ並べて眺めても、あんまり意味はない、ということは明らかだ。

未体験の状況をどう走る?

そして、土曜日。予報どおりの雨。大きな低気圧がゆっくり移動してゆく中、風も落ちない。しかしその風のおかげで雲が流れ、オートポリスではしばしば起こる、阿蘇外輪山を覆う雲の中、すなわち霧に包まれる状況にはならず、雨量が収まれば、ふつうのクルマならば走れそう。しかしスーパーフォーミュラのようなトップフォーミュラではなかなかそうもゆかない。タイヤが太く(接地面の幅が広い)、車両重量が軽い。ということは接地面圧が低い。路面を水の膜が覆うような状態になると、そこにタイヤの接地面が接触、荷重で押し付けられることで水が押し出され、トレッド表面のゴム(コンパウンド)と路表面が触れ合うことで摩擦が始まる。その歌詞時に接地面圧が低い、ということは路表とトレッド・ゴムの間に入り込む水を押し出しにくい。そこに水膜が残れば、滑る。俗に言う「ハイドロ(アクア)プレーニング」だ。タイヤ接地面積と車両重量の関係で、F3は走れても、SFが走るのは難しい、という状況も起こる。これがこの日のオートポリスの状況だった。
午前中のフリー走行も本来のタイムスケジュールから30分遅れて9時20分から30分間に短縮されて始まった。しかしコースオープンから2分、キャシディがT7アウト側にコースオフ。これは何とか自力でコースに戻る。ほぼ同時に小林可夢偉がT10(第2ヘアピン)エントリー側のショートカットにエスケープ。180度向きを変えてコースに戻ろうとするが、コースカメラの映像ではロールフープのOTS(オーバーテイクシステム)インジケーターのLEDが赤・緑に点滅している。ということはエンジン停止状態。さらに9時25分、L.アウアーがT9のアウト側グリーンにコースアウト、ウレタンのクラッシュバリアに当たって止まる。この車両回収のために赤旗提示。
10分後、走行再開もそれから5分、今度は牧野任祐がT9アウト側にコースアウト、先ほどのアウアー車より少し手前のガードレールに左側から衝突、前後のサスペンションなどを大破。ガードレールには前後車輪が当たったところがその形に窪んでいた。ちょうど背風を受ける場所で前方の車両に接近、フロントのダウンフォースも抜けたのか、舵が効かない状態に陥りコースを外れて時計回りスピン状態に陥って草の上を滑り、左後輪からガードレールにぶつかったようだ。
このクラッシュで再び赤旗提示。残り時間8分では車両の回収に加えてガードレールなど現場の安全対策も間に合わず、ここでセッション終了となった。
そして15時から予定されていたノックアウト予選は、雨が降り続く中、緊急エントラント・ミーティングが行われ、15時20分にこの日の中止と、翌日朝の本来はフリー走行が組まれていた時間帯に、計時予選(セッション内の各々最速ラップタイムを対象に順位を決める)を行う、とアナウンスされたのだった。

悪条件下、記録を残す走りができるか?

日曜日朝には阿蘇外輪山の上縁一体を濃い雲が覆っていたが、その霧の中を抜けて山肌を下るとオートポリス一帯まではその雲が降りていてはいない、という気象状況。つまり上空は雲に覆われているが視界は効く。そして予選開始の1時間前あたりからまた雨が落ちてきて、路面を覆っていた前日からの水膜に加わってゆく、という天候になってしまった。その中で8時45分、計時予選がスタート。20台のSF14が水煙を巻き上げながら次々コースに出てゆく。しかし6分を過ぎたところで、早くも赤旗提示。今回もT9アウト側の草地に山本尚貴とA.マルケロフがコースアウトしている。山本はフロントウィングなどに損傷があり、グリーンの上で止まっている。マルケロフはそれよりも手前、昨日の牧野と同じような場所のガードレールにリアエンドから激突。そのダメージは対後面衝突用衝撃吸収体を粉砕し、それが締結されているトランスミッションケースにまで及ぶものだった。どうやらひとつ手前のT7~T8を回り込む中からアクセルオンした段階でターボ過給エンジンならではのトルクの立ち上がりと路面の水膜が厚いところが重なって後輪が一気に滑り、スピン運動に陥ったままT9アウト側のグリーンの上を滑走してしまったようだ。
この時点で3周を走り切れていたのは、ピットが1コーナー寄りにあって先頭でコースインしていったコンド―の2人、そして石浦だけ。結局、国本はこの3周目のタイムで予選最速のポジションを手にした。コース上の「トラフィック」の前方を走り、視界も比較的良いという条件下で同じチームの山下のタイムが同じペースまで上がらなかったのは、どうやらピットから送り出す際のタイヤ内圧の違いがあったようだ。トレッド・コンパウンドとタイヤ内部の空気を丁寧に暖めたところでタイムアタック、という段取りを踏むのであれば、その分、冷間時の内圧は低めに設定する。しかし結果的に見ればこの日の予選では、コースインして計時周回に入ったらすぐ、できるだけ速く走るしかなかったのである。
最初の赤旗から20分50秒の中断の後、9時12分から走行再開。しかしここでも4分40秒後に再び赤旗が提示される。T3で平川がターンインに失敗、アウト側のグラベルに捕まってしまっている。ノーズがクラッシュバリアぎりぎりに止まり、車両の損傷はほとんど無いが自力で再走できず、ここで彼の予選も終了。
この平川車の排除は3分ほどで完了、9時21分に走行再開。ところがわずか3分2秒後にまた赤旗提示。今度はセクター3の登り勾配・カーブ連続セクションの始まり、T13~14区間のグラベルにニューウェイのマシンが止まっている。この3回目の赤旗が提示されたのが9時24分。前日に更新されたタイムスケジュールで指定されていた予選セッション終了は9時25分。この赤旗をもって予選終了となった。スーパーフォーミュラではノックアウト予選Q2、Q3において赤旗中断になった場合、アウトラップ~計時1周分だけ「時計を巻き戻して」再開するのが慣例になっているが、今回はそうした延長の判断は出なかった。
改めて振り返ると、土曜日のフリー走行とこの日曜日朝の予選を合わせても実際に車両がコースを走れた時間は20分に止まる。しかも2~3周しただけで誰かがコースを外れ立往生する事象が繰り返された。フルウェット状態で路面温度は16℃ほど。ウェットタイヤが何とかグリップする状態にもって行くだけで少なくとも3周、あるいはそれ以上が必要だ。さらにこの日の雨量を受けてコースのどこが水が多いかも、コースインしてまず確かめる必要がある。そして、風。コーナーへのアプローチで車速が下がり、ダウンフォースがみるみる減る中で、後ろから突風を受ける場所は前述のように何か所もある。そこでの車両挙動はどうなるか。コースインする前からそれらの確認のためのシナリオを組み立て、4~5周は丁寧に走り込む。スーパーフォーミュラを操るプロフェッショナル・アスリートたるドライバーとしては、そうした取り組みが求められるところではなかったか、と傍観者としては後になって思う。実際に、スーパーフォーミュラで経験を積んだドライバーのほとんどは、そうやって走ろうとして、タイムを出す機会を失ったのだった。

このまま晴れるか、また雨か?

昼を過ぎる頃には、気象レポートの「雨量」は「0(ゼロ)」になっていた。しかしコースを見渡すとまだ黒く濡れて見える路面が多い。こういう状況でスタート前の8分間ウォームアップが始まった。ウェットタイヤを履いて出てゆく車両も何台か。でもすぐピットロードに飛び込んできて、ドライタイヤに履き替える。金曜日以来のドライタイヤ走行に、各チームの動きも慌ただしい。ここでセットアップをどこに割り切るか、がレースの流れと結果を大きく左右することになるのだが…。
そもそもお互いの速さの差が非常に小さなスーパーフォーミュラ、しかも先ほど紹介したように、今回の舞台におけるその「速さ」の微差を映し出す配列にはなっていない予選順位、すなわちスターティンググリッドから始まる決勝レース。
この稿のはじめの話に戻るならば、予測するにはデータが足りないけれども、鈴鹿の状況も考えれば、ミディアムでスタートして早いタイミングでソフトに履き替える作戦が、最終的に上位に残る可能性が高い。これがこの時点での第1の仮説。でもソフトで最初のペースを上げられれば、それを利してどこまで差を詰められるか、あるいは広げられるか。不確定要素は増えるが、賭けとしては可能性が見える。これが第2の仮説。同時にもうひとつの変数は「雨」。一般的な天気概況とそこからの予想では、午後はもう雨は降ってこないと思われたが、チームによっては契約している気象情報会社から「まだ雨の可能性あり」という予想を受け取っていたところもあったようだ。途中からまた雨が来る可能性を考えた場合、ソフトでスタートして序盤のペースを上げておき、雨の来襲とともに全車がウェットに履き替える、という第3の仮説も確率は低いがありうる。
サスペンション・セッティングも、路面の変化をどう予想するかでずいぶん違ってくる。8分間ウォームアップの動きを見ていても、レースはドライ路面、と割り切ったチームがどれだけあっただろうか。スターティンググリッドに付いた後で、前後のアンチロールバーの硬さを変更していたのを見かけたのが、福住仁嶺車とキャシディ車。ともにアンチロールバー本体を交換する時間はないので、その作動腕の位置を変えて、装着してある部品でのフルソフト状態から何段階かハードへ、というアジャストだった。アウアー車(エンジニアはモトパーク派遣)になると、アンチロールバーをハード側に調整するだけでなく、前後4輪ともにアッパーアーム=アップライト締結部のナット(各輪2か所)を緩めて、そこに差し込んであったキャンバーシム(シム:隙間調整用の薄板)を複数抜く、すなわちキャンバーを増やす変更まで、大急ぎで進めていた。この部位のねじを急ぎの作業で緩め、締め直すのは、同じ部品を使うSF14での5年間を見てきた者としては、かなりのリスクと言わざるを得ないのだけれども。
逆にそうした調整を最後の最後に行う、というリスクに踏み込まなかったチーム/車両の中には、ウェットとドライの中間的セッティングのまま走らざるを得なかった事例もあったようだ。グリッド・ポジションは良かったのにレースペースが上がらなかったことからは、コンドーの2車などはそうした中間的セッティングだったのかもしれない。

  • 写真左:ウェットからドライへ。みるみる変化する路面状況に対処すべく、スターティンググリッド上でサスペンション・セットアップの大幅変更を進めるチームが複数。これは#50アウアー車、フロントのナックルアーム&アッパーアーム・ピボットを締結している1輪2本のナットを緩めてシムを抜き、キャンバーをネガティブ側に増やす作業。アンチロールバーの剛性変更も実施。同時にリアでも同じ組み合わせの作業を進めていた。
    写真右:あまり時間をかけず、確実な作業ができるセッティング変更としてはまずプッシュロッド長=車体底面地上高、ダンパー減衰特性などだが、今回はスターティンググリッド上でアンチロールバーの剛性(ロールを押さえるばねとしての硬さ)まで変更していたマシンを何車か見受けた。これは#5福住車。同時にフロントでも同じ部位の調整を実施。モノコックタブ前端の閉空間に組み込まれているため、サービスホール(穴)から手を入れての作業になり、リアよりもかなり面倒で時間も必要になる。

脚の硬さはタイヤの摩擦力に合わせる

改めて確認しておくなら、路面がウェットで摩擦力が低い場合は、車体に作用する慣性力、つまり旋回による遠心力、制動と駆動の加速度が低くなるため、サスペンションが柔らかく動くようにしておく。車体のロールも小さくなるのでタイヤのキャンバー変化も小さくなるから、その分、静止時の対地キャンバーも立てて(減らして)おく。ばねやダンパー、アンチロールバーを硬くセッティングすると、タイヤの摩擦力が少ない分、小さなストロークで動きが止まり、そこで一気に荷重移動が起こるので、タイヤはその摩擦限界のところで滑ってしまう。だから柔らかく、が基本。脚全体が動く分、そして路面に水の膜が乗っている分、車体の地上高も上げておく。さらに各コーナーの旋回速度とエンジンのトルク立ち上がり特性に合わせて、トランスミッション各段の変速比(ギアセット)を組み換えることもある。
路面がドライになって、タイヤの摩擦力が上がると、これらがすべて逆の方向にシフトする。旋回するマシンに加わる横向き加速度(横G)が大きくなり、減速Gも高くなるから、それを受け止めた時にばねが縮み/伸びる量をある範囲の中に収めるために、同じ荷重でもたわみ量の小さい、いわゆる「硬い」ばねを組み込む。ロールする動きについても同様だ。アンチロールバーもロールを止めようとするばねの力が強くなる方向にセッティングする。それでも強烈な横Gを受けて旋回する中で車体は外側に押され、タイヤも接地面から上の骨格(ケース)が旋回外側に向かってたわむ。つまりタイヤ回転面は外に傾こうとする。その分だけ、静止時・直進時のタイヤ・キャンバーを内側に倒しておく。つまりネガティブ・キャンバーを増やす。
そのあたりを理解すると、この日、予選からてんやわんやの中で、トラック・エンジニアたちが、空をにらみ、コース路面を見渡し、天気予想を見直すことを何度も繰り返しながら、決勝レースに向けて全てのセッティング要素をどうまとめるかに知恵を絞る、脳の思考回路がフル回転していたであろう状況が思い浮かんでくる。もちろん、8分間ウォーアップに送り出したら、それ以後のセッティング修正はスターティンググリッド上で、フォーメーションラップ5分前までに全て済ませなければならない。通常ならばプッシュロッド上部に組み込まれているねじだけで調整できる各輪の車高ぐらいで、それも実際に走って確認するチャンスはもうないのでよほどでないとやらない。あとはタイヤ(コンパウンド)の選択、そして内圧ぐらいに止めるところだ。モノコックタブ前端部の閉空間に収められているフロントのアンチロールバーは手が入りにくく、作業に時間がかかる。キャンバー変更のシム抜き取り・再締結は急いで作業すると確実性が低下する。だからグリッド上でそこまで踏み込んで作業するのは、その効果が予測と合うかどうかだけでなく、リスクが大きい。それをやるかやらないか。やるとすればグリッドに向かうメカニックにその可能性を伝え、現場での段取りと工具を準備しておいてもらう必要がある。

ソフトのロングランが「定石」になる?

気温19.5℃、路面温度18.5℃、雨量0mm/hの曇天、そして風はこの週末で最も強いくらいの常時5~6m/sec、もちろん西から…という気象条件、路面にはまだウェットの帯が少し残る状況で14時02分スタートシグナルの5連レッドランプ消灯。この瞬間、野尻智紀とニューウェイがエンジンストール、グリッドに取り残された。前方では国本がポールポジションの利を活かして先行、2番グリッドの坪井翔は動き出しは良かったがそこで若干ホイールスピン、すぐ脇から福住が間隔を詰める動きをみせるが、1コーナーへはグリッド順位のまま飛び込んで行った。
1周目を走り終えただけで、石浦、山下、大嶋、山本の4台がピットに滑り込んでくる。いずれもミディアムタイヤでスタートしていてここでソフトに履き替え、燃料もいわゆる「トップオフ」して、そのままフィニッシュまで走りきろうという戦略を選んだわけだ。はたして燃料が足りるのか。長めのセーフティカーランがなければ、コーナーへのアプローチで早めにアクセルペダルを戻して(lift)一瞬の惰行(coast)状態を作ることで加速の到達速度はほぼ変わらず、燃料消費を抑えるドライビング、いわゆる「リフト&コースト」が必要になる。そのぎりぎりの走行距離がどのくらいか、グリッド・ポジションが意のままにならなかった彼らは、それを「53周・247.7km」にしようと決めていたわけだ。結果論を先に記してしまうなら、この中でも山本と大嶋は、賭けに成功する。
その2周目、左50RのT4の中でD.ティクトゥムが斜め後ろを向いてストップ。ちょうど西風がマシンの背面から吹き込むT3へのブレーキングで右前輪がロック、速度を落としきれないままの旋回でアウト側にコースオフしてT4の中まで行ってしまい、縁石を乗り越えて舗装路面に戻ったところで内巻きにスピンしてしまったのだった。この車両排除のためにセーフティカー導入。それにタイミングを合わせて9台がピットイン。セーフティカーの直後に付けていわゆる「ステイアウト」を選んだのは、国本、関口雄飛、牧野の3車。いずれもスタートではソフトタイヤを選んでいて、ここでミディアムに履き替えて51周を走ればトータルタイムで後れを取るのが明らかだから、ある意味やむを得ない選択である。ソフトでスタートしてここでピットに向かったのは坪井1台で、2周終了ピットイン組の先頭でコースに戻ったところに前周にピット作業を済ませた4台が通過、その先頭を走る石浦の直後に坪井は何とかマシンを割り込ませた。他のピットイン組はこの集団の後ろ、ピット作業が速かった中嶋一貴、福住、塚越広大、平川、アウアーという隊列になった。

デジャヴのような…

7周完了でセーフティカーがピットロードへ。8周目に入るところから戦闘再開となる。ここで9周目からズルズルとタイムが落ちてゆく国本を関口が攻める。12周目を終わるストレートに戻ってきた2台はお互いにオーバーテイクシステムを作動させて加速、関口のほうが速度の伸びに勝り、13周目に入った1コーナーでアウトから並びかけて前に出た。ここからは関口がすでにピットストップしてタイヤ交換義務を消化しているドライバーたちをどこまで離せるか、自身のピットストップに必要な33~34秒の差をつけられるかが勝負。それがわかっているのは当然、この状況に関口のドライビングが「はまった」。毎周回、後方集団より1秒以上も速い1分31秒台に乗せてくる。ピットでよりフレッシュなソフトに履き替えた面々のほうがラップタイムが上がらない。そのグリップのピークを引き出した「一撃」の速さが見られないまま、皆ペースが落ち着いてしまった。国本、石浦、そしてミディアムに履き替えた坪井などは、その中でもペースが上がらず、後続車に攻め立てられている。
思い返せば、関口がほとんど同じパターンの戦い方、そこで彼ならではのドライビング・センスで同じように他を圧したレースがしばらく前にもあった。2016年第6戦SUGOでのこと。セーフティカー導入に際してステイアウト、そこからタイヤを横すべりの限界まで使うドライビングで後方との間にピットストップに必要なギャップを築いて勝った。あのレースである。
今回もソフトタイヤで30周140km以上にわたって他よりも速いラップタイムを刻み続けた。ラップタイム推移を見ると、その後半10周ほどはタイムが落ちかけつつ止まっていたことがわかる。タイヤのグリップダウンはおそらくリアのほうが先に現れてきたはずで、そうなるとコーナリングスピードを維持するためには、リアタイヤの横すべりが増える。そこまで踏み込んで、つまりターンインからリアタイヤが滑ってもそこで現れる車両挙動をコントロールして旋回して行き、しかもタイムを落とさない。今のスーパーフォーミュラ・ドライバーの中でここにいちばん長けているのが関口なのだと、これは誰もが認めるところ。逆に言えば、3年近く前のこのコーナーでも書いた記憶があるけれど、そこまで“深い”横すべり角を使っても、ヨコハマのSF用タイヤは走れるし、グリップ限界も落ち込まないすべり領域があるのだが、関口以外はなかなかそこに踏み込めない、ということが外から見てもわかる車両挙動とタイムに現れている。もちろん、どのコースでも、どんな状況でも、そこまで使えばレースタイムが稼げるとは限らないのだが、あの時のSUGO、そして今回のオートポリスは、それが「タイヤを極限まで使う」ことにつながった、ということだ。

「攻める」しかないがゆえのシナリオ、成功

かくして関口は、トップに立った13周目から27周を走る間に、直接のターゲットとなるタイヤ交換義務消化組の先頭に出た山本に対して45.76秒もの大差を築き上げていた。同じくソフトタイヤでスタートしたステイアウト組の中でこの時点では見た目2番手に付ける牧野との差は31.73秒。40周を完了したところでピットロードにマシンを向けた。ミディアムタイヤへの履き替えと同時に行った燃料補給は、ノズル挿入時間ほぼ12秒。ということは補給量にして30L強。1周終了でピットイン、そのまま完走した車両もあったように、満タンでスタートしていればフルに燃料を使って走ったとしてもレース途中での“注ぎ足し”は4~5秒ほどノズルをつないでいれば十分なはず。ということは関口はスタートからここまで、コンサーバティブ(保守的)な作戦を選んだ車両よりも15kgかそれ以上軽い状態で走ってきた計算になる。逆に、この時は燃料残量がほとんどなく、残り14周を走りきるのに必要な燃料を積む必要があったということだ。
つまり関口と柏木良仁エンジニアのコンビは、16番手という後方グリッドからのスタートになったことで、ソフトタイヤでスタートしてできるだけ速いペースで走り続け、前半でセーフティカーが入った時はステイアウト、という作戦を「決め打ち」していたのだ。それがここまで見事に「はまった」のも、レース終了直後の「テクノロジー・ラボラトリー」トークショーにお迎えした柏木エンジニアが語ったとおり、「今日はドライバーに尽きます」。もちろん、ごく早いタイミングでセーフティカーが入ったこと、その後は関口がリードを積み立てている間ずっとセーフティカーが入るような混乱がなかったこと、どちらも「運がよかったです」という柏木さんの実感につながるのだが、それもレース。たしかに前戦・鈴鹿では、最初のセーフティカー・ピリオドでステイアウト、先頭に立って同じような逃げを打った、そして実際にラップタイムは速かった小林がさらに3度もセーフティカーが導入されたことでリードを築いてはリセット、という状況に見舞われていたのだから。
この日の関口は、ミディアムに履き替えたところでその新品の「一撃」を引き出して、その直前までソフトで出したラップタイムとほぼ同じペースで周回。レース序盤で履き替えたソフトで40周ほども走り続けることを選んだ後続車両たちよりも速く走って“だめ押し”、決着を付けたのだった。
それにしても、土曜日から日曜日前半まで雨に邪魔されたことで、まず実走テストを行っていないコースで今年のタイヤ、とくにソフトがどう機能するのか、どんなセットアップがそれを引き出せるかの確認は消化不良のまま。SF19との“対話”も、ドライバー、エンジニアともにまだまだやり残している部分が多いように見受ける。この状況で、次戦・スポーツランドSUGOは同じように山肌の斜面に形作られたアップダウンのきつい、回り込むコーナーが多いレイアウトとは言え、路面も含めて差異は少なくなく、しかもコースアウトすればクラッシュのリスクが高い。それをどう攻略してゆくのか、ドライビングにもエンジニアリングにも不確定要素が多いまま、シリーズは進んでゆく…

オートポリスでのSF19初レースで優勝した関口以下、最終的に10位までに入った各車/ドライバーと、雨中の予選で1周のチャンスを生かしポールポジョンからスタートしたものの順位を下げた国本の54周のラップタイム推移を追ったグラフ。セーフティカー導入に対してコース上に止まり13周目に入るところで国本を抜いてトップにたった関口が、そこからソフトタイヤで他よりも明らかに速いペースで走り続けたことが現れている。牧野は26周目のヘアピンで国本のインにマシンをねじ込むようにして抜いた後は、関口のソフトタイヤ磨耗進行時と同等のペースまで上げているが、ピットストップを最終盤まで引っ張っても(ということはスタート時の燃料搭載量はほぼ満タン)、4番手に戻るのが精一杯だった。国本はソフトタイヤの初期グリップを使い切ったところからはペースが落ち、レース中盤、ピットストップ完了組の前を押さえる形になってしまった。逆に見ると、関口が早いタイミングで国本をズバッと抜いたことが勝利につながる要素のひとつだったことになる。結果的に1周目ピットストップを敢行した山本、大嶋が2、3位、5~8位はSC導入の2周目ピットイン組だが、各車、ソフトタイヤに履き替えた後もラップタイムはあまり上がっていない。集団になって前を押さえられていたこと、ピットアウト直後は燃料搭載量が多く、また燃料消費も考えたドライビングが必要だった、などの状況が考えられる。

優勝した関口の各周回コントロールライン通過タイミングを基準に、グリッド順位(各ポジション1秒ずつの差を設定)~毎周の時間差を計算して54周を追ったグラフ。各周毎にグラフの位置が順位とその変動を示すラップチャートにもなっている。ニューウェイと野尻の2車はスタートでエンジンストールしたため、最初から大きく遅れている。13周目に国本と線が交差、すなわちトップに立ったところから関口が着々と後方との間隔を開いて行っている。そして40周完了でピットイン、ここで後続車群との時間差が一気に詰まり、いったん牧野がトップに出るが50周完了時点でタイヤ交換義務のためにピットイン。2周目ピットイン組の中では先頭に出ていた福住の直前に戻る。1周目ピットイン作戦を敢行した4車は、次の周にセーフティカーが導入されたことで坪井以外の2周目ピットイン組の前に出ることに成功。坪井はここでミディアムタイヤに履き替えたためペースが上がらず、同じチームの石浦とともに次第に順位を下げている。結局1周目ピットインの賭けが当たった形の山本がグリッド17番手(関口のすぐ後ろ)から2位、大嶋がグリッド11番手から3位まで順位を上げている。

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