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テクラボ  2021開幕前に知っておきたいこと

2021年3月30日

両角 岳彦

ラップタイムからテスト・プログラムを推理する愉しみ

いつもいろいろなところで語り、書いていることだけれども、スーパーフォーミュラ(に限らずモータースポーツ全般)のテスト、そしてレースウィーク最初のフリー走行で、各車が多くの周回を重ねた中で「1周だけの最速タイム」を並べて比較することにはあまり意味がない。それぞれのセッションでそれぞれの車両、チームが「確かめたいこと」や「データの収集」などプログラムを用意し、それをひとつひとつ消化して行くのであって、となれば毎周のタイムの移り変わりや、何周かの連続周回の状況、その間でピットに留まっていた時間、できればその時にどこに触れていたか…などを観察することで、それぞれのドライバーとエンジニアが何をしようとしているのか、を想像する。これがテストを「観る」時のおもしろさ、ということになる。ちょっと深すぎるけれど…。
この3月、鈴鹿と富士で合わせて4日間、7+αの走行セッション(鈴鹿の2日目午後は雨。ウエットのセッティングを見ようにもちょっと水量が多すぎた)で、それぞれにどんなプログラムをこなしていたのか。 もちろん、今年が3年目のSF19、エンジンもタイヤも昨年の仕様を継続しているので、まずはこれまでのセットアップを見直し、新たなシーズンを戦う基本となる車両仕様、いわゆるベース・セッティングを短いオフの間にエンジニアが組み立てているはず。その確認から始めて、るそこからいくつかの状況を設定して走り、少しずつ方向性を変えながら試し、セットアップをファイン・チューニングして行く、というプロセスが定石といえば定石。


しかし、例えばドライバーが移籍した場合、チームとエンジニアによって細かい仕様が異なるだけで走らせた時の感触、ドライビングに対するマシンの反応などが変わってくる。ドライバーとしてはまずそこを体感し、それをどう操るか、つまりどんなタイミングでどんな操作を積み重ねて行くかを試し、そこから自分の運転感覚や操作のタイミング、その基本となる身体センサーなどの「個性」に合うセットアップへと微修正を試みる。
そのレベルに止まらず、このSF19という「競争の道具」からもっと「速さを引き出す」試みに踏み込むチーム、エンジニアもいたはずだ。俗に「(セットアップのための)アイテム」というのだが、基本機構は皆が同じものを使うSFで、独自の試みができるエリアとして残されているのは、サスペンション・メカニズムの中で車体と車輪の相対運動の速さを変化させるダンパーと、もうひとつ、左右の車輪の間を連結して両側が同方向にストロークする形で車体との位置関係が変動する動きにだけ作用する「3rd(サード)エレメント」と呼ばれるばね+ダンパー機構の二つ。車速の二乗に比例して加わる強烈なダウンフォースを受け止めるために、今日のトップフォーミュラのばね、とくに前輪側は極端に硬い。すると路面の細かな凹凸を踏んで走る中で、車体が速いピッチで跳ねやすくなる。この上下振動を、特定のピッチ(振動数)について押さえ込もうという仕掛けが「イナーター」で、これはサード・エレメントに組み込まれる。それ以前に、ばねやダンパー、アンチロールバーという基本の機能要素、そしてキャンバーやトーといったタイヤの基本的なアライメントの設定と組み合わせを様々に変えて、車両と、そして何よりタイヤのパフォーマンスを今まで以上に引き出すことはできないか。そうしたもの、ことを試すのもテストの時だ。
あるいは、このカテゴリーにステップアップしてきたドライバーの場合、パドルシフトやハンドクラッチの操作習熟に始まり、足まわりやエアロダイナミクスを構成する様々な要素のどれをどう変えるとマシンの反応やグリップ・バランスはどう変わるのか、さらにそれらをタイヤの摩耗状態や燃料搭載重量が変化するのと組み合わせるとどうなるのか…、そうした膨大な「順列組み合わせ」を体験することも、こうしたテストで必須のメニュー。
もちろん、何時間もの走行時間帯の中でどこかでは「燃料搭載量を削り、新しいタイヤを装着して、できるだけ速く走ってみる」、いわゆる「予選アタックのシミュレーション」を試みることは、誰しもがテスト・プログラムに組み込んでいる(はず)。それで「競争相手の中で、今、自分(たち)の“速さ”はどのあたりにあるのか」という、いうならば「相対評価」を見ることも、競争の中では欠かせない。自動車競争に関わる人間、とりわけドライバーという人種にはとりわけその「相対位置」にこだわる人が多い。当然だけれど。ただ今回のプレシーズン・テスト、4日間の中では、天候やトラブルによる走行中断の影響でアタックを試みる機を失することが重なった。それであっても、最速1周ラップタイムが1秒差の中に走った車両のほとんどがぎっしり詰まるという、いかにもスーパーフォーミュラらしい結果が毎回のことだったが、その中での相対比較はちょっと曖昧、と見た方が良さそうだ。

シーズンインに向けて、プラスとマイナスと

そこで、だ。セッション毎の最速タイムだけでなく、燃料搭載重量が大きめでタイヤの摩耗は進んでいないレース序盤、燃料重量は減ってゆくけれども同時にタイヤの摩耗も進む中盤、燃料残量が少なくなったところでタイヤを履き替えた終盤、そして軽いタンクでフレッシュなタイヤを履く予選、大きく分けてこの4つの状況を想定して各車のラップタイムを見ると、それぞれにタイムのばらつきは少なく、今年も予選からレースまで接戦になる、コース上で何台ずつかが重なり合うように連なって走るこ情景が容易にイメージできる。ただその中でも、各シチュエーションのそれぞれで安定してタイムを出しているか、そこに至るピットイン&コースインの時間経過(時間の使い方)などを見ていると、実戦に入ってからも安定して速いペースで走るのだろうな、と受け止められる車両、ドライバーが何人か浮かび上がってきた。
ひとつのポイントは、「安定」「継続」。
今季、ドライバーのチーム移籍がけっこう多い。加えて熟達のトラック・エンジニアの異動もあった。ドライバーによってステアリングと2つのペダル操作を組み合わせたドライビングというスポーツの組み立て方、その経験的手法に違いがあり、そこでタイヤの変形から路面接触の感じ方、そこで起こる車両運動の感じ方が異なることはしばしば話題になる。一方で先ほども触れたように、エンジニアが違えば、速さを引き出すための思考法、セッティングを構築して行く組み合わせ方とそのプロセス、もちろんドライバーとのコミュニケーション、その内容をどうセットアップに織り込むか…などがそれぞれに異なり、結果としてドライバーが体感するマシンの反応や挙動もそれぞれの個性が現れると聞く。残念ながら私自身はこうした競技専用車両を走らせた経験がごくわずかしかないので、実体験としてはわからない。でもロードカーの試乗体験は多く、また開発フェーズでも様々に運転と言葉とデータによるフィードバックの体験も積んできたので、こうしたことが起こるのは想像がつく。

そう考え、そこに8セッションのそれぞれでテスト・プログラムを順調にこなしているように見受けられたか、タイヤや燃料搭載重量の条件組み合わせと見られるラップペースの違いの中で、それぞれに速いタイムを出していたか、などなどを見て行くと、まずは「速さ」に定評があるドライバーの中でも、昨年までと同じチーム、エンジニアの元で走っている何人かが、明らかに安定した成果をタイムに残していることが浮かび上がる。それは例えば、平川亮と大駅エンジニアのコンビであり、野尻智紀と一瀬エンジニア、そして福住仁嶺はエンジニアは吉田さんから杉崎さんに変わったが、このチームはセッティングとその裏付けデータの共有レベルが高く、違和感は現れないと思われる。福住自身は、鈴鹿のテストは首を痛めていて2日目の走行を回避したが富士では快調。実戦態勢の安定感という意味では、関口雄飛と柏木エンジニアのコンビも指を折る対象なのだが、開幕戦の舞台となる富士スピードウェイのテストではセッション毎にトラブルが発生。新シーズンに向けた煮詰めが足踏みした感が残る。
もう少し経験が少なく、まだ「若手」と言われがちな面々の中では、大湯都史樹と岡田エンジニアのコンビが「一発」だけでなくレースラップ想定でも、全体ベストとも言えるタイムを何度か出している。昨年2勝している坪井翔と菅沼エンジニアも、淡々と、でも着実に速いペースを刻んでいた。
これに対して移籍組の中でまず注目されるのが昨年のチャンピオン、山本尚貴。新しい発想で「速さ」を解析しようとしている加藤エンジニアと組むことになったわけだが、お互いのアプローチのすり合わせから始めて、新しいアイテムの確認などにじっくり時間をかけているように見受けた。体調が整わない牧野任祐、新型コロナウイルス感染抑制策の対象となって日本への入国・活動が始められないサッシャ・フェネストラズ、そして2回のテストを挟んだ時期、アメリカでセブリング12時間レースに出場していた小林可夢偉は、ドライバーとしてのポテンシャルはスーパーフォーミュラ参戦者の中でもトップレベルなのだが、この2回のテストを全く走れなかったのは痛い。とくにフェネストラズは昨年、速さのポテンシャルの片鱗を見せながらもレースでは繰り返しアクシデントに、それもスタート直後に巻き込まれたことで実力を発揮しきれなかった。その可能性を引き出した田中エンジニアがチームを移り、新たに担当エンジニアとなったが村田氏とマシンを走らせたことがいまだないまま。出場できたとしてもその実戦が、すなわち初対面になってしまう。ちなみにこの二人のベテランかつ辣腕で知られるエンジニアは、結果的にお互いのポジションを入れ替える形の異動になり、田中氏のほうは新たに阪口晴南を担当。2回のテストでは実質的にSFルーキーの坂口に「どの要素をどう変えると、クルマはどう動くのか」をひとつひとつ体験させながら、その中でポイントになるところでは「速さ」を試す、という「教育」を着々と進めていることが伝わってきた。これはフェネストラズとの1年目と同様かと。このあたり、エンジニア各氏がプレシーズン・テストでどんなことを考えて進めていたかは、別掲「エンジニアたちの作戦計画」に、それぞれの言葉で記していただいたので、そちらをご参照のほど。

「0.1秒」を切り詰めるためにチームも知恵を絞る

これから始まる新しいシーズンの戦いを、現地で、あるいは映像で感染する中で、もっと「リアルに」現物を見て、「秒を争う」ために知恵を絞ったモノづくりを楽しむのも「Tech-Lab.流」。そうしたアイテムとして、今回紹介してみようと思い立ち、鈴鹿と富士のピットレーンで取材したのが「オートマチックリフト・ジャッキ」。
タイヤ交換の義務付けによって、レース中に必ずピットストップが行われるようになって、当然ながら「止まって」「ジャッキで車体を持ち上げ」「4輪を交換して」「ジャッキを落として、発進」という一連の流れをどれだけ早く進められるか、マシンをコースに送り出すまでの作業時間を縮められるかに、各チームが知恵を絞っている。その中で生まれた「アイテム」のひとつが、ジャッキの自動化。マシンが作業エリアに滑り込んでチームが描いた所定の位置に止まる。その瞬間に、マシンのノーズを当てて位置を合わせるストップボードにエアジャッキを組み込み(実際は圧縮窒素ガスをボンベからホースで導いて空圧シリンダーを伸ばす、のだが)、そのリフトアップをマシンとの接触を引き金に行う、というもの。このアイデアが最初に実戦に投入されたのは2018年開幕戦の鈴鹿。チーム・インパルが先鞭をつけた。その3週間後のオートポリスにはいくつかのチームがフロントジャッキの試作品を、そしてナカジマレーシングは止まろうとするマシンの背後からメカニックの手で挿入、空圧でリフトする半自動ジャッキの試作品を持ち込んでいる(フロントは作業の確実さを優先して手動操作・空圧リフト)。
その後、2020年からはピット作業要員が5名同時に作業することが許され、かつ2020年シーズンは新型コロナウイルス感染抑制対策の一部としてレース距離を短縮、燃料補給が禁止されたことで、フロント側のジャッキに車両進入・停止に合わせて自動的にリフトするものを使うと、4輪それぞれに作業者を1人ずつ配し、あらかじめ体勢を整えてマシンが滑り込んでくるのを待てるようになった。残る1人は(燃料補給がない場合)リアジャッキの挿入・抜き取りを担当。フロントタイヤのどちらかの交換が終わったメカニックがフロントジャッキを“落とし”つつ引っ張ってピット側に退避。全員の作業終了を確認して車両誘導要員、俗に言う「ロリポップマン」がドライバーに発進OKの合図を出す。
こうしたピットストップ・シークエンスが確立されたことで、フロントの自動ジャッキアップはスーパーフォーミュラのレースの必須アイテムとなった。リアも車体後端部の衝撃吸収構造体を下から持ち上げるジャッキは、以前の梃子の原理で体重を掛けて引き下ろす人力方式から、空圧シリンダー作動が当たり前になった。マシンが滑り込んでくるのに合わせてその背後に回り込んでジャッキを滑り込ませてリフト、タイヤ交換完了に合わせてジャッキダウンを操作するのは人の手によるのだが。

この「自動リフト・ジャッキ」をはじめ、ピットレーンやピット内で使うそれぞれのレースやマシンに専用の「道具」類、日本ではチーム・メカニックの誰かが設計し、自ら製作することが多い。自分たちが使う道具にこだわり、その機能や触感、精緻な造りにこだわるのは、日本人ならでは。海外であればそれぞれの分野に専門企業や個人がいて、そうした人々が作ったものを購入して使うのが当たり前になっている。そして短いとはいえシーズンオフには、それまで実戦で使った経験から改善のアイデアをいろいろと考え、新しいメカニズムを生み出し、作り上げてくる。とくに空圧作動・半自動動作のジャッキは前述のようにまだ歴史が新しく、「定番」が固まっていない。フロントウィングの進入を検出するセンサー、空圧作動シリンダーの配置とリフトアップのリンク機構、そこに圧縮窒素ガスを送り、抜くバルブの選択と配管、ジャッキを“落とす”=空圧を抜くためのスイッチ…などなどに作り手の発想と主張が現れてくる。さらにプレシーズンテストでは、インパル、 TOM’Sの2チームがドライバーに「停止維持」「発進」を知らせるかなり大きなシグナルライトを上部に備えるフロントジャッキを持ち込んでいた。前後のジャッキと4つのインパクトレンチに作業完了を検出するセンサーを仕込み、そこからの信号が全てOKとなったことをモニターする回線+スイッチボックスを準備しているチームも複数ある。これはスーパーGTでも採用している手法であり、燃料補給を行う場合はその補給ノズルにも「予定した補給量到達」で点灯するLED、抜き取り完了を検出するセンサーなども加えている。
ここでは、プレシーズンテストで目撃した各チームのジャッキ外観をご覧いただこう。
また、インパル、無限など複数のチームがピットインしてきたマシンの停止位置を導く「ボックス」(ピットロード路面にテープを貼って示す)を、一般的なピットロード(進行方向)に平行、ではなく、ノーズが少しピットボックス方向に向いたままの「斜め」姿勢で止めることを試みていた。ピットストップのために滑り込んできたマシンはファストレーンを走行してきたところから作業レーンへと向きを変える。「ボックス」がピットロードと平行だと、そこからもう一度、逆方向に頭を振ってから止まらなければならない。ブレーキングの最後にこの動作を加えると、0コンマ何秒かのロスが出る。それを削ぎ落とすべく、作業レーンにマシンの頭を向けたらそのまま止まることを考えたわけだ。ピットアウトする時はリアタイヤをホイールスピンさせながらテールスライドしつつ発進するので、進路と平行に止まっていなくても問題はない。ただそのためにはどのくらいの角度が適切か、ピットロードの幅員が狭いコースではどうするか、などシーズンが進む中で検証とカイゼンが進んでゆくだろう。こんなところまで目を配り、創意工夫を凝らして、100分の何秒かを切り詰めようとしている。そうしたことも知っておくと、ピットストップ・シークエンスで「目を付ける」ポイントが増えるはずだ。

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