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CN開発テスト インサイドレポート2

2022年4月28日

「SUPER FORMULA NEXT50」プロジェクトの柱の一つ「カーボンニュートラルの実現に向けた素材・タイヤ・燃料の実験」、「ドライバーの力が最大限引き出せるエアロダイナミクスの改善」を目的とした開発テスト。4月25日(月)〜26日(火)の2日間で得られた評価を、開発ドライバー石浦宏明と塚越広大、そしてテクニカルパートの責任者である永井洋治のコメントで紹介します。

開発テストカー「赤寅(Red Tiger SF19 CN)」ドライバー石浦宏明
「富士の場合は、ダウンフォースを増やしたり減らしたりしても、ベースラインが少ない状態なので、前回のテストの段階から、鈴鹿に行ったらどう感じるのかな、富士とは違うのかなと思っていました。今回の鈴鹿では、フルダウンフォースから減らしていきましたが、鈴鹿で10%とか減らすと、結構”減った感”はありました。と言いつつ、ロングランも10%減らした状態で走りました。その状態で上手くクルマを合わせたり、慣れて行けば、特に違和感なく普通に走れますし、ロングのタイムも安定しています。現役の時、ダウンフォースって「あったらあっただけ欲しい」、「削らないで欲しい」って思っていましたけど、ちょっと前の世代のレーシングカーであれば、ダウンフォースが今より少なくてもみんな普通にレースしていましたからね。ダウンフォースの減少がレース中のタイヤの変化やペースに影響して、例えばオーバーテイクの増加につながるとか、レースがより面白くなる要素になると明確なのであれば、削ることはいいことなのかなとも思います。ドライバーとして減らして欲しくないという思いもあれば、レースは面白くなって欲しいという思いもあります。だから、どこまでが許容範囲で、どこより下は「やっぱり無理だよね」っていうのが、何となく富士と鈴鹿を走ったことで見えてきたのはすごく良かったと思います。


 
追走に関しては、フルに付けている所で前にクルマがいると、どうしてもダウンフォースの抜けの差が大きく感じるというか。富士はもともと23度までしか付けていないので、富士の時は逆にダウンフォースが付いている方が、近づいて走れる印象だったんです。自分がある程度安定していないと、近づいた時にフラフラになってしまうというのがあったので、付いている方が良かったんです。でも、鈴鹿に来て31度になると、前のクルマに近づいて乱気流に入った時、普段付いているダウンフォースが急に抜けるので、その落差が大きいと感じました。それを21度にしたら、落差自体はちょっと減って、急激な挙動変化というのは感じにくくなりました。そこは富士とは違う評価になって、「なるほどな」と思いましたね。また、富士は(高速コーナーが)100Rで、ずっと右コーナーなので、少し前のクルマとラインをズラして走れば結構走れてしまいますが、鈴鹿はS字がずっと切り返しで、絶対ラインがクロスしてしまう。そこでダウンフォースがシュパッと抜けたり、後ろがフラフラとなったりするので、鈴鹿で空力を見るのはすごくいいなと思いました。ただ21度で落差は減ったんですけど、減ったからと言ってビタビタに真後ろについて走れるかと言ったら、そんな簡単なことでもありませんでした。その分、プラスアルファで、もっと乱気流の少ないエアロにするとか、後ろのクルマはもう少し下面で出すとか、何か組み合わせていかないと、近づいて走るのはそう簡単なことではないなという感じがしました。

カーボンニュートラル・フューエルに関して言うと、前回の富士でテストした物は正直、下のトルクが結構減っていました。だから、最初に乗った感想として、「全員がこれであれば、問題なくレースできます。走れます」と言う感じでした。ただ、いつもの燃料と比べれば下が痩せているので加速感がないと言うか。上のパワーは燃料流量とかで合わせてもらっているので同じ感じなんですけど、踏み始めからの最初の加速がちょっと普段の物より低い感じだったんです。でも、今回の物は、余りそんな感じがなく、ガソリンに近い感じ。最初出て行った時には、どうしてもベンチと違う所があるんだと思いますが、ババババッてヘジテーションが出たりして、「大丈夫かな」と言うのがあったんですけど、すぐアンチラグとかブーストの制御とかで色々補正してもらいました。その結果、最終的にはガソリンと変わらないフィーリングになりました。今、パッと乗ったら、現役ドライバーも違いが分からないと思います。
 
タイヤに関しては、基本的に富士と同じ評価になって、コメント的にも、例えばウォームアップが少し良かったりとか、1つのコンパウンドは少しソフト目に感じるとか、もう1つはしっかりしているとか。富士でコメントしたこととほぼ同じことになりましたし、塚越選手のコメントも全く一緒でした。初日は少しお互いにタイヤテストした時のダウンフォース量が違ったり、こちらのクルマに少しトラブル箇所とかもあったので、ペースにも差があったのですが。ただ、タイヤの評価のコメントとしては、同じコメントになったので、そこは良かったと思います。
構造違いに関しては、今までのものと直接比較テストはできていないんですけど、初日の午後と、それに引き続き2日目の午前中にロングをしましたが、ずっと同じタイムで走れました。構造に関しては材料が違うことで、何かデメリットが発生していないか、と言うことが大事だと思いますが、そう言う意味では特にデメリットを感じなかったので良かったと思います。これをまたヨコハマさんが持ち帰って、次に活かす材料になったのではないかと思います。
 
前回すごく順調にテストが進んだので、その分、今回の鈴鹿で見たいことは事前に整理されていました。天候が不安定で、メニューを組み替えたりしている中でも、鈴鹿で見たかったことは、かなり見ることができていると思います。ですので、すごく順調ですね。Bcompについては、乗っているドライバーには全く分からないですけど、その他の各アイテムの評価はしっかりできています」

開発テストカー「白寅(White Tiger SF19 CN)」ドライバー塚越広大
「まずエアロに関しては、富士と同じ内容でテストをしましたが、鈴鹿の方がハイダウンフォースな分、感度が大きかったです。最初の走り出しで感じたのは、鈴鹿のようなハイダウンフォースの方がやはりグリップしますし、クルマも全然速いなと感じました。そこからダウンフォースをどんどん下げていって、最終的に17度まで下げましたが、それで走れないかと言ったら130Rは普通に全開で行けました。ただ、17度まで下げると、タイヤとか色々な物をそれに合わせて変えていかないと、いきなりは難しいと思います。また、前回の富士でも言いましたが、やっぱり天候が悪くなった時に、この速さでダウンフォースが無いとなると、かなり危険になってしまうのではないかと感じました。もちろん、安定したコンディションでは走ると思いますが。そのあたりを考慮すると、減らし過ぎは少し危ないかも知れません。
追走に関しては、一番ハイダウンフォースの時、自分ではうまく走れており、追いかけやすいのですが、例えばS字などで2台が交差すると、ダウンフォースが抜けた時の差が大きくなります。一番ハイダウンフォースにした時にはそういった、追走のメリット、デメリットがあるのかなと思いました。一段階減らした状態だと、交差した時の差が小さいので、その点はクルマも安定していると思いますが、ダウンフォースが抜けるのは変わりないですし、どこまで近づけるかというと、大きな差はないので、まだ課題としては難しさが残っているのではないかと思います。


 
今回試した違う種類のカーボンニュートラル・フューエルに関しては、実際乗っていても前回と違いを感じることが出来ました。同じカーボンニュートラル燃料でも、作り方や作っている場所によって、違うんだなということを感じましたね。基準となるのが、今のハイオク燃料だと思いますが、それに対して、パワーの出方の特性が違っていたりします。今回の物は、特性として、割と従来のハイオクに近いのかなと思いました。コーナーの立ち上がりなどでそういう部分が分かりましたね。
 
タイヤに関しては、2種類のコンパウンドを試しましたが、従来のコントロールタイヤと比較して、1種類はそれに似ているかなという感触があり、もう1種類は少しソフトかなという評価でした。ただ、どちらもグリップとして今までのものより少ないとかそういうことはなく、そのあたりは富士の時と同じかなと思います。再生可能な素材を使っても、決してパフォーマンスとして大きく変わることはないんだなというのは、鈴鹿でも感じました。また、両方のタイヤでロングランしましたが、タイヤの特性はショートランの時と同じでそれぞれに違いはありました。初日のロングと、2日目に涼しくなった時のロングでは、また少し感触が違いましたけどね。


 
総じて、燃料に関しても、タイヤに関しても、いいパフォーマンスは出しています。もちろん色々課題はあるでしょうけど、環境に優しい物でレースができるのであれば、すごくいいなと思います。ドライバーのフィーリングとして、「これじゃちょっと難しいな」というようなことは正直ありませんので、何とか形になって欲しいと思っています」

テクニカル・アドバイザー永井洋治
「今回は、前回のテストの延長でもあるのですが、ここ鈴鹿はハイダウンフォースサーキットです。富士以外がすべてハイダウンフォースサーキットなんですね。具体的に言うと、(鈴鹿の通常のレースでは)リヤウィングがフルに立っていて、(仰角)31度です。富士は23度ぐらい。そこで、前回富士でやったダウンフォースレベルをどのあたりに持っていけば、追い越しができるのか。リヤウィングが後続車にどう影響するのかということを、ハイダウンフォースサーキットで検証することが、初日午前中の目的でした。31度、21度、17度と3段階試して、31度と21度では追走もしましたが、後ろに着いた時の(ダウンフォースの)落ち幅がハイダウンフォースサーキットでは富士よりもやはり大きかった。富士では23度から17度に落としましたが、落とした影響と絶対ダウンフォースのバランスから考えると、リヤウィングを寝かしても接近戦はすぐ増える感じではないという(ドライバーからの)コメントでしたね。今回は、感度が出て、31度から21度にすると絶対ダウンフォースは下がるけれども、影響は少なく、より後ろに着きやすくなりそうだ、と。その感度が富士とは違うと分かったのが、たいへん収穫でした。17度は確認のために行いましたが、そこまで落とすと、極端にタイヤの温まり方とか磨耗の仕方とか、違うクルマになったような感じで、トップカテゴリーの速さとしては下がり過ぎてしまうので、そこは少し難しい領域だなという感じでした。

また、今回、Bcomp社のカウル類をテストしていますが、まず熱の影響がどのような感じかを見ています。測温した感じでは、基本的に問題ないレベル。そもそものターゲットからはズレていないので、行けそうだなと感じています。もともとBcompの弱い所は3つあるんです。一つは熱。そして二つ目は絶対強度。パワーリブなどで強度を上げてはいますが、やはり絶対強度がカーボンよりは低い。それから、端の部分=コバと呼んでいますが、リベットを止めたりするところがどうしても欠けてきてしまいます。強度不足もあると思います。長く使うことを考えると、そこが弱いですね。三つ目は水。麻繊維は水を吸いやすいと考えています。樹脂で固めてはいますが、隙間から水が入る可能性があり、入ってしまうと歪みが発生する部分があるんです。その3つの課題があるので、今回持ってきたのは、フルBcompの物と、それに対して手を打った「ハイブリッド版」と自分たちが呼んでいる物。ハイブリッド版は3層で作ってありますが、エンジンカウルはBcomp+リサイクルカーボン+カーボン、サイドカウルはBcomp+コルク+カーボンとなっています。エンジンカウルで熱が当たる所には、さらにカーボンを追加してあります。初日午前中のセッションではそのハイブリッド版、午後はフルBcompの物をTCDのクルマでテストします。そこで課題を確認したい。将来は、当然100%Bcompというのが環境的には良いのですが、今100%の物に課題があるから使わないということになれば、ゼロか1かになってしまう。ですので、100%の物を使えるようになるまでの間、ゼロによりもハイブリッドという選択も考えています。それでも現段階でカーボンニュートラル素材が3分の2ぐらい入っていますのでそこは評価できます。そこから次第に割合を上げていければ良いと思っています。


 
今回のテストでは、予定をほぼ100%消化することができました。ただ、雨が降る予想が外れて、ウェットタイヤのテストをできなかったことは残念でしたが、ドライの計画は全てできました。収穫は、ほとんど全ての項目でありました。空力テストもダウンフォース量と追い越し性能とのバランスが分かってきました。それから、新しいBcompの素材も2日間テストして、特に大きな問題なく行ける感触も掴めました。燃料に関しても、新しいものを試してみて、課題も色々と分かったので、次につなげることができたかなと思います。タイヤに関しても、ハイダウンフォースサーキットで、今までのコントロールタイヤと新しい構造、新しいコンパウンドをロングランで比較できたので、次につながる成果があるテストだったと思います。
 
次回のオートポリスでは、今回の復習も兼ねて、また条件が違うところでどうなのかということをもう1回リピートしたいと思います。また、雨が降ったら、ぜひウェットタイヤをテストしたい。次の課題は、ダウンフォースレベルを少し落とした時のウェットタイヤの温まり方になるので、そこを上手くクリアしたいなと思っています。雨が降れば、Bcompに関しての耐水性テストもできると思っています」

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