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開幕戦 「テクラボ流」レースのシナリオ
2018年4月17日
両角岳彦
■レース距離: 296.157km (鈴鹿サーキット5.807km×51周) 最長1時間50分
■予選方式: ノックアウト予選方式 (Q1:20分間 19→14台 Q2:7分間 14→8台 Q3:7分間)
■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ2スペック(ミディアム,ソフト=2018年新仕様), ウェット1スペック
■タイヤ使用制限:ドライ(スリック) 競技会期間中を通して6セット そのうち新品はミディアム2セット+ソフト(新仕様)2セット
シーズン前合同テストで使用した”持ち越し”タイヤ2セット(定番としてはミディアム,ソフト各1かと思われる。)
ウェット 競技会期間中を通して4セット
■予選における使用タイヤ:Q1においてはミディアムタイヤを使用しなければならない。
■決勝中のタイヤ交換義務: あり
• 決勝レース中に2種別(ミディアムとソフト)のドライタイヤを使用しなければならない。スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる種別の1セットに交換することが義務付けとなる。車両に同時に装着する4本は全て同一種別でなくてはならない。
• ウェットタイヤを装着してスタートした場合は、タイヤ交換義務規定は適用されない。
• 先頭車両が1周目を終了した時点からレース終了までに実施すること。タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
• 先頭車両がフィニッシュ(51周完了)するまでに赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには結果に40秒加算。
• レース中に発生した赤旗中断時に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは認められない。ただし、赤旗提示の時点でピットにてタイヤ交換作業を行っていた場合は、交換義務の対象として認められる。
◇考えられるタイヤの“使い方”~レース開催の週末を通してドライ路面だと仮定して…
• 定石としては、まず金曜日午後の練習走行(55分間)を“持ち越し”のミディアムで走行。基本セッティングを確認。この時点ではまだ路面がトレッド・コンパウンド(路面と触れ合って粘着力を発生するゴム層)のラバー付着が進んでいないので、ソフトを使うと摩耗が一気に進行する可能性がある。
ちなみに、複数メイクスのタイヤが使われているJSB1000(全日本モーターサイクルのトップカテゴリー)との併催では、コンパウンド・ラバーの違い、走行するラインの違いなどが相まって、4輪、2輪それぞれに路面の摩擦感触とその変化が「いつもと違う」「セッション毎に(予想とは異なる)変化が現れる」という印象を耳にすることがままある。
• 土曜日午前のフリー走行(55分間)は、ユーズドのミディアムで走行を始める(前日と同じもの)として、最後に“持ち越し”のソフトか程度の良いミディアムで予選アタックランのシミュレーションをしておく。
• 予選では、まずQ1にミディアム新品で出走。そのタイムによって2回目の走行にも新品を投入。Q2、Q3に進出した場合はソフト新品を、それぞれのセッションに投入する。
• 日曜日朝のフリー走行(30分間)では、“持ち越し”のソフトを履いて周回を重ね、摩耗の進行とラップタイムの変化(デグラデーション)を確認しておきたい。その結果から、決勝レースの戦略を決める。
• 決勝レースをソフトでスタートすれば、タイヤの暖まりも早く、レース序盤のペースを上げられるはずで、ソフトのグリップ変化や摩耗を確かめつつ、レースの流れと合わせて交換時期=ピットストップのタイミングを選ぶ。ミディアムは使い始めのグリップが落ち着いたところからは200km以上をタイムの低下少なく走れることがわかっているので、履き替えてから後どのくらいの周回を走るのか、その自由度が高い。
一方で、レース序盤の燃料搭載量がまだ多い=マシンが重い状態でソフトを使うと、摩耗が急に進行する現象も起こりうる。逆に後半、コンパウンド・ラバーの付着が進むと、ソフトの摩耗が小さくなってより長い距離を走れるようになる可能性がある。
今戦はレース距離が300kmと長いので、状況によってソフトを2回履く「2ストップ」作戦の可能性もある。(詳細は後述)
■燃料最大流量(燃料リストリクター): 95kg/h(128.0L/h)
■オーバーテイク・システム: 最大燃料流量10kg/h増量(95kg/h→105kg/h)。
20秒間作動×レースを通して5回まで
1回使用による燃料消費増加は約74.9cc。5回使用で374.4cc増。
鈴鹿サーキットでは、日立オートモティブシケインの立ち上がり~メインストレート、スプーンカーブ立ち上がり~西ストレートで使うのが、追い抜きのトライ/ディフェンスに効果的。ラップタイムを短縮するためには、2コーナー立ち上がり~ダンロップコーナーの上り旋回にかけて使う手法もありうる。
■決勝中の給油作業義務: なし(でも給油せずに300kmのレースは走り切れない。――詳細検討は後述)
■燃料タンク容量: フルタンク(いわゆる満タン)で約95L。ガソリン吸い出し限界に対して最小限の余裕を持たせて94L程度と考えて検討を進める。
上記満載時のガソリン重量 約70kg
■ピットレーン速度制限: 60km/h
■レース中ピットレーン走行+停止発進によるロスタイム: 鈴鹿サーキットの場合、およそ25~27秒。タイヤ交換後のアウトラップではタイヤが作動温度域に達するまでのロスタイムも加わる。これにピット作業時間(次項)を加えたものが、実際のレースにおけるロスタイム(ピットストップによって失う時間)になる。
■ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで
ただし1名は「車両誘導要員」として、いわゆる“ロリポップ“を手にしての誘導に専念。また給油する場合は消火器保持者が1名必要。タイヤ交換と給油を同時に実施する場合はタイヤ交換に関われるメカニックは4名となる。
燃料補給を行わずにタイヤ4本交換のみ行う場合は作業要員5名。ジャッキが前後に1基ずつ+タイヤ4本のそれぞれに要員を配置するには1人足りないので、一方のジャッキの上げ・降ろしにメカニックが移動するローテーションを組む。
◇ここで、ピットストップ戦略を組み立てる基本的な要素について検討してみる。
• タイヤ4輪交換を燃料補給と同時に実施するのに要する時間は14秒程度。
• タイヤ4輪交換だけならば静止時間6秒程度。
• 燃料補給装置のノズルを車両の燃料補給口に差し込み、引き抜くのに、それぞれ1秒弱は必要だと見積もっておいたほうが安全。燃料タンクにガソリンが流入するペースは、平均して毎秒2.3+L(重量にして1.73kg)程度と思われる。
• 燃料流量上限(リストリクター)95kg/hにおける鈴鹿サーキットでの燃料消費を2.3km/Lと仮定した場合、レース完走に費やす燃料総量は約128.8L。燃費が2.2km/Lだとすれば約134.6L。逆に2017年後半戦でF.ローゼンクヴィストが示した省燃費走行を再現できるドライバーがいて、鈴鹿サーキットなので少し燃費には厳しいと想定して2.5km/Lの燃費で走ったとすれば、51周を走るのに必要な燃料量は約118.5L。これに低速周回3周分(ピット→グリッド/フォーメーションラップ/ゴール→車両保管:2.5Lほど)+OTS作動による消費量増加分(0.375L)を加えたものが、レースを走り切るのに必要な燃料総量となる。
• つまり、フルタンクの燃料搭載(使用可能)量に対して、燃費最優先ドライビングでも27L(OTSは使わないとして)、一般的には37.6Lほど足りない。最少でもこの量をレース中のピットストップで補給しなければならない、という計算になる。これだけの燃料を補給するのに要する補給ノズル接続時間は、前者(燃費2.5km/L想定)で11.7秒(=ノズル差し抜きの時間を加えてタイヤ4輪交換に要する時間とほぼ一致)、後者(燃費2.3km/L想定)で16.2秒ほどを要する。
• 1周あたりの消費量は、燃費2.3L/km想定で約2.52L(約1.87kg)。燃費2.5km/L想定では約2.32L(約1.72kg)。
• ということは、燃費2.3L/km想定では最低16周分、燃費2.5km/L想定では最低12周分の燃料をレース途中で補給する必要がある。
• これを「タイヤの使い方」から見ると、ソフトタイヤは最低でも16周(燃費最優先ドライビングができるなら12周)は摩耗しきらずに走ってほしい、ということになる。
と、数字をいじりまわしてきたところで ~今回のレースがドライ路面で行われるとして…
a. 基本となる「1ストップ」戦略の場合
• 今回の「ピット・ウィンドウ」は、16周完了~35周までが基本。
• ピットストップで燃料補給とタイヤ交換を行った時、後続車両に対して43秒ほどのタイムを消費するのが基本パターン(燃費が良ければ1~2秒少なくなり、初期燃料搭載量が少ないか、あるいは燃費が悪いとその分だけ増える)と考えて、コース復帰後のポジションを推測することになる。
・雨天の場合は、基本的に1ストップ。
b. 「2ストップ」戦略がありうるとすれば…
• 最初はソフト装着。そのグリップ低下=ラップタイム、セクタータイムが落ちてきたら(いわゆるデグラデーション)タイヤ交換、再びソフトを履かせて送り出す。つまり、ソフト→ソフト→ミディアムというパターンが良さそう。
• スタートから燃料搭載量を減らして車両重量が軽い状態で走らせ、2回のピットイン毎に補給するとすれば、1回あたり28L注ぎ足せるとして最初に76L(56.4kg)積んでおけばいい計算になる。
• 1回のピットストップによるロスタイムは40秒、これを2回行うことで1ストップ勢に対しては40~43秒程度のビハインドを負うことになる。単純計算では51周を平均して1周あたり0.8秒以上速く走れれば、この作戦を選ぶ意味が生まれる。
• ソフトが16周までもたないという状況に直面した場合も、燃料搭載量+給油可能量の条件から2ストップを選ばざるをえない。この場合、2回目のストップはタイヤ交換のみ、ロスタイム30+秒を選ぶ可能性が高い。
• 「路面が良くなる」ことを予想して3スティント目にソフトを履かせ、燃料搭載量が減ることと合わせて、ここでペースを上げることも考えられる。
*上記想定についてはいずれも実戦観察からの概算予想であって、正確なものではありません。レース観戦の参考までに。