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2019年第4戦 レースのシナリオ

2019年7月11日

両角岳彦

■レース距離:250.965km
(富士スピードウェイ4.563km×55周)*最大1時間30分 レース終了時間:1時間30分(中断時間を含む最大総レース時間:3時間20分)

■予選方式: ノックアウト予選方式
(Q1:20分間 20→14台 Q2:7分間 14→8台 Q3:7分間)

■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク
ドライ2スペック(ミディアム,ソフト), ウェット1スペック

■タイヤ使用制限
ドライ(スリック) 競技会期間中を通して6セット
そのうち新品はミディアム2セット+ソフト2セット
前戦までに使用した中からの”持ち越し”タイヤは3セット(ミディアム,ソフトは問わず)
金曜日の占有走行は持ち越しタイヤのみ使用、土・日曜日の競技会期間における走行はマーキングされた6セットを使用する。
ウェット 競技会期間中を通して4セット

■予選における使用タイヤ
Q1 においてはミディアムタイヤを使用しなければならない。
Q2、Q3についてはドライタイヤ種別の指定はなし

■決勝中のタイヤ交換義務:あり
・ 決勝レース中に2種別(ミディアムとソフト)のドライタイヤを使用しなければならない。
・ スタート時に装着していた1セット(4本)から異なる種別の1セットに交換することが義務付けられる。車両に同時に装着する4本は全て同一種別でなくてはならない。
・ 決勝レース中にウェットタイヤを使用した場合は、タイヤ交換義務規定は適用されない。
・ 先頭車両が1周目を終了した時点からレース終了までに実施すること。タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・ 先頭車両がフィニッシュ(68周完了)する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには結果に35秒加算。
・ 赤旗中断の中で行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは認められない。ただし、赤旗提示の時点でピットにてタイヤ交換作業を行っていた場合は、交換義務の対象として認められる。

考えられるタイヤの“使い方”
ここまでの3戦では、SF19+今年仕様のソフトタイヤが磨耗限界に達してラップタイムの低下が明瞭に現れるのは、言い換えれば、ミディアムタイヤの新品に履き替えて出せるラップタイムと同等か若干劣るところまで低下するのは、SFのレース距離250kmの60~65%程度の距離を走ったところ、という傾向が見て取れる。ただしこれは、スターティンググリッド前方からソフトタイヤを履いてスタート、速いレースペースを保って走った場合であり、そこからラップタイムを2%程度落とすことで、1周目にミディアム→ソフトのタイヤ交換を行ってそのまま245kmほどを走り切る、という作戦を選んだドライバー/エンジニアが半数を占める状況である。とはいえこれが「最速のシナリオ」とはかぎらない。
そして富士スピードウェイは、コース・レイアウト、舗装路面の特性ともに、これまでの3サーキットとはまた異なるコースであり、それに対応したSF19のセットアップ・ディテール、そしてソフトタイヤのグリップとデグラデーション、ミディアムとの使い分け、加えてレースで両者を履き替えて走る時の車両セッティングの合わせ込みなどを、どこまで最適化できるかが、まずは基本的な課題となる。ただ、路面温度が“真夏”のレベルまでは上昇しそうにないので、ソフトタイヤの摩耗はこれまでの3戦と大きくは変わらないだろう。
また、シーズンイン前の3月末に2日間、この地で合同テストが行われているので、直近2戦と比べれば、コースに対してSF19、そして2019年仕様のタイヤがどう機能するかについての実走データは、路面等の条件が異なるとはいえ、それぞれのチーム/エンジニアの手元にある。
しかし、レースウィークはまず金曜日が雨の確率が高く、日曜日も降水確率がかなり高くなりそう。そうなるとセットアップ・プロセスについても、タイヤの使い方についても、各チーム、各エンジニア、別のシナリオを複数準備して現場に臨むはずである。チームとしては天気予想とにらめっこでタイヤの使い方を組み立てて行くことになりそうだ。

■燃料最大流量(燃料リストリクター):95kg/h(128.4.L/h)

■オーバーテイク・システム: 最大燃料流量を10kg/h 増量(95kg/h→105kg/h)
レース全体を通して100秒間作動。一度作動させたらその後100秒間は作動しない。
100秒間使用で燃料消費量は277.8g、375.4cc
富士スピードウェイでは、最終コーナー立ち上がりからメインストレートをずっとこの「+10kg/h」で走れば、全負荷維持の加速から最高速到達・維持までその効果は明確で、これまでも前走車両のスリップストリーム効果と合わせて、10km/hかそれを越えるような到達速度の伸びが現れる。富士スピードウェイの長いストレートでは、前走車が「ディフェンス」のOTSを対抗して作動させたとしても、スリップストリーム効果との“合わせ技”でパッシングを仕掛けられる可能性が高まる。
それ以外でも、ヘアピン(ADVANコーナー)脱出~300R~ダンロップコーナーへのブレーキングまでの高速区間も、エンジン出力の増加がそのまま区間タイムに現れる。その先、登り勾配を駆け上がるセクター3も、それぞれのコーナーの立ち上がり加速で駆動力が強まる。しかし13コーナーからGR Supraコーナー~最終コーナーまでは、アクセルを戻し、過渡域(パーシャル)でコントロールする時間・距離が長い。順位争いをしている対象車両が先にピットストップし、それに対していわゆる「オーバーカット」を試みる時に、ADVANコーナー立ち上がりから13コーナー手前の登り坂までOTSを作動させる、といった使い方は「あり」かもしれない。
一度作動させてしまうとその後100秒間作動不可となる、ということは、富士スピードウェイのストレートエンドで作動オフにすると、次の周回のストレートを駆け抜けて100Rまでは使えない、という計算になる。速さが拮抗している者同士だと、メインストレートで一度OTSを使って前に出ても、次の周回で逆のパターンで抜き返される、という可能性が高いわけだ。
後続車がOTSを作動、それに対して前走車もOTS発動、ディフェンスに使う…という状況で、後続車は前のクルマのレインライト点滅を視認しつつ追えるので、早めにOTS停止、前走車がそれに気づくのが遅れると、お互いに100秒の作動不可時間が後続車の方が早く終了し、前走車がまだOTS作動不可時間にある状態で何十秒かのパワー・アドバンテージを得る、というような駆け引きもあり得る。

■決勝中の給油作業義務:なし

■燃料タンク容量:ぎりぎり満タンで95L(その全量を使い切るのは難しいが…)
上記満載時のガソリン重量 約70kg
燃料流量上限規制(燃料リストリクター)の設定が同じ95kg/hである鈴鹿での開幕戦での燃費推算などから、今回の富士スピードウェイでの燃費を一応、2.4km/L(3.24km/kg)程度と仮定する。「リフト&コースト」を常用して2%程度のラップタイム低下を許容すれば、燃費は5%程度良くなるという実績推定から、こういう走り方をすれば、2.52km/L(3.40km/kg)程度に伸びるのではないかと推測される。
速さを求めて走る燃料消費2.4km/L想定の場合、レース完走に必要な燃料総量は約104.5L。実戦ではこれに低速周回3周分(ピット→グリッド/フォーメーションラップ/ゴール→車両保管)+OTS作動による消費量増加分、合わせて約2Lが加わる。すなわち、燃料タンク満タンでスタートした場合、11~12L(8.15~8.9kg)の燃料をレース中に補給する必要がある。燃料補給リグのノズル接続時間4.5~5秒程度。
上記想定で1周あたりの消費量 約1.90L 重量にして約1.41kg。
燃料消費削減走行で2.52km/Lで走れた場合、レース完走に必要な燃料総量は99.2L。つまり燃費節約運転を試みたとしても、燃料補給なしに決勝レースを走り切ることは難しいと考えられる。

■ピットレーン速度制限: 60km/h
・ レース中ピットレーン走行+停止・発進によるロスタイム:30秒弱(近年の富士ラウンドの状況から概算した目安程度の値)。ピットストップによって”消費”される時間はこれに作業の静止時間が加わる。

■ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで。ただし1名は「車両誘導要員」として、いわゆる“ロリポップ“を手にしての誘導に専念することが求められる。また給油に際しては給油装置のノズル保持者に加えて消火要員(消火器保持者)1名を置くことが規定されている。したがってタイヤ交換と給油を同時に実施する場合はタイヤ交換に関われるメカニックは3名となる。この人数の中でタイヤ交換以外の作業時間を削り取るべく、前側ジャッキアップを自動化し、後側は空圧ジャッキ挿入後、リフトを自動化する手法が急送に普及(各チームのメカニック・グループの設計製作なので、車両検知・リフトのメカニズムがそれぞれに異なる)、3名ローテーションでの4輪交換~移動しつつ前後それぞれジャッキダウン、というプロセスになっている。こうした新案アイテムや作業段取りの煮詰めの結果、燃料補給とタイヤ交換の両方を並行して行うピットストップの車両静止時間は1~2年前に比べて2秒ほど短縮されている。
燃料補給を行わずにタイヤ4本交換のみ行う場合は作業要員5名。前側に自動ジャッキを使うことで、後のジャッキアップ-ダウンに1名が付き、残り4名は各輪の場所で待機して車両が滑り込んできたら一気に4輪交換、前輪側の一人が作業終了、反対側の作業完了を確認した瞬間にフロントジャッキを落として、発進…というプロセスになる。

ピットストップ戦略を組み立てる基本的な要素について整理しておく
・ タイヤ4輪交換を燃料補給と同時に実施するのに要する時間は12秒程度。
・ タイヤ4輪交換だけならば静止時間5~6秒程度。
・ タイヤ交換のためのピットストップが義務付けられているので、そこで燃料も補給するのであれば、そして燃料消費を気にせずにタイヤのグリップをフルに使って速いペースで走ろうとするのであれば、平均燃費2.4km/L想定で、フルタンクでスタートした場合の不足量約11~12L。燃料補給におけるガソリン流量が毎秒2.5L(1.85kg)程度かと思われるので、燃料補給ノズルを車両に接続している時間としては4.5~5.5秒で、ピットストップの静止時間はタイヤ交換の時間で決まってくることになる。
・ ここまでの想定値に基づく、満タンでスタートした場合の”ピット・ウィンドウ”(燃料補給のピットストップが1回で済む周回数)は6周完了~49周までの間のどこか、と見込まれる。(極端な燃料消費節約走行をしない/セーフティカーランなどがない、という前提で)
・ タイヤ交換のためのピットストップが必要、かつ燃料補給も必要ということならば、作業者3名で4輪交換するのにかかる12秒の間、燃料補給ノズルを差し込んでガソリンを入れてもロスタイムは変わらない。この場合、燃料補給ノズル接続時間は10~10.5秒、25~26L(18.5~19.2 kg)を補給できる。スタート時にその分だけ燃料搭載量を減らすと、満タンでスタートするのに比べて14~15L、10.5~11kg軽い状態にできる。この場合、ピット・ウィンドウが“閉じる” (燃料タンクが空になる)のは平均燃費2.4km/Lで41周完了あたり、となる。

さてそうなると、今回のレースを戦うストラテジーの選択肢は…
A. ドライ路面ならば「1ストップ」戦略
ここまでの3戦の状況、そして燃料リストリクター95kg/h設定の250kmレースであることを考えると、これが定石。問題は、スタート時に装着するタイヤにソフト、ミディアム、どちらを選ぶか。
スタートポジションとしてグリッド前方列を獲得したドライバー/車両は、フォーメーションラップ~スタートでタイヤのグリップ発動が速く、発進の“蹴り出し”が良く、そこから序盤のペースを上げられるソフトタイヤを履くのが妥当な選択かと。この場合、ソフトタイヤのデグラデーション(摩耗による走行ペースの低下)を見ながら、新品に近いミディアムタイヤで出せるラップタイムと同等に落ちてきたらピットイン、タイヤ交換を行う。
ソフトタイヤの摩耗進行が早そうであれば、ミディアムタイヤでスタート。ソフトタイヤでスタートした車両のラップタイム変化を観察しつつ、ソフトタイヤがそのグリップ・パフォーマンスを継続しうる周回の幅に入ったところでピットストップ、タイヤ交換。レースが進行するにつれて路面に“ラバーが乗り”、タイヤの摩耗進行=グリップ低下が抑制される方向に変化するはずであり、かなり長い距離にわたってソフトタイヤのパフォーマンスを維持できれば、最終的にゴールタイムが「ソフト→ミディアム」選択と交差する可能性がある。
直近2戦では、ソフトタイヤが走り方によってはほぼレース距離いっぱいまで使えることを狙って、ごく早期にミディアム→ソフトの交換を実施。燃料消費節約ドライビングと併せて最終順位を引き上げることを狙う作戦を採る車両/ドライバーが多く現れたが、結果を見ると、この手法が成功したのは各レース2~3車に止まる。しかも今回は燃料リストリクター95kg/hであって競争力を残した燃費節減にも限界がある。
一方で、ソフトタイヤのグリップ・パフォーマンスを引き出して走り続けられるのは、ここまでの実績では160~180km程度とみられる。ということは、ソフト→ミディアムの履き替えタイミングは、35~40周目あたり、逆パターンのミディアム→ソフトの履き替えタイミングは15周目以降、というあたりになりそうだ。

B. 「2ストップ」戦略はありうるか?
直近2戦の優勝者はともに、ソフトタイヤでスタートし、そのグリップが低下(とくにリアタイヤから)してきてもドライビングでカバーして、摩耗限界に近いところまで走り続ける戦略を採っていた。開幕戦・鈴鹿でもセーフティカーが繰り返し入らなければ、先頭に立っていた小林可夢偉がソフトタイヤで十分なリードを築けた可能性がある。しかし彼らのラップタイム推移を観察すると、ソフトタイヤでミディアムを圧倒するペースを保てるのは100km程度であることが浮かび上がる。ということは、ミディアムタイヤで50kmほど走り、残り200kmをソフト2セットで走る、という戦略の可能性もありそうだ。これを成立させるためには、ピットストップ1回分、燃料補給をせずにタイヤ交換だけで35~36秒分をコース上で稼ぎ出せるかどうか。

C. ウエットレース
スタート時点で路面が雨に濡れ、ウェットタイヤでスタートすれば、そこでタイヤ交換義務が無くなる。フルタンクでスタートするのが定石。ウェット路面では旋回速度、最高速度が下がる一方、ラップタイムが遅くなることでアクセルペダルを深く踏み込んで燃料がリストリクターによる流量の上限でエンジンに送り込まれる時間も長くなるため(とくに富士スピードウェイでは)、必ずしも燃費が良くなるとは言えない。ドライビング次第ではあるが、燃料消費とピットストップに関しては変動幅が増えるのは間違いない。無給油で走り切れると思われるが、富士スピードウェイのコース特性と燃料リストリクター95kg/h設定では、路面状況の変化などによって、燃料補給が必要になる可能性もある。

富士スピードウェイという“舞台”
・ 富士スピードウェイは以前からのイメージで「高速コース」と思われがちだが、1周の平均速度で見るとスーパーフォーミュラのレースが行われる6つのサーキットの中では、オートポリスと同程度の「中速コース」だと言える(別表参照)。とはいえ、コースとしてのキャラクターが極端に異なる3つ(あるいは4つと見てもいい)のセクションによって構成されているのが特徴。
・ まず最終コーナーから1コーナーまでの長いストレートがコース全長のほぼ1/3を占める。その後半~終端に至る到達速度が高く、そこにオーバーテイクの機会を見出せる。そのためには、最終コーナーの立ち上がりから、ロスなく駆動力を路面に伝え、初期加速を高めることがポイント。
・ 1コーナー(TGRコーナー)-2コーナーからコカコーラコーナーは比較的低速な区間。コカコーラコーナーにむけてブレーキングに入るあたりにセクター1・2の区切りがあり、セクター1は、メインストレート後半の最速区間と1-2コーナーの組み合わせとなっている。
・ その先、トヨペット100Rコーナーからヘアピン(ADVANコーナー)、さらに300Rと、国内のサーキットの中でも屈指の高速コーナリング連続区間であり、スーパーフォーミュラ車両では200km/h前後で自重の2倍を超えるような(1.5~2tと推測される)ダウンフォースを生成しつつ、4Gレベルの遠心力が作用する旋回が右・左・右と続く。とくに100Rは高い遠心力が一定時間続くという点で、国内のサーキットでも1、2を争うコーナーであり、空力ダウンフォースのレベルが一段と上がったSF19では、4Gを超える遠心力が数秒間にわたってドライバーの身体と車両に加わることになるだろう。
・その先、ダンロップコーナーからはがらりと趣が変わり、登り勾配の中を、小さく、深く、回り込む深いコーナーが連なって、最終コーナーに至る。

■SF19と富士スピードウェイ
SF19では、すでに3月下旬の2日間、富士スピードウェイで合同テストが実施され、その段階ですでにSF14によるスーパーフォーミュラのコースレコードを上回るラップタイムが記録されている。しかしここでセクタータイムにまで踏み込んで、SF14によるコースレコード(2014年、燃料リストリクター流量上限100kg/hだった時のもの)と、SF19によるクィックラップ・トライの中身を比較してみると、興味深い傾向が浮かび上がる。
このテストの段階で、SF19がSF14を上回る速さを見せているのは、上り斜面の中を左右に深く回り込むコーナーが連なるセクター3。ここで大幅にタイムが上がったことで、これまでのレコードタイムを上回ってきている。ということは、フロントタイヤの接地面幅と荷重容量の増加分が、低中速コーナーで性能向上をもたらしている、と読み解くことができる。
このシーズン前テストのセクタータイム分析については、テクノロジーラボラトリー「新しい『道具』を最初に手名付けるのは誰?」ご参照。

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