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第6回CN開発テスト インサイドレポート
2022年11月16日
両日ともに完全なドライコンディションに恵まれた10月26日(水)〜27日(木)の三重県鈴鹿サーキット。今季のチャンピオン決定戦となる全日本スーパーフォーミュラ選手権第9戦・最終戦が行われ、野尻智紀が2連覇を達成。TEAM MUGENが初のチームタイトルを獲得するなど、感動的な週末となった鈴鹿サーキット。それに先立ち両日ともに完全なドライコンディションに恵まれた10月26日(水)〜27日(木)の2日間、「SUPER FROMULA NEXT50」プロジェクトの柱の一つ「カーボンニュートラルの実現に向けた素材・タイヤ・燃料の実験」、「ドライバーの力が最大限引き出せるエアロダイナミクスの改善」を目的とした開発テストの6回目が行われた。
今回のテストには、これまでの走行で得られたデータを元に伊・ダラーラ社が開発した新しいフロントウィングのフラップや翼端板、リヤウィング、サイドポンツーン、エンジンカウル、アンダーフロアがいよいよ登場。これまでのSF19とは大きく印象が変わっている。フロントウィングやリヤウィングはより三次元的になり、サイドポンツーンはマシン後方に向かって、大きく下がって行くようにさらに傾斜がついた。全体的に、ひと回り大きく、また低くなってような印象だ。また、サイドポンツーンとエンジンカウルは、スイス・Bcomp社の植物性カーボンと従来のカーボンを組み合わせたハイブリッドタイプとなっている。その新しいエアロパーツを、塚越広大が乗るホワイトタイガーSF19 CN、石浦宏明が乗るレッドタイガーSF19 CNがそれぞれまとい、今回から実走テストが始まった。毎回持ち回りとなる車両のメインテナンスに関しては、今回ホンダエンジン搭載のホワイトタイガーSF19 CNをDOCOMO TEAM DANDELION RACINGが担当。トヨタエンジン搭載のレッドタイガーSF19 CNをKCMGが担当。永井洋治テクニカルディレクター、土屋武士アンバサダー、エアロパッケージを開発した伊・ダラーラ社のエンジニアたち、さらにTRDやHRC、横浜ゴムのエンジニアたちが見守る中、今回も2台は精力的に周回を重ねている。
朝から晴れ間が広がった鈴鹿サーキット。初日となった26日は、風もほとんどなく、絶好のテスト日和となっている。そんな中、最初のセッションが始まったのは、午前9時30分から。気温15℃、路面温度23℃というコンディションのもと、まずは赤い帯の入ったレギュラータイヤで2台が走り始める。新たなエアロパーツを初めて装着したということで、この最初のセッションでは2台ともにセットアップの合わせ込みが主な作業。いずれも、終始レギュラータイヤのまま、コースに出て数周するとピットに戻ってマシンの微調整を行うということが繰り返された。このセッションでは、最終的に気温が17℃、路面温度が29℃まで上昇する中、塚越が駆るホワイトタイガーSF19 CNが27周を消化して、1分40秒204というベストタイムをマーク。石浦が駆るレッドタイガーSF19 CNが29周を消化して1分39秒608というベストタイムをマークしている。
2時間45分のインターバルを経て、気温19℃、路面温度33℃というコンディションのもと、2回目のセッションが始まったのは、午後2時15分から。1回目のセッションで、セットアップの煮詰めが行われていたが、その作業は、2回目のセッション序盤も引き続き行われた。ホワイトタイガーSF19 CNは、開始から30分ほどでセットアップ作業を終了し、午後3時頃にはニュータイヤでの予選シミュレーションを実施。レッドタイガーSF19 CNは開始から1時間弱というところまで、セットアップ作業を続行している。そして、セッション折り返しとなる午後3時15分頃からは、いよいよ新たなエアロパッケージで、追走テストを実施。1周目はホワイトタイガーSF19 CNが前、レッドタイガーSF19 CNが後ろ、2周目はレッドタイガーSF19 CNが前、ホワイトタイガーSF19 CNが後ろと、2台が前後ポジションを入れ替えながらの走行を各1周、計2周行った。この追走テストを終えると、タイヤテストのメニューに突入。今回横浜ゴムが持ち込んだタイヤは、製作過程での加工の仕方が変わったというケーシングFに、これまで使用されてきたレギュラーのコンパウンドを組み合わせたものと、同じくケーシングFにコンパウンドH、コンパウンドJを組み合わせたもので、その3種類をショートランでテストしている。また、この午後のセッションでは、ホワイトタイガーSF19 CNのピットに、大津弘樹(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が見学に訪れていた。熱心なことで知られる大津は、新しいエアロパッケージに興味津々。細部まで観察していただけでなく、チーム無線を聞きながら情報収集にも励んでいた。
一夜明けた10月27日(木)は、薄曇りとなった鈴鹿。それでも冷え込みは厳しくなく、気温14℃、路面温度19℃というコンディションのもと、午前9時30分から1回目のセッションが始まった。
初日は通常の燃料で走行していたが、2日目はカーボンニュートラル燃料をテスト。今回の燃料は、開発テスト全体を通してみると4種類目となるが、最初にテストしたものからの改良版となる。また、この日は、初日午後に続いて、タイヤテストが行われた。2日目は、午前・午後ともにロングランテストを実施している。塚越が駆るホワイトタイガーSF19 CNは、午前中のセッションでレギュラータイヤでのロングランと、ケーシングFにレギュラーゴムを組み合わせたタイヤでのロングランという比較テストを実施。一方、石浦が駆るレッドタイガーSF19 CNは、レギュラータイヤでのロングランと、初日に試した中からより感触が良かったコンパウンドJをロングランで比較テストしている。このセッションでは、塚越が47周を1分42秒576というベストタイムをマーク。一方、セッション序盤、カーボンニュートラル燃料に対するエンジンマッピングに若干時間を要した石浦は、37周を消化し、1分41秒927というベストタイムをマークした。
2時間半のインターバルを経て、最後のセッションが始まったのは、午後2時。空は相変わらず曇っていたが、気温18℃、路面温度23℃というコンディションのもとで、2台は走り難める。この午後のセッションでは、メニューを入れ替え。今度はホワイトタイガーSF19 CNがレギュラータイヤとコンパウンドJをロングランで比較、レッドタイガーSF19 CNがレギュラータイヤとケーシングFにレギュラーゴムを組み合わせたものでロングランし、比較テストを行った。このセッションでは、2台が揃って予定されていた周回を消化。塚越がドライブしたホワイトタイガーSF19CNは、42周を消化して1分43秒090というベストタイムをマーク、石浦がドライブしたレッドタイガーSF19 CNは49周を消化して、1分41秒987というベストタイムをマークしている。
また、車両のテストとは別に、今回は聴覚障害者がレースを楽しめるようにと、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社が音を振動と光に変換してモータースポーツの迫力を伝える『サウンドハグ』という機器をテストした。トヨタ自動車のモビリティ基金が主催する「Mobility for ALL」というプロジェクトの中に、「Make a Move」という部門があり、先日、障害者でもモータースポーツを楽しめるアイデアのコンテストを実施。このコンテストでアイデアが採択されたのが今回の技術で、すでに岡山国際サーキットのスーパー耐久でも、実証実験を行っている。それに引き続き、今回はJRPとトヨタ自動車の誘いを受け、スーパーフォーミュラの現場でもテストを行った形だ。
新たなエアロパッケージとなった上での各種のテストで、今回も収穫が多かった2日間。次回は、11月21日(月)〜22日(火)にモビリティリゾートもてぎに舞台を移し、ウエットタイヤテスト等を中心とした、第7回目のテストが実施される。
テクニカルアドバイザー 永井洋治のコメント
「今回のテストに関しては、興奮しています(笑)。開発テストの一番の目的だったのが追い越しのできるクルマなのですが、ドライバーたちの言葉を借りると、想像以上の効果が出ているということでした。シミュレーション通りではありますが、それがやっとできました、という感じです。フォーミュラでそのようなクルマというのは、我々の夢だったじゃないですか。無理だ、無理だと言われていたのが、できたというのはもう凄いことだと思います。一番目の目標が達成できました。
追走に関しては、結果的にはパッケージングがシミュレーション通りで、後ろの乱気流の少なさが実証されました。だから、興奮もありましたし、みんながやって来たことが無駄にならなかったという安心もありました。まだ2名のドライバーしか体感していませんけど、色々なドライバーが体感した時に、どう言うのか。きっと驚きがあると思います。この技術がもしかしたら、今後のフォーミュラのスタンダードになって行くかも知れない。「歴史が動いた」っていう瞬間に、自分たちはこのテストで立ち会ったのかも知れないというような興奮がありました。
デザインは見ただけで、超カッコいいじゃないですか。ビジュアル的には全く文句なしです。実物を見たのは、今回が初めてでしたが、「動的」というか「有機的」な線に見えて、”走る”って感じでした。躍動感が形に現れているというか、”バトルするぞ”みたいなそれが伝わってくる。そして、実際にバトルできる。だから、見た目、エンターテインメント性は100点じゃないでしょうか」
アンバサダー 土屋武士のコメント
「今回は、ようやく新しいエアロパッケージでの実走を開始したということで、「おお、走ったぞ」という感動がありました。このクルマはF1でも見られるような今の潮流に乗った形になりましたし、斬新な部分もあって、見た目が変わりましたよね。”新しさ”があるエアロパッケージです。実際、走らせてのドライバーのコメントも「全然近づける!!」と非常にテンションが高かった。リップサービス的な物ではなく、2人ともコメントの声のトーンが高かったですね。それで、「本当にいいんだ」ということを肌感として感じることができて、僕もホッとしました。また、永井さんのものすごく嬉しそうな顔を見て、さらにホッとしました。技術屋さんとして、日本の未来のモータースポーツに真摯に取り組んでいらっしゃるというのが永井さんの印象なんですが、その中で、ひとつの大きな山を越えたというのを永井さんの表情が物語っていたと思います。これまでの作業が実を結んだということで、達成感がありましたし、SF50としても何歩目かは分からないですけど、大きな一歩を踏めたんじゃないかと思います。タイヤや燃料、Bcompなど、色々と引き続きテストしていますけど、エンターテインメント性の部分、まずはレースが面白いかどうかという部分では、間違いなく大きく一歩を踏み出した印象です」
開発ドライバー 塚越広大のコメント
「今回のテストに対しては、ワクワクもあったのですけが、「壊しちゃいけない」っていうドキドキもありました。レースウィークにはデモランもありますし。でも、色々とこれまでテストして形になったものが走るということで、達成感はありました。実際に変化がありました。ここからさらにどうするかという検証があると思いますし、また結果が伴っていけばいいなと思っています。残り少ない時間で、さらに詰められるものがあるなら、より良くして行きたいですね。
実車を初めて見たのは、今回の鈴鹿テスト前に行ったイタリアでのシェイクダウンの時です。その時に、パッと見で「すごくカッコ良くなったな」と思いましたね。時代によって、クルマの形は色々変わっていく中で、前の形がちょっと直線的だったところから綺麗な曲線が増えて、すごく今の流れに沿った感じだと思います。近代的なウィングの形にもなりました。僕は特にフロントウィングの造形が好きでね。2枚目のフラップが好きです。全体に3段になって、厚みとか迫力が出た感じになっているのがいいですね。
その新しいエアロに関しては、もともとあったターゲットに近い状態で走ることができました。何種類かダウンフォース量を試したのですが、石浦さんとも話して、最終的にいい所に落ち着きましたし、これまで毎回テストしてきたターゲット近くで走れているので、狙い通りになってきています。
追走テストに関しては、今までとものすごく違いがありました。鈴鹿の場合、S字で交差する時に、SF19は結構バランスを崩すような場面が多かったのですが、今回のエアロはすごくそれが少ないです。S字だけでなく、他のコーナーでもすごく後ろに付きやすくなっているのかなというフィーリングはありました。速い者同士だと、もともとオーバーテイクって難しいじゃないですか。ただ、ペースのいい人が、空力の影響によって距離が離れてしまって抜けないっていうのは減るのではないか思います。速い人がきちんと前車を抜けるっていうシチュエーションが、できやすくなるんじゃないかと感じました」
開発ドライバー 石浦宏明のコメント
「どんなクルマでも、初めて走る時は楽しみですので、コースインして最初から、なるべくその時の性能を出し切って走ろうと、今回のテストでも攻めて走っていました。壊してはいけないっていうのもありますけど(笑)、それでは余り評価にならないので、逆に「思い切って走ろう」という感じで走っていました。
この新しいエアロパッケージは、今回鈴鹿に来てから実物を見ました。自分が近くで見た印象もそうですが、初日の走行後にメディアに出ていた走行写真等を見ると、また違う印象です。僕は特にフロントウィングの三次元感が好きです。あとは、ツイッターで見たサイドポンツーンの後ろから見た形。そこもいいなと思いました。
初日の走り始めは、かなりダウンフォースが少ない状態で走り始めましたが、初日の午後から少しダウンフォースを増やしてもらいました。その状態ですと、ニュータイヤでもしっかりボトムスピードを上げて走れますし、ユーズドのタイヤでもそんなに今までと大きな差がなくロングランとかもできました。そんなにとてつもなく遅くなってしまうこともないので、最低限これぐらいのダウンフォースが必要なんだなということが、改めて確認できました。
追走に関しては、想像していたよりも近づけました。全く乱気流を感じにくくなっていて、S字の中でラインがクロスしても、全く平気でした。塚越選手がスプーンの2つ目で僕にぴったり付いた状態で、そこから立ち上がったらスリップが効いて、130RまでにOTSを使わなくても横まで来そうな感じになり、1対1の場合、これはだいぶ効果があるなと思いました」
大津弘樹(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)
「今回、来年モデルのウィングやフロアがついた状態で初走行するということで、興味もありましたし、どういう変化があるのか、現場での生の声を聞きたいと思って自発的に来ました。なおかつ、今回は、僕が今SFで走っているチームのDOCOMO TEAM DANDELION RACINGがメインテナンスを担当するということなので、セッティングとか、自分自身が分かっている今のクルマの動きから、この新しいパッケージになった時の変化がどうなるのかということにも興味がありました。(所属チームということで)無線も聞けますし、レースウィーク前ということで、クルマの傾向も見られる。そうした多くの要素が自分にとってプラスだなと思ったので、来させてもらいました。
新しいエアロパッケージに関しては、パッと見で、僕の中では迫力があるクルマになったなっていうのが印象的でした。後ろから見た時に、リヤウィングが幅広く大きく見えて、カッコいいなと思いましたね。フロントウィングの形状もそうですし、現代のフォーミュラカーってこういう形なのかなと思いながら見ていました。結構、興奮しましたね。僕も早く乗ってみたいです。塚越選手の無線を聞いていると、追走の時などに、すごく後ろに付きやすくなったっていうのがすごく印象的でした。バトルがもっと増えるようにっていうコンセプトが実現されてるんだなと、そこが印象的でしたね。先取りして、自分にプラスになるものはどんどん吸収していきたいと思っているので、来て良かったです」