Headline News
2019年第3戦 レースのシナリオ
2019年6月20日
■レース距離:251.88km
(スポーツランドSUGO インターナショナルレーシングコース 3.704km×68周) レース終了時間:1時間30分(中断時間を含む最大総レース時間:3時間20分)
■予選方式: ノックアウト予選方式
Q1はA組・B組の2グループに分けて実施。
グループ分けは抽選。2台を参加させているエントラントは各々別の組に分ける。
Q1:A組10分間/インターバル10分間/B組10分間。各組上位6台(合計12台)がQ2に進出
Q2:7分間 12→8 台
Q3:7分間
Q2に進出できなかった車両に関しては、Q1で最も速いタイムを記録した組の7位が予選 13位、もう一方の組の7位が予選総合14位、以降交互に総合予選順位が決定される。
■タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク
ドライ2スペック(ミディアム,ソフト), ウェット1スペック
■タイヤ使用制限
ドライ(スリック) 競技会期間中を通して6セット
そのうち新品はミディアム2セット+ソフト2セット
前戦までに使用した中からの”持ち越し”タイヤは3セット(ミディアム,ソフトは問わず)
金曜日の占有走行は持ち越しタイヤのみ使用、土・日曜日の競技会期間における走行はマーキングされた6セットを使用する。すなわち持ち越しタイヤの中から2セットを選択し、新品4セットを加えた組み合わせで、フリー走行1、予選、フリー走行2、決勝レースを走る。
予選について、Q1はミディアム装着が指定される。Q2、Q3は指定なし。
ウェット 競技会期間中を通して4セット
■予選における使用タイヤ
Q1 においてはミディアムタイヤを使用しなければならない。
■決勝中のタイヤ交換義務:あり
・ 決勝レース中に2種別(ミディアムとソフト)のドライタイヤを使用しなければならない。
・ スタート時に装着していた1セット(4本)から異なる種別の1セットに交換することが義務付けられる。車両に同時に装着する4本は全て同一種別でなくてはならない。
・ 決勝レース中にウェットタイヤを使用した場合は、タイヤ交換義務規定は適用されない。
・ 先頭車両が1周目を終了した時点からレース終了までに実施すること。タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・ 先頭車両がフィニッシュ(68周完了)する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには結果に35秒加算。
・ 赤旗中断の中で行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは認められない。ただし、赤旗提示の時点でピットにてタイヤ交換作業を行っていた場合は、交換義務の対象として認められる。
2種別ドライタイヤの使い方プログラムの進め方~レース開催の週末を通してドライ路面だと仮定して…
・ 前戦オートポリスでは土曜日の走行が雨で中止、日曜日午前の予選も雨の中であり、各車、新品のソフト、ミディアムを残していて、これを“持ち越し”タイヤに加えることができる。週末の天候、路面状況に合わせて、これをどう使ってセットアップを進めるか、予選、決勝に向けた摩耗特性データの収集やクイックラップのシミュレーションをするか、などが最終結果につながってゆくことになる。とくにソフトタイヤのレース使用時の特性、周回を重ねた時の変化、耐久能力などをできるだけ確認し、ミディアムタイヤとの車両セッティングの妥協点などを探ることが欠かせない。
・ SF19はフロントタイヤの幅が広がって摩擦力だけでなく、タイヤとして基本的な能力・容量全般が向上している。一方、リアタイヤはSF14と同じサイズで、ホイールベースが50mm短縮されたことで旋回時の負担は増えた。そのバランスの中で、ソフト、ミディアムそれぞれに、前後のグリップバランスをどう釣り合わせるのが良いか、その状態で摩耗はどう進むか、などのデータは、どの車両/トラック・エンジニア/ドライバーもまだ十分に得られている、分析や体感ができている、とは言えない状況。
・ 今年仕様のソフトタイヤは昨年仕様とコンパウンドは同じながら、ゲージ(ゴム層)の厚みは若干増えている。その結果、摩耗限界までの走行距離が昨年よりは伸びているもよう。前戦オートポリスでは、250kmレースの1周目、2周目にミディアムからソフトに履き替え、レースを走り切った車両/ドライバーが半数に達した。優勝した関口は逆にソフト装着でスタートし、40周・190㎞弱を極端なラップタイムの落ちを見せずに走っている。そのためにはリアタイヤが滑るのをコントロールするドライビングが必要だが。SUGOでも同様の傾向が現れれば、レース戦略はソフトを中心に組み立てることになるだろう。
・ 土曜日のフリー走行、予選がドライ路面であれば、新品かそれに近いミディアム、ソフトの“持ち越し”タイヤを両方ともフリー走行の後半で投入、Q1、Q2以降それぞれのアタック・シミュレーションを試みる車両/ドライバーが多く現れそうだ。もちろん両方のタイヤについて確認、体感をしておくことが、予選の走りに直結するから。
・ 決勝レースがドライ路面で行われる場合は、ソフトタイヤで走る距離をミディアムで走る距離よりも短く設定する作戦が“定番”になりそう。スターティンググリッドの前方に位置する車両/ドライバーは、発進の“蹴り出し”とそこから早くタイヤが温まり、序盤のペースを上げたいので、ソフト装着でスタート。それが摩耗してラップタイムが落ちてきて、新品に近いミディアムタイヤで出せるレベルになりそう、と判断したところで交換。逆にスタートで前をふさがれそうな位置から出る車両/ドライバーは、ミディアムタイヤでスタートして、早めのタイミングでソフトに履き替える、という作戦が前戦オートポリスでは多く見られた、が、この場合、ゴールまでソフトで走り続けなければならない。
■燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(122.1L/h)
■オーバーテイク・システム: 最大燃料流量を10kg/h 増量(90kg/h→100kg/h)
ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
レース全体を通して100秒間作動可能。
一度作動させたらその後100秒間は作動しない。
100秒間使用で燃料消費量増分は277.8g、376.9cc。
(日曜日朝のフリー走行で40秒間まで使用可)
・ OTS作動時は、エンジン回転8000rpm手前から上は、トルクが約10%増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分だけ維持される。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度までこの出力増分が上乗せされる。
・ スポーツランドSUGOのコースレイアウトを考えると、まず最も標高が低い位置にある最終コーナーの中から作動させて、登り10%勾配のストレートを駆け上がり1コーナーの飛び込みまで、という使い方がタイム短縮、オーバーテイクともに基本になる。
・ ヘアピン(T4)立ち上がりからの登りS字区間、ハイポイント~レインボー・コーナーを回って、バックストレッチは下りになるけれど到達速度が鍵になる状況ならば使い続ける、という手法もありそう。
・ 一度作動させてしまうとその後100秒間作動不可、ということは、スポーツランドSUGOはレースラップで70秒を切るので、一度使った後はオフにした地点から1周と半分近くは使えない。
・ スタートの瞬間から登り勾配を1コーナーまで加速する時には、10kg/h増量の効果は大きいので、おそらく多くの車両/ドライバーが作動させるだろう。
・ 使用時間をドライバーが選べるようになったことで、順位争いをしている車両の一方がピットインしたところで、コース上に残った車両がOTSによる出力向上効果を使ってタイムを削り取り、そこでピットに飛び込む、という「オーバーカット」を狙った使い方もできる。その場合はヘアピン立ち上がりからホームストレートの登り勾配を駆け上がるところまでずっと作動させ続ける、という手もある。それでも使用時間は50秒ほどなので、まだ何十秒かの使用時間は残る。
• 前走車に接近したところで後続車がOTSを作動、それに対して前走車もOTS発動、ディフェンスに使う…という状況で、後続車は前のクルマのレインライト点滅を視認しつつ追えるので、早めにOTS停止、前走車がそれに気づくのが遅れると、お互いに100秒の作動不可時間が後続車の方が早く終了し、前走車がまだOTS作動不可時間にある状態で何十秒かのパワー・アドバンテージを得る、というような駆け引きもあり得る。
■決勝中の給油作業義務:なし
■燃料タンク容量:ぎりぎり満タンで95L(その全量を使い切るのは難しいが…)
上記満載時のガソリン重量 約70kg
ここ2戦後の情報収集によると、燃費はこれまでの実績からの推定よりかなり良くなっているもよう。燃料流量上限(リストリクター)90kg/hにおける燃費を、SUGOは燃費面でとくに厳しいコースではないことも勘案して「2.5km/L」(1.84km/kg)と仮定した場合、レース完走に必要な燃料総量は約100.8L。実戦ではこれに低速周回3周分(ピット→グリッド/フォーメーションラップ/ゴール→車両保管)+OTS作動による消費量増加分、合わせて約2Lが加わる。
上記想定で1周あたりの消費量 約1.48L 重量にして約1.09kg
フルタンク状態でスタートし、ピットストップで燃料補給のみ行う場合、給油必要量のミニマムは6.5L程度。ドライビングを工夫する(リフト&コースト――全開加速からブレーキに踏み変える少し手前でアクセルを戻し(リフト)、一瞬の惰行(コースト)を入れるドライビング。到達速度はほとんど変わらず、燃料消費は削減できる――を多用するなど)、セーフティカー先導走行が長く続く、などの状況によっては、無給油で走り切ることも可能かもしれない。その場合の平均燃費は2.69km/L(1.98km/kg)と、8%ほど稼がなければならない。
■ピットレーン速度制限: 60km/h
・ レース中ピットレーン走行+停止・発進によるロスタイム:25~27秒(近年の実績から概算した目安程度の値)。さらにアウトラップでタイヤが暖まり、レースペースに戻るまでのタイム増(ミディアムで1秒程度、ソフトはもっと少ない)も加算して考えることが必要。これにピット作業のための静止時間を加えたものが、ピットストップによる「ロスタイム」になる。
・ ピットストップ: ピットレーンでの作業が認められる要員は6名まで。ただし1名は「車両誘導要員」、給油に際しては給油装置のノズル保持者に加えて消火要員(消火器保持者)1名を置くことが規定されている。
したがってタイヤ交換と給油を同時に実施する場合はタイヤ交換に関われるメカニックは3名となる。この人数の中で、前後のジャッキアップ~4輪交換~ジャッキダウンを行う。最近は車両ノーズの進入・停止を感知して空圧シリンダーを伸ばして持ち上げる自動ジャッキ(前側)が普及。車両後方ジャッキも空圧作動が増えたが、車両が通過・停止した瞬間に人間の手で作動位置に滑り込ませて作動させる必要がある。そこで車両進入時は後ろ側ジャッキアップ(人力、空圧作動に関わらず)に1名が付き、残り2人はタイヤ交換位置で待機。車両停止と同時に2輪のホイールナットを緩める。そこからは3名がそれぞれに位置を変えながら4輪を交換、最後に前と後ろに1名ずつが走り、ジャッキを落とす。誰がどのタイミングでどこに移動して、何の作業を行うか、それぞれのチームが知恵を絞り、トレーニングを積んでいる。
燃料補給を行わずにタイヤ4本交換のみ行う場合はその作業に携われる要員5名。前方ジャッキが自動作動となったことで、後ろ側ジャッキとタイヤ4本に一人ずつ作業要員を配することができる。したがって車両停止時間は燃料補給同時作業よりも格段に短くなる。
ピットストップ戦略を組み立てる基本的な要素について整理しておく
・ タイヤ4輪交換を燃料補給と同時に実施するのに要する時間は12秒程度。
・ タイヤ4輪交換だけならば静止時間5~6秒程度。
・ 燃料補給装置のノズルを車両の燃料補給口に差し込み、引き抜くのに、それぞれ1秒弱は必要だと見積もっておいたほうが安全。ノズルを差し込んだ状態で重力落下を利用して燃料タンクにガソリンが流入するペースは、平均して毎秒2.6L程度(重量にして1.9kg)かと思われる。
・ タイヤ交換のためのピットストップが義務付けられているので、そこで燃料も補給するのであれば、そして燃料消費を気にせずにタイヤのグリップをフルに使って速いペースで走ろうとするのであれば、前述のように平均燃費2.5km/L想定で、フルタンクでスタートした場合の不足量は約6.5L。これだけを補給するのであれば、燃料補給リグのノズルをつないでいる時間は2.5秒、抜き差しの時間を加えて4秒程度の作業時間になる。この場合のピット・ウィンドウ(ピットストップで燃料を満タンにしてレース終了まで走り切れる周回)は「5~62周完了までの間」という計算になる。
・ しかしある程度の省燃費走行、あるいはセーフティカー先導の周回が数周回でも入るとすれば、タイヤ交換義務を消化しつつ多少の燃料を注ぎ足すだけのピットストップは、「1周完了」から「67周完了」までのどこでもありうる。
・ 無給油作戦が可能であれば、ピットストップでタイヤ交換のみ行うことで、他に対し6~7秒のアドバンテージが得られる。セーフティカー導入が提示された周回に多くの車両が一斉にピットインした場合は、燃料補給を行った車両のほとんどを抜いてコースに戻ることができる。
・ 逆に、タイヤ交換のためのピットストップは必ず実施、そこで燃料補給も行うのであれば、作業者3名で4輪交換するのにかかる12秒の間、燃料補給ノズルを差し込んでガソリンを入れてもロスタイムは変わらない。この場合、燃料補給ノズル接続時間は10~10.5秒、26~27.3L(19.2~20.1kg)を補給できる。スタート時にその分だけ燃料搭載量を減らすと、満タンでスタートするのに比べて14~15kg軽い状態にできる。これは前戦オートポリスで関口が敢行した作戦。この場合、ピット・ウィンドウが“閉じる” (燃料タンクが空になる)のは平均燃費2.5km/Lで33周完了あたり、となる。
・ ただしレース終盤における赤旗中断~中止、セーフティカー導入などの可能性を考えると、ピットストップ・タイヤ交換を最終盤まで“引っ張る”のはリスクが高い。スポーツランドSUGOの場合はセーフティカー導入の可能性が高いので、その可能性を常に考えつつ、レース展開を組み立てなければならない。セーフティカー導入が提示されたその周回で、つまりセーフティカーが車列の前に現れる周回に入る寸前に、ピットに飛び込むことでタイムロスを減らすことができる。しかし複数の車両が同じ作戦を採った場合は、そのメリットが少ない。
・ もし、決勝レースがウェット路面で戦われる状況になった場合は、タイヤ交換義務はなくなり、燃料も無給油で走り切れる。
スポーツランドSUGOという“舞台”
蔵王連峰から太平洋へと下ってゆく山塊の中に設けられたモータースポーツ施設。インターナショナルレーシングコースはその山肌をトレースするように形作られていて、全体としては西に向かって下がる斜面の上にあり、速度域の異なるコーナー、二つの直線が、縦断勾配(上り下り)の変化とともに連なっていることが最大の特徴。オートポリスとともに、スーパーフォーミュラが競う舞台の中では、アップダウンがきついコースである。その一方で、周回平均速度は鈴鹿に次いで速い。タイヤの摩擦と車両運動の限界でバランスを取り続けることを求められる中高速コーナーも複数ある。多くのエリアでコースを外れた時のエスケープゾーンが狭い。つまりコースオフした時にガードレールやクラッシュバリアにぶつかる、あるいはグラベルゾーンにはまるリスクが高い。そのため、セーフティカーの出動を含めて予想し難い状況によるレース展開の変化、順位変動が生ずることが起こる。これがこのコースに「魔物が棲む」といわれる所以である。
ドライビングする側から見れば、それぞれに異なるコーナーに向けて、さらにその先もイメージしつつ車両の動きを「組み立て」、そこから旋回挙動をコントロールしつつ回り込んでゆくコーナーが多い。また直線終端でのハードブレーキングから速度と挙動の合わせ込みを求められるゾーンが1周に2回登場する。自然の地形を活かしたコーナーにリズム感があり、その中で速度と挙動の「見切り」、大胆さと繊細さの両方が求められる。難しいけれども、挑戦しがいがある、ドライビングのおもしろさを味わえるコースのひとつである。